画像: Nattakorn Maneerat / iStock (※)
「これからのオフィスづくりのヒント」シリーズ
記事「大きく変わるオフィス コミュニケーションをマップで図解 ~これからのオフィスづくりのヒント~」の続きです。
「みんなの仕事場」担当の阿曽です。あちこちのオフィスを取材して分かるオフィスづくりのトレンドを「これからのオフィスづくりのヒント」シリーズとしてお伝えしていきます。自分たちのオフィスをどうやって働きやすく変えていくかを考えている方、オフィスファシリティ担当の方に役立つことを目指しています。
(「みんなの仕事場」にて作成 )
今回は「プレゼンスペース」について取り上げます。「プレゼンスペース」は、社内の企画会議などを議論するときに使われたり、社内レクチャーにも使われる空間です。
プレゼンと言えば、広告代理店を舞台にしたドラマで、よく出てきますよね。クライアント企業に広告代理店から宣伝プランやクリエイティブを説明するシーンに登場します。ここで、プレゼンテーションについて辞典を引きますと、
売り込みたいテーマや企画について、効果的に説得するための技法のこと。スライドや資料作りには、プレゼンテーション・ソフトが用いられることが多く、大型ディスプレーやプロジェクターでスクリーンに映し出したり、少人数での商談ではノートパソコン上で再生してプレゼンテーションする。
(出典 ASCII.jpデジタル用語辞典 コトバンク「プレゼンテーション」より)
まさにそういうイメージで、今ではサービスやシステムの導入提案でもプレゼンを行う企業が多くなりました。
また、会社内部でも、新規事業やプロジェクトを開始するにあたって、企画者が社内関係者にプレゼンして了承を得たり、議論するプレゼンスタイルの会議も増えてきているようです。
そのため、オフィスを取材すると、プレゼン用のスペースを設けている企業をちらほら見かけるようになりました。でも、わざわざ「プレゼンスペース」を作らなくても、通常の会議室でできそうです。そこで専用のプレゼンスペースを作るメリットを見ていきたいと思います。
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発表者が、作成してきた資料をスクリーンに投影して、その資料を見せながら、聞き手に向かって説明するスタイルです。会議室で行うオーソドックスなスタイルです。
この形は学校でもおなじみですが、コミュニケーションの方向性に偏りが生じがちという難点を抱えています。
発表者の知識が豊富で、聞き手がそれほど詳しくないと、ただ発表を聞くのみになってしまいます。また、質疑応答というコミュニケーションはありますが、発表者と聞き手という2者間のコミュニケーションにとどまります。割合と、発表者を質問責めにしがちで、そこから新たなアイデアが生まれたりということは起きづらくなります。
もちろん企画者が提案する内容を検討して予算をつけるかどうか判断するような、発表者の案件を審査するようなプレゼンには良いのですが、もっとアイデアを創発するような、社内で活発に意見を交わすような会議にしたい場合には工夫が必要です。
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社内から新しいアイデアを育てて新規事業につなげたいといった場合は、発表者だけでなく聞き手も同じ会社のメンバーですから、提案された企画に対して、参加者全員の知見も加えて、その場でもっと良いアイデアに練ることもできるはずです。
そのためには、教室型レイアウトのままではうまく機能しません。教室型レイアウトは一方向に向き過ぎているのと、発表者と聞き手の距離が離れすぎていたりするためです。
そこで、発表者も聞き手も、参加する全員が自由に議論に加われるよう、お互いに向き合う方向のレイアウトに変える必要性があるのです。
もちろんレイアウトを変えるだけで全員参加型のプレゼンになるとは言えません。意識も変えていく必要はありますが、会議室のテーブルをヒエラルキーのはっきりする長方形から、フラットな位置関係の円卓に変えることで会議の雰囲気が変わったりするなどの例がありますので、レイアウトが人間心理へ与える影響は無視できるほど小さくありません。
押さえどころ | レイアウトの工夫 | |
---|---|---|
(1)発表者と聞き手が普通に話せる距離に | ⇒ |
発表者と聞き手の距離を、普通の会話ができる距離 1.2~3.7m(*)にする。 (*) エドワード・ホールによる社会的距離(会話が生まれる距離) |
(2)聞き手の温度差をなくして全員が会話に参加しやすく | ⇒ | 発表者と聞き手の距離をできる限り均等になるようレイアウトを工夫する。(発表者から遠い聞き手は部外者意識が芽生えやすいため) |
(3)聞き手同士が議論できるように | ⇒ | 教室型レイアウトではなく、発表者を囲む、円形、コの字、Uの字レイアウトにする。 |
プレゼンスペースの押さえどころを3点にまとめました。
例えば、以下のような、スチールケース(Steelcase)社 メディア:スケープ ラウンジ (media : scape Lounge)を使ったレイアウトが挙げられます。
「世界111ヶ国に展開する事業用不動産サービス大手 CBREの丸ノ内東京本社オフィスに行ってきました【後編】 (シービーアールイー株式会社 オフィス訪問[2])」より
