(Chatwork株式会社エントランス)
今回は、Chatwork株式会社の東京オフィス(東京 港区)を訪問した。
Chatwork株式会社は、クラウド型ビジネスチャットサービス「Chatwork (チャットワーク)」を提供するIT企業だ。2004年に設立され、同社のチャットサービスは20万6,000社以上に導入される実績を持ち(2019年1月末日時点)、国内最大級のビジネスチャットサービスへと成長している。また、2018年11月28日には、コーポレートミッションを「働くをもっと楽しく、創造的に」へ刷新し、ロゴもリニューアルして快進撃を続けている。
オフィス紹介に入る前に、「ビジネスチャット」について、どういうものなのか簡単に解説したい。今ではIT企業に留まらず、導入する企業が増加しており、ビジネスチャットを導入した企業では、メールよりチャットでコミュニケーションするほうが便利というほどなのだ。
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友人同士のコミュニケーションでは、スマートフォンの普及により、電話や電子メール(ショートメールも含む)よりも、LINE (ライン)に代表されるような「チャット」で行うことが一般的になりつつある。「チャット」とは、英語の「Chat (チャット: おしゃべり)」から来ていて、インターネットでの文字を使ったリアルタイムの会話をいう。
「チャット」のメリットは、何といっても電話の即時性に、電子メールの詳細性を合わせたようなコミュニケーションができることだ。例えば、1対1の会話だけでなく、複数のグループでやり取りも可能、皆がオンラインにいれば、電話のようなリアルタイムのやり取りができるし、リアルタイムでやり取りできなくても、後からメッセージを見て返信するなど、メールのようなコミュニケーションもできる。また、LINEなどでは文字情報に限らずスタンプといったキャラクターも使え、写真や動画の送受信などコミュニケーション表現の幅が広いことも人気の理由の1つだ。
他方、ビジネスでのコミュニケーション手段と言えば、従来は電話や電子メール(とファックス) が一般的だが、そこにビジネスで使えるチャットとして「ビジネスチャット」が複数社から登場し、電話やメールに代わる第3のコミュニケーション手段として普及しつつある。ビジネス用に開発されたチャットのため、ビジネス向けの機能も充実しており、メッセージのやりとりだけでなく、タスク管理や、資料などのファイル共有、遠隔地とのビデオ通話などが可能になっているところも普及に一役買っている。
総務省情報流通行政局の発行する2018年4月のメールマガジンで「働き方改革×チャットツールのビジネス活用 」といった話題が取り上げられるなど(*1)、ビジネスの世界でも、電話やメールではなく、チャットでしたほうが便利で速いという時代になりつつある。
*1)メールマガジン「M-ICTナウ」2018年4月第2号
「働き方改革×チャットツールのビジネス活用 」
そんなまさに最先端のコミュニケーションツールを提供している同社は、新コーポレートミッション「働くをもっと楽しく、創造的に」を掲げるなど、働き方への関心の高さがうかがえる。
同社は、本店登記のある神戸オフィス、本社機能のある大阪オフィス、営業・マーケティング・開発等のある東京オフィス、ほかに台湾、ベトナムと国内外に複数拠点を展開している。今回取材に伺ったオフィスは、同社オフィスの中で最大の拠点となっている東京オフィスだ。社員の増加に伴い、2017年10月に港区芝公園、東京タワー前のオフィスビルに移ってきた。2フロア(101平方メートルと505平方メートル)の広さで、約70名が勤務している(2019年1月末日時点)。
東京オフィスのコンセプトは「働き方をアップデートできるオフィス」(同社)という。「(ビジネスチャットという)働き方を変えるサービスを提供する会社だからこそ、常に自分たちが新しい働き方を模索し、実践する企業であるべき」(同)とのことで、デスク等はDIYで独自のものを作り上げるなど工夫が凝らされたオフィスになっている。
ほかにも、「最先端のテクノロジーやノウハウと、時を超えて愛される良質なデザインを両立させ、イノベーションを起こし続けたい」(同)ということで、デザイン家具が随所に配置され、オリジナルのDIY家具と組み合わせたフレキシブルな環境でイノベーションを起こすことを狙ったオフィスレイアウトになっている。
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また、注目すべきはDIYだ。同社に限らず、オフィスにDIYを取り入れる動きが最近のオフィスづくりの1つのトレンドとして表れつつある。DIYの狙いとして、コストを抑えるという目的もなくはないのだが、それよりもむしろ、自分たちの働き方に合う家具が既製品にないので自分たちで作るしかない、という理由だ。さらに、ゼロから製品を開発している企業にとって、自然な流れとして、既製品にないから自分たちで作る、というカルチャーがあるように思われる。
