同社「Ebar (イーバー)」にて代表取締役社長 倉田 宏昌さん
前回、「アドテクのリーディングカンパニー株式会社EVERRISE(エバーライズ)のオフィスに行ってきました(六本木駅 7番出口徒歩1分)[オフィス訪問(1)」
社内コミュニケーションの重要性が叫ばれて久しい。特に、市場変化が速く企業自身の成長も早いような業界では、市場変化に追従し、社員の成長を促すためにも、社内コミュニケーションを密にする必要がある。それは会議などの公式的なコミュニケーションに限らず、ちょっとした立ち話や、終業後の飲み会など、非公式コミュニケーションを通じて、社員の歩調を整え、方向付けを行い、社員の成長を促すことがカギになる。
そのため急成長しているベンチャーでは、社員全員に会社と取り巻く状況を共有できるような全社集会のためのホールを設けたり、かしこまらない会話ができる非公式コミュニケーションを促すための社内カフェやバーを作ったりなど、様々な工夫を凝らして、公式・非公式の社内コミュニケーションの機会を増やすようにしていることが多い。
とはいえ、創業間もないベンチャー企業となると、成長途上で規模はまだ大きくなく、資金的な余裕が必ずしもあるわけではないので、オフィス内にホールやカフェを作ることは難しい。
そうした中、限られた空間を有効に使い、社員のコミュニケーション活性化できる空間づくりをしている企業があるので紹介したい。
それが、前回の記事のためオフィスを取材した、デジタル広告分野のアドテクノロジー企業、株式会社EVERRISE (エバーライズ)のオフィスだ。
同社のオフィスは、1フロアは約334平方メートル(101坪)、約40名近い社員が勤務するもので、決して大手企業のようなスペースに余裕のあるオフィスではない。しかし、従来、休憩とセミナールームだった部分を一つにまとめ「Ebar (イーバー)」と名付けられたバースペースに改装することで、マルチユースできるコミュニケーションスペースに仕上げている。
では、その改装ビフォー・アフターを見てもらいたい。
(※同社提供写真)
改装前のセミナールーム前のソファセット。休憩などに使われていた。
(※同社提供写真)
ソファセット前の自動販売機。奥に見える扉がセミナールームの入口。
(※同社提供写真)
セミナールーム (24席)。机を外に出せば約30名まで入れたとのこと。
こちらで会社説明や、月1回の全社会議、時折セミナーを行っていた。
雰囲気はまったく変わり、スケルトン化した天井はブラックで渋く、まさにカフェバーが出現している。
写真中ほどにある、大型テレビと自動販売機の位置が改装前とほとんど変わっていない。セミナールームの壁を取り払い、休憩スペースと合わせて1つの広いバースペースに変身させている。
改装によって作られたバースペースは、単なる社内バーとしての機能だけではなく、多目的に使えるマルチユースでデザインされている。
改装前までは、休憩スペースとセミナールームが、それぞれ休憩とセミナーという単機能を受け持つだけだった。また、休憩スペースもセミナールームもどちらも必要なスペースだったものの、日中の稼働率が高いわけではなかった。改装後は、以下の表のように多目的に使えるよう作り替えられている。
改装前 | 改装後 |
---|---|
セミナールーム(24席) ・全社会議 ・セミナー ・パーティー |
バースペース「Ebar (イーバー)」 (1) 社内バー (社員交流) (2) 休憩・リフレッシュスペース (3) 全社会議 (月1回社員全員) (4)セミナースペース (最大50人程度まで) (5) パーティースペース (6) ワークスペース (7) オープン会議スペース |
休憩ソファ席(10席) ・休憩 |
上の表の右側を見てもらうと、1つのバースペースという空間に、ここで挙げただけでも7つの役割を果たすよう作り替えられている。
このようにマルチユースできるようになった第1のポイントは、それぞれの役割で使用する時間帯が異なることを利用した点にある。
例えば「(1) 社内バー」は18時以降の就業時間後に使われる。対して「(2) 休憩・リフレッシュスペース」は、9~18時の就業時間中になり、利用時間帯が重ならない。「(3) 全社会議」は月に1回だけであり、社員全員参加なので休憩利用はない。また、「(4) セミナースペース」は、午後など終業時間中が主だが常にセミナー利用しているわけではなく、「(5) パーティースペース」は終業時間後が主とそれぞれ分かれているため、多目的利用が可能になっている。
セミナールームは大きなスペースが必須な割に、稼働率が低いのがスペース利用効率上の難点となる。この改装されたバースペースは、セミナーやパーティーに使えるだけの広さを確保しつつ、非稼働の時間帯に、休憩やリフレッシュ、仕事の両用に使えるようデザインされている。時間帯をシフトして同じ空間を使うことで、広く使うことができるようになったのだ。
