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プラスが目指す、仲間との"空気感"を感じられるオフィスづくり[後編]

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プラスが手がけたセイコーソリューションズ株式会社のオフィス(※)

プラスが手がけたセイコーソリューションズ株式会社のオフィス(※)



前編はこちらから

「プラスが目指す、仲間との"空気感"を感じられるオフィスづくり[前編]」







■オフィスづくり事例➁ セイコーソリューションズ株式会社

梁瀬俊夏さん(クリエイティブ事業部ディレクター)

梁瀬俊夏さん(クリエイティブ事業部ディレクター)



梁瀬  セイコーソリューションズ様のオフィス移転事例をご紹介します。精密機器のセイコーグループの1社で、システムソリューション開発のサービスを提供している会社様です。


コロナ前の2019年に移転PJが開始しました。移転の最大の目的は都内3カ所に分散していたオフィスを統合し、社内のコミュニケーションを活性化することでした。企業規模拡大とともに、同じ会社だけど会う機会がない、別の部署がどのような事業を行っているのかよく識らないなど、事業所が別々に分散していたことで、コミュニケーションが行いにくかった課題への対応と、さらなる事業拡大へ向けたリクルーティング、そして社員が心地よく働ける環境を提供したいという経営陣の考えがありました。社員数は全体で言うと約600名、このビルだけで約300名ほどです。


そこで、本プロジェクトに向けて編成されたチームがコアメンバーになり、それに各部署からのメンバーが加わって、ヒアリングをしながら自分たちの企業文化をゼロから見直し、レイアウトを決めていきました。


8階建てのビルを1棟借りして、1階はエントランス、2~8階のレイアウトはあえてバラバラにしています。これは部門によって働き方が異なるからで、たとえば開発チームは集中して仕事ができることを重視するので従来の対抗島型(※注)レイアウトを踏襲し、机上間にはパーテーションを立ててより集中できる環境を作りました。一方で営業部門は人の出入りも多く、今までのように一人一人の固定された席を持つといった働き方が必要ないため、席のサイズを見直し、空間をダイナミックに使った円をベースにしたユニークな形にしました。



※注 対向島型:

グループごとにデスクを向かい合わせに配置するパターンです。
日本の企業で従来からよく見られるレイアウトで、「島型」とも呼ばれています。
それぞれのメンバーが向かい合わせになるため、コミュニケーションが取りやすいことがメリットです。
一方で、ほかのグループのメンバーとはコミュニケーションが取りづらくなります。



ソロワークが多い部門には固定席エリアも設けた(※)

ソロワークが多い部門には固定席エリアも設けた(※)



営業部門フロア(※)

営業部門フロア(※)



2階は伝統企業らしさや銀座というロケーションを反映して高級で重厚感のあるデザインになっています。



2階はおもてなしを感じさせるホテルライクな内装に(※)

2階はおもてなしを感じさせるホテルライクな内装に(※)



また8階は視界が開けていて眺望が良い場所なので、他の拠点から来た人たちや他グループ会社の方も働ける場所を作りました。



眺望の良い最上階はカフェライクな設えに。リラックスしながら業務ができる(※)

眺望の良い最上階はカフェライクな設えに。リラックスしながら業務ができる(※)



フロアの特性でデザイン・レイアウトを変えたことで、部署ごとに異なるデザインのフロアがスタッキングされました。誰でも使える場所と、部門専用の場所を用意したことで、部門を越えた人の交流ができるようになりました。


― 悩んだところはありますか。


梁瀬  メンバーと話して、働き方や事業内容をヒアリングして最適解を出したわけですが、これまでと180°変えたいという部署と変えたくないという部署もありました。そのため、フロアごとにスタッキングして、その代わり誰でも使える場所をいくつか作りました。


トップの意向がはっきりしていても、仕事の内容もあり、ベクトルを180°変えることはやはり難しいということがわかりました。


― 会心のポイントはどこですか?


梁瀬  3階と5階はデザインが凝っていて施工が大変でした。2・3・5階は天井から床から全部変えています。3・5階は天井もモールディングで、現場で一つずつ寸法出ししてやってもらいました。また、5階の円形のデザインは、設備をこの円状に合わせるのが大変で、施工会社と喧々諤々しながら調整しました。フロア面積は300平米とそんなに広くないので、壁を斜めに切って広がりを感じさせ、狭く見せない工夫なども凝らしています。




■"正解"を見つけることもデザイナーの仕事



― オフィスのリニューアルで見落とされがちなことは何でしょうか?


梁瀬  社内にはたいてい、働き方を変えることに抵抗感のある方がいます。トップがやれと言っても、業務的にできるところとできないところがあるためです。


在宅ワークが一般化し、「オフィスは要らない」と言われることもありますが、私は働く場所の選択肢が増えたと考えればよいのではと思っています。仕事が細分化されて、これまでの働き方のままの方がいいケースもあることがあります。そうしたことは対話的なコミュニケーションで聞いていかないと見落としてしまいます。それには第三者的な視点やノウハウを持つ人の視点が必要です。我々にはそういう対話のノウハウがあり、その分、設計期間に時間をかけています。話をすることで出てくる新しい側面を発見し、解釈し、解答を出すことが我々の仕事だと思っています。


― ワークショップなども行うのですか?


