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オフィス空間は働く人が育て、最適化していくもの ~コワーキングスペースやスクールを社内に設けた新しいコミュニティオフィス~(オフィス訪問[2])

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株式会社LIG 代表取締役 吉原 豪さん

株式会社LIG 代表取締役 吉原 豪さん



前記事「大人気LIGブログを生み出す舞台裏! 株式会社LIGの新オフィスは一棟貸オフィス (オフィス訪問[1])」からの続き。



2018年にオフィスを移転した株式会社LIGは、2007年の創業以来、オウンドメディアの先駆者として高い知名度を誇るWeb制作会社ですが、じつは海外も含めた複数の拠点を持ち、ゲストハウスやコワーキングスペース運営、スクール運営、飲食店事業、地方創生事業など多様な事業を展開しています。「Life is Good」の理念のもと、挑戦を続けるための働き方、そしてユニークな新オフィスについて、同社代表取締役 吉原 豪さんにお話を伺いました。



■自由に手直しできる、理想的な一棟貸し「LIGビル」に入居!

株式会社LIG 代表取締役 吉原 豪さん



――オフィス移転のきっかけは?


前のオフィスは築50年以上の古いビルで、定期借地権契約で借りていたんですが、解体するということで移転せざるを得なくなってしまったんです。


LIGはずっと台東区でやっているので、上野界隈で探しましたが、このあたりはオフィスビルがあまりなく、100名ほどの社員と、コワーキングスペースの会員150名が入れるビルを見つけるのに苦労しました。コワーキングスペースというのは、通常のオフィスとはちょっと異なります。特定多数の人が出入りするという点も、物件探しに苦労した理由のひとつでした。



――台東区にはこだわりがあるのですか。


それを聞かれると困るのですが(笑)、「ずっと上野でやってるしな」程度の理由なんです。開業したときは、人混みも好きじゃないし、渋谷などは何か嫌だなと思って下町でやりたかった。上野はオフィスも少ないのですが、東京東側の最大のターミナルのひとつですから、埼玉や千葉、東北方面からのアクセスはすごく良いんです。


結局、賃料も加味して探して、今のこのビルに出会いました。上野からあまり遠くないし、御徒町駅もすぐ目の前で、一棟丸ごと借りることができる。老朽も激しかったのですが、賃料は安かったし、自由にしていいよと言われたので手直しすればいいかなということで決めました。



株式会社LIGのオフィス 正面から

株式会社LIGのオフィス 正面から



――老朽化していて、自由に手直しできる点も理想的だったのですね。


手直しするには内装にかなりお金をかけなければいけませんが、賃料が安いので、お金をかけても数年でペイできるわけです。きれいなビルの高層フロアを借りたりしたら賃料がずっと高くなるから、好きにできるほうが僕ららしいと思いました。


路面に面したオフィスビルはあまりないから、すごく気に入っています。すごく使いやすいし、地域に向けての開放感もある。普通にカフェっぽいから。実際に雑貨も売っていますから、近所の人も「これ何なの」と声をかけてくれる。


一棟借りするのは初めてで、LIGビルという名前で仕事をやりたいと思いました。われわれが展開しているいろいろな事業がこのビルにぎゅっと詰まっていて、自分たちの世界観を出して自己紹介も兼ねられるオフィスにしたいと思った。



LIGビル エントランス

LIGビル エントランス



セレクトショップ「PORT」

セレクトショップ「PORT」



――コワーキングスペース運営は、オフィスづくりにどう影響していますか。


僕は、人混みは好きではありませんが、仲間や、感覚を共有できる人がわいわい集まるのが好きなんです。LIGには、空間をシェアして皆で使いましょうというカルチャーがあります。コワーキングスペースを運営していることによって、いろんな人がオフィスに来てくれますので、空間が活用され、コミュニティとしてすごくいいと感じています。自分たちだけではもて余してしまうような空間を他の人たちにも使ってもらうことができて、なおかつお金をいただくことで実質の家賃負担も減るわけですから。



