日東システムテクノロジーズの新オフィス(※)
群馬県太田市のIT企業、株式会社日東システムテクノロジーズは2021年にオフィスを新ビルに移転。日経ニューオフィス賞(ニューオフィス推進賞、クリエイティブ・オフィス賞)を受賞しています。コンセプトは「コミュニケーションと集中」。チームでのコミュニケーションをを重視する「自席」と、集中したりリラックスできる環境の「ABWエリア」を充実させています。今回は代表取締役の青木稔さんと広報の木口明日美さんに、ABWのあらゆるゾーンが揃った贅沢なオフィスをご案内いただきました。
前編
・コンセプトは「コミュニケーションと集中」
・階層ごとに装いが異なるABWエリア
・仕掛け満載のワークフロア
・イメージの異なる4つの会議室
・ホームクリーニング、ジムやキッズルームなど働く人をサポート
後編
・「最高のチーム」と「色褪せないミッション」があれば
・デザイン会社を使わず自分たちで内装を決めた
・グリーンのメンテナンスは社長と社員で!
・集中できる場所のニーズをくみ取っていきたい
同社は主に学校法人と医療法人向けの製品やITサービスを提供するIT企業。中でも学校関連が占める売上比率が大きく、専門学校、大学、短大などに学生募集支援や成績や出欠の管理、就活関連のDXを推進するITサービスを提供しています。最近では、コロナの影響で学校のオープンキャンパス開催が難しくなった際に、Web上でオープンキャンパスや説明会を開催できるシステムやサービスを提供したそうです。
(※)
日東システムテクノロジーのオフィスがあるのは群馬県太田市。都内豊島区から桐生市を経由して日光へ続く国道122(50)号沿いにあります。
レストランや家具店と間違えて入ってきてしまう人もいるそうです。(※)
テラス席を眺めながらエントランスに入ると、そこはアロマの香りが漂うリラックスできる空間になっていました。
内線をかけるまでもなく、すぐに社員の方が現れて、応接室(レセプションルーム)に案内していただきました。偶然通りがかったのかと思いましたが、あとで聞くと、センサーで来客がすぐにわかるようになっているそうです。
壁は火山灰とスターバックスのコーヒーかすを混ぜたリサイクルのボードを使用。持続可能性という意味を持たせている
さて、こちらがレセプションルームです。落ち着いた書斎という雰囲気で、中庭とワークエリアを眺められるようになっています。
エントランスから眺められる中庭(※)
反対側はワークフロアを一望できる(※)
本日は青木稔さん(代表取締役)と木口明日美さん(総務部人事・広報)にご対応いただきます。
― こちらは平均年齢がかなり若いようですね。
青木さん 全社平均だと35歳、このオフィスだけならもっと若いのかな?
木口さん そうですね、30歳ちょっとぐらいでしょうか。
― 社長も含めて、かなりお若いですよね。
青木さん ありがとうございます、私は40歳になっちゃったところですが(笑)。
― それでは、「コミュニケーションと集中」というオフィスコンセプトから伺います。これは最初から決めていたのですか?
