オフィスをフリーアドレスにする、社員の固定席を設けないのは、以前ほど珍しいスタイルではなくなりつつある。とはいえ、まだまだ一般的な企業では、従来ながらの固定席のスタイルということが多い。社員の管理面の問題もあり、なかなか踏み切れないというのが実情ではないだろうか。
そこで、オフィス移転を機にフリーアドレスを導入したWEB制作会社 株式会社シフトブレインに、フリーアドレスにした理由や、実際に導入してどうなったかを尋ねた。
まだ完全なフリーアドレスにはなっていないですね。 いきなり完全に座席をフリーにするのはなかなか難しいもので、僕らもみんな固定席というものに慣れてきているというのがあります。フリーアドレスにしていても、どうしても同じ場所にとどまりがちなところがあるんですね。(株式会社シフトブレイン COO 仲村さん)
フリーアドレスにしたけれど、社員の心理的な理由で、毎回、いつも同じ席に座ってしまって、あまりフリーアドレスにならないという話は導入企業でよく聞く。
それをどのように解決したのか?
「半固定 半フリー」という言い方を僕らはしているんですけど。基本の考えとしては、いちおう、あなたの場所はこの場所だけれど、自由に移動しても構わないというスタイルにしています。(同)
シフトブレインのいう「半固定 半フリー」というのは、社員は全員が執務スペースに自分専用のデスクを持っている。それに加えて、自由席になっているデスクを使ったり、カフェスペースなど社内に設けられたさまざまな場所で仕事をしていい、ということだった。これは、省スペースを目的としてのフリーアドレス導入とは全く違う。むしろ必要なスペースは倍増する。
デジタル制作の分野においてシフトブレインは、THE ONE SHOW、AWWWARDS等、海外のウェブデザインの賞を受賞しているクリエイティブエージェンシーだけあって、社員のアイディアが生まれる環境や、クリエイティビティを大切にしていることがうかがえる。
社員にとっては、止まり木となる居場所がありつつ、社員が自由に移動し、好きな場所で働けるオフィスということだ。
就業時間は、朝10時から夜19時まで。社内のどこで働くかは、完全に自由で、社員に任されている。社員はカフェスペースで仕事をしてもいいし、ブレインストーミングスペースなど、社内のどこででも仕事をしていいとのこと。
ただ、それだけではない、と、シフトブレインの仲村さんは言う。
「NO BORDER」という方針があるからこそ、社員が自由に働くことができる環境にしているのだという。
シフトブレインのこの新しいオフィスでは「NO BORDER」という言葉がキーワードになっている。
「NO BORDER」を言葉通りにとらえれば、「境界がない」ということになる。
まさにその通りの意味で、シフトブレインでは、今後、国内に限らず海外の案件を増やしてグローバルに展開していきたいとのこと。つまり、仕事自体が国境のない「NO BORDER」になっていく。
仕事が「NO BORDER」となったそのとき、社員の働く場所も海外のオフィスかもしれないし、クライアントとのやり取りも時差がある中で、海外の人たちとコミュニケーションしていくことになる。
つまり、シフトブレインの掲げる「NO BORDER」は、そうしたボーダレスな働き方での、新しい仕事の仕方、働き方であり、多様性あるコミュニケーションの仕方を指している。このオフィスでは、社員がそうした新しい仕事の仕方、コミュニケーションの仕方、を実践できる場にしたいとのこと。
それゆえのフリーアドレスであり、社内にカフェスペースやブレインストーミングスペースなど自由なオフィスづくりがされているのだ。
実際にオフィス内部を見ていこう。
南青山にある洋館の3階建てまるごとが、シフトブレインのオフィスになっている。写真は3階まであるうちの2階のワークスペース。デスクは、壁周りに取り付けた造作によるデスクですっきりとした見た目だ。
オフィススペースにはかなり余裕がある。社員は打ち合わせに出かけていたり、社内あちこちで仕事をしているため空席が目立つ。時間帯によって社員がデスクにいる人数は変わるとのこと。
ちなみに、一般的なオフィスに多くある書庫は、ここではほとんど見かけない。ペーパーレス化が進んでいるオフィスなので、経理関係の書庫などを除くと、社内に書類収納棚はほとんどないとのこと。
