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組織に横串を通し、縦組織のくびきからの脱却を図る株式会社ドームの「プロアクティブマトリックス」とは(オフィス訪問[3])

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組織に横串を通し、縦組織のくびきからの脱却を図る株式会社ドームの「プロアクティブマトリックス」とは(オフィス訪問[3])

(写真は株式会社ドーム 有明HQ内のプロアクティブコアボックスのひとつ)


株式会社ドームの本社オフィスは以下の記事で紹介した。

オフィステーマは「コンバット&リゾート」!アンダーアーマーを国内展開する株式会社ドーム 有明HQオフィス(約15,000平米)に行ってきました【前編】(オフィス訪問[1])


オフィステーマは「コンバット&リゾート」!アンダーアーマーを国内展開する株式会社ドーム 有明HQオフィス(約15,000平米)に行ってきました【後編】(オフィス訪問[2])


中でも、2017年5月に完成した同社オフィス二期工事のテーマである「プロアクティブマトリックス (Proactive Matrix)」と、それを具現化している「プロアクティブコアボックス(Proactive Core Box)」について掘り下げてみたい。



■「プロアクティブコアボックス(Proactive Core Box)」とは

「プロアクティブコアボックス」は、同社独自の設備で、執務エリア内に作られたプロジェクト専用の部屋である(一部、例外はある)。

(写真は株式会社ドーム 有明HQ内のプロアクティブコアボックスのひとつ)


「プロアクティブコアボックス」は、同社独自の設備で、執務エリア内に作られたプロジェクト専用の部屋である (一部、例外はある)


既存の部署という縦組織に対して、部署や年齢や役職がさまざまなメンバーを集めたプロジェクトが活躍しやすいように作られた専用の部屋で、プロジェクトごとに常設で割り当てられている。


プロジェクトチームは既存の組織を縦のラインとすると、横串になる。そのため、同社の組織は、縦の組織と、プロジェクトチームの横串を合わせて、マトリックス状組織を取っていて、それを「プロアクティブマトリックス (Proactive Matrix)」と呼んでいるのだ。



■プロアクティブマトリックスとは?

そこで、まずは、「プロアクティブマトリックス」について、同社 社長室 経営企画部 経営企画チーム 那須 歩 氏に伺った。



2017年5月に完成した、有明HQオフィスの二期工事のテーマが「プロアクティブマトリックス」です。縦の組織に対して横串を通す、という狙いがあります。


事業運営上、効率化された縦の組織運営は必要なのですが、他方、事業成長には部門や役職、年齢といった垣根を超えたフラットなコミュニケーションが必要になります。そこで、私たちは、縦の組織をベースに、プロジェクト単位で横串を通す、マトリックス状の組織運営を行う取組みをしています。


特に二期工事では、そのプロジェクト単位の部屋を大幅に拡充するという意味で、「プロアクティブマトリックス」をテーマに、コアボックスという、プロジェクト単位で物理的に部屋を持てるようにしたものが「プロアクティブコアボックス」なのです。


「プロアクティブコアボックス」は、執務エリア近くに設置していて、基本的には、プロジェクトに割り当てられる常設の執務室になります。一部、部門で持っているケースもあります(経営企画チーム)など。


(同社 那須氏)



同社の場合、営業本部、マーケティング本部、サプライチェーン本部、コーポレート本部といった職能部門系の組織を持ち、それに対して横串を通すようにプロジェクトが存在する形になる。


プロジェクトに所属する社員は既存の組織とプロジェクトの組織の両方に所属することになる。こうしたマトリックス組織の場合、片方には物理的な場所はなかったりすることが多いが、同社ではそこに物理的に部屋を与えることで、そこがコミュニケーションの場になるように作り上げたということになる。



