みんなの仕事場 > オフィスの考え方 > 日本の生産性向上の切り札になる?注目AIベンダーが明かす自然言語処理の最先端 ~株式会社エーアイスクエア代表取締役 石田正樹氏インタビュー~

日本の生産性向上の切り札になる?注目AIベンダーが明かす自然言語処理の最先端 ~株式会社エーアイスクエア代表取締役 石田正樹氏インタビュー~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本の生産性向上の切り札になる?注目AIベンダーが明かす自然言語処理の最先端 ~株式会社エーアイスクエア代表取締役 石田正樹氏インタビュー~

株式会社エーアイスクエア 代表取締役 石田 正樹氏



最近、人工知能(AI)を使った「チャットボット」を導入しているカスタマーサポートをよく目にするようになりました。しかし、まだまだ電話による問い合わせは必要です。この電話応対に人工知能を導入することで、生産性を上げる試みが進んでいます。自然言語処理領域のトップランナー企業、株式会社エーアイスクエアの代表取締役・石田正樹氏に聞いてみました。






■自然言語処理とは、古代遺跡から発掘された石板の意味を解読するようなもの


――石田社長は、もともと理工系の方ではないのですね。


私はもともとインテリアデザイナーで、ディズニ―ランドの施設設計や、住宅、商業施設などの建築にかかわってきました。その後は映画の世界へ入り、その後はシステム開発会社の取締役になりました。


――ずいぶん様々な畑を経験されていますね。人工知能(AI)に着目された経緯は。


業種は異なりますが、一貫して新規事業の立ち上げにかかわってきました。キーワードはイノベーションです。10年ほど前、システム開発会社にいた頃、日本では人工知能に無関心な時代で、ディープラーニングなども一般には知られていませんでした。ところが、AIの開発をしている天才系の人が身近にいるのを見ていて、これからは人工知能が必要になると確信しました。今いるスタッフも、その頃からのつながりです。


――徳島県で、議事録などに貴社のAI要約技術を導入しているそうですね。


徳島県では、たとえば知事が会見を開くと、音声認識技術で、知事が話したことがリアルタイムでテキスト化されていく。その脇で秘書官が音声認識の間違いをチェックし、会見終了後に修正します。こうしてできた会見録をAIが読み込み、要約を作成します。どのセンテンスが重要かどうかはAIが自動的に判定します。このシステムを導入した結果、会見録の作成時間は1/5に短縮され、情報発信までの時間も1/2に短縮されました。


参考:「徳島発!「AI要約サービス」newwindow(徳島県庁)[外部リンク]



徳島県の事例では、既存の音声認識ツールと当社の要約エンジンを組み合わせてシステム化しています。このエンジンは世界的にも非常にユニークなものです。一般に日本語は処理が難しいとされていますし、英語の要約エンジンもまともなものはまだありませんが、それを可能にしています。省庁や地方自治体では、たくさんの優秀な人が、文章の作成と要約という作業にものすごく時間をとられています。自動要約機能は、そういった人々の優秀な労力をもっと違うところで使えるようにするものです。


――要約エンジンとは、どのような仕組みなのでしょうか。


古代遺跡から石板が発掘されたところを想像してみてください。その石板には見たこともない古代文字が刻されています。それを解読するにはどうしたらいいでしょうか。今までは、過去の膨大な情報から類似の形を探し、この形は「犬」じゃないかとか、「舟」じゃないかというようなことを経験知によって推論することで、文字の解析をしていたわけです。私たちのAIは、そういった事前学習なして、自然言語処理の理論にもとづき、ある特定の単語の出現率で重要度を測ったり、係り受けをチェックしたりします。要素を全部数字に変え、完全に数学的な処理によって解析を行っています。だから事前の登録がなくても数学的処理だけでできる。


――よく、人工知能は大量のデータを蓄積・解析しなくてはならず、それが導入の壁になっていると言われますが。


登録単語が50万語ある辞書でも、巷で女子高生が話している今時の言葉が登録されていなければ、意味はわかりませんよね。私たちの解析技術は、辞書登録の必要がないため、そういった場合でも意味の解析を行えるのです。


ある著名な日本語処理の学者の方にも「自分が30年以上取り組んで、できなかったことができている」と評価していただきました。もちろん、そのような人々の研究をベースとして、その上で最新の技術によって可能になったことです。