1Fのコワーキングスペース「いいオフィス(iioffice)」

1Fのコワーキングスペース「いいオフィス(iioffice)」



――スクール事業の狙いは何でしょうか。


コワーキングスペースもそうですが、人が集まる仕組みを作っていくと、LIGに接点をもってくれることが増えていきます。僕らは飲食店も展開していますが、LIGブログなどのオンライン上のメディア以外にも、リアルな場でのコミュニティをつくるのが好きなんです。オンとオフのどちらもやっていくことが重要だと思っています。


デジタル領域のクリエイティブ業界に入りたい人のための窓口を、スクールという形で僕らがやることにはすごく意味があると思っています。クリエイターがいて、スクールもあって、人も育てられる。実際にLIGに就職した卒業生も何人もいます。そういう意味で相性もいい。


「START-UP ENGLISH」(*)は英会話スクールですが、これはオフショア開発の拠点であるセブ島のオフィスと連携して進めている事業です。じつはセブ島というのは英会話スクールのメッカなのですが、向こうで英会話を学ぶのではなく、フィリピン人講師を日本に招いて、こちらで勉強しようというコンセプトです。おかげさまで全然予約がとれないほどの人気です。フィリピン人のホスピタリティ、人なつこさってすごいんですよ。フランクで優しいから、最初に英語を習うのにはすごくいい先生たちです。


*編集注) 2019/4/9より「START-UP ENGLISH 上野校 by LIG」は「MeRISE英会話 上野校 by LIG」へ名称変更されています。



■働く人が「育てていくオフィス空間」

株式会社LIG 代表取締役 吉原 豪さん



――オフィスづくりには、どんなことを意識しましたか。


まずコミュニケーションを大事にしたいということが第一です。これまでのオフィスでもずっとそうしてきたのですが、社員がそこで自分でご飯を作れる環境を用意したくて、キッチンを置いています。水回り系の設備はお金もかかるんですが、そこはこだわったところです。外に食べに行くのもいいけど、料理したい人がここで作って食べたり、ちょっとコーヒーを飲むだけでもいい。でも、ただの給湯室ではなく、ちゃんとしたキッチンがいいんです。それがコミュニケーションツールとしてすごく役に立っています。やはり食事は大事。自然とそこに人が集まり、自然にいろいろなものが生まれてきます。


会社からお米などの食材も支給していますし、おかげでキッチンは普段からフル稼働しています。上にベッドもシャワーもありますから、ここで暮らせるぐらいです(笑)。



LIGのキッチン

LIGのキッチン



LIG広報さん: 一応補足しますが、セブ島をはじめとする各拠点のメンバーが東京に来たときに泊まれるためのスペースがあるんです。東京の社員が泊まるのは全然推奨していません(笑)。



5Fの住宅スペース

5Fの住宅スペース



――御社のオフィスDIYはもともとやりたかったこと?


起業した頃はお金がありませんでしたので、自分で天井を剥がしたり、テーブルを作ったりしていました。僕自身、昔から自分で手を動かすのが好きなので、何の抵抗もないんです。ただし、プロの職人さんやデザイナーに頼まざるを得ないところが8割方で、自分たちでやれるところは残り2割ぐらいですね。壁の仕上げや、小物の配置、ちょっとした棚を作ったり、アート飾ったり。そういうのはやっぱり自分たちでやってしまいます。


空間というのは、作って終わりではなくて、育てていくものだと思っているんです。使うたびに、もっと良くしようと考える。たとえば物の位置を変えたり、というような細かい調整が積み重なって、次第に最適化されて、キレイになってくる。そうすることのよって、その空間が生きているなと感じられるようになるんです。空間が生きている状態、育っている状態にアップグレードされていく感覚がとても好きです。基本的には、終わりがないんですよね。


真っ白な壁でピシッとしたテーブルが置いてあるようなミニマルな感じの空間が好きな人もいると思いますが、そういう空間というのは、じつは完成したときがピークで、あとはそれをどれだけ維持できるかというものですよね。僕はそういう空間があまり好きじゃないんです。維持するか、価値や雰囲気が下がっていくしかない空間。それよりも、使い込むことによってどんどん質が上がっていく空間が好きなんです。その空間にいる人たちが、気にかけて、つねに改善していくことによって、質が上がっていくわけです。



