(株式会社ポニーキャニオン 総務人事本部総務部長 古宇田 隆之助さん)
こちらは「虎ノ門から六本木一丁目に移転!音楽・映像大手 ポニーキャニオンの新オフィスへ行ってきました (オフィス訪問[1])」の続きです。
「コミュニケーションからのイノベーション」というテーマを掲げて推進した、ポニーキャニオンのオフィス移転プロジェクト。
どのようにしてプロジェクトは進められていったのか、プロジェクトリーダーを務めた 古宇田 隆之助さん(同社総務人事本部総務部長)にお話を伺いました。
――今回のオフィス移転のきっかけを教えてください。
移転前は虎ノ門で11階建てのビルを一棟借りしていました。21年いたのですが、縦に長く、部署間のコミュニケーションには課題を感じていました。虎ノ門エリアの再開発をきっかけに移転を決めましたが、ポイントとしては、フロア面積が広く、同じように一棟借りできる物件を探しました。
泉ガーデンアネックス外観 画像: 同社提供 (※)
――そのコミュニケーションの課題が、移転のテーマ「コミュニケーションからのイノベーション」になったのですね。
コミュニケーションを活性化し、新しいものを生み出していこうというテーマでした。イノベーションはコミュニケーションがないと生まれないというのが、経営者としての考えでした。
――プロジェクトチームの立ち上げは。
物件が決まったのが2018年8月、プロジェクトチームを結成したのは9月27日です。総務のコアメンバー以外に各部門から11名のメンバーに参加してもらいました。移転したのが5月7日ですから、7か月強という短い間で様々なことを決めて進めていったことになります。メンバーに積極的に意見を出してもらい、予算を見ながら実現できそうなものを組み立てていきました。
――プロジェクトはどのように進めていったのですか。
各部門からマストなことを2つ挙げてくれと。これは絶対必要だ、この部門としてはこれがマストだということを2つずつ。
全社員を対象にアンケートを行って、どうしても欲しいマストなポイントを2つ、マストではないけど欲しいポイントを3つずつ挙げてもらいました。結果的には、マストで挙がったものは、共通するものが多かったこともあり、全部実現していますし、あったらいいなというポイントも極力形にしていきました。
――かなり短い期間で大変だったと思います。
年内には各フロアの壁位置やおおよそのレイアウトを決め、2月には家具・備品他と一斉に発注するというスケジュールでした。並行して、総務、代表、あと数名のコアメンバーで骨組みを決めていきました。それに加えてプロジェクトメンバーが色々なことを具体的に写真つきで提案してくれたので、デザイナーさんとのやりとりもスムーズでした。
――社員からは、どんな要望が多かったのでしょう?
ひとつは食事ができるラウンジでした。移転前の虎ノ門は再開発のために飲食店も減り、社員は皆コンビニで食事を買って自席で食べていました。そのため、きちんと食事できる場所が社内に欲しいという要望が多かったんですね。それが4階のラウンジが生まれるきっかけになりました。いろんな部署の人間が集まってコミュニケーションが生まれる場所です。
(同社4階のラウンジ)
――単に食事がとれるというだけでなく、社員が集まる場所になったわけですね。
それはすごく大きかったですね。ここは弊社の子会社が全面的にプロデュースしてくれて、デザイナーさんともうまくリレーションをとりながら、プロジェクトメンバーの声も聞きながら形にできたスペースですね。
――テーマであるコミュニケーションを軸に、皆さんの意見が結晶した象徴的なスペースだと思います。
確かにそうですね。本当にいいところができたと思いますし、実際に様々な使われ方をしています。
たとえば、ラウンジにパソコンを持ち込んで海外とスカイプ会議をしている社員がいたりしますし、弊社のエリアアライアンス部が沼津市とタッグを組んでPR事務局を置いているのですが、沼津市長をお呼びして3階のイベントスペースで発表会を開いた後、ラウンジで沼津のおいしいものをランチメニューにしました。当初から、エリアアライアンス部のお手伝いで使われることを理想としていましたので、とてもうれしかったです。
部署の懇親会もOKにしていますので、時間やごみ等のルールを守って、楽しんで使ってもらえるエリアになってほしいと考えています。
(ラウンジのカウンター席、ソファ席)
――コミュニケーションということでは、どんな課題があったのですか。
移転前のオフィスは縦に長く、フロア内には軽く打ち合わせできる場所がありませんでした。そこで、打ち合わせが簡単にできる場所も欲しいという要望が多かったですね。フロアごとに会議室が欲しいという声がありました。
――フロアをまたぐ打ち合わせが多かったと。