――音声認識の技術は、方言もカバーできるのですか。


私たちは、方言の中でもとくに難解と言われている「津軽弁」を聞き取ってテキスト化することに成功しています。弘前大学病院で、高齢の患者が津軽弁で話すと、県外から来たドクターは理解することができず、病状が伝わらないという問題がありました。一方、東北電力でもコールセンターに来た問い合わせに対して、スムーズに対応できずにいました。そこで弘前大学と東北電力が方言について共同研究を行い、私たちが技術提供しました。聞き取り率は今では90%くらいまできています。お金と時間をかければ、精度はちゃんと上げられるんです。


参考:「難解な津軽弁をAIが認識!? 「自然言語処理」の可能性newwindow(電通テック)[外部リンク]



私たちの技術は言葉をベクトル化した上で計算処理していますので、日本語以外にも対応できます。実際、私は日々、英語の論文を要約で読んでいます。要約すれば今自分が必要としている内容なのか本文を読む前からすぐにわかるので、とても便利です。


今取り組んでいるのはe-book(電子書籍)のマーケットです。コミックが9割で、ビジネス書はぜんぜん流通していないですよね。これはなぜかというと、コミックは最初の一巻がお試し無料となっているものが多いのに、ビジネス書は最初の2、3ページだけしか読めず、あとはブラックボックスだからです。読者が買うべきかどうかを判断できないから、売れないのです。もしちゃんとした要約、面白そうなセンテンスや重要なセンテンスが提供されていたら、ビジネス書籍のコンテンツマーケットはもっと活性化すると思います。


――他には、どのようなビジネスに応用されていますか。


一般企業での導入事例でいうと、問い合わせ業務への対応に用いられています。従来はQAを人間がプログラミングすると中身は300フレーズくらいしかないのですよ。それ以上にするとお金と手間がかかってしまいます。私たちのエンジンは、リストをサーバーに持っていけばいいので、1万件のQAがあっても処理時間は変わりません。それまで、300件のQAを処理するのに3か月もかかっていましたが、当社のサーバーではそれを数十分で処理できます。クライアントが持っているナレッジを全部入れてしまえば、何でも答えられるようになる世界が実現できているのです。


――AIは、なぜそうなるかということを説明できないブラックボックスのため、業務に導入することが難しいと言われることもあります。


そんなこだわりはおかしいと私は思っています。言わばプログラマー的な感覚ではないでしょうか。たとえば人と話している時に、相手がどんな回路を通って話しているのかを気にする人はいません。「その考えは右の小脳中枢を経由していないから、俺は気に入らない」なんて思いませんよね。もちろん、どの回路をたどったかということを厳密に調べることはできますし、なぜ人工知能がそういう結論を出したかということを調べることだって、やろうと思えばできます。でも、膨大なお金と時間がかかりますから、誰もやらないというだけです。



■QAの実験室を社内に備えたAIソリューションベンダー

QAの実験室を社内に備えたAIソリューションベンダー


――貴社は、AI開発会社なのに、社内にコールセンターがあるところがユニークですね。


コールセンター自体は当社のメイン業務ではなく、あくまでもAIの開発業務がメインです。コールセンターベンダーと競合してしまうので、今以上に規模を拡大することは考えていません。クライアントの問い合わせ業務を自動化する際には、ヒアリングしただけではわからない部分があり、実際に自分たちで電話を受けて代行しなければ、うまくいかないことが多々ありますので、そういう既存のクライアントの業務を分析するための機能を果たしているのです。


――一種の実験室ですね。


私自身、コールセンターのコンサルティングをしていた経験があるので知っているのですが、コールセンターというものは、たとえ業務効率が悪くても売上には影響しないような構造になっています。何十年もそれでやってきたのですが、労働人口も減少している今、そのままではダメだからメスを入れたいと思いました。そこで、労働力が減少しても、AIを活用して仕事を効率化すれば生産性が上がると考え、問い合わせ業務を自動化できるRPA(Robotic Process Automation)の仕組みを提案したのです。ところが、「柳の下にはまだドジョウがいっぱいいる」と考えるコールセンターもまだ多いのです。「だったら自分で会社を作ってやろう」と考えて立ち上げたのが今の会社です。


――ルールベースのQAシステムのようなものは、以前からありました。


従来のQAシステムでは、「こう聞かれたらこう答える」というQとAを人間がひとつひとつプログラミングしなければなりませんでした。当社のQAエンジンはそれが完全に不要になり、リストだけ入れてやればアルゴリズムが自動処理してくれます。自然言語処理によって、ぴったり一致するものがなくても、意味を類推して、人間の思考に近い最適な内容を生成します。


