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日本のジェンダーギャップ改革に必須!「多様な働き方のフォーマット」とは ~株式会社LiB副社長 永井裕美子氏インタビュー~

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株式会社LiB副社長 永井裕美子氏

株式会社LiB副社長 永井裕美子氏



政府は2020年までに企業の女性管理者比率を30%にするという目標を掲げていますが、その実態は非常に厳しく、課長職以上に占める女性の割合はわずか8.6%(17年9月の東京都調査)。目標達成は非常に難しいとみられていますが、どうしたら状況は改善するのでしょうか。就職サービスを中心に働く女性のライフキャリア支援事業を運営する、株式会社LiB副社長の永井裕美子さんにお話を伺いました。



■挽回には100年かかる? 日本のジェンダーギャップ順位



――ご経歴を教えてください。


学卒後、富士ゼロックスに入り、セールスの仕事からキャリアをスタートしました。企業派遣留学でコーネル大学の産業労働関係学修士課程を修了、帰国後はグローバル人材育成、人事制度改革を担当しました。その後は、ゼネラル・エレクトリックグループの金融事業会社、エルメスジャポン、アボットジャパンなどの外資系企業で、人事部門の責任者として働いてきました。



――人事畑が長かったのですね。


5年前に、ライフプランを実現すべく、営利企業から非営利組織に転職しました。日本の公益法人、米国の非営利団体で、企業のCSR活動を支援する仕事を行っていました。



――今年4月にLiB副社長に就かれたきっかけは。


昨年、世界経済フォーラム(WEF)が調査・発表している、社会の男女格差を示す「ジェンダーギャップ指数」を見て、非常に驚きました。2018年のランキングを見ると、日本のジェンダーギャップは149カ国中110位で、男女平等の視点で見たときに、G7で最下位という結果だったのです。いまだにこんな状況かとショックを受けて、「何とかしなければならない」という気持ちに駆られました。


特に政治・経済分野で大きく遅れをとっており、企業の女性管理者で比べると、日本のジェンダーギャップは129位と、さらに下がります。世界と肩を並べるまでには、100年以上かかるというデータも出ています。もちろん、女性の社会進出が日本の課題であると言われ、それを改善する取り組みがあまり進んでいないことも、理解していました。しかし、客観的に数値化されたものを見て、本当に事態は深刻であると思いました。


そんなときに偶然、LiB代表の松本と出会いました。「自己実現を望み努力する人には性差の無いチャンスがあって然るべき」「女性の活躍は、女性のためだけでなく日本の原動力!」という松本のメッセージが、その時の私の心に強く響きました。


こうして松本の招聘を受け、LiBの副社長に就任することにしたのです。



■「時間への報酬」から「成果への報酬」へ

株式会社LiB副社長 永井裕美子氏



――女性が活躍しにくい日本の社会構造は、どうして生まれているのでしょうか。


企業にフォーカスしてお話しすると、まだまだ多くの企業で労働時間=忠誠心の証であり、優秀な社員は長時間働いて当然といった旧態依然の価値観が残っているように思います。それが長時間働ける人のみが活躍できる社会構造を生み、結婚・妊娠・出産・育児などのライフイベントとキャリアを両立することを難しくしています。「フルタイムで働けないから退職する」というのは不合理で、当事者だけでなく、企業にとってもマイナスでしかありません。女性を活用したいと考えるならば、企業は働き方のオプションをもっと増やす必要があると思います。



――どのように改めればいいのでしょう。


まず、働き方を変えるためには、時間ではなく役割と責任を明確にする必要があると思います。評価を時間で見てしまうと、介護や育児に従事している人が職場で働きづらくなってしまうからです。そして成果を発揮しやすい環境を作るためには、それぞれに合った働き方を企業が用意する必要があります。



――働き方のバリエーションを増やして、それぞれに沿ったパフォーマンスに対して評価をする、ということですね。


その通りです。当社ではキャリア女性向けの会員制転職サービス「LiBzCAREER」を提供していますが、多くのベンチャー企業に活用いただいています。そうした会社では、大企業にくらべて女性スタッフの戦力化にとても積極的で、成果に応じて処遇する考え方「Pay for Performance」に沿った人事政策をいち早く実践しています。会員の女性の納得感も高く、Win-Winの募集・採用を実現できています。



――大企業はいかがでしょうか?


