カルビー株式会社のリニューアルオフィス。オフィス来訪時の記念撮影スペースでもある。(※)
コロナ禍を経てオフィスの在り方が見直される中、スナック菓子などの有名メーカー、カルビーが東京・丸の内の本社オフィスを全面リニューアルしました。そこで目指されたのは、ニューノーマルの働き方に基づく新たな価値やアイデアが共創しやすい空間。新オフィスを手がけたイトーキのデザイナー、伊藤猛さんと田中碧さんにお話を伺いました。
伊藤猛さん(ワークスタイルデザイン統括部 第2デザインセンター)
― カルビー様の今回のリニューアルは、どのような経緯で進んだのでしょう。
伊藤 カルビー様は、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年7月より、オフィス勤務者のモバイルワークを原則とするなどのニューノーマルの働き方「Calbee New Workstyle」を導入し、社員一人ひとりが、各職場レベルで創意工夫を重ねることで、この働き方の浸透を推進していくことを目指しておられました。並行して本社内で部門横断型プロジェクトを設立し、今後のオフィスの在り方や働き方の改善を模索してこられました。その結果、今回のリニューアルに至りました。それまで丸の内トラストタワー本館の2フロア(23階、22階)を本社オフィスとしていたのですが、それを2021年9月に1フロア(22階)に集約することになりました。
― 「Calbee New Workstyle」とはどのようなものですか。
伊藤 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえたニューノーマルの働き方となります。従来から大切にしてきた「仕事の現場最優先の考え」に基づき、モバイルワークを原則としつつ、業務遂行の質やスピードを上げることで、成果を追求していくという考えです。
カルビーの働き方改革の変遷(※)
― リニューアルプロジェクトは何名ぐらいのメンバーがいましたか?
伊藤 部門横断で、新オフィスに関わるさまざまな分野の方が参加されていたと思います。10名前後のメンバーが参加しておられました。
― これまでのオフィスとの大きな違いはどこでしょう?
伊藤 リニューアルのキーワードは、共感(エンゲージメント)・協働(リレーション)・共創(コラボレーション)で、この3つがいたるところで感じられるようにということでした。従来のオフィスは個人ワークと打ち合わせ中心型のスペースとなっていましたが、リニューアル後は、コミュニケーションを重視した新たな価値やアイデアが共創しやすい空間を目指しました。
田中碧さん(ワークスタイルデザイン統括部 第二デザインセンター)
― それでは、実際のオフィスを見せていただきながら、教えてください。
伊藤 デザインは、「畑」をモチーフとする案が採用されました。カルビー様では「掘りだそう、自然の力。」というコーポレートメッセージを掲げていて、契約生産者さんと二人三脚で原料のジャガイモづくりに取り組んできたというバックボーンがあります。そこで、大切にしてきた自然の恵みを感じることができ、作物が実る畑のようにアイデアが生まれるオフィスを目指すことになりました。
デザイナーなどの一部を除き全面フリーアドレスの執務エリア。席数は従来の半分ほどにして、コミュニケーション向きの席を増やしている。
― たしかに、なんとなく畑を思わせる雰囲気がありますね。従来はもっと整然とデスクが並んでいたのでしょうか。
伊藤 フリーアドレスは以前から導入されていたのですが、どちらかというと長いデスクが置いてあったのを、今回は少人数で囲めるようなデスクの数を増やしました。より移動しやすいし、コミュニケーションも生まれやすくするという意図があります。
新オフィスを表現したロゴも作られた(※)
伊藤 デスクなどの配置を微妙にずらすことで動線を自由にし、人の交差が増えるようにしました。また家具の形や色を統一しないことで、大小さまざまな農地が重なりある畑のような、豊かな空間を目指しました。
― 照明でゾーン分けしたりせず、ランダムに入り組んでいる感じがします。
伊藤 集中スペースなども設けましたが、ソロワークはオフィスでなくてもできるということで、あまり数はありません。その代わりチームで集まって働くことができる場所や、すぐに集まれるブースなどを作りました。
― 執務エリアのデザインについてカルビー様からのリクエストはあったのですか。
田中 細かいリクエストはありませんでしたが、見通しを良くして一体感のあるオフィスにしたいという思いを強く感じました。ですので、背の高い家具はなるべくオフィスの端に設置しています。
― たしかに、広大な畑のように遠くまで見通せますね。
伊藤 「畑」のモチーフはオフィス全体に散りばめていて、例えばエントランスは、木目のルーバーが天井まで続いているのですが、これは畑の畝をあらわしているのです。
田中 写真ではわかりにくいかもしれませんが、畝に見立てて、ルーバーの断面は台形になっています。
― ここに額がかかっていますが......