デスクの側面に、シフトブレインのロゴマークがついている席がある。そこは誰かの専用席ではなく自由席になっているサインなので、移動してきて仕事をすることができる。ロゴマークがついていない席は、誰かの専用席というわけだ。
フリーアドレスというと、固定席エリア、自由席エリアと完全に分けるケースが一般的だと思うが、こちらでは一つの執務スペースに自由席と専用席が隣り合って存在している。これはフレキシブルなコミュニケーションを前提とするならば、とてもいいアイデアだ。まさに「半固定半フリー」なのである。専用席についても、ずっと同じ席というわけではなく、プロジェクトごとに関係するメンバーが集まれるように席替えは比較的多いとのことだ。
写真中央は3階にあるワークスペース。こちらは部屋中央にハイカウンターがあり、スタンディングミーティングスペースとなっている。プロジェクトメンバーが短時間で集まって、進捗会議などできるようになっている。写真左側の壁にはホワイトボードが備え付けられている。
ちなみに、ハイカウンターの下は高さを活かして大きめの資料を収納する書庫が作られている。
こちらは2階のブレインストーミングスペース。以前の入居者が撮影スタジオとして使っていたホリゾントを残しているので独特な奥行き感のある空間になっている。
ホリゾントということもあり土足厳禁で、靴を脱いで上がることになるのだが、靴を脱ぐことでリラックスモードに入れる部屋という役割が持たされている。社員はここで休憩をとったり(仮眠もok!)、机で一人仕事をしたりできる。アイデアだしなどのリラックスしたミーティングする場合もある(ブレインストーミングスペースの名前はここから)。
写真は1階にある大きなミーティングスペース。堅めの会議はこちらで行われる。
シフトブレインの目指す「NO BORDER」の働き方は、社員がそのときもっとも働きやすい形を求めて場所を変えるというものがある。
これはミーティング(会議)においても同じだ。堅めの討議をする場合は、社員の大きなミーティングスペースが使われる。大きな決定を下すといったアウトプットを得たい場合に向いたスタイルだ。
ただ、こうした会議室だと参加者が堅くなり、意見も自由に出づらくなってしまう。正式な議題の討議にはちょうど良いが、参加者がもっと自由に意見を出し合うミーティングの場合にはかしこまりすぎるということになる。そういうときには、カフェスペースを使う。カフェスペースなら、スタバに集まったような感じでメンバーが集まって意見を出し合える。
さらにリラックスして、例えばブレインストーミングをしたいという場合は、2階のブレインストーミングスペースを使う。短時間でプロジェクトの進捗確認をしたいときは3階のハイカウンターがあるスタンディングミーティングスペースに集まる。
このようなスタイルは最初から考えていたところもあるが、実際は毎日運営しながらちょうどよいところを決めていったと、仲村さんは言う。
例えば、以前、会議室でしていたミーティングが真面目になりすぎるということがあった。そこで、開催場所をブレインストーミングスペースに移してミーティングをするようにしたところ、靴を脱いで寝転がれたりする場所だったため、皆がリラックスしすぎてしまって参加していないのと変わらないメンバーが出てしまったそうだ。そこで今度はカフェスペースで行うことに変えて、ちょうどいい緊張感とリラックスさでミーティングが進むようになったそうだ。
社内のそれぞれの場所で、目的に合ったいろいろなコミュニケーションの取り方や仕事の仕方があるんじゃないかと思う、と 仲村さんは言う。
ちなみに、オフィス内の壁には、どこでもミーティングができるようにホワイトボードが作りつけられているのでアイデアを書き留める場所には事欠かない。
毎朝10:10、全社員が、上の写真にあるカフェスペースに集まって朝会が始まる。朝会は点呼を取って5分間ほどで終わり、その後、各部門の朝のミーティングを15分ほどして解散となる。その後は各自がめいめいの場所で仕事をする。
フリーアドレスという自由な働き方に対して、聞いた時は少し古風な印象を受けたが、これも新しいオフィスにおいて、「NO BORDER」的な働き方を模索する中で生まれてきたものだという。
