今回は、ジンズにやってきました!
株式会社ジンズ(*1) は、皆さんよくご存じのアイウエアブランド「JINS」などを運営する企業です。業界では後発に当たりますが、2019年5月時点では国内直営店は375を数え、海外店舗も170を超えるなど成長を続けています。今回取材のオフィスは、2014年7月に移転した比較的新しいオフィスです。また、2017年12月には本社オフィスの1フロア下に、世界一集中できる場を目指して作られた「Think Lab」を開設するなど、オフィスファシリティ面も進化を続けています。
*1) 株式会社ジンズは2019年7月1日、会社分割による持株会社体制に移行し、株式会社ジンズホールディングスと株式会社ジンズに分かれています。
ジンズのオフィスは第28回(2015年)日経ニューオフィス賞「ニューオフィス推進賞<経済産業大臣賞>」を受賞しており、その執務エリアと、2017年12月オープンした話題の会員制ワーキングスペースThink Labも併せて訪問してきました。斬新なビジネスモデルと商品コンセプトが生まれるイノベーションの現場に、わくわくです!
ジンズ本社オフィスは、JR/東京メトロ飯田橋駅からすぐの複合施設「飯田橋グラン・ブルーム」の30階にあります。オフィス・商業棟と住宅棟のツインタワーになっており、教会棟もある珍しいビルです。
それではジンズのオフィスへ上がっていきましょう!
30階エレベーターホールからエントランスへ入っていきます。
広々としたエントランスホールです。大型モニターを背にした受付があり、ジンズのプロモーション画像が流れています。
ちなみに、大型モニター裏にはジンズの歴代の商品が展示されている「ジンズミュージアム」があるのです(後でご紹介します)。
受付の女性もメガネをかけていますね。
受付を済ませ、しばし待合ベンチで待機。
隣に何やらモニターのついた機械があるのが、ちょっと気になります。
今回ご案内いただく、石井さん (MEME事業部Think Labグループ)です!
編集部 よろしくお願いします!
石井さん よろしくお願いします!
編集部 さっそく質問なのですが、そこにある「BRAIN MIRROR」というのは何でしょう?
石井さん こちらは、鏡の前に立った人の「メガネの似合い度」を、AIが判定をしてくれる装置です。たとえば私がここに立つと......
石井さん 私がかけているメガネがどの程度似合っているかを、男性から見た場合、女性から見た場合で数値化してくれます。
編集部 おお、数値が出てきた......!
編集部 青色の円グラフが78 、赤の円グラフが73となりました。
石井さん 青のグラフが男子受け、赤のグラフが女子受けみたいな感じですね。男女100人が見て、何人が「似合う」と言ってくれるか、という数値が表示されます。私のこのメガネの場合、男性のほうが「似合っている」と思ってくれる人が多いようです。
編集部 おおー。
編集部 男性からと女性からでは、似合うというメガネが違うのですね。
石井さん 男女の嗜好性って、じつは結構違うんです。
編集部 なるほど。とても未来的ですね!
