(ジンズ Think Labエントランス)
前回の記事「"眼鏡"を革新し続ける株式会社ジンズの東京オフィス (東京 千代田区)へ行ってきました (オフィス訪問[1])」の続きです。
株式会社ジンズの本社オフィスのある「飯田橋グラン・ブルーム」、前回レポートしていただいた執務フロアは30階でしたが、今回はその29階にあるThink Labをレポートしていきます。
Think Labは、本社オフィス移転からおよそ3年半後、2017年12月にオープンした集中スペースです。オープンデスク、ミーティングルーム、カフェスペース、リラクゼーションルーム、電話用ブースによって構成されていますが、そのコンセプトは「世界一集中できる環境」。その言葉通り、「音」や「光」、「香り」など、専門家の監修のもとに集中力を高めるためのあらゆる仕掛けがつめこまれています。
この不思議空間を、前回と同じく石井さん (MEME事業部Think Labグループ) にご案内いただき、体験してみたいと思います。
石井さん こちらから入ります。
編集部 真っ暗で、何かちょっとアトラクション的な雰囲気ですね。どきどきします。
(エレベーターホールからつながる通路から中に入ると、もう1つゲートがある)
石井さん ここは中央に壁が立っていて、その両サイドに隙間があります。鳥居を模しているんです。
編集部 鳥居......?
編集部 研究ですか......徹底していますね。
(セキュリティゲートになっている。入室のカードを持つThink Lab会員とジンズ社員のみ入れる)
石井さん さあ、どうぞ。
(ゲートを抜けたところ。足元のみ照らされた暗く長い道が続く)
編集部 うわ......部屋の入口までかなりの距離があります。玉砂利が敷いてあったりして、夜中の神社といった雰囲気ですね。石畳を歩いていくうちに、心がスーッと落ち着いてくるような気がしてきます。
石井さん 奥までたどり着くと、ドアが自動的に開きます。
編集部 !!......視界が光でパッと広がりました。と同時に、不思議な香りと、鳥のさえずりに包まれて......
石井さん この空間のコンセプトは高野山ですので、麓に生えている高野槙という木の香りをアロマで焚いています。嗅覚は人の思考を切り替え、記憶とも深くつながっているものですから、入口で香りを感じることで、これから集中するというスイッチを入れる役割があるんです。
編集部 感動しました......
石井さん Think Labは、社員が使うために作ったものではありますが、社外の方も利用できる会員制ワーキングスペースでもあります。作る過程で、集中を高めるサービスを提供している企業の方とお話しするうちに、「そんな施設ができたら、うちでも使いたい!」という声が多かったので会員制で解放したんです。
企業の人事総務系の見学者も週50人ほどとかなり多く、皆さん、オフィスの改善について悩まれているようですね。そういったことから、最近では、160席あるこのThink Labを15席、10席ほどにしたミニバージョンを企業内に作るサービスも提供しています。そういう意味では、ここはショールームのような役割もあります。
編集部 奥にはカフェや会議室もあるそうですが、会員はそこも含めて使えるのですか?
