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世界有数のヘルスケア企業ロシュの診断薬事業部門 日本法人 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の本社オフィス訪問【ロシュ・エクスペリエンス・センター編】(オフィス訪問[1])

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 今回は、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の本社オフィス(東京 品川)を訪問した。全4回でお送りする予定で、第1回は「ロシュ・エクスペリエンス・センター編」。



今回は、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の本社オフィス(東京 品川)を訪問した。全4回でお送りする予定で、第1回は「ロシュ・エクスペリエンス・センター編」。



ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社は、スイスに本社を置く世界有数のヘルスケア企業ロシュグループ (F.ホフマン・ラ・ロシュ) の診断薬事業部門の日本法人にあたる。


同社の診断薬事業は、生化学検査や遺伝子検査ができる検査装置や試薬を取り扱っている。そうした製品は一般の目に触れることはあまりないが、検査装置は総合病院などの検査室に設置されており、例えば私たちが病院を受診して、採血や採尿をされるとその検体(血液や尿)の検査に用いられている。検査によって病気を早期に発見したり、どんな病気か調べることができるなど、高度な現代医療を裏から支えている企業なのだ。



今回取材したオフィスは、1998年に同社設立以降入居していた12階建1棟のオフィスビルから、2017年3月に「品川シーズンテラス」の15階と16階に移転したオフィスになる。1フロア約1,500坪(5,000平方メートル)の広さがあり、15階は主に顧客向け施設として、コールセンター、ラボ、お客様向けのトレーニングルーム、来客用会議室が設けられ、16階すべてを執務エリアとしている。従業員数は、約730名(2018年3月時点)、東京本社には約400名が在席しており、直近の売上高は504億円(2017年度)という企業だ。


同社では2017年の移転にあたり、ABW(*1)の導入に踏み切った。それに伴い、大幅なペーパーレス化を図り、社員が仕事に合わせて自由に選べる様々なワークデスクやコラボレーションスペースを用意した新しいオフィスに生まれ変わらせている。


また、15階の1フロアをほぼすべて顧客向けの設備として、ショールームや顧客向けトレーニングルーム、ラボラトリースペースとするなど、大幅に充実させ、機器の見学やトレーニングに訪れた顧客に同社の総合的なサービスや検査の価値を実感できる場を提供できるように変えている。



*1)ABW (Activity Based Working: アクティビティ・ベースド・ワーキング)

デスクワークだが常に固定した席で行うのではなく、仕事内容に合わせて、オフィス内で働く場所や机などを選ぶ働き方。例えば、集中作業を個室で行い、気分を変えてラウンジで仕事をするなどフレキシブルに場所を選んで働くことを指す。フリーアドレス制と併用されることが多く、多様な働き方ができるようオフィス内に様々なタイプのデスクや集中席、コミュニケーションラウンジなどを設けることが一般的。



最近、オフィス移転や改装にあたりABWを導入したという話をよく耳にするようになった。明確にABWと言わなくても、ABW的な働き方ができるよう、オフィス内にさまざまな働き方ができる場所を設け、社員に自由に選ばせる企業も増えており、昨今のオフィスづくりの大きなトレンドと思われる。おそらくこれからオフィスづくりに取り組む企業の参考になるのではないか、と取材に向かった。



■最寄駅は「品川」

同社の入居する「品川シーズンテラス」は、JR品川駅港南口から徒歩6分の距離にある、2015年に竣工した地上32階建の最新鋭のオフィス・商業複合施設だ。



■受付のある15階へ

エレベーターで品川シーズンテラスの15階に上がり、同社エントランスへ向かう。

エレベーターで品川シーズンテラスの15階に上がり、同社エントランスへ向かう。


こちらのフロアは主に顧客向けの施設が置かれ、ショールームやトレーニングルーム、コールセンター、ラボラトリースペースがある。



■エントランス

エントランスは、医療系らしく清潔感を重視してホワイトを基調としている。

エントランスは、医療系らしく清潔感を重視してホワイトを基調としている。


ホワイトと言っても光沢感のあるパネルや乳白色半透明のパネルが多く使われ、透明感のあるホワイトで奥行きを感じさせる。また、要所に用いられているナチュラルウッド調のパネルが温かみを与えていて、清潔感と温かみのバランスが心地よい素敵なエントランスだ。



