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「これからのオフィスづくりのヒント」シリーズ
記事「大きく変わるオフィス コミュニケーションをマップで図解 ~これからのオフィスづくりのヒント~」の続きです。
「みんなの仕事場」担当の阿曽です。あちこちのオフィスを取材して分かるオフィスづくりのトレンドを「これからのオフィスづくりのヒント」シリーズとしてお伝えしていきます。自分たちのオフィスをどうやって働きやすく変えていくかを考えている方、オフィスファシリティ担当の方に役立つことを目指しています。
(「みんなの仕事場」にて作成 )
前回は、「集中席」を紹介しましたが、今回は、「社内カフェ」と、同時に作られていることの多い「マグネットスペース」について取り上げてみたいと思います。どちらも、最近のオフィスでは大人気で、リフレッシュだけでなく、雑談といった社員間の非公式コミュニケーションを促進する狙いも含まれています。
ここで、「マグネットスペース」について解説します。耳慣れない言葉ですが、磁石が鉄を引き寄せる例えから、オフィスの設計する際に社員が自然に集まり出会う場所をそのように名付けて空間づくりすることが多いのです。自然に出会うことで部署関わらず社員間の雑談が生まれる→コミュニケーション促進、というわけです。
また、「社内カフェ」も社員のリフレッシュ機能に加えて、社内カフェ自体や、社内カフェの中心にカフェカウンターを置いて社員が自然に集まる「マグネットスペース」の役割を果たすように作られています。
今回のテーマは、社員間の非公式コミュニケーション(雑談)促進のための空間づくりです。
「社内カフェ」も「マグネットスペース」も、設置の大きな狙いは「コミュニケーション促進」です。社内コミュニケーションということでは、会議も含まれますが、こちらは、時間、参加メンバー、議題を決めて行う計画的なコミュニケーションに当たります。
それに対して「社内カフェ」と「マグネットスペース」は、部署を越えて社員同士が出会って雑談が生まれる場所です。組織横断的な仕事の増加とイノベーションの必要性が求められる現在、普段から組織図に関係なく社員が集まって話す場所が必要とされて設置されるケースが多いのです。
・会議室 ・オープン会議スペース |
計画的 | 時間、参加メンバー、議題を決めて行う。 |
---|---|---|
・社内カフェ ・マグネットスペース |
偶発的 | リフレッシュも兼ね、部門を越えて社員が偶然に出会い雑談をする。(偶然に出会う確率を高めるために作られる) |
最近は社員間の雑談を重視する企業が増えています。よく引用されるのはアップルのスティーブ・ジョブズが語ったとされた言葉です。
創造性は何気ない会話から、行きあたりばったりの議論から生まれる。たまたま出会った人になにをしているのかたずね、うわ、それはすごいと思えば、いろいろアイデアがわいてくるのさ。
「スティーブ・ジョブズ」(ウォルター・アイザックソン、井口耕二/訳、講談社、2011年)より。
(ジョブズが語ったとされる言葉。同署は著者のウォルター・アイザックソンがスティーブ・ジョブズ自身から依頼されて執筆した公式的な伝記。)
ほかにも、オフィス設計でコミュニケーション促進し生産性を上げた事例(*1) や、研究者同士がフロアが同じなど物理的な距離が近いことでコミュニケーションの頻度や質が上がり、共同研究が生まれる傾向や、研究上の問題発生を最小化する好影響があるといった研究(*2)もあったり、雑談の必要性はほかにも多く語られています。
*1) 「仕事場の価値は多様な出会いにある」ベン・ウェイバー Ben Waber, ジェニファー・マグノルフィ Jennifer Magnolfi, グリッグ・リンゼー Greg Lindsay, 辻 仁子/訳, 『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2015年3月号, p24, ダイヤモンド社
*2)「Patterns of Contact and communication in scientific research collaboration」(Robert E. Kraut, Carmen Egido, Jolene Galegher , CSCW 1988)
以前なら、そうした雑談は、終業後の飲みニケーションであったり、タバコ部屋で行われていたのですが、働き方改革や禁煙化の流れ、職場のダイバーシティなどで、そうもいかなくなりました。そこで、終業時間内に雑談ができる場所を求められた結果、「社内カフェ」や「マグネットスペース」を社内に設ける企業が増えているようなのです。
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雑談の発生については、組織内のインフォーマルコミュニケーションについての研究がいくつかあるのですが、実際に行われている工夫をまとめると、大枠としては以下のようになるかと思います。
≪雑談を発生させる工夫≫ |