石井さん そうです、平日は7~23時、土日祝は9~18時という時間内であれば、Think Labを自由に使っていただけます。カフェの飲食物代は会員費に含まれていますが、会議室だけは別途料金をいただいています。
『集中力~パフォーマンスを300倍にする働き方 』(井上一鷹著 日本能率協会マネジメントセンター)
石井さん Think Labの事業責任者である弊社井上の『集中力~パフォーマンスを300倍にする働き方 』を置いています。ぜひ、集中を高めるためのメソッドをこの空間で実践していただけたらと思います。
(シュロチクのグリーンが印象的な間仕切りとなっている)
石井さん 奥のエリアとは、シュロチクで仕切っています。ここまでの過程で、集中の準備ができたので、ここではそれを維持し、高めてくれる要素が大事になります。そこで五感を刺激する様々な要素を入れています。人が8、9割の情報を得ていると言われている視覚情報もそのひとつです。視界120度の中に10~15%の割合でグリーンが入っているとリラックスできるという研究結果がありますので、最適な配置になるように設計して集中を促しています。
石井さん ここでは3列の席を設けています。それぞれ、座ったときの視線が変わり、それに適した仕事ができるようになっています。
編集部 仕事に合わせて好きな席を選べばいいということですね。
石井さん まず、一番内側の席にはアーユル・チェアが置かれています。これは下向きの視線に適した椅子です。座ると自然に骨盤が立って姿勢が良くなり、視点が高くなりますから、下を向いて作業しやすくなります。人間は下を向くとロジカル志向が強くなりますので、数字チェックやデータの入力のような細かなミスが許されない作業は、この下向きの椅子がお勧めです。
(後ろから撮影)
アーユル・チェア (ayur-chair) 株式会社トレインの提供する「日本人のために作られた姿勢サポートチェアー」
石井さん 真ん中の席は、下向き、上向きのどちらもできるようになっています。深くリクライニングして上向きにすることもできるし、背中の部分をしっかり支える構造なので、下向きにすることもできます。椅子はキールハワー ジュニアですね。
(後ろから)
(椅子の形が独特。背面はシュロチクで仕切られている)
キールハワー ジュニア (Keilhauer Jr Chair) カナダのオフィスチェアメーカー キールハワー (Keilhauer)によるチェア。独自の3次元形状の背面が特徴。肩甲骨に当たる部分をカットし自由な動きをサポート、腰部は幅広のランバーサポートでしっかり支える。
石井さん 窓側の席では机が上向きに傾いています。机と椅子はオカムラ クルーズ&アトラスですね。このため、自然に視線が上がります。お風呂に浸かって顔を上げると良いアイデアが浮かんだりするように、上を向くと新しいアイデアが出やすくなります。新しい企画を考えたりする仕事は、この席がお勧めです。
(後ろから)
オカムラ クルーズ&アトラス (Okamura Cruise & Atlas) オフィス家具メーカー オカムラによる「低座・後傾」を実現するデスクとチェアのセット。天板の高さや角度を調整できるデスク「Cruise」と、低い着座で身体を支えるチェア「Atlas」のコンビネーション。
編集部 どの席も皆、同じ方向を向いていますね。
石井さん 集中というものは、他人の動きや視線によってそがれることが多いんです。そのため、ここでは席は向かい合わないように同方向に配置しています。
石井さん ここも、シュロチクで視線を遮ることで集中を妨げないような作りになっています。
(シュロチクの緑が美しい)
(通路も広め)
編集部 光の当て方にも工夫があるそうですが。
石井さん 外光に合わせて調光・調色のマネジメントをしています。これは体内時計を整えるためで、人の体内時計は食事と光に左右されますから。一般のオフィスでは、残業していると蛍光灯のブルーライトによって、身体がまだ昼だと勘違いしてしまいます。ここでは時間帯に合わせて光もマネジメントしますので、その日の寝つきもよくなり、翌日もまた集中して仕事ができるようになります。
編集部 夕方や夜になるとオレンジ色に変化するのですか?
石井さん 色味としてはかなり変わってきます。ただ急激に変わるわけではなく、自然に違和感なく変わっていきます。
編集部 このエリアでは、基本はしゃべらないというルールですね。電話もNG?
石井さん そうです。電話はこのフロアにあるラウンジのフォーンブースでお願いしています。ミーティングなどは会議室を用意していますのでそちらを使っていただきます。
(ガラス張りだが、防音性が確保されている)
(壁全面がホワイトボード。コクヨのイングチェア)
石井さん ここが会議室です。予約制(有料)です。
編集部 ゆらゆら揺れるコクヨのイングチェアが採用されていますね。
コクヨ イング (KOKUYO ing chair) コクヨのオフィスチェア。座面下に組み込まれたグライディングメカにより前後左右360度自由に動くことが特徴。
石井さん 会議室って、参加者がおとなしくかしこまって、活発に発言しにくい雰囲気になったりしますよね。それがイングだと、ゆらゆら揺れながら話すことで、言いたいことも言いやすい空気になるのではないかと考えて導入しました。
編集部 家具の選定も、それぞれの特徴をきちんと調べたうえで採用しているのですね。
石井さん Think Labを作るときに担当者があらゆる椅子を座り比べてその中からセレクトしました。
石井さん この短い通路を抜けると、ラウンジになっています。あのドアの向こうは普通にしゃべれます。
編集部 オシャレなカフェですね!