青木さん 最初の段階である程度は決まっていました。工場なら最新鋭の設備を入れれば生産量が上がって売上が増えますが、我々のような会社は、オフィスを新しくしたからといって売上が増えるわけではありません。だから、このオフィスによってどうやって成果を生み出していくのかということを考えました。コミュニケーションが活発になって良い商品が生まれること、良い商品を集中してスピーディーに提供していくために集中すること、という2つのコンセプトを達成できるオフィスにしたいと思ってつくりました。
―「コミュニケーション」と「集中」という2つをエリアで分けたそうですが。
青木さん はい、各人が自席とABWの両方を往き来する働き方をしています。自席はチームごとになっていて、あえてフリーアドレスにせず、先輩や隣りの人に相談したり、他の人の話も自然に聞こえてきたりするエリアで、勉強したり情報を共有したりする、コミュニケーションを活発にさせる場所です。
これに対して、集中したかったり、ちょっとリラックスしたりしながら仕事したい、あるいは打ち合わせたいときには、自分の席を離れて仕事できる場所として、「ABW」と呼んでいるエリアを用意しました。
― なるほど。それでは早速オフィスのご案内をお願いします。
ということで、まずABWエリアからご案内いただきました。
ワークエリアとは中庭で仕切られてはいますが、扉というものはなく、ワークフロアから中庭、ラウンジまで見渡せる空間が意識されています。
エントランス、中庭、そしてラウンジへと仕切り壁なしにつながる空間
エントランスの右手がABWエリアのメインとも言えるラウンジスペース。体育館かホールのように広々した空間に圧倒されます。
天井高はなんど8m
ABWエリアは5階層の高低差(スキップフロア)を利用し、階層ごとにコンセプトを変えている(※)
― こういう贅沢な空間の使い方は、都心ではとてもできません。テナントビルには決まった場所に壁がありますし。
青木さん 全体がつながって見えるように工夫していて、外の空間の仕切りも一面ガラスにしています。その中で、5つの階層を設けています。このラウンジが1階層目で、半地下になっている2階層目、その上に3階層目、さらにその上に4階層目、5階層目があります。それぞれ少しずつテイストを変えて違う雰囲気になっています。
1階層目のラウンジスペースは天井高も8mほどあり、ガラスで囲まれている明るく開放感のある空間で、家具や床材も明るい木目を採用しています。窓側にスクリーンを下ろすこともでき、このロー階段を使ってイベントなども行っています。
― ちょっとしたライブ演奏もできそうですね。
青木さん 有志による「親睦団体」というのがありまして、シーズンごとのイベントを企画しています。ここに移転してからは社内イベントが非常に多くなっていて、最近やったのは「マグロの解体ショー」ですね。
― スケールが違いますね......。
青木さん 小さいお子さんがいる社員が多いので、ご家族を呼んで、ラウンジでまぐろを解体し、その場で1500貫ほど握ってもらってみんなで食べました。子どもたちも大喜びでしたよ。
ラウンジではさまざまなイベントが開催されるそう(※)
木口さん eSports 大会とかマリオカートのチーム対戦とか、映画「鬼滅の刃」の鑑賞会、夏のフォトコンテストなどもやりましたね。
青木さん コロナ前までは社員旅行やイチゴ狩りなどをやっていたのですが、コロナを機に外でワイワイやるのではなく、社内でのイベントが多くなりました。
2階層目は私語厳禁エリア
ラウンジの下は個室のオンライン商談ブースになっており、これが2階層目になります。
和室とテーブル席の集中ブースと仮眠室もあり、このエリアは私語厳禁になっているとのこと。
こちらは3階層目。リビングのようなリラックスして仕事ができる空間で、床も家具も柔らかいイメージのものを選んだとのこと。
少し緑が入った床材は「新芽」をイメージしている
壁に飾られたアートは同社のデザイナー作。黄色い部分が「N・S・T」(日東システムテクノロジーズ)となっている
4階層目は、北側でラウンジからの光が届かないため、床も家具も落ち着いたものを採用し、カフェテリアのような落ち着く空間に設えられてます。
カウンターの裏には飲食店で使うようなコールドテーブルがあり、冷蔵庫や食器を収納
夕方からはムーディな雰囲気に
青木さん ここではコーヒー、紅茶、お茶、水、アイスを無料で提供しています。
― アイス無料はうれしいですね(笑)。
4階層目は2階と錯覚してしまいますが、実は中2階で、階段を上っていくと2階になり、そこが5階層目になります。
