マルコ・ポッリチェ(Marco Pollice)は、ミラノを拠点として活動する有名な照明計画デザイナーである。彼はイタリア をはじめとする各地の有名デザイナーや有名建築家と協業し、彼らの空間プロジェクトの照明計画を担当する。 彼の作り出す照明効果には定評があり、証拠に、マリオ・ベリーニ、アントニオ・チッテーリオ、アルド・チビチ、 ステーファノ・ジョバンノーニなどの世界の第一線で活躍するスーパーデザイナーたちと多くの重要な仕事をしている。
1963年、ミラノ生まれの彼は、実はこの地に続く有名な照明事業家の家系ポッリチェ家の3代目であり、ポッリチェ・ イルミナッツイオーネ社(Pollice Illuminazione)の代表でもある。同社の創設者は1901年生まれの、彼の祖父、 ウーゴ・ポッリチェであり、その息子でありマルコの父親であるチェーザレの代までは、ミラノ市のほとんどの街燈 を生産する照明器具のメーカとして名を覇せていた。1986年に同社の生産部門は売却され、照明計画部門が残 り、これが現在のマルコの会社の前身となったのである。
この世界的な照明の専門家はミラノに3つのオフィスを持つが、今回はミラノのRasori通りに軒を連ねる彼のプライベートオフィスとショールームをご紹介する。
150平米のアパートメントを改修したオフィス空間には、照明計画デザイナーを中心とする8名が勤務している。スペースを大きく分類すると、照明計画デザインを行うタスクスペース、秘書室、そして会議室を兼ねたマルコの私室、その他エントランス、コピー室、トイレなどのサービススペースとなる。
タスクスペースは50平米ほどの空間で、表通りに面する2枚の窓のもとに、160センチ四方のシンプルなデスクが3台並び、そこに6名のデザイナーが勤務する。タスクチェアはヴィトラ社のもの。シェルフはイケアの定番品が導入されている。床のフローリングは、ここが過去にアパートメントであったことを偲ばせる。このタスクスペースからはコピー機の置いてある2平米ほどのサービススペースに直接至ることができる。
タスクスペースからエントランスを挟み、マルコのスタジオと秘書室がある。ミーテイングスペースを兼ねるマルコの私室は約15平米、タスクスペースと同じシンプルなデスクと、先ほどのイケア製のシェルフ3台がコンパクトに並ぶ。取材中、マルコを囲み6人がひしめき合いながらシリアスな会議が始まった。顔を突き合わせての会議はお互いの意思疎通を容易にしているようだ。
シェルフに目を向けると、いくつかの照明サンプルが無造作に置いてあり、とりわけ先代が生産していた街燈器具の"Pollice"の刻印にはこの家系の歴史を垣間見ることができる。タスクデスク上のマルコ愛用のLEDデスク照明は巨匠照明デザイナー、インゴ・マウラーの逸品である。この光の下でマルコは創作する。
秘書室はマルコの部屋よりもさらに一回り小さく、同じシンプルなタスクデスクと、やはりイケア製のシェルフであつらえられていて、統一感に富む
反射や強いコントラストを減らして、目に優しく、朝晩で変化する外光と人工光のバランスを保ちながら、心地の良い光環境を作ること、これが、マルコ自身のオフィスを設計する上で彼が目標としたことである。実際、窓を通して入る外光、照明器具によって作られる直接光、天井を照らす間接反射光が適度にブレンドされ、実に目に優しい光空間が実現されているのは流石である。
このオフィスを出て、同じ通りを40メートルほど進むと、そこにポッリチェ・イルミナツィオーネ社の技術設計部門とショールームを兼ねた空間がある。エントランスをくぐると美しく照明された空間の中に設置された、大きな一枚モノの木製商談用テーブルに目を奪われる。壁面の一角にはポッリチェ家の歴史を語るポスター類が貼られ、その並びに現在進行中のプロジェクトの図面が掲げられている。その奥に目を向けると3人のスタッフが、先の商談用テーブルと似た木製の一枚板のタスクデスクにおいて勤務している。ここから狭い階段を下り、薄暗い地下室にたどり着くと、そこには幻想的な照明器具のサンプルが並び、ポッリチェ・イッルミナツッイオーネ社でデザインされる照明世界の魅力が暗示されているかのようである。
来年3月には、美術本の老舗であるエレクタ社からマルコのモノグラフィーが刊行される。つまり、彼も巨匠の仲間入りということである。将来、この本が皆様のお目に触れる機会があったら、このスタジオでマルコと彼のスタッフによって創案された照明世界を是非ご覧になっていただきたいものである。
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