前回記事「世界有数のヘルスケア企業ロシュの診断薬事業部門 日本法人 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の本社オフィス訪問【ロシュ・エクスペリエンス・センター編】(オフィス訪問[1])」の続き。
今回は、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社の本社オフィス(東京 品川)訪問の第2回目、ABWを導入した執務フロアを紹介する(全4回構成)。
前回からの繰り返しになって恐縮だが、本記事から読む方向けに簡単に説明すると、同社の本社執務フロアは、JR品川駅から徒歩6分の距離にある「品川シーズンテラス」16階にある。1フロア約1,500坪(5,000平方メートル)の広さがあり、従業員数は、約730名(2018年3月時点)、東京本社には400名が在席している。1998年に同社設立以降、入居していた12階建1棟のオフィスビルから、2017年3月にこちらに移転しABW(*1)の導入に踏み切った。それに伴い、大幅なペーパーレス化を図り、社員が仕事に合わせて自由に選べる様々なワークデスクやコラボレーションスペースを用意した新しいオフィスに生まれ変わらせている。最近、オフィス移転や改装にあたりABWを導入したという話をよく耳にするようになったし、ABWと言わないまでも、ABW的な働き方ができるよう、オフィス内にさまざまな働き方ができるような場所を設け、社員に自由に選ばせる企業も増えており、昨今のオフィスづくりの大きなトレンドともいえる。
*1)ABW (Activity Based Working: アクティビティ・ベースド・ワーキング))
デスクワークだが常に固定した席で行うのではなく、仕事内容に合わせて、オフィス内で働く場所や机などを選ぶ働き方。例えば、集中作業を個室で行い、気分を変えてラウンジで仕事をするなどフレキシブルに場所を選んで働くことを指す。フリーアドレス制と併用されることが多く、多様な働き方ができるようオフィス内に様々なタイプのデスクや集中席、コミュニケーションラウンジなどを設けることが一般的。
それでは本題に入っていこう。
移転前は、12階建ビルを1棟で利用していた同社。フロアが12階に分かれていて社内コミュニケーションに問題があったとのこと。そこで移転により約1,500坪(5,000平方メートル)の広さを持つ1フロアにオフィスを集約した。
移転にあたり、オフィスづくりのコンセプトをまとめていく中で、「部門の壁を取り除いて、コミュニケーションが取りやすいスペースにすること」や、「創造性をはぐくむアイデアを掻き立てるような多様性のある執務スペースにすること」、「迅速に変幻自在にできること」、「仕事を楽しむ空間、チームワークを誘発する空間」、「社員が自分たちの会社を誇れるような。お客様を魅了するようなショールーム」、「ロシュの良さ、製品の良さを見せていくトレーニングルームやラボラトリー」、「環境基準に合致した居心地の良さと日本らしい和のテイスト」(同社)といったコンセプトが盛り込まれて、具体的には、ABWを採用したオフィスへ形作っていったとのことだ。
ABWと言っても、ワークスタイルとしてはまだ新しく、フリーアドレスオフィスとの違いが分かりづらいと思われるため、こちらオフィスでのABWでの働き方を簡単に追ってみたい。
オフィスフロア内には一般的な執務デスク以外にも、ボックス席や、集中できる席などさまざまなタイプの執務場所が作られている。固定席は基本的に存在しない。
社員は出社すると自分の個人ロッカーへ行き、ノートパソコンを含む仕事に必要な道具を持ち出して、オフィス内の好きな場所で働き始める。とはいえ、ABWを導入するにあたって、ペーパーレス化が図られ、必要な資料はサーバやクラウド上にあるため、持ち歩く荷物はノートパソコンを除くとあまり多くはない。
社員はフロア内のどこにいても良い。エクセルでデータ分析したいから2画面モニターのある120度天板デスクで仕事をすることもあれば、誰にも話しかけられず仕事をしたいのでヘキサゴンという名前のクワイエットスペースで仕事をすることもある。また、午後は窓からの景色の良い1人ソファ席でアイデアを練ることもあるし、近くのファミレス席で同僚と軽く打ち合わせをしたりもする。
同社の社員の方にインタビューしたところ、自分の個人ロッカーから比較的近いエリアにいることが多かったり、陽あたりや景色などで気に入ったところが出来て、そこに通う場合があるなど、カフェに入って自分の好きな席に座るような感覚に近いかもしれない。
社員は主にGoogleハングアウト (メッセージングサービス)を利用したり、メールや、ノートパソコンのソフトフォンで連絡を取り合う。フレックスタイム、リモートワーク制度もあるので、自宅で勤務している社員もいれば、早朝から始めて早めに上がる社員もいる。
