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緊急事態発生!!あなたの会社は大丈夫?リスクマネジメントのプロフェッショナルに聞く「働き方改革時代のBCP」~ニュートン・コンサルティング株式会社 代表取締役社長 副島 一也氏インタビュー~

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緊急事態発生!!あなたの会社は大丈夫?リスクマネジメントのプロフェッショナルに聞く「働き方改革時代のBCP」~ニュートン・コンサルティング株式会社 代表取締役社長 副島 一也氏インタビュー~

ニュートン・コンサルティング株式会社 代表取締社長 副島 一也(そえじま かずや)氏



異常気象とも言われる自然災害、そして地震が各地に甚大な被害をもたらしています。様々な脅威と背中合わせの日常にあることを誰もが意識しているのではないでしょうか。もし自分の会社が罹災し、機能を失ってしまったらどうすればいいのか。そこで思考を停止せずに、今できる対策を、ニュートン・コンサルティング株式会社 代表取締役社長 副島 一也氏に伺いました。






■実践的な活動としてのBCPを支援


――ニュートン・コンサルティングの業務内容について教えてください。


当社はリスクマネジメント全般が専門ですが、中でも一番多いのは、BCP(Business Continuity Plan)の案件です。BCPとは事業継続計画のことで、事故や災害といった不測の事態に直面したときに、企業が人命を守り、速やかに事業を復旧させるために平時に立てておく計画です。クライアントはあらゆる業種・業界の大企業、官公庁などです。最近では、大手企業ばかりでなく、中小企業の取り組みも増えており、官公庁の予算で支援しています。たとえば東京都の場合は東京都中小企業振興公社が助成していますので、そこに応募した中小企業のBCP策定を支援することになります。


――BCPを策定したクライアントからの評価はいかがですか。


我々が支援して策定したBCPは非常に実践的だと言われます。一般的に、BCPといえば膨大な文書を想像する方が多いと思いますが、我々はできるだけ文書を減らしたいと思っており、有事にいかに動ける状態を実現できるか、を重視しています。


BCP事務局が独自に計画を立てるのではなく、経営トップや現場で働く人たちを巻き込んで備え続けるような、継続した活動でないと意味がありません。そうであってこそ、いざというときに役に立つ計画になります。クライアントからは、「なるほど、BCPというのは文書ではなく、実践的な活動なのですね」と納得していただけています。



■「地震の結果、何が起こるか」という結果事象から考える

「地震の結果、何が起こるか」という結果事象から考える


――北海道胆振東部地震も記憶に新しいですが、今懸念されている災害では、どのような被災想定があるのでしょう。


筆頭に来るリスクは、やはり起こるであろう現象の規模が大きい「地震」です。たとえば南海トラフ地震の被害想定では、死者の想定は33万人を超えるとも発表されていますから、首都圏直下地震と南海トラフ地震が想定されることが多いです。


しかし、じつは、事象から計画を立てるのは、日本独自のBCPの考え方です。我々は、被害想定マップを見てBCPを策定することはあまりありません。どちらかというと、それによって何が起こるかという結果に注目して考えていきます。


たとえば、水害、地震、火災といった原因事象によって、従業員が半分しか出社できなくなったり、施設設備や施設そのものが使えなくなることが予想される。これが結果事象です。そのような場合を想定して、重要な支店ごとに援護の計画を立てるわけです。原因事象が地震でも火災でも、同じような結果事象を想定するのであれば、原因事象ごとにBCPを策定しても同じものになってしまう。だから結果事象ごとに、重要な経営資源を守ることや復旧させることを考えるのが、我々がお勧めするBCPの基本です。