1Fのフロア

1Fのフロア



――これから育てていきたいのは、今のオフィスのどういうところですか。


そうですね、たとえば外のテラス部分は、今は寒いからテーブルを置いているだけで誰も使っていません。使っていないから、あの場所はまだあまり育っていないんですよね。最適化されていないから、見ていてあまり面白くない空間です。でも、これから春や夏になれば、絶対に屋内よりも気持ちいい場所になりますから、最適化されていくことになるでしょう。それが空間を育てるということなんです。



――アートの使い方にもポリシーが感じられます。


とくにルールはありませんが、白い壁とか見ると描きたくなる、何か飾りたくなるというのはありますね。飾っているアートは、つながりのある作家さんのものがほとんどです。評価されて価値のある作品よりも、自分が好きなアーティスト、知人や友達の作品を並べたい。壁に直接描いているのは社内の画家の作品ですが、額で飾っているのは、アフリカの少数民族ばかり撮っている写真家ヨシダナギさんの作品です。彼女は一時期LIGに所属していたことがあるのですが、当時は今ほど売れていなかったので、お手伝いできることはありませんかと言われて、オフィスに写真を飾らせてくださいと頼んだんです。



株式会社LIG 代表取締役 吉原 豪さん



LIG社員の画家 田中ラオウ氏による壁のアート

LIG社員の画家 田中ラオウ氏による壁のアート



■「好きにやっていいよ」という雰囲気をどうやって伝えるか



――LIG社員の働き方はどういうものでしょう。


この本社では定時が10~19時で、拠点によっては時間が違ったりフレックスだったり、飲食はまた別ですが、ごく普通だと思いますよ。評価もごく普通で、結局パフォーマンスが出ているかどうかです。パフォーマンスが出ていれば何をやっていてもいいんです。



――ユニークなコンテンツの発想はどこから生まれるのでしょう。


社内でワークショップをやったり、プランナーなど企画が好きな人間を中心にしたり、生み出していくプロセスは普通のものですよ。ぼろっといった冗談がそのまま企画になったりするフランクさはあると思いますが。



――LIGの面白イメージとは少しギャップがあるような。


入社した人ほとんどには、「思ったより真面目でしっかりした会社ですね」と言われます。世間に見せている雰囲気とのギャップはあります。


LIGの雰囲気はとても自由です。自由というのは、あまり制限しないということですが、好きにやっていいよという雰囲気をどう伝えるかです。いちいちルールやレギュレーションで決めるのはかっこよくない。


たとえば、僕はよくキャップをかぶっていますが、普通の堅い会社だったらまずキャップはNGでしょう。でも社長がかぶっているわけですから、この会社の服装規定ではキャップはOKということが伝わるわけです。「キャップをかぶっていいよ」とわざわざ言ったりはしません。キャップかぶっていても別におかしくない服装をしていれば、それでいいんじゃないと思うから、それを感じてもらえるように、見本として自分が自由な恰好をしているんです。



株式会社LIG 代表取締役 吉原 豪さん



――その自由さは仕事にも反映されている?


それは逆かもしれません。キャップかぶってパーカー着て客先に行って、仕事もしょうもなかったら、しょうもない会社だなと思われちゃう。自由な恰好をしてもいいけど、その代わり仕事はきっちりやろうぜ、そうじゃないと誰にも認めてもらえないということですね。だからすごくリスクがある行為なわけで、無難に行くならスーツやオフィスカジュアルのほうがいいんです。僕は昔から自由にしていたかったので、人を納得させられるような仕事をつねにしなければいけないということを戒めとしているんです。


ルックスがチャラくて、「ラッパーかヒップホップの人みたいですよね」なんて言われつつ、仕事はめちゃくちゃ丁寧で、物腰も柔らかいし、レスポンスも早かったら、好感度が上がります。僕はそれをずっとやってきている。自分たちらしくいるほうがお互い気持ちいい。自分たちがやりたいことをやって、なおかつきっちり仕事をしていたら、それって結構オリジナリティにつながるかもしれないですよね。