――どんな事例がありますか。


あるクライアントでは、お問い合わせ業務をコールセンターで受けていました。そのコールセンターの始業は朝9時からですが、問い合わせはBtoBの運送業の人たちと、一般のお客様がいて、両方をコールセンターで受けていました。運送業の人たちは朝早く、4時や5時から動いていて、コールセンターが開くのを待っているわけです。一方、一般のお客様も9時を待って電話してくるので、9~11時は電話が集中してしまうという問題がありました。


そこで、音声認識技術を使って、コールの内容を全部解析してみたところ、BtoBの電話のほとんどは定型的なパターンとして処理できること、本当に人間が対応しなければならないような一般のお客様からの電話は2割しかないことががわかりました。そこでBtoBの問い合わせに対応したスマートフォンの業務アプリを提供したところ、8割の電話問い合わせがなくなりました。クライアントも、なんとなくそういったことは感じてはいたものの、そこまで業務をちゃんと分析したことはなかったのです。お問い合わせの内容を手作業で集計分析するのは大変ですから。


――RPAは、ここ数年、生産性を上げるものとして注目されていますね。


ホワイトカラー業務を自動化するRPAツールは、アプリケーションの手順を覚えさせるマクロのようなものです。大変役に立ちますが、人間がケアする必要があります。RPAツールにおぼえさせた手順に含まれるアプリケーションがバージョンアップして操作が変わったら、全部作り直しになりますから。私たちのRPAは、そのような場合でも自分で意味を解析し、類推して学習していくAIの一種です。


参考:「生産性を上げるために今やるべきことは? 働き方改革のエキスパートが語るRPAとの共存で叶える本当の働き方改革 ~アビームコンサルティング株式会社 執行役員 安部 慶喜 氏インタビュー~newwindow



■日本の生産性が低いのは、「なぜ」を忘れているから

日本の生産性が低いのは、「なぜ」を忘れているから


――ところで、日本の生産性が低いと言われるのはなぜだと思われますか。


ひとつには、教育の問題があると私は思っています。高度成長期にはたくさんの物を作らなければならず、そのためには、「自分」を持たない人ばかりの軍隊のような組織のほうが都合がよかった。日本の会社全体がそういう仕組みになってしまっているのです。高度成長期には、「なぜ」を考える必要がありませんでした。たとえば「なぜうちの会社では朝礼をやるの?」という疑問に思っても、それに対する明快な答えは誰も持っていません。なぜ朝礼をやらなくてはいけないのか、考えることをしない。みんながやっているからやる。そういう軍隊のような集団になってしまっている。


――今でもそういった企業は少なくありませんね。


これはまったくとんでもないことで、だから日本の生産性は先進諸国の中でも低位にとどまっているのです。たとえ優秀な学生が入社し、最初は「先輩、これはおかしいのでは?」などと言っていたとしても、3年もたつと、それが得にならないことを学び、角がとれて普通の会社人間になってしまいます。そうなると、人になびいて、上にいくことしか考えなくなる。イノベーションなんて絶対に生まれません。


――そういったことが、AIの導入でも障壁になりますか。


障壁になるのは、たいてい、企業の中の内部勢力です。経営陣と直接話している企業ではうまく導入が進みますが、現場に話を持っていくと全部潰れてしまいます。これは仕事の仕組みができあがっているからで、自動化してしまうと自分の居場所がなくなってしまうという心理が働くからです。現場では現場の内部改善活動を行っていて、「自分たちの仕事はそんなものにとって代わられるような仕事ではない」と思っているわけです。しかし、業務フローというものは、自分たちではなかなか変えられないものです。そのやり方しか知らず、新たな発想がないのですから。私たちがお役に立てる意味はそこにあります。


――AIの導入にはコンサルタント的な視点が不可欠なのですね。


「この業務を自動化できるのではないか」などという依頼があっても、実際に話を聞いてみると、その業務は人でないとできないことがわかったり、人でないとできないと思われていたような業務のほうが実は自動化できたりします。私たちは、実際にその業務を知り、分析し、業務フローを変えるお手伝いをしています。