石井さん 当社は年間600万本を超えるメガネを販売するなど、国内トップクラスの販売数があります。これは言い換えると、メガネの選び方についての知見が日本で最大級の蓄積があるということになります。そこで、全国のJINSショップのスタッフの判定をデータとして蓄積し、それをもとにAIで判定する装置を開発したんです。30万件ほどデータが蓄積されています。この装置は、期間限定でエキュート上野内の実験店に設置していたので、ご覧になった方も多いと思います。タブレット版は、全国のJINSの店舗にありますよ。
編集部 いずれは、AIが似合うメガネをレコメンドしてくれるようになりそうですね。
石井さん そうです。服屋さんで店員さんから「似合っていますよ」と言われても、「お世辞かな?」と思ってしまいますが、AIが数値で判断してくれれば、客観的な指標になりますよね。
石井さん こちらがジンズミュージアムと呼んでいるスペースです。
編集部 受付の後ろが展示スペースになっているのですね。
石井さん 当社は今年(2019年)で創業30周年を迎えます。受付では担当者が来るまでお待ちいただくことがありますから、メガネを展示することで、その間に当社の30年の軌跡をたどって楽しんでいただき、当社について知っていただくということが目的です
編集部 正面に見える年表が入ったパネルに「Magnify Life」とありますね。
石井さん 「Magnify Life (マグニファイ ライフ)」というのは、ジンズの企業理念です。私たちはメガネのことをアイウエアと呼んでいますが、アイウエアを通して人々の生活を豊かにしていくということを掲げ、あらゆる事業がそこにつながることを目指しています。単なる「メガネ屋」にとどまらない斬新な商品やサービスは、この企業理念に基づいて生み出されています。
メガネが発明されたのはおよそ700年前と言われていますが、当時の写真と比べても、今のメガネはほとんど進化していません。私たちは、メガネにはもっと進化していく余地があると考え、アイウエアとしての新しい価値を探求してつづけています。
(ジンズの発表してきたメガネが年を追って展示されている)
(手前に見えるメガネが 2015年にリリースされたJINS MEME (ジンズ・ミーム) )
編集部 展示の中でも、JINS MEMEがフィーチャーされていますね。
石井さん JINS MEMEは2015年11月に生まれた、世界初のメガネ型センシングデバイスです。メガネの新しい価値を模索する中で気がついたこととして、メガネというものは、日常生活の中で下着の次に身につけている時間が長い、ということがありました。それはメガネの一番の強みになります。いつも身に着けているそのメガネでデータを取ることができたら、着けている人のことを一番知ることができるデバイスになり得る。そういう方向にメガネを進化させてみようと考えたのが、JINS MEME開発のきっかけでした。
集中力や活力などに基づく「アタマ年齢」や、姿勢や安定性などに基づく「カラダ年齢」を計測できます。自動車運転中の眠気を測ったり、認知症の早期発見などにも役立てるように研究を続けています。
石井さん こちらがお客様をお通しする会議室です。
編集部 すりガラスでぼんやりと中が見えるのがおしゃれですね。
石井さん エントランスはオープンなスペースというコンセプトでデザインしているのですが、普通のガラス張りで丸見えにしてしまうのも問題がありますので、すりガラスで囲うことにしました。
(商談室の中)
(商談室名「HEXAGON (ヘキサゴン)」)
編集部 部屋の名前は、HEXAGON(ヘキサゴン)や、WELLINGTON(ウェリントン)となっています。
石井さん 部屋にはメガネの形から名前がついているんですよ。
編集部 なるほど、それもジンズならではということですね。
(商談室の通りの突き当りにある大きなテーブル)
石井さん 会議室が並ぶ通路を進んでいったところにあるこのスペースも、お客様向けに作ったものです。受付周辺は待っていただくだけですが、このスペースにはテーブルもあり、作業していただくこともできます。壁には、メガネをモチーフにしたアート作品を展示しています。
石井さん それでは、執務エリアのほうをご案内しましょう。
(執務エリアへのエントランス。セキュリティゲートになっている)
(執務エリアに入ったところ)
編集部 ゲートを抜けると、ここにも壁にアートがありますね。
石井さん このアートは、世界地図をベースに、出店した国や地域に時計を表示しているというものです。今は5つの地域にあることになります。
編集部 随所にアートが展示されているのですね。
石井さん アートを見ることで感性を刺激して、仕事や日常生活に活かそうという考えから、社内の随所に散りばめています。
(入口から少し進んだところにあるライブラリ。腰かけられるロングベンチもある)
石井さん こちらはライブラリで、本棚があり、座ることもできるゾーンです。ひとりで来て世間のトレンドを把握したり、何人かで来て、そのまま座ってディスカッションもできます。
編集部 広めに場所が取ってあって、集まれるようになっているのもいいですね。少し床を高くして、天井パネルを外すことでゾーニングされています。
編集部 何人ぐらいの方がいらっしゃるのですか。
石井さん 常時いるのは160名ほどですが、エリアマネージャーなど店舗から来る人たちを合わせると200名ほどです。グループアドレスになっており、金曜日だけ完全にフリーアドレスになります。
編集部 固定電話がありませんね。
石井さん 社長室や採用直通電話などには固定電話がありますが、あとは携帯電話で管理をしていますので、好きな場所で働くことができます。
編集部 島に部署名などが表示されていますが、席替えもあるのですか?