――オフィスの自由さが仕事にも影響している部分もあると思うのですが。


僕としては、せっかくPCで行う仕事ですから、場所にあまりとらわれないでどこでも仕事ができる働き方が理想です。


社内では自席もありますが、集中したいときにはコワーキングスペースで仕事したり、カフェやキッチンで雑談をしながら企画を練ったり。リモートで働いている人も何人かいますね。あとは各拠点に行って仕事をしたり、合宿で仕事をしたりしています。


このオフィスは、一種の「帰る場所」です。根底にあるのは、どうしたら楽しくなるのかということですね。ひとつの箱として、どのように楽しさをサポートできるオフィスにするかということは、いっぱい考えます。


無機質なオフィスで席について仕事をするだけなら、すべてもっとシンプルで安いものでいいわけです。機能としては変わらないから、そんなにこだわる必要もない。でも、僕は、ひとつひとつ好きなものを自分のそばに置きたい。好きなものが積み重ねられて、あふれている空間のほうが楽しい。そして、好きなものは一気に揃えるものでもなく、ちょっとずつだんだん育てていくものと思いますね。



2F執務フロア  DIYによるデスクと収納棚がレイアウトされている

2F執務フロア DIYによるデスクと収納棚がレイアウトされている



2Fから3Fに上がる階段。階段壁面は漫画のライブラリーになっている。

2Fから3Fに上がる階段。階段壁面は漫画のライブラリーになっている。



――社員の側の受け止め方はどうでしょうか。


使いやすくていいというポジティブな反応です。今は引っ越したばっかりで使いづらい部分もありますが、そういうのも含めて改善していきますから、本質的にはネガティブなものはないですね。


社員が作ったものを飾るのは好きです。音楽をやっている社員もいますから、そういう音楽をBGMとして流れるとか。



――今後の事業展開について教えてください。


本業のWebやオウンドメディア制作は今後もコツコツやっていきます。


コワーキングスペース事業は「株式会社いいオフィス」という別会社にしており、FC展開していく計画です。企業の余剰スペースがあっても、独自でコワーキングスペースを展開することは難しいですが、我々の仕組みを導入すれば空間の稼働率が上がります。たとえば空いている会議室を有効活用しませんかという形でFC展開をしています。


スクールに関してはここ上野と池袋でやっていて、上野はもうパンパンなのですが、池袋校はもう少し生徒を増やしたいと思っています。


飲食事業は、中目黒と鎌倉に2店舗同時オープンを目指しています。


あとはフィリピン。セブ島のオフィスは45名ほどの人員ですが、3月までには75人態勢、ゆくゆくは250人ぐらいまでもっていきたい。人の伸びという点ではフィリピンが一番あります。


土台として本業はしっかりかためつつ、スケールさせる事業は広げていくという計画です。



株式会社LIG 代表取締役 吉原 豪さん








ご本人もおっしゃるように、まるで「ヒップホップの人」のようにフランクな吉原豪さん。古いビルを一棟借りした理由も、「好きにできるほうが僕ららしい」から。仕事をきちんとした上で「(ルックスも) 自分たちらしくいるほうがお互い気持ちいい」というように、自分たち「らしさ」で勝負する新しい時代のワークスタイルを感じます。


「(オフィスは)ちょっとずつだんだん育てていくもの」とのことで、これからもどんどん進化して、皆が帰ってきたくなる場所になっていくのでしょう。


「自分たちらしさ」や「オフィスを育てていく」など、ライブ感あふれるLIGのオフィスコンセプトは、単なるDIYという観点を超え、多くの企業にとって参考にすべき点があるように思いました。














取材先

株式会社LIGnewwindow


2007年の創業以来、オウンドメディアの先駆者として高い知名度を誇るWeb制作会社。「Life is Good」の理念のもと、海外も含めた複数の拠点を持ち、ゲストハウスやコワーキングスペース運営、スクール運営、飲食店事業、地方創生事業など多様な事業を展開中。





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年1月23日

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