――日本だと、どうしても「地震の備え」になってしまいますね。


海外では結果事象にもとづくBCPが一般的です。というのも、海外では原因事象となるリスクの種類が非常に多岐に渡るからです。鉄道会社のストライキで出社できない、ノウハウを持った幹部が全員独立してしまうなど、日本ではあまり考えられないリスクも想定されます。大地震などと比べて被害規模は小さいものの、発生頻度は多いと考えられるリスクです。こうしたリスクごとにBCPを策定するのは現実的ではありません。ですから、起きたことに対して臨機応変に対応していくのです。


しかし、結果事象型のBCPは、日本だと「どうもしっくりこない」と言われることが多いですね。前提をはっきりさせたがるのは国民性だと思います。我々も、本気で備えるべき原因事象にフォーカスしたBCP策定のご支援をすることもありますが、その時には原因事象と結果事象にバリエーションをつけることをお勧めしています。たとえば演習を年2回やるのであれば、3月には首都圏直下地震を想定した演習、9月には南海トラフ地震を想定した演習というように原因事象を分け、結果事象は、たとえば「社長が被災して来られなくなる」とか、「従業員が半分になる」とか、「オフィスが使えなくなる」というように毎年変えていく、などです。


――原因事象は予想しても予想しきれない、ということでしょうか。


結局、BCPとは、起こったことにどう対応するかというものですから、何が起こるかわからないのに細かい想定はできません。「こんなことが起こるはずだ」と細かく想定してBCPを策定しても、すべてそのとおりにはならない。想定外が多くなってしまうから、災害対応の計画を立てるのはすごく難しいわけです。


日本人は想定外という言葉が好きで、計画が大好きな国民性なんです。災害対応、緊急時対応というのは、マニュアルのないことへの対応です。それを理解するのがとても大事です。すべてを想定するのではなく、演習で対応力を上げていくことのほうが大事なのです。


――対象としている原因事象としては、地震以外も多いのでしょうか。


以前は地震ばかりが対象でしたが、最近では台風なども想定するケースが多くなりましたし、ミサイル攻撃やサイバー攻撃を想定したBCPも増えてきています。


とくに今、ホットなのはオリンピックです。オリンピックは一種の「有事」、非常事態なんです。暑い8月の日本という地域に、5週間もの間、有名なアスリートやVIPをはじめとする観光客が全世界から訪れます。たくさんの人が沿道に出て、そこで開催される競技もあるし、VIPも移動する。トランプ大統領が移動するだけでも東京は交通渋滞になるのに、同じレベルのVIPが世界中から来て移動しまくるわけです。交通規制もかかります。


――何が起こるかを想定することが難しそうですね。


現在オリンピック開催まで2年を切ったところですが、このような事態にどう備えるべきかということはもう始まっている。影響の大きい企業は1年くらい前から警戒態勢になります。オリンピックは「計画された有事」ですから、どのような結果事象が起こるのかは、ある程度予想がつく。それぞれの企業が、起きては困るような結果事象を測定していくわけです。



■社長が本気にならなければBCPの策定は進まない

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――BCPの認知は以前に比べればかなり上がっていますが、手つかずの企業も相変わらず多いと思います。


「やった方がいい」と思っているようなことは、概して、すぐにはやらないものです。運動して酒もちょっと控えよう、などと思っても、「今日は仕事を頑張ったから飲もう、運動は明日からにしよう」となってしまう。でも、検査で重大な疾患が見つかって、「ちょっとでも酒を飲んだら死にますよ」と医者から言われたら、きっと飲まないんじゃないでしょうか。


つまり重大な疾患があると自覚した企業が、BCPに取り組み始めるわけです。まず社長が覚悟を決めて、「あれはどうなっている」「できていないじゃないか」と社員を追い込んでいけば、絶対にやることになる。単に「BCPやるぞ」と宣言しただけでは進まない。「どうしてやっていなかったの?」と担当者が怒られて終わりです。社長が、他のことを後回しにしても達成するぞという本気の覚悟にならないと、BCPはできません。


