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各事業部のデザイナー職を1か所に集め、シナジーを狙うオフィスづくり (株式会社丹青社 オフィス訪問[3])

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各事業部のデザイナー職を1か所に集め、シナジーを狙うオフィスづくり (株式会社丹青社 オフィス訪問[3])

株式会社丹青社のオフィス


※前後編記事 後編はこちら「固定席、フリーアドレスに足りないものを補完するコリドー(回廊)で囲んだオフィスづくり (株式会社丹青社 オフィス訪問[4])



オフィス移転をきっかけに、執務席を従来の固定席のままにするか、それともフリーアドレス化を図るかというのは総務担当者にとって悩ましい問題だ


今回取材した、内装ディスプレイ大手の株式会社丹青社では、2015年のオフィス移転に際して、営業職、制作職をフリーアドレスに、デザイナー職には固定席を導入した。


その導入の狙いや工夫について、同社クリエイティブ局 プリンシパル クリエイティブディレクター 上垣内 泰輔 氏と、同社 経営管理統括部 総務部 総務課 徳丸 雄介氏に話を伺った。



(本稿では各事業部に分かれていたデザイナーを1か所に集めシナジーを狙った経緯についてまとめた。)



■各事業のデザイナーを1か所に集める

同社クリエイティブ局 プリンシパル クリエイティブディレクター 上垣内 泰輔 氏

(同社クリエイティブ局 プリンシパル クリエイティブディレクター 上垣内 泰輔 氏)



設計者の観点から言うと、移転に際して当時の社長から、とにかく社員をワンフロアに入れたい、特に設計を担当するデザイナーを事業部ごとに分けないで、一括して固めることでデザイナー同士のコミュニケーションを取りたいという方針があったんですね。


丹青社は、内装ディスプレイを数多く手がけていますが、分野ごとに4事業部に分かれています。商業空間・ホテル・オフィス等を対象とする事業部、ショールーム・イベント空間等を対象にする事業部、チェーンストアを対象にする事業部、博物館・美術館等の文化空間を対象にする事業部となり、それぞれに設計・制作・営業、と分かれてたんです。移転前は、上野の自社ビルを中心に17ものフロアに、事業部ごとに分かれている状態でした。


そのため、設計を担当するデザイナーも事業ごとに分かれて配置される体系的な組織に沿ったレイアウトになっていたのですが、全事業部のデザイナーを、広いフロアの中でも、まとめて配置することで、横のつながりとコミュニケーションをうまく活用して事業シナジーを出していこうというアイデアでした。


(同社クリエイティブ局 プリンシパル クリエイティブディレクター 上垣内 泰輔 氏)



■デザイナーが集められたエリア

デザイナー席エリア。固定席が採用されている。ここに全事業部のデザイナーが集まっている。

デザイナー席エリア。固定席が採用されている。
ここに全事業部のデザイナーが集まっている。


執務席は、幅1,400mmと広めのデスクを採用。自席で集中作業ができるよう、座ったときに目線が隠れる程度の高さにしたローパーティションで囲われている。

執務席は、幅1,400mmと広めのデスクを採用。自席で集中作業ができるよう、座ったときに目線が隠れる程度の高さにしたローパーティションで囲われている。



■席を近づけることで生まれるコミュニケーション

オフィスの移転によって、それまで自社ビルを中心とした複数ビルの多フロアに事業部単位で展開していた本社を、1フロア約1,500坪(5,000平方メートル)の広大なオフィスビルの1フロアと直上階の一部に集約移転した同社。その大きな狙いは、ワンフロア化によるコミュニケーションの活性化と、コラボレーションから生まれるシナジー効果という。

(同社 上垣内氏)


オフィスの移転によって、それまで自社ビルを中心とした複数ビルの多フロアに事業部単位で展開していた本社を、1フロア約1,500坪(5,000平方メートル)の広大なオフィスビルの1フロアと直上階の一部に集約移転した同社。その大きな狙いは、ワンフロア化によるコミュニケーションの活性化と、コラボレーションから生まれるシナジー効果という。


