プラス株式会社ファニチャーカンパニー(以下、プラス)の東京オフィスは、JR市ヶ谷駅から徒歩3分のところにある。
こちらのオフィスでは、プラスが提案する新しいワークスタイルを自ら実践しており、ウェブサイトから申し込むと見学できる。人が働く姿を見学できる、オフィスワークの行動展示と言うべきもので、プラスでは「ライブショーケース」と呼んでいる。
その東京オフィスが、新コンセプト「IGOCOCHI making (イゴコチ・メイキング)」としてリニューアルされた。
「IGOCOCHI making (イゴコチ・メイキング)」とは、聞きなれないフレーズだ。いったいどういうものなのか。
まずはプレスリリースから引用してみよう。
1人で集中する時、アイデアを思い巡らす時、ちょっと誰かに相談する時、相手とじっくり話をしたい時。みんなでアイデアを膨らませる時、みんなでコミュニケーションを深める時。それぞれの働くシーンにふさわしい「居心地」がきっとあるはずです。
(中略)
仕事の内容や気分に合わせて働く場所を自在に使い分けるという新しいオフィスの提案。オフィスの「居心地」が進化すれば、これからの働き方はもっと素敵になるはずです。
(2016年10月24日 プラス株式会社 プレスリリースより)
どうやらオフィスの「居心地」が進化したものらしい。
仕事内容や気分に合わせて働く場所を使い分けられるというのは魅力的だ。
「IGOCOCHI making (イゴコチ・メイキング)」されたオフィスレイアウトはどうなるのか。
これは見てくるしかあるまい。というわけで、取材に行ってきた。
プラスのリニューアルプロジェクトチームメンバーである、田中さん(マーケティング統括部)、野中さん(デザイン部)、森田さん(デザイン部)の3人からお話を伺った。
こちらは新コンセプト「IGOCOCHI making (イゴコチ・メイキング)」のポスター。
オフィスの中を、「Walk Talk Work (動きながら、話しながら、仕事をしよう)」ということで、オフィスの中につくられた5つのゾーンを仕事の内容や気分に合わせて働く場所を自在に使い分けていくことになるようだ。
プラスファニチャーカンパニー東京オフィスのリニューアル前は、自然なコミュニケーションが生まれるようにと、座席を固定しないフリーアドレスを3年前から導入していた。
ところが、次第に皆の座る席が固定化してきてしまったとのこと。
その理由はさまざまで、チームメンバーがどこにいるか分かりづらいということでチームで固まるようになったケースや、自分にとって居心地の良い場所、お気に入りの席が固定席化してしまったりなど。
確かに、良く行くカフェでも、居心地の良さから自分の中で何となく座りたい席というのができたりする。そういった人間心理があるのだろう。
もとよりプラスでは「人が活きるオフィス」ということを掲げて、働く人がイキイキと働けるオフィスにするように工夫してきた。
そこで、今回のリニューアルではプロジェクトチームを組み、フリーアドレスの現状を踏まえた上で、どういった形が「人が活きるオフィス」になるのか、調査を進めた。
社員がどういった業務に時間を費やしているかのアクティビティ調査や、ワーカーからアンケートを取り意見調査をするなど、働く人の外面にあたる活動データと、内面にあたる気持ちの両面から働き方を深堀していった。
その結果、社員の『居心地』をカギに、フリーアドレスではなく、社員が好きなスタイルで仕事ができて、自然に社員間のコミュニケーションが生まれるようなゾーニングをする「IGOCOCHI making (イゴコチ・メイキング)」コンセプトにたどり着いたという。
写真は執務スペース。社員は連結型のデスクに座るが、今回のリニューアルにより部門ごとのグループアドレス制を採用した。
社員はこちらの執務スペースに部門ごと、チームごとに固まって個人席を持つ。朝、いちいち席を探すなどのわずらわしさから開放され、「自分の居場所」が確保された状態になるので、オフィスでの居心地は良くなる。ここでは通常の業務を行うことができる。