ABWはフリーアドレス制と併用されることが多いが、従来のフリーアドレス制とは大きく異なる。従来のフリーアドレスはスペース節約目的で導入されることが多く、それゆえ、オフィスに自席がない、というものであった。しかし、ABWでは、自分の今行う仕事に集中できる場所を自由に選んで働くことができる仕組みだ。その理由で、オフィス内に自席がなので、自席に縛られない働き方と言える。また、このような働き方が可能になったのは、高速インターネットによるクラウド化で、オフィスワークの多くの仕事がノートパソコン上で行えるようになった、という技術的な背景も大きい。
同社のオフィスは、1フロア1,500坪(5,000平方メートル)と広いため、執務エリア内は6つの「ネイバーフッド」と呼ばれるゾーンに分けられていて、名前はそれぞれ「ニューステーション」「東京タワー」「レインボーブリッジ」「オーシャン」「エアポート」「富士」とそれぞれのエリアの窓から見える風景に従ってつけられている。社員がお互いを探すときは、「今、東京タワーにいる」「レインボーブリッジで仕事中」といった形で伝え合う。ちなみにネイバーフッドの名前、会議室の名前は移転前に社員による投票ですべて決めたとのこと。
様々な執務スペースや打ち合わせスペースは、各ネイバーフッドに、一般的な執務デスク、広く2面モニターのある120度天板デスク、1人ソファ席、1人個室などの設備がそれぞれ整えられている。社員がどのネイバーフッドにいるかは本人に任されている。もちろんチームによってある曜日は部内の打ち合わせがすぐにできるように特定のネイバーフッドに集まる、ということはあるそうだが、執務場所選びは個人の自由に委ねられている。
さて、では実際のオフィスを見ながら解説していこう。
まずは、「東京タワー」というネイバーフッド(エリア)から。
オフィス内の各ネイバーフッド(エリア)の窓側の柱には各エリアの名称が掲げられている。ちなみに、こちらは窓から東京タワーが見えることから。
オフィスフロアに入る。
人の出入りのある入口付近には、格子状のパーティションで、見えつつ仕切る和テイストの間仕切りが作られている。
移転にあたり70%以上の紙を削減(!)するなど、大幅にペーパーレス化を進めたため、写真にあるような3段ラテラル収納のローキャビネットが中心だ。こちらに各部門の資料が収納されている。資料については基本は電子化されている。
ローキャビネットの天板と側面は木目調パネルがつけられ、ここで立って話ができるスタンディングミーティングスペースとしての機能も兼ねている。
こちらは同社オフィス内のスタンダードな執務席。
デスクはコクヨ「サイビ ティーエックス (KOKUYO SAIBI-TX)」。ホワイト天板に、斜めに立つホワイト脚でスタイリッシュだ。外部モニターは設置されているところが多い。外部モニターを使いたい場合、モニター付の席を選ぶ。
執務チェアは、コクヨのハイクラスチェア「インスパイン (KOKUYO INSPINE)」が共通に採用されている。椅子の選定にあたっては移転前にサンプルを社員で座り比べて投票で1番人気だったモデルに決定している。
こちらは先ほどのデスクより天板が広い120度天板のデスク。コクヨ 「サイビ ティーエックス (KOKUYO SAIBI-TX)」の120度ワークベンチモデル。木目調天板にホワイト脚。この席は基本的に2面モニターが用意されている。エクセルのデータ処理や資料を多く使っての作業に向くようにとのこと。
電動昇降デスクも設置されている。コクヨ「シークエンス (KOKUYO SEQUENCE)」。ホワイト天板、ホワイト脚モデルで、デスクトップパネル付。
窓際で景色が良いため人気があるとのこと。普通に座って使われていることの方が多いそうだが、たまには立って使っているのを見かけるとか。微調整ができるので、体格に合わせてデスク高さを細かく調節することができる。
こちらは1人用の個室になっている。予約不要で利用でき、電話したり、集中して仕事をしたりするのに使われている。各ネイバーフッド間に約3室ずつ配置されている。海外との電話のやり取りが多い同社ではこちらで電話をすることが多いとのこと。
こちらは、先ほどの1人用より少し広い2人用ブース。壁に貼られているのは吸音パネル。この部屋は会議室扱いで、予約が必要。上司との面談や相談に使われることが多いとのこと。こちらは各ネイバーフッド間に2つ程度配置。
フェルトのパーティションで囲まれた席は、1人用の席で、通称マッフル席。オカムラ「マッフル (OKAMURA Muffle)」。1人仕事用の席で、景色の良い窓側を向いている。
中を見ると、
こんな感じで小さなテーブルに、パーティションで囲まれたソファ席になっている。
景色が良い1人席ということもあり朝から埋まるとのことだ。
「ヘキサゴン(HEXAGON)」という部屋はクワイエットスペース。