石井さん 組織変更などで席替えすることもあります。結構、定期的に席替えをしていますね。
編集部 左側が社内会議室、右側が執務デスクのあるエリアですが、通路がかなり広いですね。
石井さん 社員が立ち話のコミュニケーションをとりながらすれ違えるような環境を意識しています。これはこのオフィスの最大のポイントなのですが、全体として、社員のコミュニケーションを重視しています。
編集部 会議室から出てきたリするところで立ち話できるわけですね。床も素材を変えてゾーニングがされています。
(透明パネルでオープンな会議室、広い通路、執務デスク、の関係が良く分かる)
編集部 会議室の壁も透明ですね。ブラインドもない?
石井さん ブラインドは一部の部屋にしかありません。すべてがオープンで、誰が中にいるのかわかるようになっています。ホワイトボードに書かれた文字まで見えるので、何の話をしているかも大体わかるというほどオープンです。
(ひな壇型の座席。こちらは裏側。右手は立ってミーテイングできるハイテーブル)
(ホール。左に演台。ひな壇型にシートが配置されている。)
石井さん このエリアは「ホール」で、見た目から、社内では「猿山」と呼んでいたりします。会議室に収まりきれない大人数の会議や、プロジェクターを使ったプレゼンテーションなどもできます。
編集部 天井がスケルトンになっていますね。
石井さん 先ほどのライブラリもそうでしたが、コミュニケーションを促したり、リラックスできるエリアでは天井をスケルトンにしています。「猿山」は、ちょっと小高くなっているということもありますが。
石井さん ホールに隣接してミーティングができる立ちスペースを2つ用意しています。ちょっと立ち止まって話したり、ホワイトボードを使って議論することもできます。
編集部 執務エリアとは段差で区分けしていますね。
石井さん 小上がりにして、床の素材も変えています。通路はつるつるした素材、執務スペースはカーペット地、コミュニケーションの場は木の床です。
編集部 奥にはソファ席があります。ここはどのように使いますか?
石井さん ちょっとした会議などができる場所です。通常の会議スペースは予約制ですが、ここは予約不要です。
(ホール側から執務エリアを撮影)
編集部 全体はオープンな印象ですが、グリーンでゆるやかにエリアを仕切っている感じがしますね。
石井さん 以前は執務エリア全体が一望できる状態だったのですが、通路を人が通るたびに気が散ってしまい、集中できないという声があったのでグリーンを置くようになりました。
(コクヨの「シロッコ (Scirocco)」が採用されている)
石井さん ここはラボルームです。JINSの店舗と同じ設備を備えていますので、新しいレンズやフレームなどの実験もできるようになっています。
編集部 明るい、パブリックな雰囲気のスペースですね。
石井さん コミュニケーションの場所なので、ここも天井はスケルトンです。カフェスペースは、もちろん食事にも使いますが、仕事にも使っています。オープンな場所では話しかけられてしまうこともあるので、集中したい人はここで仕事していました。今ではThink Labがありますので、そういうときにはThink Labに流れていきます。
(カフェは細長く、中央にロングのハイテーブル、窓際がカウンター席になっている)
(天然木のロングテーブルが印象的)
(カウンター席。30階からの景色が楽しめる)
(カフェ奥にある大型業務用冷蔵庫とシンク、コーヒーマシンなど)
編集部 大きな業務用冷蔵庫があったり、コーヒーマシンもそろっていたり、マイカップを置く場所もあったりして、キッチンが特徴的です。
石井さん 先ほど話したように、社員のコミュニケーションを促すという課題があったため、ここではほぼ毎月、懇親会を開いています。その際に使うドリンクなども置いています。また、執務フロアが30階で地上までが遠いため、いちいち下まで降りなくても用が足りるように、ある程度充実させています。
編集部 これで執務フロアを大体ひと回りさせていただきました。全体に若い方が多いという印象を受けましたが、ジンズの社内文化はどのようなものでしょうか。
石井さん 新しいものに抵抗感がなく、コラボレーションしやすいという感じですね。アニメキャラとコラボレーションしたり、電車の素材で作ったメガネを作ったりして、既存のメガネにとらわれない新しいアイデアも抵抗感なく取り入れる社風があると思います。代表の田中自身にそういうところがあるからでしょうね。
編集部 移転にあたって、どんな課題があったのでしょう。
石井さん 移転する前のオフィスはかなり手狭だったのですが、社員が増えたために、社員の意識がバラバラになってしまうという弊害が発生していました。
編集部 というのは?
