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多発性硬化症を始め難病治療薬を創薬するバイオテクノロジー企業のパイオニア バイオジェン・ジャパン株式会社のオフィスづくり【後編】 (オフィス訪問[2])

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写真は執務スペース全景。

写真は執務スペース全景。


※シリーズ記事 ほかに「多発性硬化症を始め難病治療薬を創薬するバイオテクノロジー企業のパイオニア バイオジェン・ジャパン株式会社のオフィスづくり【前編】 (オフィス訪問[1])」「誰もがふらりと来て話ができるフルオープンな役員室 ~これからの時代の役員室のありかた(バイオジェン・ジャパン株式会社 オフィス訪問[3])」「究極の短時間ミーティング環境、アメフトのハドルが由来「ハドルルーム」とは? (バイオジェン・ジャパン株式会社 オフィス訪問[4])



多発性硬化症を始め難病治療薬を創薬するバイオテクノロジー企業のパイオニア バイオジェン・ジャパン株式会社のオフィスづくり【前編】 (オフィス訪問[1])」からの続き。



では、同社の執務スペースを紹介していこう。



執務デスクのある、同社の執務スペースは、1フロアで見通しが良い空間になっている。移転前は2フロアに分かれていて使いづらかったとのことで、1フロア化が実現している。そのため、視界を遮るようなパーティションや、ハイキャビネットは置かれていない。



■執務デスク

机の幅は右側の脇机を入れると、180cm弱の幅があり、かなり広い。

机の幅は右側の脇机を入れると、180cm弱の幅があり、かなり広い。また、サイドキャビネット、脇机と収納も多く確保されている。デスクはスチールケース社のもので米国本社と同じものとのこと。座席は固定席制で、さまざまな資料の収納に対応している。


また、座ると向かいの人とは目線が合わない程度の高さのパーティションがあることで、適度なプライバシー感が確保され、集中して仕事がしやすい環境が作られている


この点を尋ねると、移転前はもっとパーティションの高さが高すぎて、席に人がいるかどうかもわからない状態だったそう。そこから、今回は高さを下げてこの高さに落ち着いたとのこと。



パーティションは、今回のオフィスは微妙に目線が合わない高さのパーティションにしています。周りからは、頭は見えるけど、目は合わず、向かいの人がいるかいないかはわかる程度の高さです。移転前のオフィスのときはこうしたパーティションの高さが2mあったので、向かいの人がいるかどうか、席まで行かないとわからなかったんですね。そこで今回はこの高さにしました。


(同社執行役員 本部長 医薬品生産&技術本部 押川 昌一郎氏)



■背面型レイアウト

執務エリアは背面型レイアウト。全面と側面にパーティションがあり、囲われ感がある。通路も広々としている。

執務エリアは背面型レイアウト。全面と側面にパーティションがあり、囲われ感がある。通路も広々としている。こちらのレイアウトは座席でのコミュニケーションよりも、個室感で働けるようなレイアウトとして採用されている。


ちなみに、部門の電話はなく、全員がスカイプフォービジネス(Skype for business)を使用している。スカイプのステータスに連動して各座席にランプがついているのが特徴的。移転前のオフィスで、パーティションが高すぎて、席にいるかどうかわからないという問題があったので、遠目でもランプで在席が識別でき、話しかけられる状況か判別できるようにしたとのこと。予定が埋まっていると赤、黄色、空いていると青で分かるようになっている。


ちなみに、電話はパソコンに接続したヘッドセットで会話し、守秘の内容の場合、PCを持ったままハドルルームという予約不要の個室会議室に入って会話を続けることができる。



■執務チェアはヘイワース ベリーデスク (HAWORTH Very Desk)

執務用チェアは、アメリカのオフィス家具大手のヘイワース社(HAWORTH)のベリーデスク(Very Desk)が採用されている。

執務用チェアは、アメリカのオフィス家具大手のヘイワース社(HAWORTH)ベリーデスク(Very Desk)が採用されている。



■執務エリア全景をフロア反対側から

手前にはローキャビネットの収納が置かれている。

手前にはローキャビネットの収納が置かれている。


オフィスフロアの視界を確保するため、ハイキャビネットや高さのあるパーティションはない。



■ミニコーヒーエリア

オフィスが縦に長いために、執務エリア内にいくつかカフェが用意されている。

オフィスが縦に長いために、執務エリア内にいくつかカフェが用意されている。こちらは、後で紹介する大きなカフェ「サテライトカフェ」に対して小さいために、ミニコーヒーエリアという名前がついている。



