(同社 通常の執務スペース。こちらでは同僚と話ながら仕事を進める。各席に大型モニターなどが装備されている)
前回「ABW」を導入したオフィス作り、そのプロセスとポイント【前編】 (シービーアールイー株式会社 オフィス訪問[3]」からの続き。
(オープンなミーティングブース。独り仕事にも。)
分析により、新オフィスの内容も決まった、後は移転の日を待つだけかと思ったら、そうではないと金子氏は言う。
社員の方は移転前に、いろんなことを知って新オフィスに入ります。そうしないと成功しないのです。特に年配の社員の方が抱くような不安をある程度払拭した状態にします。
例えば、電話の使い方、iphoneの使い方、アシスタントの電話番をどうするか、といったいろんな不安を一つ一つ、ワークショップやメール、チャットで質問を受け付けて不安を無くしていきます。
(同社 金子氏)
新オフィスへの移転は、単なる引っ越しに留まらず仕事の進め方も変わる「変革(チェンジ)」を含むもの。オフィスが分析の結果使いよくなるといっても、ABW (≒フリーアドレス)になるとなればいろいろ不安が募るのは社員の側からすると当然と言える。
そこで、同社で実施した、変革を推進するチェンジ・マネジメントの施策のうち主要なものを以下にリストアップしてみる
特に、大きく変わる部分になる、ペーパーレス化と、IT化、ABW導入に関しては新オフィスに来る前に十分に理解して入れるように、9か月ほどかけて段階的に進めるようプログラムが組まれている。
(同社 コラボレーション的なワークスペース。メンバーが集まって仕事が可能。また、普通の執務デスクとしても使われる。)
チェンジ・マネジメントで重要なポイントはどういったところだろうか。金子氏に尋ねた。
巻き込みです。社員を巻き込んでいく。それと、管理職の方の意識改革が大事ですね。
ABWを導入すると、チームの管理の仕方がまったくガラっと変わりますので、そこを受け入れていただき、新しい管理の仕方を考えていただくことが大事になります。
ABWにすることで、個人はどんどん自由になって、メリットがとてもありますし、経営の側としても成果が出るというのがだいぶ事例が出てわかっていらっしゃるのでやりやすいですね。でも、現場を管理する方々は大変だと思います。責任を持っていらっしゃるので。
(同社 金子氏)
ABW(≒フリーアドレス)にすることで、管理職にとっては管理の仕方が大きく変わるという。目の前に部下がいなくなってしまうのだから、今度は上司としては部下のアウトプットのみを管理していくことになるのだろうか。
それは出来ます。アウトプットといっても、従来の企業では、時間で見ていた。時間を掛ければ掛けるほど頑張っていらっしゃると評価があったと思うのですが、そうではなくて、本当は、短時間でできればできたほうがいいわけですよね。効率がいいわけですから。そこの部分だと思います。
(同社 金子氏)
(同社 カウンターテーブル。休憩したり、立ち話したり)
上司と部下とのコミュニケーションも変わりそうだ。そのあたりを尋ねた。
(以前より)もっと意図的にチームと打ち合わせしたり、ミーティングをセットしたりなど、すべて管理側の力量によると言いますか、やり方が問われてくるんだと思います。
今まではみんな一緒の場所に座っているし、ひな形の席で、そこから皆を見ているので、なんとなくチームの元気がいいな、悪いな、肌感覚で感じていたことができなくなってしまう。
じゃあどういう風にキャッチしていくのか。それはマネージャーのやり方によると思います。
あるマネージャーさんは、チームメンバーに、毎週この日の時間はここに座っているから相談に来てね、と時間を設定して、人と会う時間を作るマネージャーさんもいらっしゃいます。逆に電話で頻繁にどうだった?と話すマネージャーさんもいます。これからいろんなスタイルが出てくると思います。
それは個人個人の働き方が柔軟になっていくのと同じで、マネジメント方法も多様化していくのかな、と思います。それをまず受け入れていただいて、じゃあ自分のスタイルは何だろうと探していただくところから始めないといけないんですよね。
(同社 金子氏)
(同社 クワイエットスペース。大型モニター付きの一般的な執務デスクだが、こちらでは話しかけNGの場所になっていて、静かに集中して仕事ができる環境。)
改めてABWを選択するメリットを尋ねた。
メリットはたくさんあります。社員の方々にとっては、仕事をするときの選択肢が増える、というのが大きなメリット。その選択肢がただたくさんあるのではなく、本当に自分の作業に合った場所が用意されているので、その適した場所で仕事をすることによって効率も上がるし、アウトプットのクオリティも上がるでしょう、ということがあります。
不動産的には、面積の効率化が図れるので、面積は減り、いろいろなスペースができます。
例えば弊社の場合は、移転前より全体の面積は18%減ったんですよね。4拠点あって、一人当たり2.5坪くらい使っていたのが、1人あたり2.1坪で設計して。それを聞くと狭くなっちゃうなと思いますけど、カフェとか広いレセプションとか、シャワールームとか、いろんなものを用意することができた。それでも18%も面積が減った、というメリットがあります。
(同社 金子氏)
(同社 室内にあるカフェ風な場所。気分を変えて仕事ができる。)
逆にABWを導入しないほうがいい場合はどういうケースだろうか。
社員の方がずっと在席しているとか。研究職や開発は難しいかもしれないですね。
