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人間中心設計を取り入れたmedibaのオフィスづくりプロジェクトに学ぶ (オフィス訪問[2])

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人間中心設計を取り入れたmedibaのオフィスづくりプロジェクトに学ぶ (オフィス訪問[2])


前記事「社員それぞれに心地よいスペースを作る!株式会社medibaの新オフィスに行ってきました! (オフィス訪問[1])」からの続き。



2019年1月より新稼働している株式会社medibaの新オフィスは、「人間中心設計」を活用して、自らのビジョンを決定し、デザインコンセプトに落とし込むことで完成しました。


そのプロセスは同社のブログで紹介されています (*1)。 前回のオフィス紹介につづき、今回は、「人間中心設計」によって、人任せに与えられたコンセプトではなく、メンバーと社員の皆さんが直接携わってオフィスの方向性を決定したユニークな進め方について、このプロジェクトに携わったコミュニケーションデザイン本部の二宮裕夢氏、松尾真帆氏にお話を伺いました。


*1)「本社移転プロジェクトvol.2 ~人間中心設計を取り入れた新オフィスビジョンの決定~」(mediba Blog)




■社員の潜在的なニーズを3段階かけて抽象化

(株式会社mediba コミュニケーションデザイン本部 二宮裕夢氏)

(株式会社mediba コミュニケーションデザイン本部 二宮裕夢氏)



――オフィス移転プロジェクトの開始は7月だったそうですね。それで移転が1月、約半年というスピードでした。


二宮 すごく短い期間で進めました。ある日、経営層から「オフィスを移転する」という発表があり、プロジェクトメンバーが公募されました。「人と人とがコミュニケーションでもの作りをできるオフィスにしたい」という狙いがあり、その上で場所はここと指定されました。狙いというか、"ふわっとオーダー"のようなものでした。



――そのオーダー以外は、すべて現場の声から立ち上がったのでしょうか。


二宮 「ユーザーインタビュールームと、お客様を呼べるスペースは欲しい」とか、「開放的な空間にしたい」といった要望はありましたが、それ以外はわれわれに任せてもらったことになります。



――普通の会社では、なかなかそんなふうには進まないと思います。


二宮 そこで、どういうオフィスにしたいかということを、業務で活用している「人間中心設計」のプロセスを踏んで考えていきました。



――「人間中心設計」というのは、ユーザーの体験を軸に、商品やサービスを設計・改善するというプロセスですね。人間中心設計の専門家資格もあるそうですが。


二宮 はい、インタビューでユーザーの課題を抽出し、それを改善する方策を企画設計していくものです。当社にも人間中心設計スペシャリストの有資格者がいますので、その人を中心にビジョンを設計していきました。



――トップとしても、人間中心設計に従って進めれば変なものにはならないという信頼があったのしょうね。


二宮 人間中心設計のプロセスを踏むことは、役員からの指摘で決まりました。当初、何からやればいいのかとプロジェクトメンバーが迷っていたところ、そういうアドバイスをもらったわけです。



――このプロジェクトのユーザーは「社員」ですね。


二宮 はい、社員の声を徹底的に聞くことから始まりました。



――プロジェクトチームのメンバーは何名ぐらいでしたか。


松尾 30名程度ですね。移転プロジェクトに参加したい人は手を挙げてください、と部門長が募って、各部署から集まったメンバーでした。



(株式会社mediba コミュニケーションデザイン本部ゲーム推進部  松尾真帆氏)

(株式会社mediba コミュニケーションデザイン本部ゲーム推進部 松尾真帆氏)



――具体的には、どのような流れで進めたのでしょう。


二宮 まず、各部署から選出した20人に、今のオフィスに関する不満や、これからのオフィスに期待すること、不安に思うことなどをインタビューし、さらに、そのインタビューをもとに幹部、管理職も含めた全社員アンケートを行って、様々なニーズ、「働き方」に関する社員みんなの潜在的な要望を抽出していきました。さらにそれをプロジェクトメンバーのワークショップを重ねて抽象化していきました。



要望の検討風景

画像: 株式会社mediba (※)

要望の検討風景

(「本社移転プロジェクトvol.2 ~人間中心設計を取り入れた新オフィスビジョンの決定~」(mediba Blog)  より)



――多くの会社にとって、そのように社員のニーズに基づいてオフィス作りを進めるのは容易ではないと思います。その意味で、御社ならではの進め方だと思います。


二宮 人間中心設計の専門家がいることは、たしかに大きかったと思います。



――最初のワークショップの段階では、潜在的なニーズの粒はどのくらいありましたか。


二宮 すごく多かったですね。数百というレベルでした。



――それを何段階ぐらい、どのくらいの期間をかけて抽象化していったのですか。


二宮 3段階ぐらい、1カ月ほどかかりました。移転のスケジュールがタイトだったので、結構すごいスピードでやりました。インタビューは社内の専門部署に依頼して、それだけで20時間ほどかけています。その後、3~4回ほど、2~3時間かけて抽象化の工程を繰り返しました。