■縦組織に横串を通す狙い

こちらではプロアクティブコアボックス内で、壁全面のホワイトボードを使って議論中。ホワイトボードや大型モニターなど会議に必要な設備が整えられている。

こちらではプロアクティブコアボックス内で、壁全面のホワイトボードを使って議論中。ホワイトボードや大型モニターなど会議に必要な設備が整えられている。



プロジェクトは社内の各部署から年齢、役職がさまざまなメンバーが集まった部門横断的な組織になっていて、縦組織からくる弊害を脱却させる狙いがあります。


常設の部屋があることで、そこを自由に活用して、垣根を超えたコミュニケーションをすることができ、チームで打ち合わせが必要な時にはいつでもすぐに集まって話し合いができるようになりました。プロジェクト専用の場所なので資料などを毎回片付けなくてもいいというのも大きな利点です。


また、縦組織のくびきを脱却する狙いですので、コアボックス自体は、オープンな作りになっていて、ブレストしているところに外から参加したりできるようになっています。プロジェクトメンバーではなくても、薄く関係している社員が入ってくることができるのです。例えば、社内を歩いている社長の安田がふらりと立ち寄って参加することが結構あります。


(同社 那須氏)



話を伺うといろいろなポイントが浮かび上がってくる。



・年齢や役職の垣根も超えたフラットなコミュニケーション

一般的に、こうした社内横断的なプロジェクトというのはどこの企業にも見られるのだが、割合と元部署の役職などを持ち込んでしまうのが通常だ。


ところが、同社は明確に「縦組織のくびきを脱却する」ということを打ち出していて、年齢や役職の垣根をも超えたコミュニケーションを狙っている。だからこそ、プロアクティブコアボックスには、どこにも上長席はなく、フラットな席しかない。


つまり、プロアクティブコアボックスに来たら、そこでは年齢や役職や部署などをいったん超えてフラットな状態でコミュニケーションをして、ビジネスチャンスを獲得していくことを意図している。そのあたりが、従来からあるマトリックスという言葉に対して、同社独自の「プロアクティブ (Proactive)」という、「積極的な」という意味を頭に付しているように思われる。



・フルオープンで誰もが入ってこれる部屋づくり

プロジェクト専用の部屋といってもクローズドにしてしまわず、執務席側に対してガラスも何もないフルオープンな環境にしていることも特徴的だ。ここは社内秘密プロジェクトを行う場所ではなく、あくまで縦組織に横串を通すという組織の風通しや機能性を高めるための仕掛けだからだ。


プロジェクトルームをクローズドにすると、今度はこちらの風通しが悪くなってしまう。ゆえに、プロアクティブコアボックスは絶対にオープンでなければならない。そして、横串でコミュニケーションを自由にフラットに行うための場所なので、メンバー以外も話し合いに気軽に参加できるように作られているというわけだ。



・必要な時にすぐに話ができるハドルルーム機能

プロジェクト専用の常設部屋ができることで、必要な時にメンバーがすぐに集まって話ができるというのも、効率的な働き方を追求する同社ならではの取組みだ。アメリカンフットボールの試合中のハドル(huddle)(*1)の機能を持たせている仕掛けだ。


*1) 「ハドル(huddle)」について
アメリカンフットボールの試合中に、選手が数十秒間集まって、短時間で作戦会議を開くことを指す。ビジネスでも、そうした短時間の作戦会議のためのミーティングをアメフトにちなんで「ハドル」といい、そのための部屋を「ハドルルーム」ということが多い。以下の記事に詳しい。
究極の短時間ミーティング環境、アメフトのハドルが由来「ハドルルーム」とは? (バイオジェン・ジャパン株式会社 オフィス訪問[4])newwindow


このように見ていくと、従来考えられているような架空的なマトリックス組織ではなく、秘密主義に陥りがちなプロジェクトチーム体制でもなく、同社独自のユニークな、縦組織に横串を通すという狙いが貫かれた仕組みが「プロアクティブマトリックス」というテーマに込められていることが見えてくる。




■プロアクティブコアボックスは執務席周囲に配置

そして、プロジェクト用の部屋であるプロアクティブコアボックスが、執務席周囲に配置されていることも大きな意味がありそうだ。


それをもう少しわかりやすいよう、同社4階のフロア半分を移した写真に、色分けしてみた。

そして、プロジェクト用の部屋であるプロアクティブコアボックスが、執務席周囲に配置されていることも大きな意味がありそうだ。

青色に塗った写真中央の部分には、部門単位の縦組織を反映する執務席になる。それに対して、赤色に塗った写真の左右の部分、フロア両サイドに、横串となるプロジェクト用の部屋であるプロアクティブコアボックスが配置されている。