――外からの視点でなければ踏みきれないようなことも提案できる。


簡単な問い合わせの応対といったルーティーンワークは、人がやるよりも機械にやらせた方が絶対にいいのですよ。アメリカでは、20年も前から音声認識を導入しています。当時の音声認識の精度は50%程度。それでも、年間10万件の問い合わせがあれば、5万件処理できる計算になるという発想なのです。日本では99.99%の精度になっても、「まだまだ」となかなか使わないから、アメリカとこんなに差がついて、20年間ずっと生産性が低いままなのです。ここへきて、いよいよやらなくてはいけないと気づいた会社が今後は生き残ると思います。


――現場のビジネスパーソンは、どう考えるべきなのでしょうか。


これからの10年、20年の間に人工知能が導入できない業種ははっきりしています。発想やクリエイティビティを要する仕事、人と人をつなぐような仕事は人間でなくてはできません。AIは独立して勝手に活動するものではなく、あくまでも人間が使うためのツールです。その軸を誤解しなければ、すごく便利に使えます。社会がどんどん変わり、ビジネスモデルもどんどん変わってくる中で、AIという新しいツールを使って何ができるかを考えていかなくては、生き残れません。


――人も企業も変わっていかなくてはいけませんね。


今のAIでできないことは、まだまだたくさんありますが、現実にビジネスで使うことができる環境は実現していますから、これありきでやった人が勝ちますよ。圧倒的に生産性が上がります。



■お気に入りの記事はこれ!


――「アスクル みんなの仕事」でお気に入りの記事を教えてください。


興味深く読んだのは、チャットワーク元CEOの山本敏行氏のインタビューです。「必要ないから、電話は受けない」と山本氏は話していますが、私も本当にそう思います。会社を作ったら電話とFAXを置くのは、一体なぜでしょうか。先ほども言いましたが、朝礼なんてなぜ必要なのか、なぜ誰もやめようと言わないのか。なぜ混んでいる電車で出勤しなければならないのか、会社に遅れたら怒られるから?チャットワークでは「なぜ必要か」「なぜ?」と問い続けて、必要でないし、やっても意味がないことはやめてしまったそうですが、その考え方は私も同じです。山本氏はいろいろな人に会ったとのことですが、その結果、彼自身もきっと大きく成長されたのだろうと感じました。


【参考】

働き方改革に戸惑うビジネスパーソンへ!10年前から働き方改革を先取りしていた経営者からのアドバイス ~ChatWork株式会社 元CEO 山本 敏行氏インタビュー~newwindow


――山本敏行氏と石田さんは、イノベーションの思考が共通しているようですね。


最初に就職した会社の社長がとてもユニークな方なのですが、「"なぜ"を3回繰り返せ。よく考えてから行動を起こせ」とよく言われました。"なぜ"と3回問えば、たいていのものは行き着きます。新規事業でも、誰も反論せず、みんなが「いいね」と合意した事業はたいていうまくいきません。大概はクソミソに反対されて、それに負けず成功させる。ところが、うまくいくと、「最初から自分もそう思っていた」などとしれっと言うのです。そんなものです。



株式会社エーアイスクエア代表取締役 石田正樹氏





労働力不足や生産性向上が課題となり、オフィスや働き方も大きく変わりつつある今、ビジネスパーソンに求められているのは、AIをおそれたり、不安になったりすることではなく、「なぜ」を3度繰り返すことで、自分たちの仕事のしかたを見直すことなのかもしれません。非常に示唆に富むインタビューとなりました。





プロフィール


石田 正樹(いしだ まさき)

株式会社エーアイスクエア 代表取締役。国立大学法人弘前大学 研究・イノベーション推進機構 研究戦略アドバイザー。
1956年北海道生まれ。株式会社ミサワホーム総合研究所にて新規事業の企画立案後、1997年、ムービーテレビジョン株式会社 執行役員。2008年、富士ソフト株式会社 取締役映像事業と新規事業を担当。2010年よりAI事業化を模索し、2015年12月 株式会社エーアイスクエアを設立。2016年から本格活動開始。
日本初のRPA(Robotic Process Automation)センターを秋葉原に開設、少子高齢化を迎える時代に備え「AI+人」のハイブリッド運用と自動化で革新的なコスト削減と業務効率向上を目指す。


株式会社エーアイスクエアnewwindow[外部リンク]









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※印の画像を除く)
取材日:2018年7月4日




  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
こちらからご確認ください。

オフィス家具を探す

家具カテゴリー トップはこちら 家具カテゴリー トップはこちら