THECOO株式会社の新オフィス「フリースペース」(※)
エンターテインメント×テクノロジー領域におけるプラットフォーマー、THECOO株式会社が、事業拡大のため2022年8月に本社オフィスを渋谷区神宮前に移転しました。その背景にはコロナ禍でファンコミュニティプラットフォーム「Fanicon」事業の急成長があります。アーティストやタレント、スポーツチームなど多くのクリエイターとの共創の場としての新オフィスはどのようなものでしょうか。メンバーサクセス本部の清水彩加さん、コーポレート本部の手塚彩子さんに新オフィスを案内していただきました。
清水彩加さん(メンバーサクセス本部 メンバーサクセス部)
― 移転の話が最初に持ち上がったのは上場後すぐの2021年末だそうですね。当時はコロナの真っ只中。リモートワーク体制だったのでは?
手塚さん そうですね、基本は自由勤怠・勤務形態で任せていますが、感染状況がひどかった時期は全員在宅を推奨していました。ただ、私たちが主軸としている「Fanicon」というファンコミュニティプラットフォーム事業は、アーティストや俳優とそのファンの繋がりを支援するコミュニケーションに特化したアプリサービスです。スクラッチやグループチャット、チケット販売など多種多様な機能が備わっています。基本はオンライン上で提供しているサービスなので、感染状況が最もひどかった頃は社員も100%リモートワークでしたが、そのために運営ができないということはありませんでした。
主力事業の「Fanicon」。2,300組以上のアイコン(タレントやアーティスト)がオリジナルのコミュニティを開設しており、総ファン数は181,125人を誇る。(数字はいずれも2022年5月17日時点)(※)
タレント、アーティスト、女優からプロデューサー、経営者まで幅広いアイコンがコミュニティを開設している。(サービスサイトより ※)
― オンラインライブなどでもスタッフは現場に行かなくていいのでしょうか?
清水さん ファンコミュニティのオーナー(アーティスト)を「アイコン」と呼んでいるのですが、当社のカスタマーサクセスチームなどは現場でのサポートも行っています。しかし当時は事務所側もアイコンさんに外出を控えさせていたので、アイコンさんのご自宅や事務所から手軽に始める方が多かった印象です。さらに、ラジオ配信や、顔を見せなくてもできるチャットやタイムラインを積極的に活用される方も多く、様々な方法でファンと交流されていました。このような背景から2021年4月に新宿に配信専用スタジオをオープンしたのですが、そこには最新機材や遠隔で操作できるリモートカメラがあるので、アイコンさんの理想とするオンラインライブを演出することができます。
― コロナ下ではオンラインサービスの需要が非常に伸びましたよね。
手塚さん はい、コロナによる緊急事態宣言中はエンタメ業界も自粛傾向になり、オンライン上での活動を行う方たちが増えたことで「Fanicon」も伸びることができました。それに伴い、採用も強化し、社員が急激に増え、オフィスの広さが追いつかなくなっていきました。
― その時点での社員は何人でしたか?
清水さん 100~120人ぐらいですかね。オフィスはかなり手狭になっていて、その後、在宅と出社のハイブリッドになりましたが、全員が出社したら、たぶん30人ぐらいは机がない状態になっていたと思います。会議室もずっと埋まっていました。
清水さん コロナの感染状況が落ち着いた今後も需要は伸びていくと予想しているので、新規採用も増やしていく予定です。だからそれを想定した規模のオフィスに移転することにしました。
― コロナ禍で在宅勤務が増えて席が余り、オフィスを縮小する会社も多いですが、御社の場合は「在宅の人たちが全員出社したら困る」という危機感があったのですね。
清水さん 世の中と逆行しているかもしれませんが(笑)。弊社は「対面」ということを重視しています。当社では代表はじめ全社員が社内社外たくさんの人と交流することで新しいアイディアやサービスが生まれてきているので、対面を最重要視する文化だと思います。今も出社は週3日以上を推奨しています。昨今の働き方とは「逆行している」と思われるかもしれませんが、社員は皆納得していますし、対面でこそ生まれる熱量や愛情というものは絶対になくならないことがコロナのおかげでわかった、と代表もよく言っています。それを大切にするために、オフィスでのコミュニケーションを促進していきたいと思っています。
― ステークホルダーには、どんな方が含まれるのでしょうか?
手塚さん 弊社はto Bとto Cの2事業を展開しています。to B事業は創業期からのオンライン広告の運用コンサルティング事業と、インフルエンサーマーケティング事業を行っています。顧客は広告代理店やクライアント様、そしてインフルエンサーなどがいます。to C事業は、先ほどから話している「Fanicon」というファンコミュニティプラットフォーム事業です。こちらではファンの皆さん、アイコンの皆さん、アイコンさんが所属する事務所の方などがステークホルダーということになります。それ以外でも、リクルートがありますし、上場していますから株主様もいらっしゃいます。
― なるほど。リモートでは代替しきれない、多種多様な「対面」があるのですね。
会議室「JAZZ」。シンプルなインテリアだが、音楽好きなら話題にしたくなるアイテムがちりばめられている。(※)
― 新オフィスは、代表が過去に経験された海外のオフィスを参考にしているのでしょうか?
清水さん 代表本人に聞いてみないとわからないのですが、学生時代のバイブルが「ロッキング・オン」というぐらい音楽好きな方ですから、海外のオフィスより、音楽系のライブステージやアコースティックステージの雰囲気を好みで反映しているように思います。
― ニューヨークというより、ブリティッシュな感じですね。ロンドンとか。
清水さん そうですね。なので、アーティストや音楽というエンタメ感をいかに具現化するかということを頭に入れて移転プロジェクトは進めました。
― コンセプトはどのように決めましたか?