---|
1.人と人を会話が発生する1~3mくらいの距離に近づける |
2.そのために皆が集まる理由と目的地を設定する (コーヒー、文具、ゴミ箱等) |
3.その目的地に滞留する工夫をする (社内報、コーヒーの順番、ハイテーブル) |
4.その目的地は皆がよく通りかかって目にするところにして、より集まりやすくする。 |
文化人類学者エドワード・ホールによるプロセミックス理論 (*3) や、西出和彦教授の研究 (*4) にあるように、人間は、心理的距離と実際の距離で比例する傾向にあります。あまり親しくない場合は近づかず、親しいと近づいて会話にまで発展したりします。
*3) プロセミックス(proxemics)理論
「かくれた次元」(エドワード・ホール著 Edward Hall, 1966 , 日高・佐藤 訳, 1970, みすず書房)
*4) 「実験による対人距離からみた心理的領域の平面方向の拡がりに関する考察」(1996年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 西出 和彦教授)
例えば、何かプロジェクトを一緒に進めている同僚なら、通路で出会ったら、そこから立ち話を始めたりしますが、ちょっと顔を知っている程度だと通路では会釈して通り過ぎてしまいますよね。
そのためあまり親しくない同士で会話を発生させようとするには、少なくとも立ち話ができるくらいの距離(1~3m)まで、人と人を近づける必要があります。でも、先ほどの例のように、あまり親しくないとそこまで近づいてくれませんし、すぐ離れてしまいます。
そこで、1か所に集まらないといけないような目的地を作ります。例えば、無料のコーヒーなどの飲み物、ゴミ箱、文具置き場、複合機などです。飲み物なら取りに来ますよね。カフェスペースを置くのは目的地作りでもあるのです。ゴミ箱はゴミ捨てに来るタイミングを狙います(その場合、座席のゴミ箱は廃止しているケースが多いです)。共有の文具置き場、複合機スペースなどいくつも兼ねることも多いです。
ただ、集めるだけだと、目的地に来て、すぐ戻ってしまうのです。それでは出会う確率も高まりません。会話を始めるためには少なくとも10秒以上、できれば数分は近くにいる状況を作る必要があります。
集まったところで数分は留まるように工夫することで、そこでの出会いや、出会ってから会話が始まることが期待できるわけです。
そこでコーヒーを腰かけて飲むハイスツールを置いたり(ハイスツールだと座っても立っている人と目線の高さが同じで会話が生まれやすい)、カフェスペースならまさにそうなりますが、ほかにも滞在時間が伸びるようにお菓子を置いたり、コーヒーもハンドドリップを置いて時間がかかるようにしたり、社内報や、社員紹介や社内イベント告知のサイネージを置いて眺めて時間が伸びるようにするのです。
あとは、そうした場所が社内の端っこにあるより、中央付近、皆が通る通路、出入り口付近にあることが多いのは、通りすがりの人を増やして立ち寄る確率を上げることで、人が人を呼ぶ効果も期待できます。この場合、そうした場所は通路からオープンな状態にしておきます。
「マグネットスペース」や「社内カフェ」は、こうした工夫が取り込まれていたりします。ちなみにタバコ部屋は、こうした要素をすべて揃えているので雑談が盛り上がりやすい空間なのです(喫煙者のみですが)。
最近多く見かける社内カフェは、先ほどの社員間の雑談を生み出すほかにも、マルチ(多目的)に利用できるメリットがあります。つまりランチタイムだけではないのです。その点も以下にまとめておきます。
(「みんなの仕事場」にて作成 )
最近はノートパソコンで仕事をする企業も多くなり、ランチタイム以外の社内カフェを、1人集中作業の場所に使ったり、オープン会議スペースとして使ったりなど活用するケースが増えています。また、広さを活かして、全社会議を開いたり、就業時間後にはセミナー会場として貸し出したり、使い勝手が良いことも今どきの社内カフェの特徴です。
では、ここで、マグネットスペースと社内カフェのポイントを整理しておきます。
マグネットスペース | |
---|---|
概要 | 社員が自然に集まり出会う場所を作り、部署関わらず社員間の雑談を促すことを目的とする場所。マグネット(磁石)に鉄が吸い付けられる例えから。社員が自然に集まるよう、オフィス内の機能性スペース(複合機、文具、飲み物、ゴミ箱、コートラック等)を集約するパターンが多い。ほかにも、カフェカウンターなどを設けて、コーヒーなど飲み物を飲みに来る社員間の会話を促すなどの形も一般的。社内カフェの場合でも中心にカフェカウンターを置いて社員が集まるよう作られることがほとんどのケースで見られる。 |
用途 | ・部門を越えて社員が出会い雑談する機会を作る場所 |
作り方のポイント |
・カフェの中に、コーヒー等をサーブするカウンターとして ・ゴミ箱や文具、複合機など社員が立ち寄る場所に ・執務スペースから立ち寄りやすいところ 大きな通路沿いや、フロア中央付近 ・シンクなど水回りは必ずしもなくて構わない。 |
