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アップルやマイクロソフトも絶賛!81歳でゲームアプリを開発した「世界最年長プログラマー」が、女性活躍社会・人生100年時代に「贈る言葉」~若宮 正子氏インタビュー

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アップルやマイクロソフトも絶賛!81歳でゲームアプリを開発した「世界最年長プログラマー」が、女性活躍社会・人生100年時代に「贈る言葉」~若宮 正子氏インタビュー

若宮 正子(わかみや まさこ)氏



60歳を過ぎてからパソコンを始め、80歳を過ぎてからシニア向けゲームアプリを開発。ICT業界で「世界一有名な83歳」と称される女性がいます。アップルやマイクロソフトのカンファレンスに招かれ、国連本部のイベントでキーノートスピーチを行うなど、その活躍の場はまさにワールドワイド。キャリアウーマンの先駆けであり、世界最年長の女性プログラマーでもあるその女性、若宮正子さんにお話を伺いました。






■パソコン通信を始めて人脈が飛躍的に拡大


――若宮さんがパソコンを始めたのは定年退職後。思い立った理由は何だったのですか。


私は新しいもの好きなんです。当時パソコンはまだ一般的なものではありませんでしたが、とても興味をそそられました。というのも、「パソコン通信」というものを使えば、いろいろな人とつながり、仲良くなれると聞いていたからです。当時のパソコンは安いものではありませんでしたが、退職金もあったので、半ば衝動買いしてしまいました。


――「人とのつながり」を求めたわけですね。


退職当時、私は母の介護をしなければならなかったので、今後はあまり外に出られなくなるだろうと思いました。人付き合いもおしゃべりも大好きですから、家にいながらに人とのつながりができるということに、とても魅力を感じたわけです。


でも、買ってからは大変でした。やりたかったパソコン通信になかなかたどり着かない。パソコン本体だけではなく「モデム」も必要らしいのですが、当時の私には、それがどんなものなのかすらわからない(笑)。秋葉原でモデムを買ってきたら、今度は通信ソフトがないといけない。機械にうとかったものですから、通信ができるようになるにはすごく時間がかかりました。


――苦労した甲斐は?


パソコン通信の成果は絶大で、新しい友達がたくさんできました。当時のニフティサーブには「FMELLOW」という老人会的なフォーラムがあり、そこに入れていただいたことで、今ふうにいえば「人脈が飛躍的に拡大した」といったところでしょうか。今でも、この頃からお付き合いしている大切なお友達が大勢います。FMELLOWはニフティサーブ終了後も「メロウ倶楽部」として活動していて、今では私も役員をしています。



■シニア女性の「デスクトップ手芸」として始めた「Excelアート」

シニア女性の「デスクトップ手芸」として始めた「Excelアート」


――若宮さんは、初めて「Excelアート」を手がけた方だそうですね。


パソコンを操作するようになって感じたのは、高齢者にとってはソフトを使いこなすことがとても難しいということでした。代表格が表計算ソフトですね。今では仕事に不可欠だと思いますが、当時の私にとっては数字ばかりの世界で、関数とか計算式とか、使う機会もないからわからないままでした。教材を見ても、つまらないし、難しいし。そこで、わからなくても楽しめるような使い方を考えてみたわけです。


――とても女性らしい、女性ならではの発想だと思います。マイクロソフト社も絶賛しています。


お褒めいただいたのは、実際に制作物になったことを認めていただけたんじゃないでしょうか。年配の女性には手芸や編み物が好きが好きな人がたくさんいます。パソコンを使って似たものができないかと考え、数字ばかりではないExcelの使い方があることに気づきました。セルの塗りつぶし、グラデーション、罫線、図形や装飾文字を使えば、「デスクトップ手芸」として模様を作ることができる。それで始めたのが「Excelアート」です。「こんなコトもできますよ」という私なりの提案でした。



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Excelアートが施された作品群(うちわ、ブックカバー、バッグなど)



――これはどういう手順で作るのですか?


まず基本になるパターンを1個つくります。最初はちょっと頑張らないといけませんが、刺繍みたいな感覚で楽しみながらできます。基本のパターンができたら、それをコピペしていけば模様になります。ただコピペの仕方も、うまく考えないとキレイにできません。高齢者にとっては、これを考えるのもちょっとした「脳トレ」になるんですよ。自宅でこのExcelアートの教室をやっているのですが、おかげさまで、そこそこ盛況です(笑)。



■ゲームアプリ「Hinadan」を開発してティム・クックと会見

ゲームアプリ「Hinadan」を開発してティム・クックと会見


――81歳の時には、とうとう「hinadan」というスマートフォンのゲームアプリまで開発されました。


シニアはスマホが苦手で、そもそも操作すらうまくできません。指先が乾いているので、フリックやスワイプができないのです。さらにアプリともなると、操作が複雑でとても難しいので、みんな投げ出してしまいます。シニア向けに作られていないので、当然のことですね。若い人はゲームアプリで操作を覚えますが、シニアにはそれも複雑で難しいから、全然楽しくない。そこでまた、シニアでも楽しめるアプリを作ろうと思ったんです。


――どんなところに苦労されましたか?