石井さん 今日は利用者がいたので案内できませんでしたが、Think Labの入り口のところには、靴を脱いで寝ころんだりできる畳のスペースもあります。そういう深く休める場所と、日常生活的にリラックスできるこちらのラウンジという2つのリラックスエリアを濃淡つけて用意しています。
編集部 左側の壁には、集中に関していろいろ書かれています。
石井さん この壁に書かれているのは、先ほどの『集中力~パフォーマンスを300倍にする働き方 』に載っていた集中力を高めるメソッドです。参考にしていただければ。
石井さん こちらはバーになっていて、コーヒーや紅茶などをセルフで提供しています。ブドウ糖入りラムネやSOYJOYも置いており、小腹を満たすというよりは、糖質を摂らずにタンパク質を摂っていただこうという考え方です。
(棚にはソイジョイなどが入ったボトルが並ぶ)
編集部 ラウンジも、集中とリラックスに役立つものが充実していますね!
石井さん リラックス効果を高めるためにノンアルコールの飲み物なども置いています。
石井さん これはシーブリーズの香りつきボディシートです。シーブリーズでの研究によれば、この商品は集中に必要な緊張とリラックスを担保してくれるそうです。首筋にスッと塗るだけで爽やかな気分になり、香りの効果でリラックスして集中に入れる。測ってみたら120%ほど集中が上がるという研究結果があり、導入してみました。すでに緊張が高まっている場合はそのまま塗ればよく、そうでない場合は、その場でジャンプして交感神経を優位にしてから塗ると、集中できるそうです。先ほどの参道と同じで、緊張からのリラックスという落差が大事なようです。
編集部 なるほど。
石井さん このカウンターでは、リラックスしすぎているようなら、コーヒーでカフェインを摂って集中モードに切り替えたり、緊張が高まりすぎていたら、リラックス成分のテアニン入り紅茶を飲んだり、という具合に、状態に合わせて最適なリフレッシュメントを選べるようになっています。
会員の皆さんには、当社で開発した、集中状態を計測するJINS MEMEを無料で貸し出しています。それを着ければ、実際に自分が緊張している状態なのか、リラックスしている状態なのか、どういう集中の傾向があるか、といったことをリアルタイムに測れます。
(参考 JINS MEME ES 同社サイトより) (※)
石井さん こちらがフォーンブース。電話やWebミーティングなどはこちらで行っていただきます。
(ハイカウンターテーブル。仕事や休憩している人も。)
(ラウンジ奥にはソファのエリアも広く取られている)
編集部 集中した後は、こちらに来てリフレッシュできますね。
編集部 こちらが出口ですね。行きとは違う道ですが、ここも参道になっていますね。クールダウンということですか?
石井さん そういう意味もありますが、入口と同じ設計にすることによって、特別な場所だったということを脳に刷り込もうとしています。暗く長い参道を通ってThink Labに入り、また出るときも参道を通って出るわけです。
編集部 大変貴重な体験をできました。
さて、前回伺ったお話では、30階に移転した本社オフィスフロアは、コミュニケーションを重視したけれども、今度は集中して仕事する場所がほしいという課題が上がってきたとのことでした。
石井さん 新しいオフィスは、日経ニューオフィス大賞の経済産業大臣賞もいただいた自慢のオフィスなのですが、じつは集中はできていなかったということがわかったのです。当社で開発した「JINS MEME」で社員の集中度合いを測ってみたところ、集中できていないということがわかりました。その原因を考えていくと、コミュニケーションを促すあまり、集中が顧みられていなかったのです。
イノベーションを誘発するためにはコミュニケーションと集中の両方が必要だという研究結果がありますし、最近では「両利きの経営」などとも言われています。しかし、この二つはきちんと分けなければいけないものでした。コミュニケーションと同じくらい大事な要素である集中に気が回っていなかったということが、私たちのアイウエアで明らかになったわけです。これがThink Labを作ることになったきっかけです。
編集部 ジンズという会社ならではの発見であり、Think LabとはJINS MEMEの知見があってこその施設ですね。
石井さん Think Labのような施設は、集中の度合いを測ることができるデバイスを開発した当社でしか実現できないものですから、当社がやるべきことだと思います。何を食べると集中が変化するか、どんな環境だと集中が変化するか、そういったこともJINS MEMEで測れます。仕事中に自分自身が集中しているかどうかアプリで記録して判定できるので、本社の社員全員に配布しています。