また、DIYを通じて、「普段交流が少ない社員同士のコミュニケーションの活性化につながり」(同)、「オフィスをDIYすることで、オフィスに愛着がわき、帰属意識も高まり、より快適に仕事ができるよう」(同)になったというメリットがあるという。
前置きが長くなったが、そのあたりのオフィスづくりについて詳しく伺うべく取材に向かった。
同社東京オフィスの入居するビルは、東京タワーのまさに目の前にあり、歴史ある芝公園にも隣接するなど、景観や緑の充実度で都内でも有数の良環境にある。最寄駅も複数存在し、主要な最寄駅としては、都営大江戸線「赤羽橋駅」(赤羽橋口から徒歩5分)、東京メトロ日比谷線「神谷町駅」(2番出口から徒歩7分)、都営三田線「御成門駅」(A1出口から徒歩6分)がある。ほかにも、都営浅草線「大門駅」(A6出口から徒歩10分)、JR「浜松町駅」(北口から徒歩15分)がある。
オフィスは5Fと7Fにあり、受付のある7Fへ。
こちらは101平方メートル、フロアの1/3ほどを使用しており、来客のためのスペースになっている。
エレベーターホールから受付へと向かう。
こちらがエントランス。
右手の壁に、電話機やファイルなどの文具、レーザーファクスの内部ユニットなどが貼り付けられているが、、
正面から撮影。文字が浮かんでくるのだが、お分かりだろうか。
文具などが張り付けられていないところを辿ると、白抜きで「Chatwork」となっている。同社がビジネスチャットで、電話やファクス、印鑑やファイルなどの紙ベースのオフィスワークといった働き方を変える存在であることを象徴するアートになっている。
同社の事業の「ビジネスチャット」は、言葉で説明すると「私たちの働き方を変えていくもの」といった抽象的な説明になりがちだが、こうしてビジュアルで端的に示してくれると、実際に世の中のどういった部分を変えていくものなのか、社会に対するインパクトがすごく分かりやすい。
おそらくこうした展示は、来客向けだけではなく、働く社員に対しても自分たちの企業ビジョンを分かりやすく示す機能が含まれているのではないか。昨今、いくつかの研究で、企業の持続的成長のためにビジョンの共有が重要と指摘されているが(*2)、こうしたところにも急成長するベンチャー企業の一端を示しているのではないだろうか。
*2) 例えば、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所による「業績を高める組織能力と組織・人材マネジメント調査2009」では、業績を高める組織能力の要素として、「ビジョン共有力」を挙げている。
こちらが受付。タブレット画面から担当者を呼び出す仕組み。
ではオフィスの中へ入っていこう。
エントランスにあるDIYで作られたロビーベンチ
エントランス入ってすぐのところにあるDIYで作られた待合スペース。
一見すると、板を組み合わせて作られたベンチやテーブル、チェアで、武骨でラフな印象を受けるが、座り心地や使い勝手は快適だ。というのも、こちらはMoMA永久コレクションに作品が収蔵されるイタリアを代表するデザイナー、エンツォ・マーリ (Enzo Mari)の設計によるのだ。
エンツォ・マーリが1974年に発表したプロジェクト(「誰にでも板とクギで簡単に組み立てられる家具のプロジェクト」)で公開された図面に基づいて製作されていて、今でいうと「オープンソース」の家具版に当たる。こうしたDIY家具をエントランス付近に置くことで、自分たちに必要なものを自分たちで作る同社の姿勢を象徴しているわけだ。ちなみに、組み立て自体はデザイン会社に協力を仰ぎ、色塗り等を同社社員で行って仕上げている。
このミーティングスペースを中心として、周りに来客用会議室やシアタールームが配置されている。
来客用会議室が2室。
【編集注】会議室名は2018年11月28日のコーポレートミッションの刷新に伴い、新しいコアバリューに基づく名前に変更予定。
大型モニター、ホワイトボード、テーブルのシンプルな部屋だが、チェアは、ハーマンミラー社から発売されているイームズ シェルサイドチェアDSR(脚はワイヤーベース)。さりげなくデザイン家具が置かれている。
奥に見えるのはシアタールーム。
中に入ると、
まさに、映画館。
例えると、マルチプレックスシネマの小ホールのような雰囲気だ。 ビロード張りのベンチソファが3段に渡って階段状に配置されている。
階段の上のほうから撮影。
スクリーン前にはテーブル代わりでもある同社ロゴ入りの卓球台。
シアタールーム隅にある白い樹脂ネックがあるスツールとテーブル。