シニア向けのアプリを作れないか、と若いエンジニアに相談したのですが、「技術的にはともかく、どんなアプリならシニアが楽しめるのかは僕らにはわかりません」と言われましたので、じゃあ自分で作ろうと思いました。極力シンプルなルールで、なるべくタップだけでできるゲーム。シニアにとって身近なテーマで、若い方と競っても勝てるゲーム。試行錯誤の末に完成したのが、12種類のひな人形を、正しい位置にはめ込むパズルゲーム「hinadan」です。



hinadan

アプリ「hinadan」の画面よりキャプチャ (※)

Hinadan(App Store)[外部リンク]



――プログラムはどこで勉強したのですか?


アプリ制作を決意してから、アップルが公開している「Swift」を独学しました。このためにMacも買いました(笑)。途中、行き詰まることも多々ありましたが、たくさんの友達が手を貸してくれて、なんとか完成までこぎつけたんです。


私は、必要なときに必要な分しか勉強しないことにしています。「hinadan」もいろいろな方にお褒めいただきますが、中身は稚拙なものです。私は自称「アマグラマー」ですから、プログラマーが中身を見たらひっくり返るようなものです(笑)。


――アップルの開発者カンファレス「WWDC」にも参加されましたね。ティム・クックCEOとはどんなお話をされましたか。


非常にフランクな方でしたね。形式的に挨拶だけして終わりというイメージで行ったのですが、クックさんはiPhoneを出して「これを使いながら、一緒にhinadanの話をしましょう」とフレンドリーに言ってくれました。アップルのスタッフとも話しましたが、「従業員ファーストで、とても信頼できるボス」という声が聞かれて、クックさんが多くのスタッフから信頼されていることが伝わってきました。



■社会は「働く女性」に優しくなかった

社会は「働く女性」に優しくなかった


――若宮さんが現役だった昭和中期の「女性の働き方」について教えてください。


当時、働く女性はそれほど珍しい存在ではありませんでしたが、大半は結婚を機に22、3歳で辞めてしまうのが普通でした。私は理由があって結婚をしませんでしたので、ずっと銀行で働きつづけただけです。定年まで勤め上げましたから、いろいろな経験も積みました。カウンターの奥でお札を数える仕事もしましたし、営業のお仕事をしたこともあります。企画開発のセクションに配転されて、キャリアの後半では管理職の仕事もさせてもらいましたので、ありがたいと思っています。


ただ、私が働いていた頃は、女性にとって働くことは楽なものではありませんでした。社会の仕組み、そこで働く人の意識、税制から社会保障、何から何まで、「前面では働かせない」「働けば損をする」という社会でしたね。


――今は共働き世帯も増え、昔よりもずっと多くの女性が働いています。


今、「女性活躍社会」を目指すなどと言われていますが、正直いって、これまでさんざん女が働くことを妨害してきた社会はそんなに簡単に変わらないと思います。今働いている女性たちも、現状では、大きな恩恵を受けているとは言えません。目先の規則がどうこうするよりも、私の時代から続いている根源的な意識の改革が必要なのではないでしょうか。


――そのために必要なことは?


目の前で起こっていることに対して「それは違う」と声を上げることだと思います。男女機会均等法をはじめ、法律的な下地は作られつつありますが、それよりも、まだまだ社会で幅を利かせている男性中心の意識を改革していくことが必要でしょう。道のりは遠いかも知れませんが、まず1歩踏み出すことが大切だと思います。


――最近では、医大の入試不正などもニュースになりました。


女子学生を減点し、男子学生の小論文などを加点していた。女性の産休・育休で開いた穴をちゃんと埋められる人員態勢を整えた上で、能力ある女性をどんどん現場に投入するのが普通の考え方ではないでしょうか。


ニュージーランドでは、ジャシンダ・アーダーン首相が産休をとっています。6週間の産休の間、代わりを務められる人材もちゃんといて、政務に滞りはありませんでした。首相は復帰して政務と子育てをちゃんと両立させています。そうした先進国が増えたとき、日本の偉い人は先進的な国のVIPとまともに顔を合わせられるのか、何を議論できるのか、と心配になってしまいます。


