(東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社 本社 TT LOUNGE)
こちらの記事の続き「オープンで自由なオフィス、フリーアドレスとABWを導入した東海東京フィナンシャル・ホールディングスの本社オフィスへ行ってきました (オフィス訪問[1])」
金融系企業のオフィスでフリーアドレスとABW(※)を導入した例はあまりなく、そんな中、東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社が日本橋にオフィスを移転し、フリーアドレスとABWを導入、働き方を変えつつあります。そこには、どのような狙いがあるのでしょうか。
新オフィス移転プロジェクトの担当者に、移転のねらいや効果、オフィスのあり方について、伺いました。
(※)ABW (Activity Based Working: アクティビティ・ベースド・ワーキング)
仕事内容に合わせて、オフィス内で働く場所や机などを選ぶ働き方。例えば、集中作業を個室で行い、気分を変えてラウンジで仕事をするなどフレキシブルに場所を選んで働くことを指す。フリーアドレス制と併用されることが多く、多様な働き方ができるようオフィス内に様々なタイプのデスクや集中席、コミュニケーションラウンジなどを設けることが一般的。
――移転のプロジェクトの概要について教えてください。
移転したのは今年の頭、2019年1月4日です。物件の確保という意味では2年ですが、移転プロジェクト自体は2017年7月からスタートして1年半ほどかけました。プロジェクトチームのメンバーは役員で構成されていますが、その下にワーキングチームが4つ発足しました。具体的には、オフィス移転ワーキング、トレーディングワーキング、富裕層向けの会員サービス「Orque d'or(オルクドール)」ワーキング、あとは茅場町ワーキングです。さらにその下に、ICTや電話、総務などの専門部会がぶら下がっていました。後半になると、モチベーションやベクトル合わせのために移転説明会やオフィスツアーで全員が参加しましたが、工事に関してはコアメンバーで進めていきました。マーケット部門等が移転前にいた東海東京証券の茅場町のビルは、研修機能をベースに3フロアに再編しました。
――移転のきっかけ、理由は?
オフィスを移転した理由は、働き方改革を進めていく上で、オフィスが手狭になっていたことと、新しいトレーディングルームを作りたいということがありました。先進的なオフィスにすることで良い人材も集まりやすくなるし、BCP機能が十分な最新ビルを活用したいという思いもありました。
当社では、転機を飛躍の時ととらえています。今回の移転のタイミングも、東京でマーケット部門を拡大して富裕層ビジネスを本格的に始めるという転機でした。そういうジャンプアップのためのオフィス移転です。
――BCPの機能で着目した点はどんなところですか。
総務ファシリティとしては、このビルの非常用電力供給や耐震性などの機能は魅力でした。非常時でも、取引所の取引が行われていれば当社も事業継続できることが求められますから。移転前のビルでも自家発電装置を備えていたのですが、このビルではテナント向けに電力を供給してくれるので、脆弱性が軽減されています。各拠点も含めた全社員3日分の備蓄物資を自前でもっていますが、ここではビル側からもテナント向けに供給があるので、さすが最新のビルだと感心しました。
――金融系の会社としてABWを導入された意図は?
まず、東海東京フィナンシャル・ホールディングスと、子会社である東海東京証券とのコミュニケーションを活性化したいということがありました。この2社では財務や人事などは同じメンバーが兼務発令をされ、企画に関しても協働があります。移転前のビルではフロアが別々だったのですが、今はホールディングスと証券の企画部門、財務部門が壁なしで協働しています。さっと集まって立ってミーティングできますし、フリーアドレスにしたことで、コミュニケーションを取りやすくなりました。フリーアドレスが不向きな部署では、グループアドレスを利用し席を自由化しています。
――30階のABWゾーンは、新オフィスの要ですね。
外資系企業などにあるカフェテリアのような空間を作り、食事や飲み物を提供したいと考え、30階のABWスペースを実現させました。29階と31階の執務フロアからも行きやすい真ん中の30階にABWスペースを置くこととし、自然に人が集まるように階段に近い位置に入口を置きました。執務フロア内に自販機を置かなかったことを懸念していたのですが、1フロア移動すればおいしいコーヒーも自販機もあるので、社員からの意見などは出ていません。
カフェに併設して喫煙室や配送室を置き、食堂としての機能以外にも、出張者が仕事をするタッチダウンスペースもあります。証券会社は朝が早い業務もあるので、その時間に合わせてカフェを開け、コーヒーやパンを販売して人が集まる仕掛けを作りました。他の部署、他フロアで働いている人たちと顔を合わせることができる。ランチタイムのピーク時は、約100席のうち8割ほどが埋まります。
執務エリアをフリーアドレス化したことによって、コミュニケーションがとりやすくなりましたが、仕事に集中したいときもありますから、そんなときはABWスペースで集中して仕事するというように使い分けもできます。
同社TT MEDIA LOUNGE
――朝7時オープンというのは、朝の早い証券会社ならでの特徴ですね。
朝出社してコーヒーを買って新聞を読んだりというような使い方をしているようです。もともと定時の始業は8時40分で、カフェも最初は8時半オープンでした。ところが、朝、コーヒーを買うのに並んでしまう状況になったのです。コーヒー類は24時間稼働のベンディングマシーンがあるのですが、朝、追いつかなくて並んでしまって、カフェショップを少し早くオープンすることにしました。
朝7時オープンの社内カフェショップ
売店 おいしそうなパンが並ぶ
――30階には、来客も入れるスペースもありますね。
ABWスペースは日中オープンで、社外の方とも打ち合わせができるルールになっています。併設のホールではセミナーなどを開催したり、会議室や応接室もあり、入室管理のセキュリティはそれぞれで区切っています。
――フリーアドレスやグループアドレスになったことで、戸惑いなどはありましたか?