例えば音楽部門と映像部門、アニメーションの部門と映像の部門がタッグを組んで取り組むこともあります。そうするとフロアをまたいで行き来しなければならず、面倒だったのですね。そこで、社内打ち合わせ用として、各フロアにガラス張りの打ち合わせのコーナーを設けました。また、各フロアにコラボレーションスペースを設けて、自由に使えるようになっています。
(各フロアにある社内用の打合せコーナー)
(各フロアにあるコラボレーションエリアのテーブル席とカウンター席)
(各フロアにあるコラボレーションエリアのソファ席)
――社外の方との打ち合わせも多いのでしょうね。
そうだと思います。ただし、セキュリティ面を考慮すると、執務エリア内に社外の方を入れるわけにもいきません。取引先の会社では会議室を別エリアに設けているという指摘がプロジェクトメンバーからもあり、3階に会議室エリアを集約することになりました。会議室の予約システムもマストな要望事項でした。
(3階 商談エリア 各部屋には予約システムが装備されている)
――ほかにはどんな要望がありましたか。
大量のサンプルDVDやCDを発送する作業などが定期的にあり、段ボールで梱包したりもします。そういった作業をする場所を執務スペースとは別に用意してほしいという要望がありました。
とくに5階では、お客様に直接向き合うBtoC部門と、お店や配信業者さん他と向き合うB to B部門があり、どちらもかなり細かい作業をしています。たとえばBtoCのコンシューマービジネス本部では、お客様へ商品を手配したり、商品交換の作業、BtoBのマーケティング本部ではお店にポスター等の告知物などを送ったりというようなことですね。
あとはデスクを広くしてほしいといった要望がありましたね。デスクは、移転前は横100cm×奥行き60cmでしたが、今は120cm×70cmと大きくしています。あと椅子の要望も多く、プロジェクトメンバーと一緒に家具メーカーに出向き、実際に触ったり座ったりして決めていきました。
(執務デスクは、コクヨ サイビTX。チェアはコクヨ イング。)
――昇降式デスクも導入された。
経理や法務の内勤部署では、基本的には座りっぱなしなので、昇降式のデスクが欲しいという強い要望がありました。予算の都合上1台だけですが、要望通り入れました。
あと要望が多かったのは、イベントスペースのステージ裏に楽屋(アーティストルーム)を作ってほしいというものでした。移転前は会議室でメイクや着替えをしていたので、このオフィスのアーティストルームは念願のものになりました。
(イベントスペース裏に設けられたアーティストルーム)
――イベントスペースは、イベント以外にもコミュニケーション機能があるとのことですが。
イベントスペースは、移転前にもあったのですが、それを面積も広げてグレードも上げようと考えました。あの場所はいろいろな方が来て、打ち合わせもできるし、各種イベントや全体会議もできるという機能があります。そこで、社外の人や一般のお客様も入れるように、セキュリティエリアから離して3階にしました。
(3階イベントスペースのステージ)
――プロジェクトを進める上で、悩んだことはありましたか。
ひとりで集中できる場所が欲しいとか、いろんなところで打ち合わせをできるようにしてほしいとか、会議室にはモニターがマストだとか、ホワイトボードも必要だとか、じつにたくさんの要望が出ました。動きやすい規模感の提案も多く、予算を見ながら実現できそうなものを組み立てていきましたが、やはり調整には苦労しました。僕も現場のひとりですから、みんながやりたいという気持ちもよくわかる。しかし経営側の意向も明確にありますから、両者をうまく繋げるために知恵を絞りました。
(執務フロア窓際に設けられたスペース)
――最終的にデザイン会社と向き合っていかなければならない立場ですから、大変ですね。
それでも、このメンバーがいなかったら決まらなかっただろうことはたくさんあります。デザイン的なことが好きで様々なアイディアやこだわりを持つメンバーが多かったので、こんなスペースが欲しいというのとは別に、雰囲気に関してもはっきりした意見を持っていましたから、いろいろなポイントで声をあげてもらったことは本当にありがたかったです。
デザイン会社さんも、前向きにわれわれの声を聞いてくれました。デザイナーさんにもプライドや思い入れがあったと思いますが、最大限寄り添ってくれて、形にしてくれました。
――移転後の社内の反応はいかがですか。
全体的には良好ですが、当初は、これはどこに置くのか、これはどうするのかといった電話がたくさんあり、大変でしたね。不便も起こり、日々解決している状態です。
たとえば、執務エリアでは個々のごみ箱を廃止して、専有部分に集約したのですが、用意していたごみ箱が小さかったということもあり、簡単にごみを捨てられないという不満が起こってしまいました。トイレも、移転前はペーパータオルだったのでゴミ箱が備え付けられていたのですが、このビルではエアタオルなのでごみ箱がなくなってみんな困ったり。前はあったものがここにはない、という不便があり、慣れてもらうことも大事ですが、解決できることは解決しています。ようやく最近は落ち着きました。