静かに仕事をするスペースとして、照明も暖色系で暗めの設定、禁止事項は食事、会話、電話。飲み物はOK。6人4島で24席。クワイエットスペースのため撮影NGのため外部から。こちらで仕事をしているときは誰からも話しかけられず集中できる場所として作られている。名前はロシュのロゴのヘキサゴンマークから。
各ネイバーフッドに分散して設けられている個人ロッカー。
プロの写真家に撮影してもらったポートレイト写真が飾られている。
社内用会議室も各ネイバーフッドに複数用意されている。会議室は中が分かるようクリアカラーのガラスパネルになっている。
国内外の拠点との会議でテレビ会議は多く、Googleハングアウトで行うとのこと。在宅勤務でも問題なく参加できるとのことだ。
こちらの会議室はハイテーブルにハイスツール。
こちらは、和の佇まいの会議室「利休 (RIKYU)」。海外からの来客も多く、日本が感じられる和テイストの会議室も用意されている。
中は、靴を脱いで上がり、障子で仕切られた先は、掘りごたつ式会議室に。
各ネイバーフッドの間にあるパントリー。こちらにコピー機や文具、ゴミ箱や飲料ベンダー、水、冷蔵庫などオフィスサプライ系が置かれている。
おおよそ上で紹介したような形でフロア内の各ネイバーフッドにABWとして働く場所が一式揃っている。社員は各ネイバーフッドにある好きなところを仕事場所に選んで働いている。もちろん1日の中で移動しても構わない。
ABWは、自分の仕事に合った場所を社員が自分で選んで働ける、というところにポイントがある。選ぶためには、フロア内に画一的ではない、さまざまな場所が用意されてるというのが重要になる。
以降は、フロア内をスナップしたところを紹介していく。
デスクは、コクヨ「サイビティーエックス (KOKUYO SAIBI-TX)」が共通で採用されているが、並べ方などはネイバーフッドごと様々で、自分がはまれる場所探しができるようになっている
写真左手奥にはハイカウンター席、右手前は、ファミレス型のマッフル席。
予約不要で、気軽な打ち合わせをしたり、食事したりもできる。
窓際には1人マッフル席が並ぶ。ほかに、ファミレス席や電動昇降デスク席など、機能性を持たせた席は窓際への配置が多い。
マッフルを使ったペアシートもあちこちに置かれている。気軽な打ち合わせがしやすい設計だ。
柱の間などすき間にもこうした場所が作られている。
では、最後に紹介する「ロシュテリア (Rocheteria)」へ。
フロア内のかなり大きなスペースをカフェテリアとして確保している。
同社社名から名付けられたカフェテリア「ロシュテリア (Rocheteria)」。
こちらも様々なタイプの席が用意されている。
2面は窓、床はフローリングとなっており明るい雰囲気だ。
窓際にはファミレス席。
詰めれば6人くらいが入れそうだ。
お昼の時間帯はランチ優先。それ以外では、打ち合わせや1人仕事など自由に使われている。
こちらはハイカウンター席。こちらも昼食時など休憩に使われるだけでなく、打ち合わせでも使われる。モニター付。
こちらはロシュテリア(カフェテリア)内のパントリー。
飲料ベンダーやゴミ箱などが配置されている。
中央のハイテーブルではお昼にはお弁当の販売もあるとのこと。
ほかにもソファ席や窓際にはカウンター席などもある。
ロシュテリア(カフェテリア)内にある社内会議室。
こちらのパーティションは取り外しできるように作られており、イベント時はこちらも広げて、ロシュテリア(カフェテリア)を大きなイベントスペースとして使えるようになっている。クリスマスパーティーや、夏には社員の家族や友人を呼んでのファミリーデイなどで使われるとのこと。
以上で執務スペースの各機能をおおよそ紹介した。約1,500坪(5,000平方メートル)の広さがあり、写真で紹介したエリアはほんの一部に過ぎないというのが驚かされる。
オフィス移転で1フロア化し、ABWを導入。1人席からソファ席、120度天板の広いデスク、カフェテリアなど、さまざまな働き方に合わせた場所が用意され、フロア内の好きな場所で仕事ができるというのはとても魅力的だ。これからはますますこうした形のオフィスが増えてくるのではないだろうか。
ABW導入に至る理由、ABWでどう変わったかについては次の記事でまとめているので、ぜひ参考にしてほしい。
「本社移転で「ABW」をオフィスに導入!ロシュ・ダイアグノスティックスの目指すこれからの「働き方」 (オフィス訪問[3])」
スイスに本社を置く世界有数のヘルスケア企業ロシュグループ (F.ホフマン・ラ・ロシュ) の診断薬事業部門の日本法人。臨床検査室向けの検査装置や診断薬を取り扱う。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年3月23日
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