前述の社員の働き方を調べたアクティビティ調査の結果から、社員の行う業務は次の2つに分かれ、知識創造系業務のほうが定型的な情報処理業務より多いことが判明したそうだ。
社員の業務、大きく分けて2種類
情報処理業務 | 定型的 | 事務作業、報告・連絡 など |
知識創造系業務 | 非定型的 | 企画立案、調整、アイデア出し など |
前者の情報処理業務は各個人の自席で行ったほうが向いている。
また、チームごとに固まった席なら、上司への報告やチームメンバーとのコミュニケーションも自席周りで行うことができるので効率が良い。
しかし、後者の知識創造系業務は、自席が最適な場所ではないのではないか?というのが次のポイントだ。
知識創造系の業務を例として挙げてみる。
こうした業務は、自席以外のもっとピッタリする場所があるはずだ。
そこで、情報処理業務や報告・連絡のようなチームコミュニケーションのための「居心地」の良い自席を確保しつつも、知識創造系の業務それぞれで働くシーンにふさわしい「居心地」の場所をオフィス内にゾーンニングして用意するところがポイントだ。
社員は情報処理業務などを自席で行いつつ、一人で集中して企画書を作りたいと思ったら、集中できる場所へ移動して仕事をする。企画案を誰かにちょっと話して相談したいなと思ったら、ラウンジに行ってそこにいる仲間に話す。こうしたワークスタイルを可能にしている。
社員はオフィスの中に用意された様々な仕事のスタイルにあった場所へ歩いて行って、時には仲間と話しながら、仕事をするというわけだ。
このワークスタイルは、最近のアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)の考え方も踏まえたスタイルだと思う。ユニークな点は、仕事をする場所を選ぶ基準として、働く人自身が感じる「居心地」をキーワードにしている点だ。
フリーアドレスオフィスを既に実践し、人は居心地のよくないところには居つかないという経験知があるからこそ生み出されたものだろう。取材の際に、オフィス作りの際、「ワーカーズファースト」「人を真ん中にしたオフィス」と伺っていたが、こういったところに反映されているのだと思う。
では、社内に用意された様々な仕事にふさわしい「居心地」の場所を順に見て行こう。
ホテルのラウンジのような空間がラウンジワークエリア。
ローテーブル、ソファ、ボックス型シートなどリラックスして数人で雑談できるように作られているため、「ゆるゆるラウンジ」と名付けられている。
質の良い木製ソファ、ローテーブルなど、まるでホテルのラウンジにいるかのような感覚になる空間で、ソファにゆったり腰かけることでリラックスさせ、気持ちのモードを切り変えることを意図したエリアだ。
空間の人間心理に及ぼす影響は想像以上に大きいものがある。例えば、自席で何時間も取り組んで思いつかなかったアイデアが、カフェで雑談していたら思いついたという経験はないだろうか。リラックスできるソファ、質の良い木製家具で作り出される空間は気持ちの切り替えに役立つ。
この場所では会議のようなかしこまった形ではなく、気軽に相談に乗ってもらったり、ここで偶然に出会って話し込んだりという偶発的なコミュニケーションが起きるように作られている。そのため、あまり周りから隔絶しないようソファ間があまり離れず、外から参加しやすくなっている。
この点は、最近よく見かけるオフィス内のファミレス風ソファブースとは設計意図が異なる。
ファミレス風ソファブースは、リラックスしつつも、打ち合わせのメンバーだけで集中して話ができるよう周りから隔絶させるのが通常だからだ。ちなみに、そのためのブースはこちらのオフィス内の別なところにある(後述の「ケイブ」がそれにあたる)。
このラウンジワークのコンセプトは、あくまでオープンイノベーションに向く、自由で偶発的なコミュニケーションで、知識創造を誘発させることにある。
こちらは反対側からラウンジエリアを眺めたところ。ハイテーブルも用意されている。
ラウンジエリアは、撮影中も利用者が入れ替わりで利用されており、このエリアの稼働率は高いそうだ。時間にして15~30分ほどの利用が多いとのこと。