伊藤 これも畑をモチーフにしたアート作品で、よく見ると立体になっています。
伊藤 エントランスから中に入ると、大きなロゴがあり、その壁の向こう側は社外の人も入れるカフェスペースになっています。ここの天井にもじゃがいもの模様を付けています。
カフェスペース「Patio」。天井にはじゃがいも模様が......
田中 こちらは会議室です。「ポテトチップス」「じゃがりこ」「フルグラ」「Doritos」などカルビー様の商品名を会議室名にしました。吸音パネルや家具の色も商品に合わせて選定し、扉に商品をイメージしたグラフィックを設置しています。
伊藤 また、カフェスペースの反対側には、商品を陳列している部屋も作りました。会議室として利用されているほかに、取材対応や動画配信などに活用されていらっしゃいます。
― 今回、デザイナーとして苦心されたところは?
伊藤 執務エリアの家具をバラバラにしたので、商品点数が異様に多くなって管理が大変でした(笑)。
― 社員の皆さんの評価はいかがですか。想定していなかった使われ方などは?
伊藤 評価としてはおおむね好評と聞いています。使われ方で意外だったのは、来訪された方はカフェスペース手前の待合ベンチに座られるかと思ったのですが、意外と奥のカフェスペースにまで入っていかれて、社内外の方が混ざり合う場としてカフェスペースが機能していることです。
― なるほど。カフェスペースは社員も自由に使えるのですね。
伊藤 そうです。来客と打ち合わせしている横で休憩したり、ランチを食べている人もいたりします。
― コロナの影響で出社率が下がり、オフィスの在り方が大きく見直されることになりました。リモートワークだからオフィスは要らないという極論を言う人もいますが。
伊藤 オフィスは企業のビジョンや理念、目指すものを表す意味もあります。特にカルビー様の場合は取材や来訪者も多く、オフィスは企業としてのブランドを表現する大きな意味があると感じました。こうしたオフィスの役割は今後も変わらないのではないかと思います。
※
イトーキでは、自社オフィスでもありショールームでもある「ITOKI TOKYO XORK」で、「次の働き方」の在り方を提示しています。この施設については当「みんなの仕事場」でもオープン時に取材しています。
イトーキの新本社「XORK」に見る、オフィスの最新形態「ABW」と建設環境基準「WELL認証」(前編)~働き方改革時代のオフィス移転[第5回]~
イトーキの新本社「XORK」に見る、オフィスの最新形態「ABW」と建設環境基準「WELL認証」(後編)~働き改革時代のオフィス移転[第7回]~
そんなイトーキには100名を超えるデザイナーがいて、今回お話を伺った伊藤さんはキャリア10年目、田中さんは4年目。昨今大きく変わりつつある働き方にあわせて、心地よく生産性を上げていく場をクライアントに日々提案する専門家ならではの自信が感じられた。「ITOKI TOKYOXORK」もオープンから3年半が経ち、この4月にリニューアルとなった。近いうちに、あらためてリニューアルされた同社の提示する「次の働き方」を取材したいと思いました。
株式会社イトーキ https://www.itoki.jp/ [外部リンク]
カルビー株式会社 https://www.calbee.co.jp/ [外部リンク]
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※の画像を除く)
取材日:2022年4月20日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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