■予約不要の個室会議室 ハドルルーム(HUDDLE)

同社には社内会議用に、予約不要で使える個室の会議室が多く用意されている。アメリカンフットボールにちなんで、ハドルルーム(HUDDLE)と名付けられている。


こちらのハドルルームについては、大変興味深い仕掛けで、以下の記事で詳しく解説したので、是非読んでほしい。


究極の短時間ミーティング環境、アメフトのハドルが由来「ハドルルーム」とは? (バイオジェン・ジャパン株式会社 オフィス訪問[4])



ハドル11番の部屋。こちらの中は、

ハドル11番の部屋。こちらの中は、


ソファでリラックスして、1~3人で話す部屋になっている。

ソファでリラックスして、1~3人で話す部屋になっている。あえてPCモニターは置かれていない。


ハドル12番は、

ハドル12番は、


こちらは一般的な、PCモニターがあり、最大4人で打ち合わせできる会議室になっている。

こちらは一般的な、PCモニターがあり、最大4人で打ち合わせできる会議室になっている。壁にホワイトボードも設置してある。


こうしたソファの部屋もあったり、

こうしたソファの部屋もあったり、


ハイカウンターでモニター付き、立ち会議もできる部屋も用意されている。

ハイカウンターでモニター付き、立ち会議もできる部屋も用意されている。



■JLTカフェ

こちらは、JLTカフェ (Japan Leadership Cafe)ということで、役員室近くにあるカフェ。

こちらは、JLTカフェ (Japan Leadership Cafe)ということで、役員室近くにあるカフェ。


もちろん誰でも使える。ハイカウンターもあって、こちらで打ち合わせしたりもできるように作られている。


カフェカウンターから奥を見ると、役員室。

カフェカウンターから奥を見ると、役員室。こちらは前面には何も仕切りがない完全オープンな役員室になっている。



■役員席エリア

側面にガラスパーティションは入っているが前面はフルオープンとなっており、非常に開放的な作り。

側面にガラスパーティションは入っているが前面はフルオープンとなっており、非常に開放的な作り。


こちらの開放的な役員室の作り方については、別記事で詳しく解説したので、参照してほしい。

こちらの開放的な役員室の作り方については、別記事で詳しく解説したので、参照してほしい。


誰もがふらりと来て話ができるフルオープンな役員室 ~これからの時代の役員室のありかた(バイオジェン・ジャパン株式会社 オフィス訪問[3])



ちなみに、役員エリアは社内で受付やカフェから遠い、一番不便な場所に置かれている。それには理由が二つあり、まずは、一番不利な条件は会社の役員の人たちが負うべきとのことで、そのように配置されている。また、大きなカフェに行くまでに、執務エリアを歩くので、役員がカフェに行くまでにいろんな人たちとコラボレーションできるようにという狙いもある。



■オープンな打ち合わせエリア

タッチダウンオフィスとしても使えるオープンな一画も用意されている。

タッチダウンオフィスとしても使えるオープンな一画も用意されている。



■リラックスルーム

同社にはリラックスルームという横になれるスペースが作られている。

同社にはリラックスルームという横になれるスペースが作られている。


マッサージチェアのあるルームが2つ、リクライニングチェアが2席という構成だ。ランチの後や午後3時ごろの利用が多いとのこと。特に午後3時ごろは、一通り集中して仕事をしたあと、いったん休憩して、もう一仕事する前に休憩するケースが多いとか。


(※リラックスルームは、事務所衛生基準規則における設置が義務付けられている救護室でもある)