≪利用時間帯で見た「Ebar (イーバー)」の役割≫
執務時間(9~18時) | 終業後(18時~) | |
---|---|---|
主役割 |
(2) 休憩・リフレッシュスペース (6) ワークスペース (7) オープン会議スペース |
(1) 社内バー |
副役割 |
(4)セミナースペース(時々) (3) 全社会議 (月1回) |
(5) パーティースペース(時々) |
「Ebar (イーバー)」を奥から撮影
マルチユース化の第2のポイントは、壁を使わないゆるやかなゾーニングだ。改装前は壁を作り空間を仕切ることで、用途をはっきりと分けるゾーニングをしていたのだが、改装後は1つの空間の中で、置く家具をエリアごとに変えることでゆるやかなゾーニングを行っている。
例えば、上の写真を見てほしい。奥にバーカウンターがあり、手前側にはカフェバー的な空間を保ったまま、しっかりとしたテーブルを複数台、広めの間隔を空けて配置している。そのため、手前側ではノートパソコンを持ってきて「(6) ワークスペース」として利用することができるし、「(7) オープン会議スペース」としても使うことができるようになっているのだ。そのため、使用時間帯が同じ「(2) 休憩・リフレッシュスペース」と共存できる。
以下、「Ebar (イーバー)」内の各エリアとその役割を紹介していこう。
日中はこちらでコーヒーを飲んで休憩したり、話したりする場所に。
18時以降は社内バーとして、社員交流の場所になる。また、パーティー時にはドリンクカウンターとして雰囲気が盛り上がる場所に。この空間を表す象徴的なスポットとなっている。
バーカウンター向かいには、カフェバー的なソファ席がしつらえられている。改装前のソファ席から雰囲気がガラリと変わりオシャレに変身した。壁際にベンチシートを置くなど、収容人数もアップ。こちらで休憩したり、バータイムは交流のメインスペースになる。また、日中に空いていれば軽い打ち合わせもこちらで。
バースペースの奥の方には、低い飾り棚を挟んで、オープンテーブルがある。こちらで仕事をしたり、打ち合わせしたりできるスペースになっている。お昼時にはランチスペースとしても利用される。
また、2面が窓という景色、採光の良さを活かしており、気分を変えて仕事ができる空間になっている。また、ラフさの残る手作りのテーブルがカフェバーの雰囲気を盛り上げ、オフィスらしからぬワークスペースに仕上がっているというのもポイント。
フロアの奥には、天井にプロジェクターがセットされ、セミナーや全体会議で使える投影スクリーンが下せるよう作られている。もちろん使用しないときは収納できるので普段は邪魔にならない。
フロア中ほどからバーカウンター方向を撮影。
写真右手に見える飾り棚で手前と奥で空間をやんわりと分かれるようゾーニングがされている。
改装前と比べて壁がなくなったため、広い空間となり、セミナーや全体会議の収容力が大きくアップ。休憩スペースやワークスペースとしても、以前より広く使えるようになっている。また、改装後は同社の月次の懇親会もこちらで開かれるようになったとのこと。一般的に、社内で懇親会というと、場所がオフィス然とした会議室になるため、盛り上がりづらいが、このような本格的なバーやカフェの風情のスペースであれば全然違うだろう。
そこで、このような空間をオフィス内に作られたきっかけを、同社代表取締役社長 倉田宏昌さんに伺った。
株式会社EVERRISE 代表取締役社長 倉田宏昌さん
Q.セミナースペースをこのように改装されたきっかけについて教えてください。
弊社では月に1回、社員全員が集まって、状況を共有したりする全体会議をセミナールームでやっていたのですが、当社の人数がだんだん増えてきて、開催する度にセミナールームで寿司詰め状態になっていたんです。座席は24席しかないので、会議をするときは全員が入れるようデスクをセミナールームの外に出し、椅子を中に持ち込んで、そこに40人ほどの社員が入っていたんですけども、社内から「これは限界でしょう」という話になりました。
私としては、社員数が50名をちょっと超えるくらいまでは、ここのオフィスで大丈夫と思っていたので、50名で会議できるスペースが必要だなと思いまして、なんとかしなきゃねと話し始めたことがきっかけです。
まずは、人数が入れるように、セミナールームと休憩スペースの間の壁を取り払おうという話になったので、どうせ壁を取り壊すのだったら、少し格好良くしたほうがいいんじゃない、という話になりまして、内装もきれいにしました。休憩スペースとセミナースペースを1つにして、2つの機能を仕切らずに両機能を持たせるということを考えて、両方の機能で広く使えるということもポイントでした。
(同社代表取締役社長 倉田宏昌さん)
Q.バーにされた理由は?