こちらもデザイン家具で、マジス社(Magis)の「トム & ジェリー "ザ・ワイルド バンチ" (TOM and JERRY - The Wild Bunch)」。
その向かって左隣に置いてある、木製スツール。何気なく置いてあるが、フィンランド、アルテック(artech)社の「スツールE60」だ。デザイナーは、アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)で、1960年に発表されたアアルトの「スツール60」は3本脚に対して、こちらは後年発売された4本脚タイプになる。ちなみに、さらに左奥に積み重ねられているのは成形合板を使ったチェア。
ここで、家具に興味のない方には恐縮だが、少し入り込んで解説してみたい。また、これは同社のオフィスに込められた想いと通じるものがあると考えるためだ。
「スツールE60」の形をしたスツールは低価格で販売されている(写真左奥のものはそのタイプ)。アアルトのチェアはその原型と言えるもので、形はとても似ているが、両者に使われている技術は異なる。「スツール60」の脚の曲げた部分は、通称、アアルトレッグと言い、無垢の木を曲げる特殊技術でできている。安価なほうは、曲げた部分に、成形合板という合板を曲げて作る技術を使っていて、これはこれで1940年代の最先端技術だったのだが、その後一般化して、学校の椅子など幅広く使われるようになった経緯がある。他方、アアルトレッグについては、今も職人技として存在している。
木材は、軽くて丈夫で、切る、削るといった加工が容易という性質からさまざまな家具に使われるが、曲げに関しては苦手で、無理に曲げようとすると折れてしまう。それが20世紀中ごろ、成形合板技術が生まれ、木材を自在に曲げて成形することができるようになった。この技術革新によりさまざまな木工家具が生まれた経緯がある。例えば、イームズのラウンジチェアDCM(1946年)、柳宗理(天童木工)のバタフライスツール(1954年)などが有名だ。身近なところでは、イケア(IKEA)の人気商品ポエング(1977年)もその流れに連なっている。
余談だが、木を曲げる技術については、成形合板が生まれる前からも存在している。19世紀のヨーロッパのカフェで多く使われていた曲木椅子(トーネットNo.14)は、19世紀中ごろ、ドイツのミヒャエル・トーネットによって生み出されている。ブナ材を高温の釜で蒸して柔らかくなったところを曲げる製法で、これにより軽くて丈夫な椅子が作り出されるようになった。ただ、この技術はある程度細い棒を手作業で曲げているため、成形合板のように量産するものではなかった。
というように、歴史をひも解くと、平凡な椅子に見えるが、実は名作デザインチェアで、長年の工夫の末に、今から半世紀以上前に名デザイナーの手によって生み出され、一方は普及していくことで身近な技術となるに至っていると分かる。うがちすぎかもしれないが、同社の新オフィスへの想いである「最先端のテクノロジーやノウハウと、時を超えて愛される良質なデザインを両立させ、イノベーションを起こし続けたい」ということの1つの表れに思える。会社は、オフィスを通じて、何を社員にメッセージとして伝えようとしているのか?を考えるのも面白いかもしれない。
さて、本線に話を戻すと、
窓を開けて撮影。
窓から見えるのは、東京タワーの脚。パノラミックな風景も楽しい。
シアタールームでは、大勢が集まる会議に使われたりするが、それ以外にも、勉強会、セミナーにも使われる。また、終業後などは同社のクラブ活動の場にもなっている。映画クラブの映画鑑賞や、防音になっていることを活かして軽音楽部の楽器練習も行われている。
オフィスにシアタールームを設けた狙いは、会議室が会議でしか使われないのはもったいないというところから、多目的に使えるよう、社員総会から、勉強会、セミナー、あとは部活動にも使えるようにしたとのこと。
それでは執務エリアメインとなる5階へ進んでいきたい。
5Fのオフィスフロアへ
こちらは1フロアすべて同社のオフィスとなり、505平方メートルの広さがある。 中へ入ると、
オシャレなカフェ空間が広がっている。
ここから先は後編にて!
「ビジネスチャットサービス国内最大級「Chatwork」を提供するChatwork株式会社の東京オフィス [後編] (オフィス訪問[2])」
2004年設立。国内最大級のビジネスチャットサービス「Chatwork (チャットワーク)」を開発・提供して成長中。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の写真を除く)
取材日:2018年5月11日, 2019年1月29日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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