これまで歴史のある組織では人数的に男女格差があり、どうしても男性の考え方が中心となってしまっていたと思います。


現在、女性も働きやすい環境を作るべく、色んな取組みがなされていますが、女性に対する無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)があるように感じます。


「子育て中の女性には負担をかけないよう、仕事の量は減らしておこう」「女性は気配り上手だから、アシスタント業務を」など「実はやればできる」ことがあるのに、チャレンジする機会を最初から与えず、女性の成長の芽を摘み取ってしまうことも少なくありません。


そんな中では、重要な役割が与えられず、パフォーマンス重視の考え方が定着しないのではと考えます。


見えない思い込みを変えるために、まずはこのような「偏見の存在を認識すること」が大切です。



■「転職斡旋」にとどまらない女性キャリアのサポート

株式会社LiB副社長 永井裕美子氏



――御社のビジネスは、そうした状況を少しずつでも改善するものなのですね。


先ほどお話しした弊社業務の中核をなす「LiBzCAREER」は、女性に特化したダイレクトリクルーティングサービスです。とくにキャリア志向の強い女性会員を、働く女性の活躍を応援する企業、女性も働きやすい環境を構築している企業とマッチングさせるものです。企業が想定している年俸を提示するとともに、会員の方からも、過去の最高年収をヒアリングしています。これにより、キャリアを中断している女性が自らの持っている力を再認できるだけでなく、企業にとっても本来その会員がどんな力を持っているのかを知ることができるので、双方にとってより良いマッチングを提供できていると自負しています。



――なるほど。


出産・育児のブランクによって自分のキャリアメイクに不安を持っていたり、個別の事情でなかなか転職、社会復帰に踏みきれなかったりする方には、ライフキャリアプランナーが中長期的なキャリアを支援する「LiBzPARTNERS」というサービスも提供しています。ライフステージに応じた働き方を考え、その時に最適な環境を選択すること。当社ではこれを「働き方のモードチェンジ」という言葉を用い、女性が長期間無理なく能力を活かすことのできる、戦略的な転職を提案しています。



――長期的な視点で働く女性をサポートされているんですね。


会員と企業をつなぐだけではなく、働く女性のための様々な情報を提供するために、Webメディアも展開しています。


ひとつは、LiBのサポートでキャリアメイク・キャリアアップに踏み出した女性へのインタビューを集めた「LiBzWorkStyle」です。新卒から40代、50代のベテラン、営業職からデザイナー、エンジニア、経営者まで、多種多様なキャリアを歩む働く女性にインタビューをしています。


もうひとつは、ビジネスカジュアルの着こなしやお弁当レシピ、自分へのご褒美にしたいスイーツ紹介や占いなど、働く日常をより楽しむ生活情報を提供する「LiBzLife」です。



――転職したあとの、働き方の指針も提案していく。


一般的な転職サービスは、その名の通り、転職希望者と募集企業を結びつけた時点でクロージングしてしまいます。当社はそのもう少し先、働く女性のライフキャリア全般のサポート・支援を行える企業でありたいと思っています。それによって、微力でも女性の社会進出を後押しできればと考えているのです。



■先進の働き方フォーマットを整備したトップランナーを目指す

株式会社LiB副社長 永井裕美子氏



――御社自身、女性スタッフにフィットした人事制度を取り入れているそうですが。


当社は従業員83名、その約6割が女性です。男女問わず、社員がイキイキ働ける環境を整備することは、社内の人事テーマであると同時に、女性スタッフの確保・戦力化手法を広く社会に向けて提案する意味でも重要なものです。



――先ほどお話しくださった働き方のバリエーション、「働き方フォーマット」について聞かせてください。


「メンバーシップ・オプション」と呼んでいるのですが、フルタイム、フレックス、時短、また4日を下限として週に何日勤務するかなど、多様な就業スタイルから自分にフィットするものを選ぶことができます。リモートワークも可能なので、これらを組み合わせることで、働き方フォーマットはさらに多様なものになります。他社で働きながらの「複業」も認められています。週5日リモートで働いている男性社員もいますし、私自身も週4日勤務で、週1日はNPOの活動を行っています。



――誰でも希望した働き方が選べるのですか?


職種によっては制限がかかることもありますが、基本的には希望通りの働き方フォーマットを選択できます。



――ほかにはどんな制度がありますか。


「ココイチ休暇」という制度は、誕生日や記念日など「ここという日」に休んでいいという特別休暇です。


また、子どものいる社員へのサポートにも力を入れています。社内にキッズルームを設けて、お子さんを連れての出勤ができるようにしたり、社員と一緒に「出勤」してくれたお子さんに、ちょっとしたご褒美を用意したりしています。


また当社独自の取り組みとしては、「37.5リモート」という制度を実施しています。お子さんが37.5度以上の熱が出た場合、終日リモートで働くこともできます。



――面白い制度ですね。


37.5度以上熱のある子どもは、保育園で預かってもらえません。自宅で、子どもの側でリモートワークをしたいという場合に使える制度です。



――そうしたユニークな制度を回していくための工夫は?