特にデザイナー職については、組織体系としては事業部制組織ながら、1か所に集まることで、ノウハウの共有などの職能別組織的な機能を持たせるオフィスレイアウトとなっている。



ちょうど上野から品川へオフィス移転するころに市場の変化があったと思っています。我々の事業部制の間にあるような市場からの注文が増え始めていたんです。


例えば、クライアントのメーカー企業が、エンドユーザーとのタッチポイントを増やしてメーカー企業の商品のファンになってもらう機会を増やすために、展示会をやりながら、そこでカフェをやるようなケースです。展示会を得意とする事業部と、カフェづくりを得意とする事業部は組織は違いますが、クライアントの課題解決のために部門横断でチームをつくり、ひとつのプロジェクトに対応していきます。我々の事業部の間に属するような、ニッチな依頼が入り始めた時期だったのです。


移転前は、17ものフロアに分かれた各事業部のデザイナーやクリエイティブ職の人たちが、情報交換しながら、それは僕の仕事なのかな、あっちの事業部のメンバーの方がいいのかな、もしくは一緒にやったほうがいいのかな、みたいなことを考えながらベストなチーム編成を模索しながら仕事をしていて、それがちょうど移転を検討していたころだったんです。


デザイナーなどのクリエイティブ職が固まって近くで仕事をしていると、誰がどんな仕事をやっているかが近くにいるので分かってくるんですね。デザイナーが各フロアに分散していたときだと、隣の事業部の仕事ぶりが見えづらい中で、たぶんこんなことやっているんだろうなというイメージだけで、突然コミュニケーション取るのは難しかったんです。


でも、近くで仕事をしていると、あの人と仕事したらこういういい提案ができるんじゃないかみたいなことを発想できるようなフィールドができました。具体的にどこかでオフィシャルなコミュニケーション会をやってるとかそういう感じではないんですけども。席が近くにあることで、人の顔を知り、その事業部が何をやっているかということを何となく知って、インフォーマルなコミュニケーションができるきっかけになったと思うんですよね。


そこは当社の事業戦略にもマッチしたんだと思います。それが移転時のコンセプトである「未来創造拠点」(*1)に含まれていることではないかなと。


(同社 上垣内氏)


*1) 未来創造拠点
丹青社が2015年9月に上野から品川へ移転した際のオフィスのテーマ。
「ワンフロアに事業部門を集約し、人と人の物理的な距離を縮めることによって新たなコミュニケーションやコラボレーションの構築を図っています。フリーアドレスやシフト勤務制の導入など、多様な人材が働きやすく、能力を発揮できる場を創出しています。社員と、来社されるお客さまのことを想って自社設計された新オフィスは空間づくりの会社らしいアイデンティティがあり、機能性が高く、清潔で見晴らしもよく、はたらいていて気持ちのよい空間となっています。」(括弧部は同社パンフレットより引用)



■移転を機にフリーアドレスを導入

同社内フリーアドレスエリアで、連結タイプのデスクのエリア。

同社内フリーアドレスで、連結タイプのデスクが配置されているエリア。


移転を機に、営業職、制作職等ではフリーアドレスが導入されている。座る席については、事業部や部門ごとに大まかにエリアが決まっているが、そのエリアについては明確な線引きをせず、ゆるやかに定めてあり、ある種のグループアドレス制となっている。



