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話題の「かたづけ士」に聞く、片づけで変わる会社の未来と働き方とは!? 仕事のできる人になるためのデスク改革~スッキリ・ラボ代表 かたづけ士 小松易氏インタビュー~

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スッキリ・ラボ代表かたづけ士小松易(こまつやすし)氏

スッキリ・ラボ代表 かたづけ士 小松易(こまつやすし)氏



とかく「得意不得意」「性格の問題」とされがちな片づけ。片づけることは、きれいにすることだけにとどまらず、人生さえ変える力があることを皆さんはご存じでしょうか。今回はかたづけ士の小松易氏に片づけの科学についてうかがいました。出勤しようとして昨夜置いたはずの鍵が見つからずに焦ったことがある人、「たまにはデスクを片づけろよ」と上司に注意されたことがある方は必読です!






■アイルランド留学で「片づけのスイッチ」が入った


――小松さんが「かたづけ士」になるまでのご経歴を教えてください。


大学時代に3か月ほどアイルランドに留学したのですが、ホームステイ先のお父さんがとても面倒見のいい人でした。非常に充実した、貴重な体験をたくさんしたのですが、最後に帰国の荷造りをしていて、そんなに充実していた生活なのに、持ち物はトランク1個だったことに気づいたのです。日本ではあれもこれもとたくさんの物に囲まれていたのに、トランク1つでもこんなに充実した生活を送れる。これは、むしろ物が少なかったからこそ自由に動くことができて、充実感を得ることができたのではないだろうかと、「物と自分の関係」ということを初めて考えたのです。今思うと、このすばらしい経験から、私の中のスイッチが入ったのだと思います。


――それで「かたづけ士」を始められたのですか。


いいえ、そのときはまだ、まさか片づけを仕事にするとは夢にも考えていませんでした。普通に大学を卒業してゼネコンに就職し、12年間そこで勤めました。会社の仕事をしながら、自分の本当にやりたいことは何かといつも考えていました。知人の片づけを手伝って喜んでもらっていたのですが、そのうちに、片づけはただきれいにするだけではなく、人の人生も変えることだと思うようになりました。これを仕事にしたら面白いと思って独立し、今にいたります。


――「かたづけ士」とはどのようなお仕事ですか。


最初に二つの線引きをしました。まず、「片づけ」か「掃除」かということ。掃除とは「汚れ・ホコリ・シミ」を扱う「掃く・拭く・磨く」の世界です。これに対して、私が名乗っているのは「掃除士」ではなく「かたづけ士」ですから、物を扱う整理整頓の世界なわけです。もうひとつは、家事代行のような片づけ代行業ではなく、お客さんが自力で片づけができるようになるようにコーチングする仕事だということです。 掃除でなく片づけ、代行ではなくコーチング。大胆なテーマではありましたが、その方がより面白いと思ってこの二つを選びました。



■片づけができていないとデメリットだらけ

■片づけができていないとデメリットだらけ


――なぜ、片づけが必要なのでしょうか。


そもそも片づけというのは一体何なのか、考えてみましょう。最も密接な関係があるのは時間です。ほとんどの人は、仕事中に何かを探す時間というものがあるはずです。昔は書類を探したりということがありましたが、最近ではパソコン内のファイルを探すのに時間がかかったりする。物を探す時間が1日に10分あれば1年で44時間にもなります。人によっては、1時間につき3~5分も何かを探すことに費やしている。すると1日8時間勤務として毎日30分程度、1年で132時間(16.5日)もの時間を無駄にしているわけです。社員25人が1日30分ずつ探すことに時間を使っていると、時給4,000円として、2,000円×22日×25人×12ヶ月、1年間で1,320万円ものコストになります。大きな組織ならあっという間に億単位です。このように「探す時間」は見えないコストになっているのです。