松尾 3最後の回は3時間ぐらいかかりましたね。




「移転に伴う働き方アンケート結果」

画像: 株式会社mediba (※)

「移転に伴う働き方アンケート結果」

(「本社移転プロジェクトvol.2 ~人間中心設計を取り入れた新オフィスビジョンの決定~」(mediba Blog)  より)



――KJ法や上位下位関係分析法などを駆使して、ニーズをグルーピングしたり整理していったとか。試行錯誤や、迷ったことはありませんでしたか。


松尾 みんなが思っていることは意外と同じでしたから、あまり迷うことはありませんでしたが、軸をどうするのかを決めるときには一番考えました。



――最終段階の分類状況を見ると、「現在←→未来」「個人←→環境」という軸になっていますね。これは分類することで現れた軸ですか。


松尾 縦軸に、未来にどうしていきたいのか、今現在どうなのか。横軸に、個人としてどうしたいのか、環境をどうしていきたいのか。この両軸は、集まったニーズの粒から出てきたものです。会社としてなりたい姿を決めるために、どんな軸が一番ふさわしいかということを、外部の会社のアドバイスもいただきながら決めていきました。



「「現在←→未来」「個人←→環境」という軸で分析したホワイトボード」

画像: 株式会社mediba (※)

「「現在←→未来」「個人←→環境」という軸で分析したホワイトボード」

(「本社移転プロジェクトvol.2 ~人間中心設計を取り入れた新オフィスビジョンの決定~」(mediba Blog)  より)



――軸を決めることによって、まとまってきた


松尾 そうですね。どちらの軸も、「変わりたい」「変化」「レボリューション」などということで共通しています。どのような言葉に抽象化させるのかを決めたときには、迷いましたね。



――個人と環境という軸はワーク・ライフ・バランスにも通じますね。


二宮 そうですね。「ヒトに"HAPPY"を」というクレドにもある通り、当社では、一人ひとりにきちんと向き合うということを大事なポイントと考えています。



――2つの軸で4つのフェーズができますね。たとえば「環境かつ未来」のフェーズには、「打ち合わせスペースをこうしたい」というニーズが入ってくる。それに対して、「個人かつ未来」というフェーズにはどんなニーズがあったのでしょう。


松尾 働き方そのものを聞くアンケートでしたので、「こういうスペースが欲しい」という具体的な要望とは別に、どういう働き方をしたいか、自分の理想的なワークスタイルはどういうものか、といった答えが返ってきました。たとえば「もっと在宅勤務を推進してほしい」「もっとワーク・ライフ・バランスを整えたい」といったニーズが出てきましたので、そういったものがそのフェーズには含まれています。


二宮 それぞれの「成長したい」という要素は、やはり強かったと思います。



■コンセプトをデザインに落とし込む

株式会社mediba コミュニケーションデザイン本部 二宮裕夢氏



――そうした検討の結果、オフィスは「仕事」「私事」の場所であり、「志事」も育まれるという「SHI-GOTOBA」という最終的なビジョンに集約されたわけですね。


二宮 そうですね。「仕事」「私事」「志事」という複数の意味をもたせるためにローマ字で表記しました。人それぞれ働く空間は違う。複数の意味を大切にしています。



――「働く空間」を複数として捉えるというのは、どんなイメージでしょうか。


松尾 テーマを検討していく中で、そもそも会社としてどうありたいのかという話になり、今より成長したい、進化したい、変化したい、という言葉が出てきました。そして、その変化の先に何があるかと考え、この「SHI-GOTOBA」という言葉が出てきました。働くだけではなく、それぞれが過ごしやすい環境だったり、仕事以外でも自分がやりたいことを実現できる場所だったり。会社が決めた"場所"ではなく、自分たちで新しく見出していけるような場所、という思いをこめました。



株式会社mediba コミュニケーションデザイン本部ゲーム推進部  松尾真帆氏



――「SHI-GOTOBA」というコンセプトにたどり着く前段階では、どんな言葉があったのでしょうか。


二宮 抽象化したワードとしては、「働く上での安全性」「集中できる」「コミュニケーションを取れる」といったものが出てきていましたね。安全性というのは、ストレスなど健康面のことを言っています。