木で囲われた中にヨギボーが置かれ、仕事をしたり昼寝をしたりできるスペースになっています。
窓の外のテラスにも出られます。夏場になるとそこで仕事したり、ランチをとったりするのにうっけつけの場所になるそうです。
反対側は商談ルームで、オンラインの商談や面接などに使われているとのこと。
商談ルーム。壁の色を変えていて、おしゃれ(※)
青木さん ここまでが5階層ということになりますが、フロアや階層によって少しずつイメージを変えていくことにはこだわりました。
集中しやすい場所というものは人によって異なるので、多様な空間を用意して、自分が成果を出せる場所を選べるようにすることにこだわりました。
階層ごとに雰囲気を変え、家具なども選んでいますが、なかなか難しくて、なるべく統一感も持たせながら、少しずつテイストを変えました。
それでは2階からワークフロアに入っていきましょう。
南側の天井をあえて躯体をむき出しにして、照明をダウンライトのレールにして暗く暗くしている。北側を明るく見せる工夫である(※)
2階のワークフロアは、真下にある1階ワークフロアよりも外光が入るため、全体に明るいイメージです。そこで1階よりあえて少し暗めのトーンでデザインすることで大人っぽい空間になっていました。
ワークフロアは基本的に自席という位置づけですが、「コミュニケーション」を活性化させるためにABWとして使える多様なゾーンが設けられています。
こちらで目を引いたのは、穴ぐら感のある、立ちながら電話したりミーティングできる家具。
― これは初めて見ました。面白い家具ですね。
こもり感のある立ちミーティングや電話などに便利そうな家具
青木さん この家具はベルギーのBuzziSpaceという会社のもので、100%リサイクル材を使用した吸音機能ファブリックを使用したアクセントファニチャーです。壁に直接設置できる吸音パネルなんです。
― たしかにヨーロッパっぽいデザインですね。
こちらのライトもBuzziSpace社製。
フロアの中央はオープンミーティングのゾーンになっていました。
モニターとテーブルがあって、さっとオープンミーティングに集まれるようにしています。
役員会議室用などの高級テーブルを2つも置いている
青木さん このテーブルはイトーキさんの製品ですが、ちょっと造作をしてもらっています。カジュアルなバーで電源を付けて、フリーアドレス席としても利用できるようにしました。
中央のマグネットスペースにはコピー機、お菓子などが。もちろんお菓子はすべて無料(※)
フロア内に高低差のあるゾーンが設けられていました。
40cmほどですが、実際に上がってみるとかなり高いところに上がった感じがします。逆に10cmほど下げて土間のようにしているゾーンもありました。
こちらの吸音ライトもBuzziSpace社製。ハイバックのソファと吸音パネルでゾーンを作っている
こちらも吸音パネルでゾーニング
青木さん ここはミーティングゾーンなのですが、キャンプファイア台を置いています。メーカーによれば、オフィスに納品するのは初めてだそうです。
― これは......火じゃないですよね?
青木さん いえ、本物の火なんです。手をかざすと熱いです。バイオエタノール暖炉というもので、煤や有害物質を出さないので、屋内暖房として使うことができるんです。
なんと本物の火が揺らいでいる
青木さん さすがにオフィス内では薪を燃やすことはできないので、バイオエタノール暖炉を入れました。こういうファイアピット・ファイアベンチがオフィスにあるのは珍しいと思います。
― 都心のテナントビルでは禁止されてしまうでしょうね。
1階ワークフロアにも形の違うバイオエタノール暖炉が
そのほかにも、さまざまなゾーンがあり、このワークフロア自体がABWオフィスのようになっていました。
ファミレス席と小上がりの和室スペース
こちらは集中ブース。自席から離れてここで集中作業をする場所です
並べてしまうと1つおきとか端しか使われないのではと懸念したそうですが、実際には常に満席状態。隣に人がいても意外と気にならないようです。
フロアの端にはゴージャスなカフェカウンターがありました。
青木さん ラウンジにもカウンターを設置しましたが。フロアにも造作で作って、テイストを変えています。
― これはかなり凝ってますね。美しい。
青木さん 上のルーバーも1本1本造作しています。
ちなみに1階のワークフロアにもカフェカウンターがありました。高さが2段階になっていて、少しカウンター形式になっています。両サイドには2人用と4人用のファミレスブースを堀り込んでいます。
こちらはリング型のプレゼンテーション席。チームでプレゼンする機会が多いので用意したそうです。