――膨大な無駄ですね。


この物を探している時間は、片づけによって短くできます。つまり片づけとは「時間を生み出すための投資」なのです。片づけることで無駄に使っていた時間に気づき、片づけることによって時間に余裕を作れる。なぜ投資かというと、自分でそれを選択できるからです。この投資に乗れば後からいいことがある、と自分で選んで片づけをすることが大切なのです。


――なるほど。


連続して集中することで最高のパフォーマンスを得ることができる「フロー」という状態があります。ところが「探す時間」によって作業が中断されると、効率が落ちるだけではなく、集中していたところからテンションが落ちてしまうので、元のフロー状態に戻るのが大変なんです。「中断しては再開する」ということを何度も繰り返すうちに、だんだん何をやっているのかわからなくなり、仕事の質を落としてしまうことになります。効率が落ちれば職場でリラックスできる快適性も失われます。片づけには、快適化・効率・仕事の質を上げることができるわけです。


――非常に広い範囲で仕事に関連してきますね。


片づけをちゃんとしていないと、棚から物が落ちてきたりしますので、職場の安全を確保する意味もあります。また、ダイバーシティの面でも、ハンディキャップのある方やシルバー層の方が、床置きしてある荷物につまづいてしまったりするリスクを軽減できます。災害時に停電になったら、床置きや棚置きは障害物になって、大変危険です。このようにあらゆる職場環境問題の中で、片づけ問題というものは非常に重要性を増しています。



■働き方改革にも片づけは重要

■働き方改革にも片づけは重要


――製造業や建設業、物流などの現場では、「5S」(整理:Seiri、整頓:Seiton、清掃:Seisou、清潔:Seiketsu、躾:Shitsuke)が徹底されていますが、オフィスではあまり片づけの重要性は指摘されてこなかったように思います。


日本の製造業などで生産管理のスタートといえば、まず5Sでした。工具が1本なかったり、動線が確保できていなかったりしたら、作業が流れませんから、5Sは利益に直結します。日本中の工場で、全員が毎日、5Sを実行していました。ところが、同じ会社でも、工場は完璧なのに、オフィスは整理整頓されていないようなところが意外と多いのです。オフィスまわりは何となく手が付けられていないグレーゾーンなんです。


――働き方改革を進めるためにも、片づけは避けて通れませんね。


長時間労働を是正するために勤務時間の制度を変えたりするケースも多いようですが、中には、そうした変化を受けとめきれない社員もいます。制度を変えることが本当に効果的なのか、総務・人事セクションは、今一度、働いている人の目線に立って働き方を見直すべきだと思います。片づけは実際の仕事に直結して効率化につながります。社員にとって見慣れたオフィスの風景が片づくことは、快適さを得ることにもつながるのです。


――職場の生産性を高めることにもつながりそうですね。


最近は「物の片づけ」の応用編として「事(こと)の片づけ」も提唱しています。社員が抱えている仕事を全部表に出してもらって、重要度と緊急度を基準に並べ替えて、見える化する。そして、本当にその基準でいいのか、部門内でディスカッションしてもらう場を作るのです。


ペーパーレス化も進んでいますが、日本には最終保存は紙でなければならないという慣習が根強く残っています。デジタル化によって片づけが進めば、生産性も改善されるかもしれません。しかしすべてデジタル化することが、良いことだとは思っていません。デジタル化に適したものを選んで整理していくことが、生産性向上につながるのではないでしょうか。



■「リセットと習慣化」がポイント

■「リセットと習慣化」がポイント


――著書では、非常に実践的な片づけの方法が紹介していますが、いくつかここで紹介していただけますか。


たとえば引き出しの文房具を整理するとき、要る/要らないを判断できなかったら、この1か月で「使った/使わなかった」でそれを整理できます。仕事の片づけも、同じように優先順位をつければ整理できます。仕事の優先順位をつけられない人は全部をやろうとするので、あっちをやったり、こっちをやったりしているうちに、結局全部終わらなくなって時間切れになる。私自身、会社員時代にそんな仕事ぶりだったこともありました。