プロアクティブコアボックスは執務席側に開かれた形で置かれていることが分かる。 このようにプロアクティブコアボックスは執務席に近いので、関係する社員は、何か打ち合わせがある場合、すぐに執務席からプロアクティブコアボックスへ行くことができる(別フロアに自席がある場合もある)。また、通路を歩くと、コアボックスに誰がいて何をやっているのかすぐに分かるオープンな環境になっている。


ただ、それだけではない。こうして色分けして見ていると、どうもオフィス全体が、サッカーやアメリカンフットボールのフィールドのように見えてくる。おそらく、それは壁面に設置された大型マルチスクリーンの存在も一役買っている。


同社のプロアクティブマトリックスという考え方は、聞いただけでは取材者には少しピンと来なかったのだが、この執務フロアの物理的な配置を子細に見ていくと、フロアの中で縦と横というマトリックス組織を可視化した形になっていることが具体的に浮かび上がってくる。



フロアを一望すると、誰がどこにいて、どう動いているか見える。これは、まるでサッカーやアメリカンフットボールの試合でフィールド内に駆け回る選手を監督が把握するかように、企業内の人の動きがフロアの端に立っている指揮官から把握できる壮大なオフィスの仕組みなのではないだろうか。


最近はIoTのセンサーを使って企業内の人の動きを計測し、コミュニケーションや交流を調べるというようなテクノロジー寄りの研究が多く行われている。それらについて取材者は読んだことがあるが、そうしたセンサーではなくて、このように物理的に配置することで、可視化する方法があるということを気づかされた。


同社の社内広報誌「Dome Journal (ドームジャーナル)」vol.33 (*2)には、同社代表取締役社長 安田 秀一氏による「プロアクティブマトリックス」導入について語るシーンがある。その中にこんな一節がある。



「仕事」は過去も未来もあらゆる要素が複雑怪奇に絡み合う大変厄介なシロモノです。そんな複雑さを研ぎ澄ましてシンプルにしていくことが生産性を高めるカギになります。


(同社代表取締役社長 安田 秀一 氏)



*2) 「Dome Journal (ドームジャーナル)newwindow
同社が年4回発行する広報誌。ウェブ上でもデジタル版を読むことが出来る。



これはまさに、仕事における人の働きの複雑さをシンプルに可視化した姿ではないだろうか。そのように見えてくると、同社のオフィスが天井高く、広々とデスクが配置されているのも、納得が行く。ここはまさに試合を行うフィールドなのだ。


目線より高い位置に大型マルチスクリーンが配置されている理由も分かる。社員の方は同社のフィールドに立つ選手たちであり、目線を上げ、マルチスクリーンからの情報を得て、仲間たちと協力しあい、フィールドを縦横自在に駆け回ってプレイする場所としてオフィスが作られているように思えてならない。


いや、これはすべて取材者の思い過ごしかもしれないが、同社には、そうした社員の皆さんを癒すための、世界一パワーが入るカフェ、仮眠のためのドック、美容院があり、鍛えるためのスタジオ、トレーニングジムがある。選手(社員)たちが最高の活躍をするための場所とサポート体制が整えられているとも言える。同社の快進撃はこうしたところにも理由があるのではないかと思えた取材だった。










取材先

株式会社ドームnewwindow

「スポーツを通じて社会を豊かにする」というミッションを掲げ、「アンダーアーマー」正規日本ライセンシーとしてスポーツプロダクト事業を展開、ほかにアスレチックテープを始めとするスポーツメディカル商品「ドームメディカルライン」、スポーツサプリメントブランド「DNS」、アスリート専用のトレーニング機関「ドームアスリートハウス(有明・いわき・北谷)」運営など、スポーツに関するコングロマリットとして現在、急成長を続けている企業。社員数は339名 (2017年1月末現在)、売上高422億円(2016年度)。





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2017年8月10日




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