株式会社丹青社のコリドー(回廊)エリア
※前後編記事 前編はこちら「各事業部のデザイナー職を1か所に集め、シナジーを狙うオフィスづくり (株式会社丹青社 オフィス訪問[3])」
「各事業部のデザイナー職を1か所に集め、シナジーを狙うオフィスづくり (株式会社丹青社 オフィス訪問[3])」からの続き。
フリーアドレスでは、執務スペースがコミュニケーションもできる環境になる代わり、集中作業する場所が不足する。集中できるようにパーティションで囲った固定席側では、逆に、コミュニケーションスペースが不足する。それを補うようにコリドー(回廊)という仕掛けが同社には作られ、同社のオフィスレイアウトを特徴づけている。そこを以下に詳しく解説してみたい。
同社の執務エリアの構造は、1フロアまるごと(約1,500坪)を使い、中心付近をメインの執務エリアとし、窓際をコリドー(回廊)という通路で囲んだ形を取っている。そして、そのコリドー(回廊)部分に、通路機能だけではなく、コミュニケーション機能や集中作業スペースを持たせている。
フロアのうち、水色の中央部分が執務エリアになる。ここに、デザイナー職の固定席や、営業、制作のフリーアドレスが含まれる。そこを囲む形でコリドーという通路が作られている。4隅はコリドーコーナーというコミュニケーションスペースになる。
写真右側のパーティションで区切られた側が執務スペース(デザイナー職側)になる。写真左側にコミュニケーション用のソファラウンジが並んでいる。
コリドー側は、執務スペース側と異なり、ダークブラウンのフローリング、暖色系のライティングで別空間としてデザインされている。
こちらもコリドー(回廊)。そこに設けられたオープンミーティングスペース。
ハイカウンターのコミュニケーションスペース。デザイナー職のエリアに近い。
こちらは集中スペース。フリーアドレスエリア近くのコリドー(回廊)に設けられている。
同様の集中スペース。コリドー(回廊)の広さを利用して、多く設けられている。
左に集中スペースとオープンミーティングスペースのあるコリドー(回廊)側、右側がフリーアドレスエリア。コリドーとの境には天板付きのローキャビネットが置かれ、社員の気軽な立ちミーティングに使われることが多いとのこと。
コリドー(回廊)内のエリア配置については、同社 経営管理統括部 総務部 総務課 徳丸 雄介氏に話を伺った。
(同社 経営管理統括部 総務部 総務課 徳丸 雄介氏)
コリドー(回廊)に配置している家具は、執務席に不足している機能を補うように配置していますね。フリーアドレス側については、集中できるようなブースが点在していたり、デザイナーがいる固定席側については、極力コミュニケーション取れるように打ち合わせスペースを多く配置したりしています。デザイナー側には、自席で集中作業ができるので、コリドー(回廊)に集中ブースは置いていません。
(同社 経営管理統括部 総務部 総務課 徳丸 雄介氏)
机のタイプはいろいろと取り混ぜられるように配置されている。
フリーアドレスエリアで連結型デスクのところは、外部モニターが設置している席とそうでない席がある。変化をつけて固定化を防ぐためとのことだ。
もともと旧本社時代から、連結型のデスクを使っていたこともあって、そこがベースになるのですが、移転を機に働き方を変えていこうとなりまして、そのために、その日にあった仕事ができるデスクを選べるようにする意図でフリーアドレスエリアのデスクは配置しています。
ちょっと2-3人でまとまって仕事をしたいという場合には、おにぎり型のデスクを使ったり、図面を広げて作業をしたいということであればフラットなデスクを用意していたりしています。
あとは外部モニターも、あえて全席に取り付けず、バラバラに配置しています。フリーアドレスなので、席が固定化してしまわないように、外部モニターを使いたい人は、モニター付きの席に座る、モニターが不要な時はモニターのない席に座るということで、日々の席が変わるようにするのが狙いです。
(同社 徳丸氏)
固定席エリアとフリーアドレスエリアと、隣接するコリドー(回廊)に補完する機能を設けた同社のオフィスだが、オフィスフロアの4隅は、コリドーコーナーとしてコミュニケーションを主とする機能が持たされている。
こちらは支店間でのテレビ会議や、プレビューというプレゼンの練習ができるエリア。4隅のうちの北東と南西の2か所に作られている。お昼はランチを食べたりなどもできる。
ちなみに、中央に置かれているコの字型のソファとその背についたカウンターは、スチールケース社のメディア:スケープ ラウンジ (MEDIA: SCAPE LOUNGE)。大型のモニターを囲んで、リラックスしたムードで打ち合わせするのに便利なオフィス家具だ。ソファの背にカウンターが取り付けられるので、ソファ裏のカウンター席で参加人数を増やすことができる。
こちらは、もっと純粋にコミュニケーションを取り、休憩できるコリドーコーナー。4隅のうちの残りの北西と南東の2か所にある。