■ロビー

こちらは受付前のロビー。

こちらは受付前のロビー。


奥の壁には同社のムービーが流れているが、実は見学コースの出口になっている。壁のパネルは電動で開く仕掛けで、こちらについては後述する。


ちなみに、このフロアは来客用の会議室も充実している。



ショールーム等を紹介する前に、来客用会議室を紹介したい。



■来客用会議室

受付から奥へ進むと、セキュリティドアがあり、会議室エリアに繋がっている。

受付から奥へ進むと、セキュリティドアがあり、会議室エリアに繋がっている。


写真の通路両側に、来客用会議室が並ぶ。



プライバシーを守りつつ開放感もあるよう、会議室の通路側の壁はフルハイトのガラスパネルにして中央付近をすりガラスで目隠しする形を取っている。

プライバシーを守りつつ開放感もあるよう、会議室の通路側の壁はフルハイトのガラスパネルにして中央付近をすりガラスで目隠しする形を取っている。



来客用会議室のいくつかを紹介する。



■会議室「百合 (YURI)」

来客用会議室には各部屋で花の名前がつけられている。

来客用会議室には各部屋で花の名前がつけられている。


こちらは「百合 (YURI)」。12名+陪席、という大きめの会議室。


会議室によって家具も変えてあり、単調にならないよう配慮してある。



会議室入口壁に設置された会議室予約状況を表示しているタブレット。

会議室入口壁に設置された会議室予約状況を表示しているタブレット。


こちらを見ると予約状況が分かる。タブレットから直接予約も可能。



■会議室「桜 (SAKURA)」

こちらは会議室「桜 (SAKURA)」。

こちらは会議室「桜 (SAKURA)」。


経営会議優先の会議室で、奥にはソファ席があるなど、エグゼクティブ仕様になっている。



■会議室「金木犀(キンモクセイ)」

こちらは、会議室が予約で埋まっているときに備えた会議室。

こちらは、会議室が予約で埋まっているときに備えた会議室。


予約システム上には掲載せず、あえて予約ができないようにしているとのこと。


ちなみにテーブルの間に置かれたフエルト風のついたては、イタリアのバジィスペース社 バジィ・フリー (BuzziSpace BuzziFree)。動かせる簡単な間仕切りでありながら、遮音性と吸音性を備えている。




では、会議室をいくつか見学し終わったところで、顧客向けの見学ツアーに進もう。



■見学ツアー

こちらの15階のフロアは、同社の顧客向けの施設が集まっている。


せっかくの機会なので、見学コースを案内いただいた。


実はこの見学ツアーは学ぶところが大きい。後で解説してみたい。



■ロシュ・エクスペリエンス・センター (Roche Experience Center)

同社の受付横からが、見学コースの入口となっている。

同社の受付横からが、見学コースの入口となっている。


見学エリア全体は、「ロシュを体験する」という意味を込めて「ロシュ・エクスペリエンス・センター (Roche Experience Center)」と名付けられている。


写真中央の壁のサイネージは、手前の台側にもある大型タッチパネルモニターと連動して、「アバウト・ロシュ (About Roche)」と名付けられ、インタラクティブなサイネージでロシュの歴史や拠点が学べるように作られている。



そこから奥へ進むと、



■「フューチャー・オブ・ラボラトリー (Future of Laboratory)」

こちらは同社の製品である検査装置を配置した臨床検査室の緻密なジオラマ模型

こちらは同社の製品である検査装置を配置した臨床検査室の緻密なジオラマ模型。


「フューチャー・オブ・ラボラトリー (Future of Laboratory)」と名付けられたこのエリアは、近未来の病院の検査室をジオラマ模型で展示している。10年くらいの未来を想定しているとのこと。奥にはタブレットで各機器について学べるサイネージもある。