デスクは変化がつけられ、いくつかの種類が用意されている。こちらはおにぎり型のデスク。モニターも装備されている。

デスクは変化がつけられ、いくつかの種類が用意されている。こちらはおにぎり型のデスク。モニターも装備されている。


2~3人で集まって相談しながら仕事をするのに便利な仕様だが、広く作業スペースを使いたい場合に1人でデスクを広く使うケースもある。



このフリーアドレス化についても、先ほどの上垣内氏に狙いを尋ねた。



デザイナーは1か所に集めて固定席にして横串のコミュニケーションを充実させることになりました。そうなってくると、それ以外にもう1つの問題としては、1フロア約1,500坪もあると言っても、どんどん新入社員が入ってくる中で、オフィスレイアウトをどのようにやり繰りしていくか、ということがありました。


また、働き方についても、例えば、育児休暇から復帰してきた女性社員が短時間勤務やシフト勤務を活用して戻ってこれるようにしていく、介護があって在宅勤務をしなければいけない方が働きやすいようにするなど、それぞれのライフステージに合った働き方で仕事が続けられるように、いろいろな勤務形態を取り入れてきました。


こういった状況の中、何とかこの本社のワークエリア内で、社員が集まって仕事ができる場所として成立させなければいけないということで、フリーアドレスを導入することになりました。


フリーアドレス化と同時にシフト勤務などの勤務体制も整備しています。制作担当者は夜に工事ということも多いんです。夜の工事になって、昼間に会社の生活があると睡眠時間が確保できない、プライベートの時間が割けなくなるという働き方の問題が移転前にはあったので、そこをシフト勤務にすることで、夜に働く人は昼間休んでいられるようになりました。それで我々の制作担当はだいぶ理想に近づいたと思います。あとは出産後に復帰した女性社員も、短時間勤務・シフト勤務・在宅勤務等を利用できることで、非常に働きやすくなったと思います。


(同社 上垣内氏)


いろいろな勤務体系に変更するため、同社では移転に際して、大幅なペーパーレス化とノートパソコンへの切り替えと、クラウド化を進めている。また社員間や社外との連絡も社員に貸与しているスマートフォンで行うスタイルだ。



■フリーアドレスで不足するもの、固定席に不足するもの

デザイナー職を1か所に集めて横串のコミュニケーションを強化し、営業・制作職にはフリーアドレス化と勤務体制の変更で、キャパシティの問題と、柔軟に働ける体制へと移転で変化した同社であったが、オフィス環境づくりとしては不足するものがあったという



フリーアドレスの良さは、自分の執務場所が固定しないので、営業・制作職の人たちは執務エリアがコミュニケーションエリアにもなります。ということは集中作業をするエリアが、執務場所のほかに必要なので、それが「コリドー(回廊)」の役割になりました。


また、デザイナー職のほうは、それぞれの執務席が固定なので、そこが個々の集中するエリアになります。とすると、コミュニケーションを取るエリアが必要なので、それが「コリドー(回廊)」になりました。


だから、フリーアドレスのところと固定席のところで、「コリドー(回廊)」の関係が逆転しているんですよ。それを1つのデザインとして統一しているというのが大きな設計意図です。


(同社 上垣内氏)



フリーアドレスでは、執務スペースがコミュニケーションもできる環境になる代わり、集中作業する場所が不足する。集中できるようにパーティションで囲った固定席側では、逆に、コミュニケーションスペースが不足するということで、伺ってみるとなるほどといえる話で、その不足を補うようにコリドー(回廊)という仕掛けが同社には作られた。



そのため、同社のオフィスレイアウトは、「コリドー(回廊)」が特徴的な構造になっている。そこを次稿で詳しく解説してみたい。


次に続く

固定席、フリーアドレスに足りないものを補完するコリドー(回廊)で囲んだオフィスづくり (株式会社丹青社 オフィス訪問[4])










取材先

株式会社丹青社newwindow

商業空間・イベント空間・文化空間等のさまざまな空間づくりをおこなっているディスプレイ業界大手。
古くは、1970年の日本万国博覧会の日本政府館のディスプレイも担当、商業空間の空間づくりや、博物館の展示づくりなど、さまざまな空間づくりのプロフェッショナル集団。





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2017年6月21日, 7月20日




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