― こういう小振りなプレゼンゾーンは少人数でも使えて便利ですね。パーティスペースのような大げさな感じでなく。
青木さん 10人ほどの前でプレゼンするときに便利です。
同様のプレゼンゾーンは1階にも。こちらはテイストを変えて、ウイング型じゃなくて直線的なバー型
縁側感のあるカウンター席。1人用の集中席として作ったが、打ち合わせに使われることも多いという
こちらは窓際の小上がりカウンター席ですが、畳席で和風の雰囲気になっています。
実は和風に合わせて、ライトのシェードは大谷石のものを採用している
こちらは立ち席のエリア。営業スタッフが電話を受けてサッと立って使ったりしているとのこと。パーテーションがあるのでプライベート空間としても利用可
2階へと続く階段の下にもソファエリアとフォンブースが
ワークフロアには1階・2階合わせて4つの会議室があります。
ひとつは冒頭でご紹介したレセプションルームですが、残り3つの会議室を案内していただきました。
こちらはワークフロアにガラス張りで面している会議室で、落ち着いて議論するというコンセプトのため、ライトや壁、天井など全体的にエイジングしたものがモチーフに使われています。男性が使うことが多いそうです。
こちらは白い会議室。ライトの色は同じですが、インテリアが違うだけでまるで違う雰囲気に。こちらは女性が使うことが多いイメージとのこと。
こちらは一風変わった会議室。ワークフロアには面しておらず、通路から入るようになっています。
青木さん この会議室だけはあえて窓を作っていません。唯一、人目につかない場所です。「地下の牢獄」的な怪しさを演出しているんです(笑)。
― 悪の秘密結社のアジトのような(笑)。
青木さん はい、悪い人たちが集まっていそうな雰囲気にしたかったので、錆調のクロスで壁も鉄板状のフィルムを貼って、天井も塗装せず、床もコンクリートをあえて汚しています。「死体を引きずったような感じで」とオーダーしました(笑)。
こだわりの床の「汚し」
― これをわざわざ付けたんですか、すごいこだわり(笑)。どういう会議のときにここを使うのですか?
青木さん 意外にエンジニアが好んで使っていますが、私もちょっと厳しめの話をするときにはここに呼んだりします(笑)。ここに入ってくると、「何か嫌な話をされる」と思うみたいです(笑)。
ここでワークフロアから離れて、各種の施設を見ていきましょう。
従業員入口はカードか生体認証で鍵が開く仕組み。勤怠も自動で取っています。
その後は男女別の更衣室があり、ホームクリーニング機を設置されています。
青木さん これはスチームでシワが取りや臭いとりをしてくれる優れもので、オンラインの商談が増えて、「上だけスーツの人」がウロウロしているので(笑)、みんなこのホームクリーニングを活用してくれているようです。
こちらは。胸や脚、背中、肩などの大きい筋肉をひと通り鍛えられる本格的な器具を揃えたトレーニングジム。デスクワーク中心のため健康に配慮してもらいたいという思いで作ったそうです。
朝昼晩、土日と誰かが常に使っており、運動したいというニーズが高いことがわかったとのこと
こちらは「キッズルーム」という名前の部屋ですが、ユニークなのは、子どもを遊ばせる部屋というだけでなく、「子どもと一緒に働ける部屋」になっているということです。
青木さん 親御さんはあちらでミーティングしたりして、子どもはこちらで絵を描いたり、勉強したり、DVDを観たりできます。それほど稼働率は高くないのですが、「どうしても会社に来なければならない用事があるけど、子どもの面倒もみないといけない」という緊急事態時に便利なようです。
※
オフィスツアーはここで終了です。まさに圧巻でした。
後編ではレセプションルームに戻り、このようなオフィスを作ることにした背景や実現の過程、社員の皆さんの実際の働き方などについてお話を伺っていきます。
お楽しみに。
取材協力
自社のオリジナルシステムやITサービスを学校法人、医療法人へ提供し、11年連続増収・増益と成長しているIT企業。開発から販売、アフターフォローまでをすべて自社で完結しており、お客様のニーズや自分たちのアイディアでより価値の高いサービスを顧客に提供しています。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2023年3月30日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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