移転に際して、旧オフィスの喫煙室がコミュニケーションの場になっていたので、その代わりとなるものとして作られたとのことだ。
(写真左)同社クリエイティブ局 プリンシパル クリエイティブディレクター 上垣内 泰輔 氏と、(写真右)同社 経営管理統括部 総務部 総務課 徳丸 雄介氏
移転前のオフィスでは、喫煙室がコミュニケ―ションスペースになっていたんですね。こちらのオフィスでは、喫煙場所が限定されていて、それでタバコやめたりした人も多いんですけども、喫煙室で行われるコミュニケーションは、普段なかなか会えない、かなり上の先輩や役員と若手みたいな人たちがフラットに話をできる場なので、非喫煙場というものが欲しいと役員から言われたんですね。なので、それをイメージしてほかの二つのコーナーは設計しています。
(同社 上垣内氏)
「非喫煙場」という考え方がユニークで、今風だ。
以上、丹青社のオフィスづくりを見てきたが、以下に丹青社のオフィスでの、固定席とフリーアドレスの使い分けのポイントをまとめてみたい。
丹青社で実践されている、固定席、フリーアドレスの振り分け方と、その不足部分を補ったオフィスづくりは、フリーアドレス導入を検討している会社にとって非常に参考になるのではないだろうか。そこで、「みんなの仕事場」にて、固定席とフリーアドレスの特性についてまとめつつ、同社の解決方法を表に整理した。
オフィスづくりにおいて、フリーアドレスの採用は一つのトレンドになっている。しかしながら、固定席からフリーアドレスへの移行は働き方を含めた大きな変化を伴う。そこで、導入に当たっては、固定席とフリーアドレスのそれぞれのメリット・デメリットを見極め、事業や業務の性質によって最適なオフィスプランニングが必要になる。
一般的に言えば、営業職など外出が多い業務では、在席率が低いので、社内スペースの有効活用という観点からフリーアドレスは有効とされることが多い。また、営業職の場合、社外・社内のコミュニケーションが重要であることから、隣り合う人を選んで、社内にいる間も、コミュニケーションしながら仕事を進めやすいフリーアドレスは有効である。ただ、執務スペースをコミュニケーションしやすい空間にすることには欠点もあり、執務席で集中して仕事がしづらいという問題が出てくる。
また、デザイナーやソフトウェア開発など、在社してデスクワークの時間が長い職種の場合、フリーアドレスにするよりも固定席のほうが有効であることが多い(もちろんフリーアドレスも可能)。特に紙資料などが多い場合はそうだ。この場合、社内にいる間は、集中して仕事をしやすいことが仕事の生産性を上げるために必要で、パーティションなどで区切られた、静かで集中できる執務スペースが好ましい。しかし、執務スペースを、静かに集中して仕事をしやすい空間にすると、コミュニケーションが不足するという問題が出てくる。
丹青社でのフリーアドレスと固定席の使い分けを「みんなの仕事場」で表にまとめた。
営業職 など | デザイナー職 など | |
---|---|---|
在席率 | 低い (外出が多い) |
高い (社内作業が多い) |
主に求められる執務環境 | コミュニケーションが取れる | 集中して独り作業ができる |
↓ | ↓ | |
そこで | フリーアドレス採用 (メインの執務席で話ながら仕事ができる環境) |
固定席採用 (メインの執務席で、パーティション等で区切られて独り集中して仕事ができる環境) |
↓ | ↓ | |
不足するもの | 集中して独りで作業したいときの場所 | コミュニケーションを取って話ながら進めたいときの場所 |
↓ | ↓ | |
その解決方法として | 集中スペースをサブ的に提供 | コミュニケーションできるラウンジをサブ的に提供 |
丹青社のオフィスでは、営業職、デザイナー職などの職種ごとの特性に合わせて、コミュニケーションがしやすい環境と、集中して仕事がしやすい環境を、フリーアドレスや固定席を使い分けてメインとなる執務環境をつくり、それぞれの執務環境で不足する、集中ブースやコミュニケーションエリアを、オフィス内にサブ的な環境として設置し、社員が自由に選べるような解決法が取られている。
集中作業スペースとコミュニケーションスペースという、相反しながらどちらも必要不可欠な仕事の環境を、オフィス内の限られたスペースで、効果的に配置するという点がとても参考になるのではないだろうか。
商業空間・イベント空間・文化空間等のさまざまな空間づくりをおこなっているディスプレイ業界大手。
古くは、1970年の日本万国博覧会の日本政府館のディスプレイも担当、商業空間の空間づくりや、博物館の展示づくりなど、さまざまな空間づくりのプロフェッショナル集団。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2017年6月21日, 7月20日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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