プラス株式会社ファニチャーカンパニー(以下、プラス)の東京オフィスは、JR市ヶ谷駅から徒歩3分のところにある。こちらでは、プラス社員の方が実際に新しいワークスタイルで働いているところを見学できる「ライブショーケース」になっている。オフィスは、1フロア347坪(1,151平米)の広さで、随所に工夫が凝らされ、とてもおしゃれだ。
実はこちらのオフィスの入居するビルは、1989年築であり25年以上前に建てられたものだ。といっても、共用部分はリノベーションされ最新ビルに準じたきれいなオフィスビルであり、オフィス内も内装を行うことで最新鋭のオフィスとして遜色のない仕上がりになっている。
だが、ビル自体は25年以上前の設計ということもあり、オフィスフロア内の柱と柱の間隔が最新オフィスに比べて近かったり、柱の存在感が強かったりしたとのこと。
こちらのビルへオフィスが移転する際に、プラスのデザイン部門が内装デザインを担当した。プラスのプロフェッショナルたちは、知恵を凝らして、オフィスフロア内に存在感を放つ柱を、さまざまなアイデアで気にならないように仕上げてしまった。おかげで、今のオフィスを見学しても、教えてもらわない限り柱に気づかないほどだ。
もちろん、日本は地震大国ということもあり、地震対策は欠かせないし、大きい柱には建物と中の人を守るという大切な役割があることは十分承知している。現在の新耐震基準で建てられているビルは耐震性の面では安心だが、地震のない地域の海外オフィスと比べると、どうしても柱は太く、数も多くなる。つまり、オフィス内の柱が気になるというのは、日本のオフィスに共通する課題のように思われる。
そこで、プラスファニチャー東京オフィス内の柱を目立たなくさせるプロフェッショナルの編み出したテクニックを解説してみたい。きっと参考になるはずだ。
フロア内の中央付近にある柱をどうするか?
⇒プラスのデザイン部門は、造作の壁に隠してしまった!
赤い点線で囲んだところに柱が隠れている。
フロアの柱のある中央付近に会議室をつくり、会議室の壁の中に柱を埋め込んでしまっている。写真は会議室の外周に作られたオープン打ち合わせ場所のケイブ(Cave)。赤い点線で囲んだところに柱。
つまり、このミーティングスペースは壁を掘って作ったようなデザインだが、掘ったのではなくて、大きな柱を挟むように2個の会議室が作られているのだ。
柱があったところには、ホワイトボードが取り付けられているが、この裏に柱が隠れているとはまったくわからない。
しかも、壁をくりぬいたようなデザインのミーティングルームは、ケイブ(Cave: 洞窟)という名のとおり、洞窟のような空間でワクワクするデザインではないか。マイナスをプラスに逆転させるようなデザインだ。
下の写真は、ソロワーク用1人集中スペースの「コツコツ ブース」
赤い点線で囲んだところに柱。
「コツコツ ブース」も、オフィス中央部の会議室の外周部に作られていて、裏側に会議室がある。では、会議室の中を見てみよう。
こちらが先ほどの壁の裏側にある会議室。
赤い点線で囲んだところに柱が隠れている。
テレビモニターの裏にあることになるが、見ても全然わからない。
写真は窓下にある空調のファンコイルユニットが目立たないように置かれたローキャビネット。USMハーラーの収納キャビネットなのでとてもスタイリッシュだ。
一般的に、最新のオフィスビルほど開放感の高い作りがされていることが多い。
開放感を感じる理由の一つは天井の高さだ。最新オフィスビルの天井高は高く、2,700mmあることも今や珍しくない。そのため、天井高が低い古いオフィスビルのリノベーションでは、照明や空調が取り付けてある二重天井を取り払い、スケルトンにして少しでも天井高を稼ぐ方法を取ったりする。
開放感のもう一つの要素は窓の大きさだ。ビル全体をガラスで覆い、床から天井までのフルハイトサッシを採用することで床から天井までが窓という最新オフィスビルも増えた。開口面積が圧倒的に広く、オフィスフロアの奥まで屋外の明かりが感じ取れることで開放感が高い。
こちらのオフィスでは、天井は加工せず通常のオフィスの天井のままで、窓について工夫を行っている。
窓の上側に梁があり、下側にビル空調のファンコイルユニットが存在している。開口面積がもともと大きくないこともあり、オフィスデザインの方針として、出来る限り窓をふさがないことで開放感を維持するようにしている。
通常のオフィスでは、窓際に会議室を作ることが多い。こうすると、せっかくの景観が会議室の中だけでしか楽しめなくなってしまう。そこで、こちらのオフィスでは会議室をフロアの中央に作り、すべての執務スペースに外光が届くようデザインすることで開放感を保持することに成功させている。
このオフィスの会議室は、フロア中央付近の柱を隠すということを行いつつ、執務スペースに最大限屋外からの光が届かせるために作られており、一石二鳥の設計となっているのだ。
ちなみに、フロアの中央に作られた会議室だが、こちらも開放感が感じられるよう工夫されている。
通路側は床から天井までフルハイトのガラス製パーティション仕切られ、隣接する会議室間は全面乳白色のガラス製パーティションで仕切ることで、人影は見えず光だけが透過するように設計されている。さすが抜かりがない。
オフィス外周に一定間隔で並ぶ柱をどうするか?