社内のコミュニケーションが重要です。当社はリモートで働くスタッフが多いということもありますので、メインのコミュニケーションは社内のチャットツールを使います。


ここでは、「○日に次女の誕生日にココイチ使います」「おめでとう!」「本日、375使います。」「お大事にね!」といったやりとりがされています。変に気を遣うこともなく、会社が家庭の事情を理解して受け止めているということが伝わります。



――会社とフランクに向き合うことができるのは、とてもいいですね。


「働く女性のライフキャリアを豊かにする仕組みをつくる」というビジョンを当社は標榜していますから、当社自体が働き方のモデルケースとして、先進の働き方フォーマットを整備したトップランナーでありたいと考えています。行っている取り組みについては社外にも情報発信していますので、参考にしていただければうれしいです。



――働き方が自由すぎて、生産性に支障が出ることはありませんか。


自由な働き方は福利厚生で行っているわけではなく、それぞれが自分にとって一番成果を発揮できる方法を考え、自身の状態に合った働き方を選ぶというものです。通勤にかかる時間をカットしたり、集中して業務を行える環境をつくりたい場合はリモートワークを選んだり、チームメンバーにこまめに確認しながら業務を行いたい場合はオフィスワークを選んだりしています。あくまでも生産性を高めるために、自由な働き方を提供しているということです。



■超高齢社会の到来が、全ビジネスパーソンの働き方を変える

株式会社LiB副社長 永井裕美子氏



――女性に限らず、今後のビジネスパーソンの働き方はどのように変化するのでしょうか。


近い将来、日本の企業は空前の人手不足に直面すると予測されています。一方、「人生100年」といわれる超高齢社会がやってきます。こうした環境変化に対応するために、働き方は多様化・マルチフォーマット化の方向に流れていかざるを得ないと思います。とくに、今後予想される高齢者介護の問題は、男性も含めた全ビジネスパーソンのライフイベントとして、無視できないものになっていくでしょう。



――そうした問題でも、これまでは女性に負担を押しつけている面がありました。


女性だけで家庭を支えていくことはそもそも不合理ですし、これからは難しくなると思います。性別を理由にするのではなく、できることを、できる人ができるだけやることが大切です。多様な働き方を認め合い、社会全体で助け合っていくのが理想なのではないでしょうか。



――多様な働き方は求職者にとってもアピールになりますよね。


成果を発揮しやすくするための手段として、働きやすい環境を整えることが必要ですし、多様な人材を集めるためにも大きなアピールになることと思います。



――最後に、今後永井さんが挑戦していきたいことを教えてください。


働き方のフォーマットを増やしていくということは、年齢、性別、国籍を超えた、本当の意味でのダイバーシティのベースになるものだと思っています。これまでの経験と新しいアイデアを通して、ダイバーシティ推進に取り組み、次の世代に自信をもってバトンを引き継げるようにしたいと思います。




■お気に入りの記事はこれ!


――「みんなの仕事場」でお気に入りの記事を教えてください。


女性活用の足かせは「女はこうあるべき」というアンコンシャス・バイアスの"呪い"〜皮膚科医/美容ジャーナリスト 岩本麻奈さんインタビュー~


岩本麻奈さんのインタビューの「アンコンシャス・バイアス(意識されない偏見)」には、とても共感しました。


岩本さんの、20年に及ぶフランスでの生活を通して、「仕事を取るか、家庭を取るか」という二択ではなく、「恋愛もしたい、子どもも産みたい、仕事もしたい」という人生がアリなんだ、と思い至る過程に親近感を感じました。


かつて私も、「結婚したら、仕事を辞め家庭に入るもの」と無意識に思い込んでいました。まさに、日本的なアンコンシャス・バイアスに縛られていたのです。そのままでいたら、現在の私はなかったと思います。


多くの女性、とくに仕事と家庭の両立に悩んでいる方に読んでいただきたい記事です。




株式会社LiB副社長 永井裕美子氏

株式会社LiB副社長 永井裕美子氏








物静かな中にも芯の強さがうかがえる永井氏のお話でした。入社と同時に副社長に就任されたのは、このインタビューの前月。「6月の株主総会までは、平副社長です」と笑います。経営に携わるのはもちろんのこと、外部向けに女性のためのキャリアセミナーなどにも積極的に取り組むとのこと。女性の社会参画を加速する、LiBのスポークスパーソンとしての活動・メディア露出も増えていくことになるでしょう。今後のさらなる活躍に、ビジネス社会全体から注目が集まりつつあります。







プロフィール


永井 裕美子(ながい ゆみこ)

株式会社LiB副社長

京都府生まれ。関西大学社会学部卒業後、富士ゼロックス株式会社にカスタマーセールスとして入社。企業派遣留学により、コーネル大学産業労働関係学修士課程を修了、帰国後はグローバル人材育成、人事制度改革を担当。2001年に、ゼネラル・エレクトリック・インターナショナル・インクに入社し、GEキャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社の人事総務部長、GEキャピタルリーシング株式会社の執行役員人事本部長を歴任。その後、エルメスジャポン株式会社執行役員人事総務ジェネラルマネジャー、アボットジャパン株式会社人事本部長を歴任し、人材育成、組織開発のプロとしてグローバル事業を牽引するとともに、女性マネージャーの育成、働きがいのある組織づくりにも尽力した。 2014年に非営利セクターに転じ、公益社団法人日本フィランソロピー協会常務理事、米国最大の非営利法人ユナイテッドウェイワールドワイド日本担当ディレクターとして、企業のCSR活動を推進。大学でのキャリアに関する講義、営利・非営利分野の女性リーダーのメンタリングなども積極的に行っている。

株式会社LiB









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2019年5月10日




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