マッサージチェアのある個室が2室。

マッサージチェアのある個室が2室。


スカイツリーを眺めながらリクライニングして休憩できる席が2席。

スカイツリーを眺めながらリクライニングして休憩できる席が2席。


こちらは前オフィスからの、小さな坪庭。

こちらは前オフィスからの、小さな坪庭。こういう場所がオフィスの中に用意されているというのが魅力だ。



■オフィスづくりのコンセプトは、個人で仕事の場所を選べること

オフィスづくりのコンセプトについて前編で登場いただいた新井氏に尋ねた。



コンセプトは、個人がそれぞれ仕事の場所、オンとオフを自分たちで選べる、ということです。社員が自発的に自分のいる場所、仕事をする場所を選ぶというのがコンセプトの基本になっています。


(同社医薬品生産&技術本部 セキュリティ ファシリティ EHS+S総務 マネージャー 新井 良典 氏)




■オフィス移転のきっかけ

オフィス移転のきっかけについて、オフィスづくりに関してプロジェクトを推進された新井氏と押川氏に尋ねた。



移転前のオフィスの状況ですが、今とはだいぶ違いまして、前のオフィスは26Fと37Fの2フロアに分かれてしまっていたんです。それも、エレベーターバンクも別なので、一方のフロアに行くために、わざわざ1Fまで下りてエレベーターを乗り換えないといけなかったんですね。そうした形で、オフィスが分断されてしまっていました。


また、社員もどんどん増えてきていましたから、社内の場所というのが各人にとって自分のデスクしかないという状況で、社内で休憩もとることもできないですし、一番ひどかったのは、会議室がまったく足りていなくて、会議ができないという状況にありました。慢性的に、社内のいろいろなスペースが足りていない状態でした。


(新井氏)




移転前は、会議室不足で、会議がしたくても、常に会議室が満室で会議ができない状況でしたね。あとは、カフェテリアもないですから、自分の席でコーヒーを飲み、お弁当を食べることしか選択肢がありませんでした


また、自席を囲むパーティションが、高さが約2mと、今よりずっと高かったんですよ。そのため執務スペースの個室感はあったのですが、周りからは誰がいるかいないかがまったくわからない状態で、確認のために毎回、席までいかないといけないという非常に不便な状況だったんですね。


(押川氏)




このような不便な状況にあったため、移転時にはそれらの解消がマスト条件となった。それを表にまとめてみた。



移転前オフィス 移転後のオフィス
2フロアに分かれていた 1フロア化
休憩場所がまったくない 大きなカフェテリアを作る
会議室がまったく足りない 個室の会議室を多く用意する
パーティションが高すぎて誰がいるか分からない パーティションを目線を遮る程度の高さに抑える
話しかけられる状況かどうか分かるようにOutlookと連動したランプを各席につける

このようにみると、前オフィスの課題を徹底して解決するために、最優先でオフィスづくりをされたことが分かる。まさにオフィスに歴史ありだ。



さらに、オフィスづくりにあたり、オフィスに求めることを押川氏に尋ねた。



■オフィスに求めるのは、最大のパフォーマンスが上がる環境



我々は製薬企業で、製薬の中でも希少疾病のための薬です。薬がなくて苦しんでいる患者さんのために新薬を開発しています。企業理念として「深く思いやる、患者さんの人生を変える (Caring deeply. Changing lives.)」を我々の会社では掲げています。それは、新薬の開発によって患者様に貢献したい、患者さんの人生を変えたい、という理念の下、事業を行っているのです。


我々の創薬に患者さんの人生がかかっているので、薬の開発を遅らせるわけにはいかないのです。そのために、効率的に仕事をして、少しでも早く患者さんに薬を届けて貢献していこうとしています。


そこで、どんな働き方をすると、最大のパフォーマンスが上がり、効率が上がるかを考えて、その効率の上がる働き方ができるのは、どういうオフィスなのかを考えて、この環境がベストだと作りました。


休憩もなく長時間働いて良い結果が出ますか?と。それよりも、途中で30分休憩して、また働いたほうがパフォーマンスは上がるのではないかということなんです。


前のオフィスの場合は、30分休憩したくてもする場所がないという状況でした。だから、自席で動かずに長時間働かないといけませんでしたし、お弁当も自席で食べなければなりませんでした。まったく働く環境が変えられない状態で長時間働くのと、今の場所を選んで働くことができる状態とどちらが効果的かということなんです。