若手の中には戸惑っている者もいるようです。仕事のやり方を教えてもらおうと思っても、フリーアドレスだと上司をすぐに見つけられず、誰に聞こうか迷っていたりします。むしろ管理職のほうが部下を探せないかもしれないという懸念をもっていたので、想定とはまったく逆でした。ベテランだと自分ひとりで動けるし、知っている人にすぐ相談することもできる。中途採用の方などもうまく活用されている印象です。フリーアドレスにすると、あまり話したことのない人と隣り合わせになって、人となりを知ったり、こういう仕事をしていると知ったり、新しい発見がたくさんあるようです。
また、働き方が一番劇的に変わったのは、デスクトップからノートパソコンになり、無線LAN でどこでもつながるようになったことです。会議で紙資料がほぼなくなり、ノートパソコンだけを持ってくればよくなったということは非常に大きい。会議に参加するのも楽になりました。
名古屋の東海東京証券本店とテレビ会議を行うと、向こうはまだデスクトップPCなので、全員が紙資料を前にしているのですが、こちらでは全員ノートパソコンを広げています。
フリーアドレスを導入している執務フロア
執務フロア内のリフレッシュスペース
――フリーアドレスを導入するためには、ペーパーレス化が必須になりますね。
社内や外部倉庫で眠っていた紙資料はデジタル化して捨て、全体で6割削減して移転しました。個人の荷物も心を鬼にして減らしてもらいました(笑)。かなり余分なものがあったらしく、文句は多少出ましたが、最終的にはなんとかなっており、個人の資料があふれたりすることもありません。
たとえば社内報は閲覧率を重視して紙で配っているのですが、今では、それも電子化してほしいという声があがります。そんな声が多いのは、ペーパーレスに対する意識が高まっている現れだと思います。
また、ABWゾーンの配送室では社内の事務用品などを集中的に一括管理していますので、シェアードサービスとまではいきませんが、こういったものも個人の荷物を減らすのに役立っています。
今回、ICカードで認証するセキュアプリンターという仕組みを導入し、コピー、FAX、プリンター、スキャナーを1台で対応できるようになりました。担当役員は「『10年遅れ』から『5年先』になった」と言っています。システムと総務の垣根があり、なかなかできなかったのですが、移転を機に実現できたことのひとつです。
――ICTシステムの導入も後押ししていることになりますね。
会議室には予約システムを導入しました。移転前は会議室の数も足りていなかったし、予約しても使われないこともあり、あまり有効活用できているとは言えませんでした。使用時にチェックインする仕組みなので、使わずに時間が経つと解約されて他の人が使えるようになり、効率的になりました。クリックシェアもほぼ全室に入っています。
会議室予約システムの入った会議室
――それまでとは働き方が変わったことで、操作などに戸惑う人もいるのでは?
今、FinTechなどデジタルと金融が融合して会社の業態が拡大していく中で、社員もデジタル化に適応してほしいという考えがあります。経営トップも、iPadで会議資料を見たり、いろいろなコンテンツを使いこなしています。
――コミュニケーションにもツールを導入していますか。
オフィス移転と同時にスカイプを導入しました。現在の活用状況には個人差があるため、積極的な活用を推進しています。外線電話は固定IP電話、フリーアドレス/グループアドレスの対象者はFMC、オフィスリンクを導入しました。社内は内線でやり取りをするというルールになっています。
――移転後の社員の皆さんの感想は?
新しくてきれいだし、眺望もすばらしいビルに入れていきいき働いているのではと思います。他の拠点に先駆けて入れた機能もあり、グループ内でも注目されています。
ただ、「変わらない」という声もあります。使い方の問題だと思いますが、グループアドレスでも結局毎日同じ席に座ってしまうケースもあり、あまり良さを実感してもらえていないかもしれません。管理職が率先して席を変えていくとか、浸透のさせ方を考えなければならないと思いました。実際、フロアによって感想は違うのだろうと思います。
――移転後の要望で、運用が変わったことなどはありますか?
ABWスペースのカフェのオープン時間は要望で早くなりましたし、メニューもだいぶ変わりましたね。量が足りないという意見や、健康志向の要望などもあり、いろいろ試行錯誤し、糖質制限や薬膳料理のお弁当など置くれるようになりました。売上も、当初の見込みよりかなり良いようです。
アイスクリームを置いてほしいなんて要望もありますね。ソフトクリームマシンを入れるべきかさんざん悩みましたが......(笑)。
――このオフィスの形は、名古屋にも導入する流れなのでしょうか。
導入してほしいという要望は出ており、検討しています。セキュアプリンターなどは、コスト削減にもなるしスペースの効率化にもなるので、早期に実現する計画を作っています。
デジタル化の波により、金融の世界もまた大きな変革を迎えつつあります。その転換の時期をオフィス移転という節目で区切った東海東京フィナンシャル・ホールディングスでは、これまでにない新しい働き方が生まれようとしているようです。3フロアの中心に位置する「TT MEDIA LOUNGE (ABWスペース)」は、インタビューでもふれたとおり、移転プロジェクトの象徴的な要と言えますが、取材時もひっきりなしに社員が出入りする活発な空間であることが、同社の活気を物語っていました。
国内屈指の総合金融グループ「東海東京フィナンシャル・グループ」の持ち株会社です。傘下の東海東京証券を中核に、リテール顧客へのセグメント別戦略や、法人営業、投資銀行、マーケットの3部門の強化・連携による法人トライラテラル戦略など、変化するビジネス環境に先んじて競争力強化に取り組んでいます。ダイバーシティ経営の推進により経済産業省より「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定されるなど、先進的な取組みでも知られています。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2019年7月12日
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