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「誰もが使うもの、誰もが使えるものを」750万DLの大ヒット家計簿アプリ「Zaim」ができるまで~株式会社Zaim 代表取締役 閑歳 孝子氏インタビュー~

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「誰もが使うもの、誰もが使えるものを」750万DLの大ヒット家計簿アプリ「Zaim」ができるまで~株式会社Zaim 代表取締役 閑歳 孝子氏インタビュー~

株式会社Zaim 代表取締役 閑歳 孝子(かんさい たかこ)氏



数あるスマートフォンアプリの中でも、最近ひときわ目を引くのが、資産運用や株式投資、仮想通貨取引など、金融分野に特化したフィンテック(FinTech)サービス。資産、投資などというと敷居が高く感じる人もいるかもしれませんが、もっと身近で日常に密着したフィンテックサービスが、スマホで日々の家計管理ができるオンライン家計簿サービス「Zaim」です。750万人以上のユーザーを獲得し、今も成長を続ける「Zaim」はどのようにして生まれたのか。開発者でもある株式会社Zaimの代表取締役、閑歳 孝子氏にうかがいました。






■私の母でも使えるアプリを作ろうと思った


――750万を超えるダウンロードを記録した「Zaim」は、どのようなアプリなのでしょうか。


「Zaim」は、いわゆる家計簿アプリです。電卓画面から入金・出金を入力することができますが、この機能だけを使うというライトユーザーも結構いらっしゃいます。さらに、レシートをスマホのカメラで撮影するだけで品目や金額を読み取り、家計簿として自動入力することができたり、金融機関と連携させて、銀行口座やクレジットカードの履歴を家計簿に直接反映させたりもできます。蓄えた家計簿データをグラフ化して分析する機能もあり、わかりやすいビジュアルで、手間をかけずに節約ができるように作られています。家計簿というのは面倒になって挫折してしまう人がとても多いのですが、そんな挫折した経験がある人でも抵抗なく続けられる。Zaimユーザーの84%が、「これなら続けられそう」と言ってくださっています。


――様々あるアプリのジャンルの中で、「家計簿アプリ」というジャンルを選ばれた理由は?


一言でいえば、誰でも使うようなアプリ、誰でも使えるようなアプリを作りたいと思っていました。私の母ぐらいの年齢でも使えるようなアプリというのは、実際あまりないんです。普通の年配女性が日常的に使って役立つアプリということでいろいろと考えて、「お金」に関わりがないという人はいないということから、そこにフォーカスしたものを作ろうと思いました。以前は個人としてZaimだけでなく、他にもいろいろなサービスを手がけており、トライ&エラーもたくさんあったのですが、その中でいちばん育ってくれたのがZaimでした。



■「何が楽しいのか」という原体験を捨てずに、勤めながらサービスを開発

「何が楽しいのか」という原体験を捨てずに、勤めながらサービスを開発


――閑歳社長のITとの接点はいつごろのことになるのでしょう。


高校時代、まだインターネットがなかった頃からパソコン通信に興味があって熱中していました。自分のパソコンを購入してからハマっていった感じですね。ネットワークサービスに興味をもち、大学生時代に、友人と4人で学内だけのSNSサービスを手がけました。講義の情報などを共有して、先生が講義の出席をとる時間を同報配信するような使われ方をしていました。当時在籍していた学生の中では、結構使ってくれている人が多かったと思います。


――Facebookが生まれたときのようですね。


当時はまだSNSという概念もなかった時代ですから、今思えば結構画期的なものだったと思うのですが、「ビジネス化しよう」というような話にはならなかった。もったいないですよね(笑)。でも、当時の私たちはマネタイズへの情熱はおろか社会人経験すらなかったので、無理だったと思います。ただ、そういったものを作ったことによって、「何が自分にとって楽しいのか、面白いのか」という原体験を持つことができたと思います。もっと幅広いWebサービスを作りたいという気持ちが強くなりました。


――卒業後、Zaimを立ち上げるまでに様々なお仕事を経験されたそうですね。


最初に就職したのは出版社です。出版という仕事が自分にとって未知の領域だったことと、早くに内定をいただいたということもありました。主に通信関係の雑誌の取材をすることになったのですが、結果的にWebサービスとの接点は保たれていたことになります。その後は、縁があって、25歳からWeb開発会社で働くことになりました。


――それはプログラマーとして?


いいえ、違います。当時の私は、ようやく「お問い合わせフォーム」を作れるぐらいのスキルしかありませんでしたから、開発と営業の橋渡しやスケジューリングなど、ディレクターという役割でした。そういった中で、人の仕事ぶりを見たり、技術的なことを教えていただいたりすることも多かったんですね。そこでWebの基本、プログラミングの基礎を覚えたのは幸運だったと思います。


――今、会社の仕事だけではなく、副業(複業)によって、社会と別な関わりを目指していくビジネスパーソンも増えています。


私の場合、その次に就職した会社で働くうちに、BtoCのサービスを手がけてみたいという思いがふくらんでいきました。でも、会社のお金を使って、成功するかどうかわからない領域にチャレンジするのはリスクが大きすぎる。それで、会社で働きながら、プライベートな時間でプログラムを書いたりするようになりました。


――会社でも、プライベートでも、プログラミング。大変ですよね。


会社の仕事もしながら、帰宅後や休日をすべて使って自分のやりたいこともやっていたのですが、今思い返すと、「いつ寝ていたんだろう」と不思議なくらいです。でも、逆に、それくらい入れ込んで作らなければ、ちゃんとしたものはできないだろうとも思います。学生時代にSNSを作ったときの高揚感や楽しさが支えになっていました。