――実際のオフィスデザインは、その「SHI-GOTOBA」というコンセプトを、因数分解のように、もう一度解き直したのでしょうか。


松尾 ワークショップにはデザイン会社も参加しており、個々のニーズの粒が抽象化されていくプロセスを見てきました。そこで、「コミュニケーションを重視した空間にデザインしてほしい」「多様な働き方ができるスペースを散りばめてほしい」といったニーズの粒から、その要望を叶える「コミュニケーションプラネット」というデザインテーマが提案されました。



――新オフィスと移転前のオフィスの最も大きな違いは何ですか。


松尾 移転前は会議室の数が足りないことが問題になっていました。そこで、まず会議室そのものの数を増やすとともに、オープンなスペースを増やし、会議室にこもらなくてもいいようにしました。執務デスクのほかに種類の違う机や椅子を配置してオープンなミーティングをできるようにして、会議室自体の稼働率を下げました。ここは狙い通りできたかなと思っています。



オープンなスペース。奥にファミレス席。右手前はスタンディング型の会議スペース。

オープンなスペース。奥にファミレス席。右手前はスタンディング型の会議スペース。



――「コミュニケーションプラネット」というデザインコンセプトが奏功したわけですね。


二宮 そうですね。移転前はパーテーションで区切られた固定席だったのですが、今は部署単位のフリーアドレスになりました。これによって、その日によって話したい人とか場面によって話したい人が集まって自然にコミュニケーションが取れるようになったことも、会議室の稼働率を下げることにつながっています。



――面積的には広くなったのでしょうか。


二宮 いいえ、8階と39階という2フロア構成になりましたので、両方合わせると同じぐらいの面積なのですが、39階の執務室だけで前と比べると、じつはちょっと狭くなっています。ですから、省スペース化は課題のひとつでした。



――コミュニケーションスペースを作ったり、働く場所を選べるようにしたことは、広くなったから実現できたわけではなく、省スペースの努力があったから実現できたのですね。


松尾 机の幅など、じつは今までよりは少し小さくなっています。従来はあった仕切りを取っ払ってるので、体感としては狭くなった感じはしませんが。


二宮 フリーアドレスによって、使われていない席をなくしたことが大きかったですね。固定席だと、その席の人が休んでいたり外出しているときはデッドスペースになってしまいますから。フリーアドレス化に伴って、個人ロッカーも小さくして、ペーパーレスにも取り組みました。個人が保管している紙資料の電子化を進めました。それでも、結構、捨てられない人もいましたね。自席にフィギュアなどを置いている人たちもいましたので、ちょっと抵抗もありました。



39階執務フロア

39階執務フロア



――フリーアドレスでも半ば固定席化してしまうこともありますが。


二宮 固定席化している部分はありますが、それが働きやすいのであればOKだと思ってます。無理して毎日席を変える必要もないと思うので。わざとくじ引きをしている部署もあり、そこは各部のやり方に任せています。


あとは、2フロア構成は行き来が大変なのですが、この8階をカフェのようなスペースにすることで、8階に来る動機を作り、省スペースでもみんなが動きやすい形にしました。



8階の社内カフェ「8cafe」 カフェカウンター。

8階の社内カフェ「8cafe」 カフェカウンター。


カフェ奥から全景

カフェ奥から全景



――カフェを作るということは最初から決まっていたのですか。


松尾 移転前のオフィスがあった渋谷に比べると、ここ六本木は飲食店やカフェなどの数が少なく、ランチの単価も上がってしまうことがネックで、社員の中には渋谷から移転したがらない人もいました。このカフェスペースは、それを少しでも緩和するためのもので、本当は食堂も作りたかったのですが、まずはカフェから始めて徐々に拡大していきたいと思っています。



――社内カフェは、入館証のある人しか入れませんから、セキュリティ面でも安心感があると思います。


松尾 カフェのスタッフが常駐していますから、そういう意味でもセキュアな環境だと思います。


二宮 たしかにスタッフの皆さんが見守ってくれている感じはありますね。あと、スタッフがスリーブにコメントを書いてくださったり、名前を覚えてもらったりすると、社員同士で話題になることもあります。社内カフェはいろいろな面でコミュニケーションが活性化されるという実感がありますね。



■「与えられたオフィス」ではなく、「みんなで作ったオフィス」

株式会社mediba コミュニケーションデザイン本部 二宮裕夢氏



――移転に際しては、皆さんにどのように告知しましたか。


二宮 移転前に「結構変わります」と告知しましたが、正直、やはり移転してみないとわからないですから、直前のアンケートでは「不安です」という回答もありました。実際に入ってみると、いろいろな使い方をしていて、何も言わなくてもこのスペースはこんな感じで使う、ということを各々がしていたのが印象的でした。