――東京直下に関しては、30年以内に起こる確率が70%と言われています。7割以上も起こる可能性があると言われるリスクなのに、なぜ取り組まないのでしょうか。


もうひとつの理由は、コストでしょうね。BCPは、売上や利益に直接貢献する活動ではありませんから、それに時間をとられて仕事を阻害するという意識がどこかにあるのでしょうね。どこの会社にも、決めなければならないこと、すぐに着手すべきことは山のようにあります。「起きないといいな」と思っている間は、たいてい取り組まず、起きてから初めて取り組む。みんなが安心安全に働けるように力を入れよう、という覚悟を社長が持つべきでしょうね。


――そんな企業がまず着手すべきことは。


圧倒的に効果が高いのは、いきなり演習をやることです。たとえば社員全員が集まる朝礼や月例会議などの場で、「5分間BCP」の演習をやってみてはどうでしょう。今この場で震度7の地震が起きたらどうするのかということを、全員参加で考えます。これだけでまったく変わります。


計画を一番に考えるのではなく、まず演習してみれば、どのくらい現状がまずいのかが明らかになる。どんなことが起こるかを分析してみて、「これはとんでもないことになりそうだ、前準備をしておかないと社会的責任が果たせない。起きてから対応するのでは間に合わない」ということがわかったら、計画を立てればいいんです。


すでに取り組んでいる企業にとっても、演習は重要です。それぞれの人が、それぞれの立場で、いざというときに動けるために必要なものを文書にする。分厚い文書は必ずしも必要ではない。とりあえずの考え方が書いてあるメモのようなものを、話し合って持っておくことが大切です。



■働き方改革は理想的なBCPに直結する

働き方改革は理想的なBCPに直結する


――今、多くの企業が取り組んでいる働き方改革は、BCPにどんな影響があるでしょうか。


働き方改革の中でもワークスタイルの多様化やIT技術の活用などの取り組みは、BCPの実効性に大きく影響します。というのも、BCPにおいては、災害時に何かが使えなくなった場合にどんな代替手段をとるのかということを考えるからです。


たとえば会社が被災したために打ち合わせができなくなったら、テレビ会議で代替したり、在宅勤務に切り替えたりするわけですが、そういったことを普段まったくやっていない会社が、いざというときに急にやろうとしても、ネットワークがつながらなかったり、家に業務ができる環境がなかったりして、うまくいかない。うまくいかなかったら、代替手段として成り立たないわけです。


安否確認システムなども、普段は使っていないものを災害時に使おうとしている企業が多いのではないでしょうか。そんなものを非常時に使うためにわざわざ演習するよりも、普段からいろいろな連絡網を持っているほうがずっと役に立ちます。電話がダメならメール、メールがダメならツイッターやLINE、というように普段から使っているツールなら、どれかが使えるかもしれない。代替手段を複数準備しておくことは、BCP上、とても有効な手段なのです。


そう考えると、働き方改革によって、働く場所を選ばない柔軟なワークスタイルが確立されることは、BCPを考える上ですごく有効です。しっかり機能するBCPを策定したいのであれば、働き方改革の実践は理想的なBCPに直結します。


――BCPは企業の生産性向上に関してどのような意義を持つのでしょうか。


BCPには、社内的な意義と社外的な意義があります。


社内的には、BCPは組織の一体感、組織力そのものを高める効果があります。先ほども言ったように、BCPは単なるコストという誤解があります。もちろんBCPのために時間がとられることはありますが、BCPをちゃんとやろうと思うと、社長から現場の人間まで、一緒に議論するような場面が必要になります。これはBCPというテーマ以外ではあり得ないのではないかと思います。


大きな規模の会社になればなるほど、社長の話を直接聞いたり、社長と議論したりする機会は少なくなります。社長にしてみれば、現場で何が起きているのかを直接聞く機会はほとんどないでしょう。どこの会社とどういうお付き合いをしているのか、どの部署にどんな人がいるのかさえ知らない場合も多々あります。