清水さん そういう代表の思いもありましたが、メインコンセプトを「みんなが来たくなるオフィス」にすることになり、それを具体的に詰めていく過程で社員全員にアンケートを採りました。その後、プロジェクトメンバーを募り、チームができました。
― アンケートではどんなオフィスがいいという意見がありましたか?
清水さん 「通常業務を快適にできるようにしたい」という要望がかなりあり、工夫しました。まず会議室が足りないという声が多く、数を増やしました。同時に、オンライン会議も増えているので、大きな部屋以外に個室ブースも用意しました。
また9階のフリースペースなどは、カフェスペースが欲しいという意見から実現したものです。
あとはコミュニケーションに不可欠なインフラを整備してほしいという声が多かったです。
― 具体的な内装のデザイン会社を決めたのはいつぐらいですか?
手塚さん 移転プロジェクトが本格的に稼働するタイミングでコンペを行い、TRAIL HEADSさんというPM会社さんと、MACRIさんというデザイン会社さんに決まりました。実は2社とも移転前のオフィスでお世話になっていて、THECOOの文化と言うか、やりたいことを存分にわかってくださっているんです。
また、オフィス内のスタジオと、新宿の配信スタジオ「BLACKBOX3(ブラックボックス)」は、そういったスタジオの設計を得意とするアコースティックエンジニアリングさんにお願いしました。
― デザインコンセプトは?
清水さん 私たちの業界はクリエイティブな発想を大事にしていますから、デザイン的にもかっこよさを求めました。話のきっかけになったり、単純にかっこいいと思ってもらえたりするオフィスです。代表の好みも反映しつつ、色々な意見をMACRIさんが汲み取ってくださったと思います。
まるでホテルのラウンジのような「フリースペース」。夜は神宮一帯の夜景を楽しめる。(※)
手塚さん 音楽の要素はかなり入っていますね。会議室ごとにレコードを掲げているので、お客様が「このレコードはあのときのだよね」と盛り上がってくださることも多いです。
「ROCK」「HEAVY METAL」「TECHNO」など、会議室はすべて音楽ジャンルの名前が付いていて、ジャケットが飾られている。懐かしさで話が弾むことも。
― 和室の会議室があるそうですね。
清水さん そうなんです。「POP」という会議室はJ-popを意識しているので和室です。掛け軸に邦楽の曲名や歌詞が書かれていたりします。
和室の会議室「POP」。
日本語歌詞の掛け軸がかかっているという徹底ぶり。
― すごいこだわり方ですね。
手塚さん 他にも、9階のフリースペースにはレトロな機材が置いてあって、その世代の方が見て盛り上がっていただけます。来ていただいた方に楽しんでもらいたいというコンセプトです。
「フリースペース」にさりげなく置かれたレトロなオープンリールのレコーダー。(※)
手塚さん フリースペースは人が集まりやすい作りにこだわりました。ファミレス席や円卓席、ひな壇なども設けています。
こちらもヴィンテージなオーディオ機器。
清水さん 業者さんに聞いたところ、ひな壇は結局あまり使っていないという会社さんも多いとのことだったので、あえて少し低めに作りました。温かみのある木でデザインして、椅子でも使えるようにしました。実際に全社のミーティングや社内イベントもフリースペースで実施していて、集まりやすい場所になったと思います。
清水さん コミュニケーション別に使える家具を考えました。「立ち話はカウンターでやろう」とか、「ご飯を食べながらファミリー席で打ち合わせよう」とか。あぐらをかきながら仕事したい人は、階段式のせり上がったところで靴を脱いで上がればいいし。それぞれのコミュニケーションや仕事のスタイルで家具を選べるスペースになりました。
10階にある、社内から配信を行えるスタジオ「PEAKS」。(※)
こちらが「GONDOLA RECORDS」というスタジオ。明るいレコード屋さんのイメージ。(※)10階にある、社内から配信を行えるスタジオ「PEAKS」。(※)
おしゃれバー風のスタジオ「空中道場」。夜景が素晴らしい。なぜか懐かしいゲーミングテーブルも完備。(※)
― オフィスづくりで苦労されたことは?
清水さん 移転は大変なことだらけでした(笑)。部署ごとに必要なことが違うので、何を取り入れて、何を置いていくかという取捨選択には悩みました。それをどういうふうにデザインに反映するかということも、デザイナー会社さんやPM会社さんと相談を重ねました。
― 皆さんの要望はかなり多かった?
清水さん より快適なオフィスにしたいという思いをいかに反映させるかということで、メンバーはいつも頭を悩ませていました。
手塚さん どのフェーズでも、何かしら決定を下さなければならない局面ではやはり大変でした。たとえば物件を決める際にも、かなりたくさん見て回りました。今やりたいこと、これから広げていきたいことができて、ステークホルダーの方々も来やすい立地も重要でしたから。
清水が言ったように要望も多かったので、何かを確定するタイミングで、みんなの意見をまとめるのは、責任もありますので、やはり大変でした。
― 美的感覚の鋭いクリエイターさんが多いので、意見をまとめるのは大変だったでしょうね。
清水さん おっしゃる通りです(笑)。
※
すばらしいスタジオに度肝を抜かれたところで、後編に続きます。後編では執務エリアをメインにお話を伺い、写真で紹介していきます。お楽しみに。
取材協力
運用型広告事業を行うルビー・マーケティングとして2014年に設立。代表取締役CEOは平良真人氏。2015年からインフルエンサーセールス事業を開始し、2016年にTHECOOに社名変更した。主力事業は歌手や俳優のファンクラブプラットフォーム「Fanicon」で、2021年にはNTTドコモと業務提携を締結、同年東京証券取引所マザーズに上場した。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2022年10月12日
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