スタッフからすると毎朝顔合わせるのって正直面倒なところはあると思うんです。ただ、そうしていかないと、朝、挨拶せずに仕事を一人で始めて、仕事をして帰って、となると気づいた時にはすごく孤立してしまう可能性があるんですね。やっぱりみんながある程度、つながれる形にしたい と。つながる機会を設けていくことで、1日の中でメリハリをもって過ごしてほしいし、もちろん、そこでコミュニケーションを取るきっかけにしてほしい。それで、毎朝全社員がカフェスペースに集まって、点呼取って、今日も一日お願いしまーす!みたいなのが一日の始め方としていいだろうなと。
(シフトブレイン 仲村さん)
確かに、自由すぎて顔を合わせないで毎日が済んでしまうというのはディスコミュニケーションの匂いがする。一般的なオフィスのように、固定席で半ば強制的に隣の同僚と話すのもそれなりに毎日の仕事の潤滑油として機能していることを考えると、フリーアドレスにすることで、逆に会社としては社員のコミュニケーションのケアを意識的に行わなければいけないのだと考えさせられた。
1階にあるカフェスペースでは19時を過ぎるとお酒を飲んでいいバータイムが始まる。ビール1缶100円、おつまみは、カシューナッツ、ドライフルーツ、プレッツェルが1皿分50円で提供されている。
ここは社員が帰るときに立ち寄りやすく作られていて、社員は先に飲んでいる同僚に合流して飲んだり、帰る前にここでくつろいだりしている。自由な働き方の分、コミュニケーションが取れるようにと、移転当初から空間が設計されている。
また、このカフェスペースでは、コーヒー(無料)があり、社員が朝に立ち寄る場所になっている。フルーツグラノーラ(こちらも無料)や、毎週月曜に入荷するバナナやミカンなどのフルーツ(こちらも無料!)など、カフェスペースに集まるきっかけが多く用意されている。まるでサバンナにおけるオアシスがごとく、社員はカフェスペースに自然に吸い寄せられて、コミュニケーションがいつの間にかに発生する場所となっている。
シフトブレインのカフェスペースについては、まだまだほかにもあるのでぜひこちらもご覧ください↓
「シフトブレインに学ぶ こんなに使える!スタッフがにぎわうコミュニケーションスペース(社内カフェ)の作り方 (株式会社シフトブレイン訪問[2])」
シフトブレインでは、毎月社員からアンケートを取っている。ありがとうと言いたい人を3人選んで出してもらうもので、その中に、今月あなたは仕事をしていてどうでしたか?という感想と、何か気なったことを書いてください、という欄があり、会社の問題点をモニタリングするツールになっている。
例えば、そこで、「新しいオフィスになって寂しくなった」という意見が出たら、コミュニケーションが減ったのではないかと考えて、十分な討議ののちに、何か集まる形、例えば朝会をする、とか、毎月のイベントをしてみようか、と展開していく。展開までは議論を尽くすために時間がかかるそうだが、これもアンケートで社員の声を吸い上げているからこそできることだ。
新しい働き方「NO BORDER」を模索するシフトブレインでは、新しい働き方の導入とともに同時に発生してくる新しい問題に対して、どう解決していくのが良いのか議論を重ねて新しい制度を作り上げつつある。
そうしたムーブメントの一環が社員のフリーアドレスであり、現在も進行中だ。
シフトブレインでは、多様な「NO BORDER」な働き方に適応するため、ミーティング、カフェ、ブレスト、それぞれのスペースごとに環境を変え、思考を切り替えてコミュニケーション/ワークができる空間を目指している。 社員のフリーアドレスを検討している会社にとっては、示唆に富み、取り入れられるポイントが多くあるのではないか。
デジタル領域を中心としたコミュニケーションプランニング、デザイン、テクノロジーを得意としたクリエイティブエージェンシー。受賞多数。
オフィスに特化したインテリアデザインの構築を行う。
※こちらのオフィスはCanuch Incによるデザイン
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2016年11月4日, 同月15日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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