こちらもラウンジエリアになり、「ガヤガヤ ラウンジ」と名付けられている。
奥にコーヒーカウンター、手前にハイテーブルがある。右手に先ほどの「ゆるゆる ラウンジ」が見えるように、ここはラウンジエリアの一画として作られている。
こちらも偶発的なコミュニケーションを狙ったエリアだが、コーヒーカウンターが近いことで、仕事中に社員の立ち寄る率が高い。また、ハイテーブルを用意することで、ハイテーブル周りで立ち話が促進するように作られている。
会議室に近いので、会議後に話しそびれたことを話し込んだりなど、かなりにぎわうとのこと。人は何もないところに立ち止まるのは苦手なので、ハイテーブルがあることで集まりやすくなっている。
「ゆるゆる ラウンジ」が座ってのコミュニケーションとすれば、こちらは立ったまま人は多めに集まるコミュニケーションなので「ガヤガヤ ラウンジ」というわけだ。
ラウンジエリアに隣接して、ソロワークという1人集中作業用のブースが並んでいる。こちらが「コツコツ ブース」と名付けられたエリアだ。
1人で企画書をまとめたいとか、アイデア練りたいというときに向くように作られている。
この集中ブースのユニークな点は、「ゆるゆる ラウンジ」からすぐのところにあり、ガラスで仕切られているものの、ブースからもラウンジからもお互いがよく見えるように作られている点。予約制ではないこともポイントだ。
よくある集中ブースは、1人で仕事がしやすいように、予約制・完全に仕切られた部屋・オフィスエリアの端に位置することが多いが、こちらの「コツコツ ブース」の設計意図はそれとまったく異なる。
こちらもラウンジエリアと同じく、オープンイノベーションの考え方で作られている。アイデア出しや企画練り込みなど、知識創造系の作業がしたい場合、1人で集中するだけでなく、考えたアイデアなどを誰かに話してみるというのも大事なプロセスだからだ。
ここの使い方を説明するとこんな感じだ。
企画出しをしなければいけないときなど、ふらっとラウンジエリアにやってきて、ラウンジにいる誰かと話すことで内容を整理して刺激を受けたり、その刺激を受けて、ブースに移動して1人で企画書をまとめたりすることができる。また、ブース内で考え付いたアイデアを、ラウンジにいる知り合いを見つけて、ブースから出てきて話を聞いてもらうなどもやりやすいように作られている。
ここも創発を促すためのオープンイノベーションのための場所なのだ。だからこそ、集中ブースとラウンジエリアが隣接していて、相互に見えるようになっているわけだ。
ちなみにラウンジに隣接する集中ブースはもう一つある。
こちらはデスクが広い作りになっているので資料が多い場合に便利だ。
囲われているパーティションの高さが低いことからわかるように、顔をあげればラウンジエリアが見えるように作られている。
2段高まった壇上のエリアは「ふむふむ スペース」。
プロジェクトワークのためのエリアで、かわいいスツール、小さなテーブル、壁全体がホワイトボードになっている。
こちらはラウンジエリアのような偶発的なコミュニケーションをするところではなく、予約制で、プロジェクトメンバーが集まってグループワークをするための場所になっている。
プロジェクトメンバーで時間を決めて集まって、プロジェクトのキックオフや、アイデア出しや整理など、知識整理するような使い方ができるようになっている。機能的には、リラックスして臨める自由な会議室と言えそうだ。
カラフルなスツールと小さなテーブルは、新製品ワークフラン(WORK FRAN)シリーズのピエトラ(Pietra)。こちらもグループワーク向けの家具だ。
こちらは「わくわく カフェ」。いわゆる社内カフェスペースだ。
オフィスの中央付近にあり、皆が集まりやすい位置にある。
こちらでコーヒーを飲んだり、ランチしたりなどはもちろん、社内イベント、ちょっとした打ち合わせなどに使われる。大型スクリーンもあり、セミナーなども開かれる。
日常のコーヒーを飲みに来た際の仲間とのコミュニケーションから、イベントによる社内外のコミュニケーションまで社内のイベントを担うスペースになっている。