――想定していなかった使われ方をしていることもありますか。
結構いろいろな要望が来ています。4階のラウンジに一般のお客さんを入れてムーディな感じで試写会をしたいとか、イベントスペースの使い方を広げたいとか。ちょっと想定の上をいく要望が来ますので、戸惑ったり考えたりしながら、ルール作りを続けています。
――ポニーキャニオンの社員の発想力が豊かということかもしれませんね。
それはあると思いますね。移転して総務の仕事は範囲が広がり、物量的にも増えたのですが、すごくやりがいもあり、みんなで楽しんでやれているのでよかったと思っています。現場が喜んでくれるなら何も言うことはありません。総務冥利に尽きるといいますか。
――フリーアドレスを導入する企業が多い中、御社で検討されなかったのはなぜでしょうか。
同業他社などにもヒアリングした結果、最初の段階でフリーアドレスは考えないという明確な方針がありました。
社の社員を見ると、自席でしっかり仕事をしたいという、帰巣本能が強いような働き方をしているんです。在席率は、部門によりますが、7階はプロデューサー、ディレクター、プロモーターの外出率が高く、イベントチームも出払うことが多いので在席率も低いと思います。4階、5階の制作部門は社内での作業者が多いので、在席率は高いですね。
――制作部門を大事にされていることから、フリーアドレスを導入されなかった。
おっしゃる通りだと思います。
――ポニーキャニオンの仕事は、昔とはだいぶ変わったのでしょうか。
音楽もCDから配信に変わるなど、時代とともにコンテンツの売り先が変わり、向き合う相手が変わり、体制も変化しました。もともとはレコード会社でしたが、映像や映画、アニメがついてきて、今ではライブや地域協業の部門がついて、時代の流れとお客様の要望にあわせて拡大してきた会社です。レコード会社でもなく、映画会社でも、アニメ会社でもない。特定のジャンルにとらわれない総合エンターテイメント企業として、この規模の社員が集まっている会社は他にはないと思います。
そうすると、おのずからすごく個性がある人間が集まることになり、会社としては、そういう個性が交わることでイノベーションが起きることを期待しています。失敗を恐れずにどんどん面白いものに挑戦して形にするというのが、当社の社内文化ですね。
――働き方改革の取り組みはいかがでしょうか。
ここ数年、様々な取り組みをしてきました。残業削減のためにも大小様々な取り組みをしています。今年は、2020年オリンピックに向けた総務省のテレワークデイズに参加しました。テレワークは来年のうちに制度化したいと思っており、外勤の人間にはポケットWi-Fiを支給していますし、各部門ではテレワークに向いている仕事を選別しているところです。システム部門でも、自宅から会社のパソコンをリモートで操作できる仕組みなどインフラを整えています。
また、ペーパーレスも促進していきます。デスクトップパソコンがまだ社内にかなり残っており、その使用者が参加する打ち合わせは必然的に紙資料が多くなります。徐々にノートパソコンに変えていき、紙を減らそうとしています。
全社員の要望や意見を背景にしたプロジェクトメンバーの独創的な意見と、古宇田氏をはじめとする運営側のコアメンバーの粘り強い努力で、創意あふれる素敵なオフィスが誕生しました。その根底には、会社を成長させるイノベーションはコミュニケーションからこそ生まれると信じる強い信念がありました。心躍る数々のエンターテインメントが、クリエイターとそれをサポートする人々のコミュニケーションから生み出されていることを感じました。
ポニーキャニオンは1966年10月、ニッポン放送のグループ会社として誕生。1970年には、㈱キャニオンレコードを設立、電機メーカ―系のレコード会社が多かった時代にフジサンケイグループというマスコミを背景に設立されたユニークなレコード会社でした。同時期に情報時代の新製品・ビデオソフトに着目、他社に先駆けて発売を開始します。80年代には音楽パッケージがレコードからCDへと変化、音楽・映像共にパッケージ売上が急激に伸長しました。映像作品のデジタル化が始まった90年代後半には、世界初となるDVDソフトを、2006年には日本初のBlu-ray作品を発売します。一方で2000年代初頭には映像・音楽の配信ビジネスをスタート.そして現在、音楽・映像という枠組みにとらわれないコンテンツの充実と事業を推進し、総合エンタテインメント企業として様々な分野にチャレンジしています。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2019年8月20日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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