我々は働く個人個人を尊重していますので、働き方、働く場所をそれぞれの社員の選択に任せるということなんです。働き方について、いちいち上司がああしろ、こうしろと指示するのではなくて、自分にとってベストなパフォーマンスを上げるにはどういう働き方をするのがいいのかを社員自身がそれぞれ考えてください、としています。そのための環境は会社が提供します、ということなんです。


(押川氏)



■「オフィスが変わる」は「働き方が変わる」

このオフィス移転プロジェクトは会社側から一方的にこのような環境を用意したわけではない。社員自らがオフィスづくりに関わって作り上げている。その社員が関わってオフィスづくりを進めるプロジェクトの進行役を務めたのが、先ほどの総務部門のマネージャー新井氏だ。社員が参加するオフィスづくりのプロジェクトの進め方について尋ねた。



オフィスづくりについては、アメリカ本社を参考にしつつも、使う部分に関して、日本で働いている社員の意見を中心にオフィスづくりを行いました。


そこで、今回の移転に関して、会社が一方的に決めてこうやりますというのではなくて、チェンジマネージメントを行いました。


というのも、単に移転するということではなくて、「オフィスが変わる」すなわち「働き方が変わる」ということを意識して進めました


移転前の窮屈なオフィスから、移転後の新しい環境に来ても、前と同じ仕事の仕方をしていると全然効率が上がらないんですね。会社として用意した新しい環境を最大限社員のみんなに使ってもらう必要がありますから、そのための準備が必要になります。


さらに、移転では、各部門で必要な設備や働き方がありますので、それらをデザイナーチームとプロジェクトチームで把握できるように、チェンジマネージメントチームというものを作りました。


各部門から代表者を出してもらって、自分たちの部署ではこういう働き方をする必要があります、そのためにはこういう設備が必要なんですというのをしっかり出してもらい、それをデザイナーチームとプロジェクトチームの中で受け止めて、きちんとフィードバックを受けて、移転後に本当に新しい働き方で仕事ができる状況というものを作りました。


そのために、6~7回のワークショップを行いました。最初の頃は、例えば、「今の仕事の仕方を見てみましょう」「不便なところは何ですか」「今後必要なことは何ですか」と、問うことから始めて、先進的なオフィスを使っている事例をみんなで見るなど教育的なものも含め、ワークショップの最後の方では、「ハドルルームが採用されることになります」といった新しい機能を提示していきました。「皆さんの一日は新しいオフィスで、どういう風に変わるか」ということをシミュレーションしながら、代表者が各部門に戻ってもらったときに、各部門で同じことを部門内に対してしてもらうという普及活動も行いました。チェンジマネージメントを通してオフィス移転だけではなく、人の働き方を変えてもらうものです。期間は約半年間、移転直前まで行いました。


(新井氏)



オフィス移転にあたり、社内からの要望の吸い上げ、どういう働き方がベストかの議論を経て、社内各部署に落とし込みまで、かなり時間をかけてプロジェクトを進められたことが新井氏の話から窺える。


オフィス移転を単なる移転に終わらせず、働き方の変革にまで踏み込むことで、多くの施策が盛り込まれ、新しい働き方を可能にするオフィスが出来上がった。


そうして、同社は2015年6月移転し、現在に至っている。
その先進的なオフィスづくりは、大変興味深く、役員室のありかたや、会議室の作り方について、別稿にてまとめたので、読んでもらえると嬉しい。



究極の短時間ミーティング環境、アメフトのハドルが由来「ハドルルーム」とは? (バイオジェン・ジャパン株式会社 オフィス訪問[4])










取材先

バイオジェン・ジャパン株式会社newwindow

多発性硬化症を始め難病治療薬を創薬するバイオテクノロジー企業のパイオニア バイオジェン社(Biogen, Inc.)の日本法人。バイオジェン社は、1978年スイス・ジュネーブにて創業。現在、本社はアメリカ、マサチューセッツ州ケンブリッジにあり、神経疾患、自己免疫疾患、希少疾患の治療法開発に重点を置く世界的バイオテクノロジー企業。企業理念「Caring Deeply. Changing Lives. (深く思いやる。人生を変える。)」を掲げる。




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
作成日:2017年6月9日




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