プラスの「5 TSUBO CAFE (5坪カフェ)」の3坪タイプが置かれている。コーヒーを入れながらコミュニケーションができる仕組みだ。
以上、プラスの提案する「IGOCOCHI making (イゴコチ・メイキング)」コンセプトのオフィスを見てもらった。
プラス独自の研究や経験から編み出されたワークスタイルと、そのオフィスセッティングに感心させられた。
社員が自由に席を選ぶフリーアドレス制からグループアドレス制へ変更し、自分の席がありつつも、それぞれの仕事に合ったオフィス内の「居心地」の良い場所に移動して仕事をするという進化が大変興味深い。今後もどのようにこちらのオフィスを進化させていくのか、注目していきたい。
こちらのオフィスはウェブから見学を申し込むと見に行くことができるので、ぜひ興味を持った方は見に行ってほしい。
この素敵なオフィスを見学したい!という方は、サイトから予約申し込みすることで見学できます。
※あくまで、プラス株式会社のオフィスで実際に社員の方が働いている環境になりますので、見学は平日のオフィスアワーの時間帯のみになります。また見学に制限がつくことがあります。
※オフィス内は撮影禁止です。本記事は取材のため特別に許可をいただいて撮影しています。
所在地: 東京都千代田区九段北4-1-7 九段センタービル11階 (延床面積347坪)
最寄駅: JR市ヶ谷駅 / 東京メトロ 南北線・有楽町線・都営新宿線 市ヶ谷駅 A1出口 徒歩3分
【注意】PLUS+ショールームとは場所が異なります
お問い合せフォームでお問い合せ項目「東京オフィス見学予約」を選択して、必要事項記入の上申し込みます。
見どころがたくさんあるライブショーケースなので、本記事内で紹介しきれなかったところを一部ご紹介。
個人的にこれ好き。たった1坪のスペースにこちらを置くだけでカフェに変身させてしまうデザイン性の高さが素晴らしい。
5 TSUBO CAFE (プラスファニチャーカンパニーのサイト)
奥に見えるのはバジィスペースの製品。
壁に取り付けるタイプの防音フードで、フードの中で電話をするととても静か。本製品の設計意図としては、うるさい環境でも中に入れば静かに電話できるものらしい。
バジィスペース(BuzziSpace)社のこの手の製品は試すと驚くほど静かなのでスゴイ。本体も40kgとかなり重さがあるので、吸音と遮音もやっている感じ。
バジィフード(BuzziHood) バジィスペース社のサイト
ほかにも、コツコツブースの中にも吸音材として貼られていたり。
これだけでも、かなり吸音するので反響が抑えられるようだ。
ほかにも打ち合わせスペースは社内あちこちに
こちらは予約制。最大4人までの少人数打ち合わせスペース。
壁の中に掘られた洞窟風デザインで、秘密基地感のある場所だ。
背の高いパーティションで区切られた1人用個室ソファ。
新製品ワークフラン(WORK FRAN)シリーズのコーヴォ(COVO)。
「コーヴォ」は、イタリア語で「隠れ家」の意味。その名のとおり、こちらで、小テーブルがあるのでちょっと仕事をしたり考えごとしたり。
こちらは管理部門の執務スペース。
6人で構成される島の中央2席は、新製品の電動昇降テーブル ワークムーブ(Work Move)。チェアは新製品のトライ(Try)。
両端は角が丸い異形天板の机。近づいて話しかけやすいように角を丸くしたとのこと。
ちなみに
新製品のGenela(ジェネラ)。スタイリッシュなすっきりとした脚で、今のトレンドのスタイル。チェアも新製品のFita(フィータ)。
移転物語 story03 プラスファニチャーのリニューアル事例 (プラスファニチャーのサイト)
プラスのオフィス家具はこちら
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2017年1月10日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
こちらからご確認ください。