松尾 移転した直後に、このスペースの写真をSNSに載せている社員がちらほらいて、ちょっとうれしくなりましたね。



――移転直前にもアンケートを取ったのですね。コンセプトが決まったらそれで終わりではなく、プロジェクト全般を通じてアンケートなどで社員を巻き込んでいったわけですね。


二宮 社内のコミュニケーションツールでは、随時、要望や改善点などはオープンにしています。声を聞くことはつねに大切にしており、満足度などのアンケートもそろそろ取りたいと思っています。


松尾 カフェ入口のドアに不具合が出たことがあって、誰かが「様子がおかしい」と社内のコミュニケーションツールに投稿したら、それを解決するためにはどうしたらいいかをみんなで一斉に考え始めたのが印象的でした。今までは、総務の人に「直してください」と言うだけでしたが、こうしたらいいんじゃないかという案がどんどん出てきたんです。自分たちで変えていこう、もっとよくしていこうという空気を感じました。



株式会社mediba コミュニケーションデザイン本部ゲーム推進部  松尾真帆氏



――会社から与えられたオフィスではなく、みんなの希望から上がってきたコンセプトに基づいているから、「みんなで作ったオフィス」という感覚を持てるのですね。


松尾 はい、そうですね。


二宮 2日目ぐらいから、立ったままの会議など、今までにない会議が普通に行われていたりしていましたね。



――medibaの皆さんの適応力が高いのかもしれませんね。会社によっては「会議室がないじゃないか」と文句が出たりすることもありますから。


松尾 「そういう使い方もあったんだ」と私たちのほうが驚くこともあります。この8階で移転後にパーティを行ったとき、ベンチスペースにケータリングの料理を並べたりしているのを見て、デザイン会社の方も「あんなふうに使えるんだ」と驚いていました。使いながら、新しい使い方を見つけている感じですね。



パーティ時の様子。ベンチスペースに料理が並べられている。(同社提供写真※)

パーティ時の様子。ベンチスペースに料理が並べられている。(同社提供写真※)


こちらが通常時のベンチスペース。

こちらが通常時のベンチスペース。

設計上はひな壇(兼 ライブラリ)なので、座れるように設計されている。



二宮 開発のメンバーが8階に下りてきて、同じディスプレイで一緒に仕事をするとか、今までなかった働き方をしていますね。会議室以外で「ひとつの画面を見ながら作業できる場所が欲しい」という要望があったんです。



――インタビューやアンケートで答えた「こういうものが欲しい」という要望が、ひとつひとつ反映されている感じがあるのではないしょうか。欲しかったものができた、これが使いたかった、という。


二宮 組み合わせて使える自由度の高さがあるので、いろいろ応用できるのでしょうね。移転前は固定席で、組み合わせようもなかった。まず会議室を押さえ、みんなの予定をカレンダーで合わせて話しましょう、という仕事の仕方だったのですが、それが、席が足りなければくっつければいい、というフランクな状況になり、自分たちで主体的に自由に考えられるようになったと思います。サービスの運営担当からは、席が自由になったおかげでチームのまとまりがよくなり、コミュニケーションコストも下がったというコメントもありました。



「8 café」にて撮影 (左から、二宮裕夢氏 松尾真帆氏)

「8 café」にて撮影 (左から、二宮裕夢氏 松尾真帆氏)








■インタビューを終えて


多くのオフィス作りの現場では、経営者から大きなコンセプトがどんと渡されて、それを実際のオフィスに落とし込んでいくのに担当者が四苦八苦することが珍しくありません。


とくにオフィスの移転には、たんに働く環境が移動するだけではなく、社員全員の意識をひとつにまとめていく、CIのようなプロジェクトと似ている側面があります。デザイナーが考案したものを一方的に社員に押しつけるようなCIが決して成功しないのと同様に、オフィスもまた社員の要望をいかに吸い上げ、自分たちのオフィスという意識を持てるものを実現できるかという観点が必要になります。


今回訪問したmedibaの場合、きめ細かい社員の要望を徹底的にインタビューとアンケートで吸い上げ、それを有機的に分析してコンセプトを抽出することで、社員みんなが腹落ちできるオフィスが完成しました。さらに、そのコンセプトを抽出する過程にデザイン会社も参加したことで、ひとつひとつの細かい要望に即した空間をデザインすることができました。オフィス作りの過程も、オフィスを良いものにするためには大切だということがよくわかりました。












取材先

株式会社medibanewwindow


KDDIグループにてauスマートパスを中心としたau関連サービス運営の他、国内外にてカルチャー・ゲーム・子育て等、幅広い分野でサービスを展開し、ユーザーがインターネットを通じて必要な時に必要な情報にアクセスできる環境づくりのためのサービスを提供。





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2019年4月4日

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