スチールケース(Steelcase)社 メディア:スケープ ラウンジ (media : scape Lounge) 。ソファユニットの組み合わせ方で多彩なセッティングが可能。
中央を囲むような形で、前列にソファ席、その後ろにカウンターテーブルがあり立席というレイアウトで、このパターンのレイアウトは取材するといくつか見られます。
それでは、プレゼンスペースの人間のみを配置して図解してみます。
(「みんなの仕事場」にて作成 )
発表者を半円で囲むことで、立ち話できる距離(~約3.7m)程度に聞き手が収まり、聞き手も前列を着席に、後列を立席にするすることで聞き手全員が発表者に対して2.5m前後の距離にいることで、温度感の違いが生まれるのを抑えているのが分かります。また、聞き手同士も半円に並ぶため、お互いの顔が見えて、聞き手同士の議論も誘発されます。
(「みんなの仕事場」にて作成 )
発表者に対して聞き手全員が会話できるくらい近く、聞き手も一定の距離の幅に収まる。
(「みんなの仕事場」にて作成 )
聞き手同士もお互いに顔を見ることができる半円型レイアウトで、聞き手同士の議論もやりやすい。
おおよそ、プレゼンスペースではこうした工夫がされているケースが多く見られます。
オフィスのレイアウトの工夫ですが、こうしたプレゼンスペースであれば、特殊な形のソファやカウンターテーブルは簡単に用意するのは難しいですが、普通の会議室でもテーブルの並べ方を工夫することで、プレゼンの雰囲気を変えていくことは可能です。それで試してみて感触が良ければ、家具を揃えるというのもおすすめです。
それではプレゼンスペースのポイント整理をしてみたいと思います。
プレゼンスペース | |
---|---|
概要 | 執務スペース端に、U字型にスクリーンを囲んで、プレゼンテーションに適した専用スペース。 |
用途 |
・社内プレゼンテーション 企画案に対する社内の知見の結集 |
副用途 |
次の用途も可能 ・テレビ会議 ・社内セミナー ・部門を集めるなど中規模の会議 |
・発表者と聞き手の距離を、普通の会話ができる距離 1.2~3.7mにする。 ・発表者と聞き手の距離をできる限り均等になるようレイアウトを工夫して参加者全員が議論に参加しやすい雰囲気を作る。 ・聞き手同士が議論できるように、教室型レイアウトではなく、発表者を囲む、円形、コの字、Uの字レイアウトにする。 |
このプレゼンスペースは、テレビ会議や社内セミナー、中規模の会議などにも使えますので、いろいろ活用できるのもポイントです。
では、そろそろ具体的にプレゼンスペースについて見て行きたいと思います。
実際にどのような空間が作られているのか、過去の取材記事の中から実例をピックアップして見ていきます。
「みんなの仕事場」の過去の取材記事からプレゼンスペースに該当するエリアを4事例ピックアップしました。写真の下に解説をつけていますので、ご参考にしてください。
「空間づくりのプロフェッショナル 株式会社丹青社の本社オフィス(品川駅徒歩10分)に行ってきました 【後編】(オフィス訪問[2])」より
プレゼンの練習や、電話会議などにも使われるプレゼンスペース。先ほども紹介した、この用途によく使われる、スチールケース(Steelcase)社 メディア:スケープ ラウンジ (media : scape Lounge) 。
「マッチ箱、ブレストBox、Pitch square?! ディップ株式会社 新オフィスの「日本一コミュニケーションが取りやすい」仕掛けとは(オフィス訪問[2])」より
30名が参加できるプレゼンスペース。「ピッチスクエア」。コの字型のカウンターの外側はスツールに腰かけて参加する。内側はソファ席になっている。発表者も含め参加者がコの字で囲んで話せる作り。内側をソファ席と外側にカウンター席というレイアウトで発表者との距離に差が大きくなりすぎないように工夫されている。また、周りもテーブル席がありオープンなため、聞くだけでも参加できる。
小型版のプレゼンスペース。「ピッチスクエアミニ」。コの字型のカウンター。内側がソファ席、外側がハイカウンターテーブルで立って参加する。こちらも参加者がコの字で囲む形になっている。内側をソファ席と外側にカウンター席というレイアウトで発表者との距離に差が大きくなりすぎないように工夫されている。
「即戦力採用のTV CMで有名なビズリーチのオフィスにおしゃれなカフェが出来たと聞いて訪問してきました (株式会社ビズリーチ オフィス訪問[1])」より
「ソロモン」と名付けられた本棚を兼ねた階段席。階段席の向かった壁が投影スクリーンになっている。
プログラミングのレビュー会や共有会、チームミーティング、勉強会なども開かれる。
プレゼンスペースは、まだ導入している会社は多くありませんが、従来の教室形式のレイアウトとは異なる、参加者全員参加のコミュニケーションを生みやすいレイアウトとして注目です。次回も、残るスペースをまた豊富な事例とともに掘り下げていきます。 |
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
制作日:2019年 10月12日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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