仕事終わりに飲みに行こうとすると、集まりづらいんですよね。オフィスが六本木にある関係で、社員は目黒方面か新宿方面あたりに住んでいて、いくつか分散してしまっていて、オフィスのある六本木で飲むと高いので、新宿の安いところに行こうとすると、目黒方面の人は来れないし、逆もそう。社内バーを作ったことで、社内で全然飲めちゃうし、飲み会がかなりやりやすくなったかなと思いますね。
昨日も、インターンに来てくれていた学生が最終日だったんですけど、その送別会で遅くまで社内バーでワイワイやっていましたね。こうした飲み会が改装前と違ってすごく簡単にやれるし、六本木で飲んだらかなりお金がかかるところが、すごく安くすんで負担がかからないのがいいですよね。
弊社はまだIT企業としては、若い子たちを育てるような仕事が多いんです。知名度的にまだまだなので、すごい経験値のある中途の人がどんどん来てくれるという環境ではまだないので、若い子たちを育てていくんですよ。そうなると、みんな飲みに行くためのお金はそんなに使えない状態なので、お金がないために飲みに行かないとなって、コミュニケーションが減る、ということが起こっていたんです。そこで、社内バーを作ることで、飲み会をぱっとできて、しかも安くということで。ほんと飲む回数が増えた感じですね。
(同)
改装前から、セミナールームをイベントや講義、懇親会スペースとして外部の方に貸し出していたのですが、バースペースに改装することで、それなりにおしゃれに写るので、人が呼べるスペースになって、外部のセミナーもやりやすくなりました。先日も知り合いの方が独立起業されるパーティーをこちらでしまして、掃除だけお願いしますねと貸し出ししたり。
社員のみんなには評判良く使っていただいているかなと思います。仕事もみんなこちらに来て結構してますし、毎日18時になったら、バーにいる、みたいな人もいます。
唯一、総務からは苦情があって、飲んだり食べたりした後の片付けをちゃんとしてください!、と。改装前と比べて、イベントそのものがかなり増えたので、それだけ利用されているということでもあるかと思います。
バーカウンターのお酒は、僕が買って揃えているんですけども、飲む人は持ち込んでくれてたりします。また、外部にパーティースペースとして貸すときは、飲み物は開催される方に自前で持ち込んでいただいているのですが、イベントで余った開けていないビールなどの飲み物がどんどん増えていくという副産物があったりしています(笑)。
床も改装でカーペットからフローリング調のシートにしたので、飲み物をこぼしても拭けばいいし、掃除もしやすくなりました。ロボット掃除機のルンバも入れたので、タイマーセットして、ある程度やってくれます。
(同)
弊社は、朝9時~夕方18時を定時として働いていて、朝9時から全体の朝礼を軽くしまして、その後は各プロジェクト、部署のミーティングがあって、夕方17時55分になると、ロッキーのテーマが社内に流れて「最後の追い込みだ、帰ろう」ということをしています。ロッキーのテーマを社内に流すというアイデアは、この前ネットで流行っていたので、弊社もさっそく真似しました(笑)。
IT業界は残業が多い傾向がありますが、弊社の残業はかなり少ないと思います。それでもまあ、残る社員は20時くらいまで残ったりすることもありますが、それくらいで帰りますから、全然早いほうだと思います。月残業が40時間を超えることはほぼありません。
残業していると、結局疲れていっちゃうんですよね。僕も起業したころはバリバリやるのが正しいと思っていましたから、創業しばらくはそういう環境を作っちゃっていたんですが、これじゃあ僕も含めてみんな疲れてあんまりうまくいかないなと気づいて、会社として残業をしないようにしています。そこは自信を持っている環境ではありますね。
(同)
とにかくうちで言っているのは、「ルールに縛られないでいいよ」ということですね。「行動しなさい」と。
例えば、バーカウンターのコーヒーマシンも、特に誰の何の許可も得ていないけど、誰かが勝手に持ってきてみんなで勝手に作ってという状態だと思います。仕事でも会社の中のことでも「やってみて、ダメだったら、ダメって言うので、なんでもいいからやってみなさい」と。
(同)
会社を活性化させるために社内コミュニケーションがもっと必要なのはわかってるが、大手と違ってそんな場所は作れないという悩みを抱えている企業も多い。会議室でパーティー開いたが若手の集まりが悪いというのも良くある話だ。オフィスの執務スペースや会議室は仕事のイメージが強すぎて、いくらケータリングでおいしい料理を取り寄せても、気分が切り替わらず、くつろげないのだ。
しかし同社のようなバースペースがあれば、宅配でピザを頼み、あとは缶ビールがあるだけでパーティーは盛り上がる。執務スペースはそのままに、部分的な改装でこんなに魅力的なバースペースになっている。それだけでなく、日中も、休憩やリフレッシュ、ワークスペース、オープンミーティングスペースとしても多目的に無駄なく使えるなど、スペース利用効率が非常に高い。
社内にカフェやバーの専用スペースを作るのはぜいたくに思えるが、そこでオープンな会議や執務ができて、全社会議できるホールとしての機能も備えられて、社員満足も高まるとなれば、投資する価値が出てくるのではないだろうか。
2006年7月創業。デジタルマーケティング領域のシステム開発を専門とする。プライベートアドサーバ「ADmiral(アドミラル)」を始めアドテクノロジーのリーディングカンパニー。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2017年9月8日
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