――慣習や意識改革という点では、男性の働き方も同じかもしれません。


そうですね。なぜ残業が減らないのか。残業せずにさっさと帰るのは「本当に仕事ができる人」か、「いい加減に放り投げても平気な人」(笑)。中間の人は真面目で、かつ自分の仕事に不安を持っている。どうしていいかわからないので、とりあえず残業して目の前のことをやるしかない。それだけなら、本当は遅くまで働く必要はないでしょう。満足なジョブ・ディスクリプションもない中で、みんなが残業しているから帰りづらい雰囲気が蔓延しているという状況は、悪循環としか言いようがありません。


――男性が育休をとりにくい構造も同じですね。


後ろめたいような空気があるために育休をとれないというのは同じ構造ですね。先ほども言いましたが、目先の制度を変えるよりも、そのように長く染みついてきた悪しき意識、悪しき空気を改革しないかぎり、昨今の「働き方改革」が実現することはないでしょう。



■若き世代に贈る「83歳プログラマーからのメッセージ」

若き世代に贈る「83歳プログラマーからのメッセージ」


――読者の世代別にメッセージをお願いします。まず20~30代に向けて。


今は人生100年といわれていますから、先はまだまだまだ長い。焦ることなく、自分が何をしたいのかをゆっくり探せばいいと思います。幸い、最近はジョブチェンジや副業に対しても、社会が寛容になっていますよね。ただし、時代の変化には遅れないようにすること。できるだけ多くのことに関心を持ち、「やりたいこと」に柔軟に身を投じていけばいいと思います。


――40~50代の読者へは。


実質的には、その年代の方々が企業や官庁の要になっていると思います。男女問わず、これからの人の働き方を決めるのはこの方たちであることは間違いないでしょう。ですから、先ほど申し上げた「意識改革」を、自覚を持って進めていただきたいです。これまでのやり方に誇りも自負もあるでしょうけれども、今、それを変えようという大きな動きが始まっています。どうか今、大きく舵を切る決断をしていただきたいと思います。


――最後に、60代以降のシニアに向けて。


定年延長の流れもありますし、何より「まだ働きたい」という方が少なくないことは、素晴らしいことです。ただ、これまでの経験の延長、同じ畑で働きたいという姿勢は、どうでしょうか。人生100年なら、60歳はまだ道半ばです。リカレントを経て、新しいフィールドに進まれることをお勧めしたいです。たとえば一流商社の元部長さんがうどん屋のご主人になったりしたら、わくわくしますよね。私自身、定年後にパソコンと出会って、その後の人生が大きく変わりました。「60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。」という本も書かせていただいています。できるかぎり多くの方に同じ思いを感じていただきたいですね。





■お気に入りの記事はこれ!


――「アスクル みんなの仕事」でお気に入りの記事を教えてください。


私の同感できる記事は、「ファミレス席」の記事でした。どこの会社でも会議室は取り合いです。会議室は、席が余っていても、場所を取るだけで役に立っていない。ファミレス席というのはとても良い解決法だと思いました。これを読んでいて思いついたのですが、会議室の間仕切りを可変にしておき、参加人数に合わせて部屋の大きさを変えられるようにする、というのはどうでしょうか?


【参考】

イマドキのオフィスには必須かも?!オフィス内「ファミレス席」大研究【前編】newwindow


若宮 正子(わかみや まさこ)氏

開発したアプリ「hinadan」とともに撮影








柔らかな物腰と穏やかな笑顔がステキな「ICTおばあちゃん」若宮さんに、他のインタビューではあまり質問されない日本人の働き方について伺いました。笑顔はそのままで辛口の持論を展開される若宮さんに、聞いているこちらの背筋が伸びる思いです。今後やりたいことは、との質問の答えは、「ノープラン。目の前に現れたことを解決していくだけ。これまでもずっとそうでした」。ますますお元気で、さらなるご活躍をされていかれることを期待したいと思います。







プロフィール


若宮 正子(わかみや まさこ)

1935年東京生まれ。東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)へ勤務。定年をきっかけにパソコンを独自に習得し、同居する母親の介護をしながらパソコンを使って世界を広げていく。1999年にシニア世代のサイト「メロウ倶楽部」の創設に参画し、現在も副会長を務めているほか、NPO法人ブロードバンドスクール協会の理事として、シニア世代へのデジタル機器普及活動に尽力している。2016年秋からiPhoneアプリの開発をはじめ、2017年6月にはアップルの世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待される。2018年2月には国連総会で基調講演を行い、世界の注目を集めた。安倍政権の看板政策「人づくり革命」の具体策を検討する「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーにも選ばれている。



Hinadan(App Store)[外部リンク]









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2018年8月16日




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