梁瀬  行います。先ほどのセイコーソリューションズ様のプロジェクトも、各拠点を回って意見を吸い上げ、プロジェクトチーム内で対応を協議し、再度トップに上げていただくことの繰り返しでした。トップから「こういうオフィスを作ってくれ」と言われた通りに作るのは簡単ですが、それではやはり取りこぼしてしまうものがあります。それを防ぐためにいろいろな意見や考え方を拾って検証していくことが必要です。


― 当サイトでも、誰も"正解"を持っていない中でオフィスをつくることの難しさについて、建築家にインタビューしたことがありました。


参考記事:建築家小堀哲夫氏が実現した「目標の見えないワークプレイス改革に形を与える」共創プロセス」



梁瀬  「こうだろう」という仮定はあっても、それが正解かどうかはわからない。話を進めていくとガラッと変わることもあります。働き方のベクトルをどの位置に持っていくかが難しく、どうしても対話を通して見出すしかありません。





筒井  お客様のヒアリングの重要性は私もよく感じます。「働き方を変えたい」と言っても、本当にその働き方は社員が望んでいることなのか疑問に思うこともあるります。会社の中でも、部署や人ごとに求められている働き方は違うと思うので、ヒアリングやアンケートなどで要望を吸い上げて、その会社にとっての「みんなが働きやすいオフィス」を提案できたらと思います。


岡本  あとは、オフィスが完成した後の運用面の取り組みも大事です。社員に来てもらうためのセンターオフィスですから、行きたくなる要素を日々更新する体制が必要です。


ピアレンスにも関連しますが、私は「仲間の気配感」が大事だと思っています。例えばブースを導入しても、中に誰が入っているのかわからないのでパネルの素材や高さなどのアプローチを工夫する必要がある。そこに仲間の気配感を醸し出せる設えを取り込むことがポイントだと思います。それに伴って視線のコントロールも重要ですね。


― 運用についてのアドバイスも行っているのですか?




岡本  例えば社員の相互コミュニケーションを促進するためにオフィス内にカフェを作ったが、コーヒーを取りに来てすぐ帰ってしまいコミュニケーションに至らないというご相談をいただくことがあります。



雑談を促すコミュニケーションスポット「5 TSUBO CAFE」https://kagu.plus.co.jp/5tbcafe/(※)

雑談を促すコミュニケーションスポット「5 TSUBO CAFE」(※)



当社の「5 TSUBO CAFE(ゴツボカフェ)」では滞在してもらう仕掛けとして、例えばデジタルサイネージを付けてコンテンツを配信することで雑談をしやすくするというような施策を提案したり、季節感が出るような飾りつけアイテムをご提供したりして、飽きさせない工夫のサポートをしています。


またフリーアドレスの運用面でも、スマホで座席を簡単に予約できる「Suwary(スワリー)」という座席管理システムなどもご提案しています。



参考:座席管理システムSuwary(スワリー)



― そういう運用アイデアの引き出しも用意しているということですね。


岡本  ちょっとアナログな取り組みも含めて、社内で実践したノウハウをお客様に提供しています。5 TSUBO CAFEでは、導入先のお客様にインタビューしてユニークな使い方を導入企業のみなさまに共有しています。英会話教室を開いたり、カフェの使い方に企業の特色が見えて面白いです。




■アウトプットの質を高められる場所はどこか



― 最後に、働き方が変わっていく今後、オフィスはどうなっていくと思いますか?


梁瀬  今までは会社が用意したオフィスに出社して働くことが当然でしたが、在宅ワークが普及し、サードプレイスも増えて働く場の選択肢が増えました。これまでのように会社で9時から5時まで過ごすことが「仕事」ではなく、「どんな仕事をしたのか」というアウトプットの質が求められるようになり、それが評価されるようになると、その仕事をするためにはどこが最適な場所なのかを選ぶことになるでしょうね。会社がここで仕事をしなさいと決めるのではなく、ワーカーが決める。同時に、自由を与えられるということは、ワーカー一人ひとりがその仕事に対し責任を持つことになることも忘れてはならないと思います。


メールやチャットでは伝わらない空気感が伝わるなど、オフィスで働くと視覚や聴覚以外の感覚を用いていろいろな情報も得られるので、同じ空間に人が集まって互いに話ができるオフィスがあることは意義のあることだと思います。


筒井  コロナ前は働くことの中心がオフィスにありましたが、今はまず自分の生活が中心にあると思います。アクティビティで働く場を選ぶ以外にも、よりライフ寄りに、例えばその人の性格や好みなどで選ぶことが出てくるのではないかと思います。


岡本  会社によって適した働き方は一社一社違うと思います。今までは何の疑問もなくほぼ100%オフィス出社していましたが、これからは出社率の設定にも会社としてのねらいや理由を示さないと社員は納得しなくなるでしょう。出社率を50%にするなら、どういう働き方を前提にしているのか、どのようにオフィスを使ってほしいのかという社内での共通認識が必要です。企業の考え方に合わせて選択肢を最適化していくのが今後のトレンドになっていくと思います。







才気あふれるお三方とのお話の中で、「オフィスとはひとつのコミュニティだ」という興味深い指摘がありました。たしかに、自宅やカフェ、サードワークプレイスと働く場所は多様化しましたが、会社の仲間に会えるのはオフィスだけです。当たり前のことかもしれませんが、オフィスとはそういう貴重な場であることにあらためて気づかされました。






取材協力


プラス株式会社[外部リンク]


株式会社セレブリックス[外部リンク]


セイコーソリューションズ株式会社[外部リンク]



編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2022年5月26日

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