――どんな事例がありますか。


ある弁護士事務所では、打ち合わせテーブルの横に大きな風呂敷包みがありました。聞いてみると、中身は全部書類だというのです。それらの書類の仕事はすでに完了しているのですが、「書類が終わっていないので、どこに片づけたらいいかわからない」というのです。「書類の終わり」という定義が曖昧で、何をもって終わりなのかはっきりしないから書類をしまえないという状態に陥っていました。そこで「終わりの定義」を明確にして、「次のステージ」に書類を移行させることにしました。


――仕事の終わりに定義がない、ということは、書類に限らずありそうですね。


片づける仕組み、片づくルール作りと片づけの流れが大切です。これがあれば、頭の中も片づいて、本当に使うべき事柄に時間を使えるようになります。こうしたことを通じて、間接的に経営のお手伝いをしています。


――片づけの重要ポイントとは何なのでしょうか。


片づけにはふたつの側面があります。
まずひとつは「リセットする」ということです。全部捨てるのではなく、片づけによって理想の状態を目指すということです。リセットは1日では終わらず、何日もかかる長期戦になります。片づいていない状態を麓とすると、そこから頂上までいく山登りのようなものです。ぐちゃぐちゃの状態からスタートし、それらを整えて理想の状態に"大片づけ"する。


片づけをすることになると、さっさと物をしまって、「これでもういいですよね。もう営業に出ていいですか」などと早く逃げ出そうとする人がよくいます。片づいたらそれで終わりだと思うかもしれないのですが、片づいた状態を維持できなければ、何の意味もありません。せっかく片づけても、またリバウンドしてしまうので、1回片づいただけでは「前半戦終了」に過ぎません。


――どうしたら維持できるのでしょう。


それがもうひとつの側面、つまり「習慣化する」ということです。使う物を保管・保存し、そうでない物を捨てる「リセット」は、空間上にある物を片づけるという行為です。これに対して、「習慣化」で使うのは、物をしまうとかファイリングするといった「行動」です。これらの行動の多くは無意識にやっていることです。だから、デスクの上が片づいている人は、デスクが片づく習慣ができている。できていない人はデスクの上が散らかり、物が増え、片づかない習慣がついてしまっているのです。自分に身についているのが片づく習慣なのか、片づかない習慣なのか。無意識に行っていることなので難しいかもしれませんが、それをまず知った上で、その習慣をどう変えられるかということを考えなければなりません。


このように、片づけは「リセット」と「習慣化」というふたつの側面で見るべきなのです。リセットして習慣化できれば、それが理想です。



■「後で」は片づけの敵!

■「後で」は片づけの敵!


――多くの人は、片づけは性格の問題のように感じていると思うのですが。


帰宅して部屋を開けた鍵が翌朝見つからない。些細なことかもしれませんが、そんなことで毎日のように苦労されている方がいます。自宅が片づいてない人は、たいてい、職場でもデスクが散らかっています。そうでない人との違いは何かといえば、ある動作をうまくできるか、できないかということなんです。何だかわかりますか?


――わかりません。


それは、「置く」という動作です。片づいている人は意識的に良い「置く」をしています。苦手な人は悪い「置く」なのです。どういう「置く」をしているかで、その人がどういう生き方、仕事のやり方をしているのかが見えてしまいます。「生きざま」ならぬ「置きざま」なのです。鍵が見つからないという例でいえば、鍵の定位置を決め、「置く」を意識して実践することで解消するのです。苦手な方は、鍵の置き場所が決まっていません。「いや、決まっている」というかもしれませんが、「どこですか」と聞くと、「たとえば......」という答えが返ってきます。「たとえば」という時点で、「その場所にしか置かない」という置き場が決まっていないことがわかってしまいます。こういったことも、片づけが苦手な人の習慣行動のひとつです。