編集部 つねに集中とリラックスを測れる環境にあると。
石井さん そうですね。ただ、何回か測れば、今こういう結果が出てるという感覚が身につきますから、つねに測ったりはしません。久しぶりに測ってみて、感覚を更新したりはしていますが。
編集部 集中とリラックスの度合いをデータ的に把握する意識がいつもある、ということは言えそうですね。
石井さん そうですね、気にし始めるという感じですね。大事な会議の前、お昼に丼物はやめておこうとか、そういうところから始まって、変わってきている感じです。
編集部 そういった環境のある会社は他にはないと思います。ダイエットにおける体重計が常にあるというのと同じで、集中の体重計が常にあるようなものですね。
編集部 オフィスとしての使い方では、社員の皆さんのThink Labの使い方としては、働き方を選ぶときに、この29階を選ぶという感じになるのですか。
石井さん そうです。この30階と29階とかを行ったり来たりすることになります。社内のスケジュール表に「今からThink Labに行く」と書くルールで運用しています。
編集部 Think Labには、常時何名ほどの社員がいるのでしょう。
石井さん 160席中40席は、ヘビーユーザー的な社員が使っています。面白いのは、「Think Labができてから仕事の組み立て方が変わった」という声が.あることです。「Think Labで集中する時間」というものを仕事に組み込むようになった。たとえば会議のために人と場所を押さえたりするのと同じように、イノベーションのために集中できる時間を自分の中に予約しておくという働き方が生まれているんです。集中できる時間と場所を予約し、そこに向かって仕事を組み立てていく。そんな人が増えています。
編集部 最後に、今後の課題についてひとこと。
石井さん 社会インフラとして、ひとりで働いたり集中したりする環境というものは不足していると思いますので、これを充実させていきたいという思いが強いです。なんとなくカフェに行って仕事をしたりはしますが、それが最適というわけではないですよね。カフェの椅子で2時間作業して腰が痛くなった経験がある人は多いはずです。Think Labとして、ひとりにもなれて仕事にも適している環境を増やしていくことに寄与していきたいと思っています。
これまで、「みんなの仕事場」では、多くのオフィスにあったカフェタイプ 、図書館タイプ、個室タイプ、自席集中席タイプなど様々な集中席を紹介してきましたが、今回訪問したThink Labは、それらを超え、様々な研究成果も踏まえた奥の深い「集中」に正面から切り込んだ興味深い施設でした。また、コミュニケーションと集中はどちらも必要であり、きちんと分けなければ効果を発揮しないという指摘も、言われてみれば当たり前のようですが、非常に参考になるものではないでしょうか。コミュニケーションと集中、そしてリラックスを絶えず選び、空間を行き来する中で、新しい働き方が生まれつつあるように思います。
2001年に福岡に1号店を開店して眼鏡製造小売へ参入。画期的な低価格メガネやメガネに新たな付加価値をつけて全国的に業績を伸ばし、販売本数で日本一となる。2009年、軽量の「Airframe」シリーズを発売。2011年、ブルーライトを軽減させる「JINS PC」を発売。2013年、保湿効果でドライアイを緩和する「JINS MOISTURE」、花粉を98パーセント防止する「JINS 花粉CUT」を発売。2015年11月、世界初のセンサー搭載アイウエア「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」を発売。ファッション性と機能性が高い商品開発を努めている。2015年4月には新ブランドビジョン「Magnify Life(人々の人生を拡大し豊かにする)」を掲げ、顧客層と商品構成、VMD、接客方針を大幅に見直す方針を打ち出した。2017年4月、現社名に変更し、アイウエア事業へとドメインを集中した。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※の画像を除く)
取材日:2019年7月25日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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