(同社 話をせず集中して働くエリア クワイエットスペース。)
前記事「世界111ヶ国に展開する事業用不動産サービス大手 CBREの丸ノ内東京本社オフィスに行ってきました【前編】 (シービーアールイー株式会社 オフィス訪問[1])」で、その魅力的なオフィスを紹介した。
同社はこの新オフィスへの移転を機に、「ABW (Activity Based Working アクティビティ・ベースド・ワーキング 」を導入した。それによりオフィス面積は移転前と比べて約18%削減している。面積削減によるコストダウンは魅力だが、一般的に面積が2割も狭くなるのであれば随分と窮屈なオフィスになるはずである。ところが、前記事で見てきたように、むしろ広々と感じられる魅力的なオフィスに仕上がっている。そこにはどんな工夫があるのか。移転プロジェクトを主導したシービーアールイー株式会社 アドバイザリー&トランザクションサービス ワークプレイスストラテジー・ノースアジア シニアディレクター 金子 千夏 氏に伺った。
また、同社のABWのオフィス作りの実例について写真とキャプションで本文中に挿入しているので、そちらも参考にしてほしい。
ここでインタビューを交えた具体的な話に入っていく前に「ABW」について解説をしておきたい。最近の欧米豪の海外のオフィスづくりコンセプトで見かけることが多くなったが、日本のオフィスの「フリーアドレスオフィス(=座席を固定しない制度)」とは、少し異なる概念になっている。
「アクティビティ・ベースド・ワーキング (ABW : Activity Based Working)」とは、仕事内容に合わせて働く場所や机などを選ぶ働き方。例えば、集中作業を静かな部屋で行い、打ち合わせをソファ等で行うなどフレキシブルに場所を選んで働くことを指す。デスクを共有して使うことを意味することもあるが、それは必須ではない。
[参考: A Glossary of Workplace Terms 2012 Nicola Gillen (The Workplace Consulting Organisation)から、「みんなの仕事場」にて翻訳・要約]
従来のデスクワークは、固定席が与えられて、打ち合わせ以外のほとんどすべての作業をそこで行うのが通常だ。
それに対して、「フリーアドレスオフィス」は、自席は決まっておらず、同じような机の中からどこを選ぶか、つまり誰と隣り合わせを選ぶかに終始することが多かった (フリーアドレスのスタイルはいろいろあるので、ABW的なものもある)。
ここで言う新しいコンセプトの「ABW」は、仕事内容に合わせて働く場所や机を自ら選ぶことができることにポイントがある。
現代は、高速ネットワーク、wifi環境、スマートフォン、ノートPCというテクノロジーのおかげで、デスクワーク自体がすごく変化してきている。単純作業が減り、企画や調整や営業という仕事のウエイトが増えてきている。1日中同じ作業をするのではなく、1人で何役も行う多能工のように、企画立案や営業や調整などの打ち合わせをこなしていく。その実情に合ったワークスタイルといえる。
オフィス作りの面から言うと、仕事内容に合わせて働く場所が選べるように、オフィス内に通常の執務デスクに加え、集中ブースや、少人数オープンミーティング席や、ラウンジ席、カウンター席、電話ブースなど業務に必要な様々なスタイルの執務エリアを作る必要がある。もちろん業務分析によりどういった設備・機能を持った席がどれだけ必要かといった分析も必要になる。
(同社のラウンジ的なワークエリア。独りで仕事を進めたり、少人数で打ち合わせをしたりする。)
移転を決めた同社では、まず「ワークプレイス360」というプログラムを実施したという。同社 金子氏に尋ねた。
まずは、「ワークプレイス360」というものは、CBREがグローバルで展開しているプログラムでありまして、趣旨はフリーアドレスを導入し、社員に選択肢をたくさん与えることにより、社員のパフォーマンスを上げる。同時に不動産の有効活用をするということが目的としてあります。
CBREは不動産のプロですから、良い物件を探し当て、その物件を最大限効果的に活用することを追求していきたいと思いました。
(同社 アドバイザリー&トランザクションサービス ワークプレイスストラテジー・ノースアジア シニアディレクター 金子 千夏 氏)
(同社の電話ブース。こちらで電話したり、集中して仕事をするのに使われている。)
「ワークプレイス360」プログラムでは、どういったところから行うのだろうか。
初めにオフィスの運用面と働き方を調査します。オフィス移転の依頼のあったクライアント様には、まず調査をすることをお勧めしています。
オフィス移転担当者の方は、総務の方々を始めいろいろな方々から、会議室足りないとか、収納足りないとか、意見を受けていると思うんですね。もしかすると、それは声の大きい方の声であって、全体像が見えているわけではないかもしれません。