近未来の検査室ジオラマで見学したところで、次は、



■「エクスプローラー・ロシュ (Explore Roche)」

「エクスプローラー・ロシュ (Explore Roche)」と名付けられたエリアは、正面に9面マルチスクリーンがあり、プレゼンテーション会場であった。

「エクスプローラー・ロシュ (Explore Roche)」と名付けられたエリアは、正面に9面マルチスクリーンがあり、プレゼンテーション会場であった。


こちらでは、セミナーなど社内外のイベントに使われているとのこと。


このプレゼンテーション会場の左手奥へ進むと、



■「テイラードスペース (Tailored space)」

「テイラードスペース (Tailored space)」と名付けられたエリアになる。

「テイラードスペース (Tailored space)」と名付けられたエリアになる。


顧客となる病院の検査室の方向けに、機器の配置シミュレーションをデジタルとリアルな模型を組み合わせてできる設備になっている。こちらで、実際に検査機器の導入にあたり、利用動線などを検討するとのこと。


さらに、VR機器によるヴァーチャルラボも用意されており、検査室の規模に合わせた導入イメージを体験することもできる。VRプログラムは、ロシュグループのドイツの専門チームによって制作されており、取材者も体験したが、通常は見ることができない検査機器内部まで見ることができるVRに驚かされた。



そして見学ツアーが終わると、



■からくり扉

からくり扉が開いて、受付に戻ってくることができる。

からくり扉が開いて、受付に戻ってくることができる。


見学の方には、同社を知ってもらう「旅」として、途中戻ることなく、ぐるっと一周できるように、このように作られたとのこと。



そして、からくり扉を通り抜けると、


また、元に戻る、という仕掛け。

また、元に戻る、という仕掛け。



さて、今回は、もう1つの顧客向けエリアを見学させてもらったので紹介する。



セキュリティのドアを抜けて、こちらの通路の奥へ進むと同社のコールセンターがあり、24時間365日体制で同社製品のテクニカルサポートを行っている。コールセンター内は撮影NGのため、こちらからのみ撮影。

セキュリティのドアを抜けて、こちらの通路の奥へ進むと同社のコールセンターがあり、24時間365日体制で同社製品のテクニカルサポートを行っている。コールセンター内は撮影NGのため、こちらからのみ撮影。



コールセンター脇の通路をさらに奥へ進むと、ほかにも顧客向け設備が用意されている。



■トレーニングルーム

複数のトレーニングルームがあり、それぞれの部屋に同社の検査機器が設置されている。

複数のトレーニングルームがあり、それぞれの部屋に同社の検査機器が設置されている。


こちらでは、同社の検査機器を導入した顧客向けに、ここで実際の機器を使用して操作やメンテナンス方法のトレーニングを行っているとのこと。



■ラウンジ

こちらは先ほどのトレーニングルームで機器操作トレーニングを受けられる顧客専用のラウンジ。

こちらは先ほどのトレーニングルームで機器操作トレーニングを受けられる顧客専用のラウンジ。



トレーニングは数日にわたることもあり、朝から夕方まで行われるため、こちらで十分リラックスして休憩できるようにとのことで設けられている。窓からは東京タワーやレインボーブリッジが見え、フロアでも一番眺望のよいコーナー。

トレーニングは数日にわたることもあり、朝から夕方まで行われるため、こちらで十分リラックスして休憩できるようにとのことで設けられている。窓からは東京タワーやレインボーブリッジが見え、フロアでも一番眺望のよいコーナー。



さらに奥には、



■ラボラトリー

同社の検査機器の多くが設置され、問い合わせに対応できるラボ設備。

同社の検査機器の多くが設置され、問い合わせに対応できるラボ設備。


約1,300平方メートルの広さを誇る。


ロシュを好きになって帰ってもらおう。ファンになって帰ってもらおう。」(同社)というだけの圧巻の見学コースだ。



■自社のビジネスの由来や文化について体験的に理解してもらうこと

同社の顧客向けエリアは「品川シーズンテラス」の15階をフルに使い、非常に充実した設備となっていて、驚異的だ。もちろん、メーカーのショールームで立地も展示も素晴らしいところは他にもあるが、その多くは一般消費者向けのPR設備であって、法人向けのB2Bカテゴリにおいて、あらゆる方法を使って企業の文化や技術を伝える場所というのはあまりないのではないか。


品川にある最新オフィスビルの1フロアほぼすべてを使って顧客向けのエリアを作るというのは最高に高度な経営判断がなければなしえない規模な投資であり、そこには深い意味があるように思われてならない。