――自分では「決まっている」と思っていても、実際は「決まっていない」から、「置く」ができないわけですね。


私自身、もともと収納大好き人間でも、片づけ大好き人間でもありません。コレクター気質ですので、物もたくさん持っていました。だから、やりたいことがあっても、それが気になって身動きとれないようなことが何度もあったのです。そうした経験からわかったことは、やることがわかっていても「後で」になってしまうということでした。


――「後で」になるのは、決めていないから。


片づけの得意な人は「すぐに」ですが、苦手な人は「後で」。「すぐに」ができる人は、たとえば書類を受け取った瞬間に、必要なものならしまい、不必要なものなら廃棄したり、受け取らずに返したりします。「後で」の人は、とりあえず受け取ってそのままにしておく。そしてデスクに書類の山ができるわけです。ちなみに、この山が3つになると「山脈」と呼びます(笑)。すべての第一歩は「置く」なんです。何もない状態を作るのがリセットの片づけ。できる人はリセットを完了していて、かつ「置く」を意識して、いつも自分の所定の場所にしまう習慣ができているわけです。


――向き不向きではなく、習慣の問題なのですね。


その通りです。「後で」を「すぐに」に変えるように後押してあげることで変わります。性格は変えられませんが、習慣なら変えられます。最初は一人では難しいと思っている人でも、後押ししてもらいながら、自分を前にもっていくことです。


――小松さんはどのようにしてお客様の習慣を変えているのですか。


ある経営者のお客様は、毎日15分間の片づけを私と約束して、1か月分の片づけ計画表を作りました。片づける時間が来ると私に電話することにしたので、逃げられません。終わったらまた電話をしてもらいます。そんなふうに片づけを始めるお手伝いをしています。 





■お気に入りの記事はこれ!

――「アスクル みんなの仕事」でお気に入りの記事を教えてください。


実験的な企画がたくさんあって興味深いです。デスクの幅について考察した記事は、相当時間をかけた企画だと思いました。本当に快適に仕事できる限度はどこなのかという実験的内容が、とても面白かったです。


【参考】

[前編]オフィスデスク実験:幅 80cm ~ 140cm で使い方はどう変わる?実地シミュレーション ~検討開始~newwindow



スッキリ・ラボ代表かたづけ士小松易(こまつやすし)氏

スッキリ・ラボ代表 かたづけ士 小松易(こまつやすし)氏








小松さんの肩書き「かたづけ士」がひらがななのは、「片づけ・型づけ・方づけ」の3つの意味をこめているからだそうです。「片づけ」はリセット、「型づけ」は動きや習慣化、そして「方づけ」は、どう生きるか、どう働くか、ライフスタイルやワークスタイルまでも含めた方向性を意味しているとのこと。リセットし、動きを手に入れ、どこに向かうかを考える「片づけ」の世界の奥深さにふれることができたインタビューでした。







プロフィール


小松易(こまつやすし)

日本初の「かたづけ士」
『かたづけを通じて人生を変えるコンサルティング』
スッキリ・ラボ 代表


日本初のかたづけ士。北海道生まれ。トランク1つで生活できたアイルランドでの経験と、建設会社で学んだ片づけ精神などから、片づけ指導法を考案。2005年に「スッキリ・ラボ」開業。「"かたづけ"を通じて人生を変える」をコンセプトに、経営者・企業へのコンサルティングや研修を行っている。日本人が持っている片づけ力を引き出し、日本を元気にするのがミッション。著書はシリーズ累計47万部『たった1分で人生が変わる片づけの習慣』(KADOKAWA)ほか多数。最新刊は、『1日1分!お金も時間も貯まる片づけの習慣』(祥伝社)。テレビ出演にテレビ東京「ガイアの夜明け」、NHK「助けて!きわめびと」など多数。



スッキリ・ラボ[外部リンク]



新著

「かたづけ思考」こそ最強の問題解決』(PHP研究所)[外部リンク]

「かたづけ思考」こそ最強の問題解決(PHP研究所)


他、著書多数







編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年8月6日




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