コミュニケーションが不足することによって組織が壊れ、問題が起こる。BCPによって社長から現場まで議論することで、お互いを良く知り、お互いを思い、お互いに一緒に頑張っていこうという気持ちを持てる。ものすごく組織力が強化されるわけです。そういう意義があると思います。


また、社外的な意義としては、ESG(企業の長期的な成長のためにはEnvironment、Social、Governanceの観点が必要だとする考え方)が重視される投資傾向があります。BCPはリスクマネジメントのひとつですから、ESG投資の観点からBCPは今後ますます重視されるでしょう。



■現場に目を向けたリスクマネジメントを

現場に目を向けたリスクマネジメントを


――BCP以外のリスクマネジメントの支援について教えてください。


最近ご相談が増えているのがBCPに限らないERM(Enterprise Risk Management)とサイバー関係です。ERMでは、こんな相談がありました。「事故や不祥事がいっこうに減らない」とのことだったのですが、誰が取り組みを進めているのかと尋ねると「事務局」というのです。なぜ当事者(社長と現場)が取り組まないのか。社長も現場も入れずに文書を作成しても、何もやっていないのと一緒です。現場の人たちの話を聞いて事例を上げてもらい、その実態を見て分析しなければ意味がないのです。 


――サイバー関係というのは。


かつて日本では情報セキュリティ事故の8割は内部犯行でしたが、最近では外部からのサイバー攻撃によって情報を盗まれる例が増えてきています。あまり話題になっていませんが、オリンピックに向けて確実に攻撃が始まっているのです。大手企業は、たくさんの中小企業との関わりがありますから、一番脆弱なところが狙われます。どこも恐くてしょうがないという状況です。もし情報漏洩が起きたら「サイバー対策はどうしていたのですか」と突っ込まれるはずです。そのときに「何もしていませんでした」と答えたら必ず批判の的になり、「この会社はダメだ」と言われるでしょう。





■お気に入りの記事はこれ!


――「アスクル みんなの仕事」でお気に入りの記事を教えてください。


オフィスに関する情報は好きで、みんながワクワクするようなオフィスにしたいと思っています。カウンターのある株式会社エスタイルさんのオフィスとインタビューはとても参考になります。

【参考】

会社の成長に合わせてオフィスのステージを上げる~株式会社エスタイル 代表取締役 宮原 智将氏インタビュー~(オフィス訪問[2])newwindow





副島 一也氏








命を守り、失意と絶望に陥らずに前を向いて希望をもちつづけるために、BCPへの取り組みは不可欠です。毎日普通に使っている様々なモノが突然使えなくなったらどうするか。仕事ばかりでなく、一人一人の生活をどのようにして守ればいいのか。大地震の発生を盲目的におそれて、思考停止するのはやめましょう。会社として対策に取り組むことによって大きな副産物があることもわかりました。







プロフィール


副島 一也 (そえじま かずや) ニュートン・コンサルティング

ニュートン・コンサルティング株式会社 代表取締役社長
1991年、日本アイ・ビー・エムに入社。1998年より、英国にて災害対策や危機管理などのコンサルティングを行うNEWTON ITの立ち上げに参加。取締役を経て代表取締役に就任。2005年のロンドン同時多発テロからのBCP発動も経験する。
2006年、現在のニュートン・コンサルティングを日本で設立し、代表取締役に就任。英国で培ったリスクマネジメントのノウハウを日本で展開し、多くの企業に真に役立つ経営システムを提供すべく、常に最先端の取り組みを推進している。危機管理分野における第一人者として講演実績も多数。

主な社外活動
BSIグループジャパン株式会社 諮問委員会 委員
国際審査員登録機構(IRCA) BCMテクニカルエキスパート
一般財団法人 日本品質保証機構(JQA) ISO22301技術委員会 委員
レジリエンス認証 広報普及啓発委員会 委員



ニュートン・コンサルティング株式会社[外部リンク]










編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年9月20日




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