実はオフィスを取材していて最近、ぽつぽつとではあるが、単なるショールームの枠を越えて、自社のビジネスの由来や文化について体験的に理解してもらえるエリアを作る例を見かけるようになった。そしてそうした設備は、現在や未来の顧客に対してのみならず自社の社員に対しても意味があるようなのだ。



■参加・体験型の時代



今の社会は、あらゆる分野において"鑑賞型から"参加・体験型"にかわっています


(チームラボ代表 猪子寿之氏 日経エンタテインメント2018年9月)



「チームラボ プラネッツTOKYO」をオープンするなど、快進撃を続けるデジタルアートのクリエイティブ集団 チームラボ代表 猪子寿之氏が、最近の日経エンタテインメント誌上で語っていた言葉だ。


実際、世の中のトレンドはまさにそうなってきているように思われる。テレビや映画で鑑賞する時代から、体験するイベントへ。それがB2Bカテゴリの事業領域でも、もはや、参加・体験型になっていかないと成り立たない時代になってきているのではないだろうか。同社のエンタテインメント性ある顧客向け設備を見学して、そう思えてならない。


現在や未来の顧客に、いかに自社の事業やサービスを、参加してもらうか、体験してもらうか、そのビジョンを共有してもらうか、というのが事業発展のカギになってきているのではないだろうか。



そう考えて同社の見学コースを振り返ると、単なる博物館的な見学コースとは異なり、非常に練られた構成になっていることが分かる。概要から未来のビジョンといった一般的な話から、最終的には、来訪者それぞれにパーソナライズされたシミュレーションへと段階的に進んでいく。



最初の「アバウト・ロシュ (About Roche)」ではインタラクティブな大画面サイネージを使って、概要となる歴史などを学んでもらい、次の「フューチャー・オブ・ラボラトリー (Future of Laboratory)」では、映像やパネルではなく、同社の検査装置を立体的なジオラマで俯瞰してもらい、同社の考える未来のビジョンを具現化した形で顧客に見せている。さらに進んで、「エクスプローラー・ロシュ (Explore Roche)」ではセミナー形式で顧客の関心のあるトピックについて情報を伝え、顧客の現在抱えている課題に近づいていく。最後の「テイラードスペース (Tailored space)」では、顧客の検査室の図面を投影し、20分の1のサイズの実物に忠実な模型を用いることで、カスタマイズされた立体的な図面を目の前にして、顧客と商談ができるようになっている。また、VRで空間での実際の規模感等を体験してもらうこともできる。自分たちの未来現実を体感できるようになっているのだ。


この見学ツアーでは、客観的な概要から、ビジョン、自分たちの課題、自分たちの未来へと、段階的に、体験自体も進化しながら経験していくことができ、最後は自分事として終わる。また、さらにフロアを進むと、導入後に提供されるコールセンターやトレーニングルーム、大規模なラボなどの万全なサポート体制も、眼前に実感することが出来るようになっている。


つまり、徹底した体験型の施設で、普段は目に見えにくいB2B事業を可視化、さらに深く体験できるように、その体験も段階的に進むよう作られているのだ。それにより、顧客も、社員自身も同社の文化、歴史、未来へのビジョンを深く理解できる。


もはや、会社案内や製品案内のパンフレットやウェブサイトをどう作るか、少し頑張って動画を作るか、といった表面的なPRとは次元の違う体験そのものを作り出していることに驚かされた。おそらくは、チームラボ代表の猪子氏の言う「あらゆる分野において"鑑賞型から"参加・体験型"にかわって」行くということのB2B分野での大きな流れなのだろう。メディアに掲載される広告が嘘くさく見られ、どんどん無視されるようになる現代において、これからますます自社のサービスやビジョンを体験的に伝えるエリアを持つオフィスは増えていくのではないだろうか。



■次は16階の執務フロアへ

本当の体験型展示に驚かされたところで、ABWが導入された最新鋭の執務エリアの見学へと進んでいきたい。



世界有数のヘルスケア企業ロシュの診断薬事業部門 日本法人 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の本社オフィス訪問【執務エリア編】(オフィス訪問[2])










取材先

ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社newwindow


スイスに本社を置く世界有数のヘルスケア企業ロシュグループ (F.ホフマン・ラ・ロシュ) の診断薬事業部門の日本法人。臨床検査室向けの検査装置や診断薬を取り扱う。





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年3月23日

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