――そうして、ついにZaimをリリースされた。


そうですね。当初は、私個人が提供するサービスとして始めたんですが、そのあと1年もたたないうちに数十万ダウンロードをいただくほどに成長して、個人情報のセキュリティ面なども考えて、会社として取り組むべきだろうと考え、起業したのが2012年9月です。



■機能を増やすにためには技術が、減らすためには哲学が必要

機能を増やすにためには技術が、減らすためには哲学が必要


――今日までのアップデート状況について教えてください。


初期のバージョンと比べると、機能的はすごく拡大しました。当初の独自機能は主婦が考案したという「袋分け家計簿」の概念を取り入れたグラフ分析くらいしかなく、また通信環境がないとアプリを起動することができませんでした。その後のアップデートで、レシートの自動入力や銀行やクレジットカードとの連携などの機能を追加しました。細かい部分を含めたら、初期バージョンの何十倍かの規模をもつまでになっていると思います。


ただし、基本的なユーザーインターフェースは大きく変わっていません。使っているときの感触というか、使い心地というものを大事にしていますので、そこはあまり変えるべきではない。見やすく使い勝手の良い入り口は残して、使い込みたい人のために様々な機能を追加するようにしています。


――今後はどんな改善を考えていますか。


機能を増やそうと思えば、まだまだできることはたくさんあると思います。でも、あまりに盛りだくさんになって使い心地が損なわれるようなことになるのはNG。時にはあえて機能を削るくらいの判断をしなければならないこともあり得ると思っています。私は、プロダクトデザイナーの秋田道夫氏の「機能を増やすためには技術が要る。機能を減らすためには哲学が要る」という言葉が好きなんです。「なぜならば」というバックボーンがしっかりしていれば、きちんと切り分けして、減らすべきは減らせると思います。


――ポスト「Zaim」のサービスも構想されていますか?


そうですね、「お金」に関係したサービスにはなるんじゃないでしょうか。将来への備えなど、お金について漠然とした不安を抱えていらっしゃる方はたくさんいます。Zaimというアプリは、そうした方に「まずは見える化しましょう、そうすれば必要以上の不安を感じずに、もっと前向きに日々の暮らしを考えられるようになるかもしれません」というメッセージを込めたものでした。


うまくいえませんが、「何のために」お金を貯めて、「どう使うか」を自分で考えることが、大事なのではないでしょうか。最初に言ったように、お金に関わりなく生きている人はいません。日々、みんなが自分のお金について不安をもっているのだとしたら、そこに寄り添って助けてあげられるような仕組みやサービスを提供したいと思っています。



■成長中のZaimスタッフ、そして私たちの働き方

成長中のZaimスタッフ、そして私たちの働き方


――Zaimの社員の皆さんの働き方はどのようなものですか。


スタッフが要望してくるようなことには原則的に応えるようにしています。勤務時間は10~19時ですが、早朝に出勤して帰宅時間を早くしたいとか、子どもの送り迎えがあるので定時では働けないといった社員個別の事情にはフレキシブルに対応しています。


――リモートワークなども導入している?


実際にそういう働き方をしているスタッフもいますが、人によって、向き、不向きがありますから、入社して半年間は許可しませんし、全面的に導入しようとも考えていません。Slackで日常的にチャットして、社内の風通しをよくするといったことはしていますが、実際には対面していないとわからないことも少なくありませんから、大事な会議はやっぱりみんなで集まっています。


――いろいろな動きのある中で、この先私たちの働き方はどう変わっていくでしょうか。


今後、会社が成長するにつれて、個々の社員の裁量や判断に委ねられる場面は間違いなく増えることになるでしょうから、当然、それを助けるツールを使いこなしたり、情報をすばやく的確に切り分けることが求められたりするようになるでしょう。会社としても、そういった社員の状況をできるだけくみ取り、サポートしていかなければなりません。明日からパッと働き方が変わるわけではありませんから、簡単にはいえませんが。





■お気に入りの記事はこれ!


――「アスクル みんなの仕事」でお気に入りの記事を教えてください。


「オフィス家具選びに役立つ!」の、オフィスデスク選びの記事を興味深く読みました。じつは、当社のスタッフはデスクに対するこだわりがすごく強くて、デスクは各自オーダーものの「自作」なんです。デスクの形はもちろん、天板はこう、幅はこう、奥行きはこう......とあらゆる要望が出てきたので、一つにまとめらなかったほどです。先にこの記事を読んでいたら、デスクの発注がもう少しスムーズにできたかもしれませんね(笑)。


【参考】

オフィスデスク選び カタログを読みこなすために必要な9項目を解説! newwindow


株式会社Zaim 代表取締役 閑歳 孝子氏

オンライン家計簿サービス「Zaim」とともに撮影









ジョブチェンジの間に技術を蓄え、プライベート時間を開発にかけてZaimを作り出した閑歳社長。きちんと決められた勤務時間や、リモートワークに慎重な姿勢など、時代の最先端を走るフィンテック企業が、働き方では手堅く基本に忠実なのは、厳しい開発時代を知る閑歳社長ならではの施策なのかもしれません。







プロフィール


閑歳 孝子(かんさい たかこ)

1979 年生まれ、慶應義塾大学環境情報学部卒業。日経BP社にて専門誌の記者・編集に携わった後、Web系ベンチャー二社にて自社パッケージの企画・開発を手がける。独学でサービスやアプリ開発の技術を学び、2011年に家計簿アプリ「Zaim」を個人サービスとして公開。2012年に法人化し、クチコミにより750万ダウンロードを超える国内最大級のサービスに成長させる。App Store・Google Play・Windowsストアアプリの部門別国内一位の三冠、およびグッドデザイン賞ベスト100やライオンズのショートリストノミネートなど数々の賞を受賞。



株式会社Zaim[外部リンク]









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年7月26日




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