⇒プラスのデザイン部門は、隠せない柱を、柱に見えないよう家具にした
オフィスフロア外周の柱は隠そうとすると隣接する窓まで隠れてしまいやすい。そうすると、こちらのオフィスのデザイン方針の「出来る限り窓をふさがない」に反する。
そこで柱に合わせてぴったりの収納を造作家具で作ってしまった。
写真はその木製の造作収納棚。フロアの奥まで、一定間隔で並ぶ柱に収納棚が作られている。床から天井まで柱と一体化しているので、そういう家具が初めから備え付けられているように見える。
つまり、柱は見えるけども、柱に見えない(=家具に見える)のだ。大きくすることで逆に目立たなくするという逆転の発想だ。
この収納は主にコートハンガーが作られている。秋~冬のオフィスではコートの置き場をどうするかという「コートハンガー問題」があるのだが、柱収納によりすっきり解決している。
柱を近くで見ても、このように家具にしか見えない。室内側正面には圧迫感のないよう額縁があしらわれたグリーンをデザインしている。ちなみに、このグリーンは本物の苔で、あまりメンテナンスしなくても大丈夫なもの。
ちなみに、この収納の右側に見える白い印は、300mm刻みでつけられているスケール。高さのスケール感が身につくようつけているとのこと。オフィス家具メーカーらしい仕掛けだ。
柱に作られた造作の家具は、オフィス全体の家具調和している。柱とはとても思えない。
先ほどの窓際に並ぶ柱を、ピッタリの収納家具をつけることで柱に見えないようにするというテクニックを紹介した。この収納により、かなりフロア側にせりだすようになったため、こちらの空間を「マルチピット」として活用している。
柱の間に生まれた多くの小さなスペースをうまく活用していることが分かる。
ちなみに、この柱と柱の間に生まれた「マルチピット」をメインの執務スペースにしていないのには理由がある。
窓から近いゾーンは、明るさも1日の中で大きく変化し、外気温の変化で暑くなったり寒くなったりと温度の変化が激しいエリアになる。このゾーンを建築用語では「ペリメータゾーン」という。空調で安定している室内内側の「インテリアゾーン」と異なり、長時間執務するにはあまり快適ではないため、このような一時使用のための場所として使われている。
ちなみに、最新のガラスウォールオフィスビルの場合、オフィスの端まで普通に執務スペースとして使っていることが多いので不思議に思われるかもしれない。最新のオフィスビルでは、「Low-E複層ガラス」などの高遮熱断熱ガラスを外装に使い、窓にも特殊な空調が配されていて、窓近くでも外気温や日射の影響を受けにくく、温度変化の少ない快適なオフィス環境が作られているためだ。
こちらのオフィスではそうしたことも踏まえて、社員が快適に働けるよう執務スペースは空調の安定するインテリアゾーンに置き、一時的に使用する打ち合わせや集中スペースを「マルチピット」として作られた窓近くの空間を活用する工夫を行っているのだ。こうした工夫は働くときの快適さ直結する。
以上、見てきたように、設計が多少古いオフィスビルでも、このように考え尽くされた内装デザインを行うことで広く明るく使うことができるというのを実感した。デザインの力というのはまったくすごい。もし機会があれば、ぜひ上に挙げたテクニックを実際に目で確認してほしい。
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編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2017年1月10日
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