導入しやすいのは、営業職が多いと導入しやすい。動きが多い働き方、外出が多い働き方をされているとか。すでにICTとかツールが用意されている会社です。ただ、場所だけ動きやすい場所にするだけでなく、仕事をするにあたりツールが用意されていることが大事だと思います。
やはり、軸は身軽になれるかどうか。紙を減らせるか、ツール、荷物がたくさんあるかどうかかなと思います。
(同社 金子氏)
(同社 ソファブース。リラックスしてくつろいだり話したり。)
ABW導入にあたり気を付ける点はどういったところか尋ねた。
たくさんありますね。まず注意すべきことは、縮小プロジェクトに見られがちなので、そのように見られないように配慮することが大事です。デスクがなくなるとか。不便なことばっかり印象を持たれがちなんですが、そうではなくて、ちゃんと社員の方にメリットを感じられる場所を用意することが大事です。ABWを導入します、デスクなくなります、紙を減らしてください、ばかりでは、え?となってしまう。
そうではなくて、そのかわり、カフェができるんですよ、こんな場所が、あんな場所が。今よりも良くなるということを前提としておかなければいけません。それがあって始めて導入しようとなります。
(同社 金子氏)
(同社 クワイエットスペース内の電話ブース。)
こちらのABWが導入された新オフィスでの理想とする働き方はどういったものか尋ねた。
まずは、社員のエンゲージメントが高くなって、社員がイキイキ働いている。そして、個人個人のメリットだけでなく、やはり、この会社で自由に働ける、ということが大事ですよね。
ホワイトカラーの人間、専門性の高い人間で、ある意味独立してフリーランスになってもいいような方が、それでもこの会社にいたいと思うのは、チームとのイノベーションであったり、知識シェア 共有であったり、それがいいなと思ってもらうことなので。
会社に愛着がありつつ、自由が認められているということです。1人1人がプロとして長けていて、だけど、チームで働くことでもっと高められることを感じられる会社がいいですよね。
最後に、コスト面ですごくスマートにファシリティを運営できているオフィス。社員をハッピーにさせるためにすごくお金をかけてしまっていて、コストが凄く高くなっているというのであれば経営は持続しないと思うので。
(同社 金子氏)
CBREによると以下のようにまとめられるという
昨日 | 今日 | 明日 | |
---|---|---|---|
ワークプレイスは | 単なるコスト | 経営のツール | 経営のブースター |
なぜか? | 社員が集まって働ける場所を物理的に用意することが必要だった | テクノロジー(主にノートパソコンと携帯とWifi)の進展が社員のモビリティを向上。スペースをフレキシブルに利用可能 | どこでも働ける状況下で、オフィスで働くという行為に付加価値が。チームによる知識創造に特化した環境へ |
オフィスでの仕事 | 個人による事務作業が主体 | 組織による知識創造が主体へ | 組織による知識創造に特化 |
仕事をしているときは | デスクで座っている時間 | デスク以外でも可能になってきた | いつでもどこでも可能 |
パフォーマンス評価 | 結果より費やした努力 | プロセスだけでなく結果も重視 | プロセスは個々が自由に選べる |
マネジメント手法 | いかに管理するか=目視 (部下を視界の中にキープしたい) | いかに個々の能力を引き出すか(できれば部下を視界の中に) | いかに信頼をはぐくんで自律的に働いてもらうか(時間・場所にこだわらない) |
「オフィスジャパン」2015年夏季号 (発行: シービーアールイー株式会社)
特集企画 ワークプレイス戦略ケーススタディより「みんなの仕事場」にて編集。
こちらの表を見ると、確かに現代の働くトレンド、オフィスのトレンドは『今日』『明日』へと進んでいると納得させられる。
今回、同社のABWとその導入方法について詳しく伺うことで、単なるフリーアドレスオフィスに留まらない、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の、これからのビジネスへのインパクトの大きさを改めて認識する機会になった。
また、それだけインパクトが大きいゆえに、導入のためにはチェンジ・マネジメントのプロセスが必要であり、それらを段階的に進めた上で、シービーアールイーの現オフィスがあることが分かり、考えさせられることの多い取材だった。
シービーアールイーが発行する季刊の事業用不動産情報専門誌。
特集企画 ワークプレイス戦略ケーススタディ
※「オフィスジャパン」は「BZ空間」の旧誌名
CBREグループは、米フォーチュン誌が発表する全米トップ企業500社リスト「フォーチュン500」に2008年以降毎年選出されるなど、ロサンゼルスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービスおよび投資顧問会社 (2017年の売上による)。シービーアールイー株式会社は、CBREグループの日本法人にあたり、法人向けに不動産賃貸・売買仲介サービスを始め、各種アドバイザリー機能やファシリティマネジメントなど幅広いサービスラインを全国に展開。1970年に設立以来、日本における不動産の専門家として半世紀以上にわたりサービスを提供している。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の写真を除く)
取材日:2017年6月6日, 16日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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