石井さん 当時の企業理念は「あたらしい、あたりまえを」というものだったのですが、言葉の意味がちょっと広すぎてしまい、あれもできる、これもできるというふうに社内の意識がバラバラになってしまっていたんです。異なるチームで知らずに同じことをやっていたりというようなこともありました。
編集部 皆さん、独創性が豊かなだけに、まとまりがなくなってしまったと。
石井さん 「Magnifying Life」という企業理念はその翌年に発表したものですが、移転のタイミングはちょうどそのリブランディングの真っ最中でした。そこで新オフィスのコンセプトを「Magnifying OPEN SPACE」として、同じ企業理念に向けっていけるよう、とくに大事な「コミュニケーション」「コラボレーション」を重視することにしました。
「Magnify Life」を実現するための3つの行動指針も策定し、オフィスづくりにも反映させてしていきました。自分たちのブランドを体現するために、オフィスはどうあるべきかということを考えたわけです。
1 PROGRESSIVE 革新的な思考を持って変化を恐れず挑戦することにより、顧客にとって世の中にとってイノベーティブなことを実践しよう。
そして、現状にとどまることを恐れ、道なき道を切り拓く。それは、あえて困難な道を選ぶことに似ているかも知れない。ということから一切の壁をなくすことにもつながっています。
2 INSPIRING われわれがつくりだすイノベーティブな製品やサービスが、人々に良い刺激と高揚感を与えられるような活動を行なおう。人々に喜びを。
笑顔や明るい態度は、顧客を仲間を取引先を、あらゆるステークホルダーを幸せにする最初の一歩であることを認識しなければならない。建設的な意見がいいチームをつくりだすことを覚えよう。とということから、チームのコラボレーションを重視し、オフィスの随所に話せる場所を作り、インスピレーションを得るためにアート作品を随所に置きました。
3 HONEST われわれがつくりだす製品やサービスに妥協があってはならない。
顧客の信頼、仲間の信頼、取引先の信頼。あらゆるステークホルダーの信頼を醸成し、保つもの、それは誠実さである。
誠実な想いからうまれる製品やサービスに妥協は似合わない。ということから、社員同士の働き方を見える化すること。オープンな空間を目指し、会議室も社長室もガラス張りにして、何をしているかがわかるようにしました。
編集部 「PROGRESSIVE」「INSPIRING」「HONEST」は、執務エリアの壁にも印字されていましたね。
石井さん 行動指針ですから、つねに皆で意識できるようにしてあります。
編集部 社員同士がコミュニケーションをとり、チームでコミュニケーションしながらコラボしていけるオフィス。つまり執務フロア全体をコミュニティとコラボレーションのためのスペースと捉えたのですね。
石井さん その通りです。このオフィスは、そうしたコンセプトで、第28回(2015年)日経ニューオフィス賞「ニューオフィス推進賞<経済産業大臣賞>」も受賞しました。ところが、その結果、自席すらコラボレーションスペースになってしまい、集中して仕事ができないという問題が新たに出てきてしまったのです。それを解決するためのエリアが、これからご案内する29階のThink Labです。
「オフィス内に最高に集中できる環境を設けるジンズのThnik Labのねらいとその仕掛け (オフィス訪問[2])」
2001年に福岡に1号店を開店して眼鏡製造小売へ参入。画期的な低価格メガネやメガネに新たな付加価値をつけて全国的に業績を伸ばし、販売本数で日本一となる。2009年、軽量の「Airframe」シリーズを発売。2011年、ブルーライトを軽減させる「JINS PC」を発売。2013年、保湿効果でドライアイを緩和する「JINS MOISTURE」、花粉を98パーセント防止する「JINS 花粉CUT」を発売。2015年11月、世界初のセンサー搭載アイウエア「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」を発売。ファッション性と機能性が高い商品開発を努めている。2015年4月には新ブランドビジョン「Magnify Life(人々の人生を拡大し豊かにする)」を掲げ、顧客層と商品構成、VMD、接客方針を大幅に見直す方針を打ち出した。2017年4月、現社名に変更し、アイウエア事業へとドメインを集中した。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2019年7月25日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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