全体像を見るためには、第三者のコンサルが入ってしっかり調査をし、そのオフィスの使い方を、データ化し分析したうえで評価することを、まず初めにおススメしています。全体が見えると、そこから課題も見えて、優先順位もつけやすくなります。それが「評価測定」というプログラムのプロセスの一つです。
(同社 金子氏)
[評価測定(調査含む)]⇒[分析]⇒[改善]、というステップで「ワークプレイス360」のプロセスは進んでいくとのことだ。
(同社のカフェスペース。くつろいだり、独り仕事をしたり、打ち合わせしたり)
では、同社では具体的に評価結果を公開しているのでその一部を引用して、見て行きたい。
こちらが同社で調査した会議室の需給バランスの表になる。
「オフィスジャパン」2015年夏季号 (発行: シービーアールイー株式会社)
特集企画 ワークプレイス戦略ケーススタディより
会議室が足りないという声に対して、需給バランスを調査した結果、3人以下のミーティングニーズが多く、小さいミーティングスペースが必要と判明した。
もともとの会議室は大きさと量が需要に対してアンマッチだったのだ。
こちらは同社社員にとったワークスタイルに関するアンケート調査結果だ。
「オフィスジャパン」2015年夏季号 (発行: シービーアールイー株式会社)
特集企画 ワークプレイス戦略ケーススタディより
ワークスタイルに関するアンケート調査では、電話会議に5%ウエイトがあることが判明し、新オフィス内に約5%の面積分は電話ブースが作られている。同社オフィス内に電話ブースがちょくちょくあるのは、こうした分析結果を踏まえている。
また、「中断されずに仕事に集中」というのも25%あることから、集中デスクや、集中して仕事ができるクワイエットスペースも新オフィス内に約20%の面積が配分されている。
こちらは個人の在席率グラフになる。
「オフィスジャパン」2015年夏季号 (発行: シービーアールイー株式会社)
特集企画 ワークプレイス戦略ケーススタディより
座席使用率の調査では平均61%と低く、同社社員の方は既にモバイルで自由に出歩いている環境であったため、ABW の導入が可能と判断された。
逆に、座席使用率が高いことが判明したら、ABW 導入はあまり有利にはならなそうだ。その点はどう考えるのか尋ねた。
ABWを必ずやるという想定で調査はしていません。調査をしてみて、利用率から、ABWが可能であるかどうかを見ているので、調査結果で、例えば、社員の方が95%デスクに座っていて、ソロワークをしていたらABWをおススメしません。
(同社 金子氏)
はじめにABWありき、というのではなく、あくまでABWで効率化が期待できる場合に導入するということになる。
(同社 集中ブース。こちらで独りで仕事に集中できる。)
調査の中でもアンケート調査で社員の声を拾い上げることは重要だと、金子氏は説く。
社員の声をしっかり聴かないといけないのです。
オフィス作り、新しい環境で新しい働き方を促進するには、やはり、社員の皆様が、わくわくして、やりたいねと思って下さる、皆様が納得する働き方でなければならないのです。トップダウンで、こうしますよ、としても成功しないと思うんですね。
ですから、社員の声を吸い上げて深堀するところは深堀して、そこから皆で新しい環境づくりも考えるし、そこの使い方も考える。巻き込んでいくのが大事だと思います。
(同社 金子氏)
分析により、新オフィスの内容も決まった、後は移転の日を待つだけかと思ったら、そうではないと金子氏は言う。
「話題の「ABW」を導入したオフィス作り、そのプロセスとポイント【後編】 (シービーアールイー株式会社 オフィス訪問[4])」
シービーアールイーが発行する季刊の事業用不動産情報専門誌。
特集企画 ワークプレイス戦略ケーススタディ
※「オフィスジャパン」は「BZ空間」の旧誌名
CBREグループは、米フォーチュン誌が発表する全米トップ企業500社リスト「フォーチュン500」に2008年以降毎年選出されるなど、ロサンゼルスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービスおよび投資顧問会社 (2017年の売上による)。シービーアールイー株式会社は、CBREグループの日本法人にあたり、法人向けに不動産賃貸・売買仲介サービスを始め、各種アドバイザリー機能やファシリティマネジメントなど幅広いサービスラインを全国に展開。1970年に設立以来、日本における不動産の専門家として半世紀以上にわたりサービスを提供している。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の写真を除く)
取材日:2017年6月6日, 16日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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