できれば | ・コーヒーや飲料の提供 (有償可) |
押さえたいポイント | ・社員のニュースなど話の糸口となる掲示 |
・飲みニケーションやタバコ部屋でのコミュニケーションが減る中で、社内の部署を越えたコミュニケーションスペースとして | |
注意点 | ・滞留できる空間が周りに必要。 |
社内カフェ | |
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概要 | 現在とても流行っているオフィス内施設。社員に廉価で食事を提供する社員食堂としての位置づけではなく、普段から組織図に関係なく社員が集まって話す場所として作られる。社交を目的とした社交倶楽部的なもの。デザインはスターバックスなどのシアトル系コーヒーショップを踏襲することが多い。オープンスペースのため、昼食時間帯以外はオープンミーティング席として使ったり、商談、1人作業席、休憩、セミナー、ホール、イベントなど極めて多目的に使われる。社員からの評判もよく、運用上もマルチユースが可能でスペース効率が高い点も流行の理由。比較的小規模なオフィスでも設置できる。 |
主用途 |
・部門を越えて社員が出会い雑談する環境 ・社員のリフレッシュ |
副用途 |
・集中席 ・オープンミーティング ・セミナースペース、イベントスペース、全社会議等 |
作り方のポイント |
・執務スペースの近くに ・社員ならいつでも自由に使える ・画一的に作らない。様々なサイズのテーブル、いろいろな形のチェアを置いて、各人のお気に入りが作れるようにする。 ・さまざまなスペースがあり、自分の居心地の良いところを見つけられる ・シンクなど水回りは必ずしもなくて構わない。 |
できれば押さえたいポイント |
・コーヒーや飲料の提供 (有償可) ・社員のニュースなど話の糸口となる掲示 |
・部門を越えたコミュニケーションを促進する ・オーブン会議、1人集中仕事、セミナーなどマルチに使える ・会社への愛着が湧く |
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注意点 |
・従来の社員食堂のような平等無個性な空間を作らないこと。 ・執務時間中も自由に立ち寄れること ・執務時間中に休憩してリフレッシュしたり、1人で集中して仕事したり、雑談できること。 |
「みんなの仕事場」の過去の取材記事から「マグネットスペース」と「社内カフェ」に該当するエリアを10事例ピックアップしました。写真の下に解説をつけていますので、ご参考にしてください。
「@cosme(アットコスメ)を運営する株式会社アイスタイルのオフィスは、オープンでコミュニケーション豊かな空間(オフィス訪問[1])」より
コーヒー、水、オフィスコンビニ、冷蔵庫、電子レンジなどが集約され、カウンター席が用意されている。
「ふるさと納税サイト「さとふる」を運営する 株式会社さとふるの本社オフィスに行ってきました(オフィス訪問[1])」より
複合機やゴミ箱、文具、飲料などが集約されている「HUBスペース」。周辺にテーブル席もある。
「マッチ箱、ブレストBox、Pitch square?! ディップ株式会社 新オフィスの「日本一コミュニケーションが取りやすい」仕掛けとは(オフィス訪問[2])」より
ゴミ箱、複合機、文具、コートハンガーなどが集約されている「マッチ箱」。デジタルサイネージには社内情報が流れる。ゴミ箱の上は大きなハイテーブルになっている。
「働き方に合わせた独自のワークプレイスづくり! 空間デザイン・施工を手掛ける株式会社コスモスモアの本社オフィス訪問【前編】 (オフィス訪問[1])」より
コーヒーや飲み物、冷蔵庫があるバーカウンタータイプ。実際、夜には社内バーに。近くにソファも配置。
こちらがバーカウンター前のソファスペース。執務フロア内に設置されている。
「社内にバリスタのいるカフェがあるオフィス!(株式会社ドリコム オフィス訪問[1])」より
本格的な社内カフェ。こちらでは社内外の打合せも多く行われている。隣にセミナースペースもあり、連結してパーティーなども開ける。
「渋谷駅徒歩7分、画像素材のPIXTA(ピクスタ)のオープンでフラットな新オフィスに行ってきました!(ピクスタ株式会社 オフィス訪問[1])」より
カフェでもありホール機能もあり、リフレッシュに、打ち合わせに、セミナーにマルチに使える設計になっている。
「空間づくりのプロフェッショナル 株式会社丹青社の本社オフィス(品川駅徒歩10分)に行ってきました 【後編】(オフィス訪問[2])」より
執務フロア内の一画を社内カフェスペースにしている事例。
「マッチ箱、ブレストBox、Pitch square?! ディップ株式会社 新オフィスの「日本一コミュニケーションが取りやすい」仕掛けとは(オフィス訪問[2])」より
執務フロアの一画をパーティションで区切って作られたカフェスペース。
「アドテクのリーディングカンパニー株式会社EVERRISE(エバーライズ)のオフィスに行ってきました(六本木駅 7番出口徒歩1分)[オフィス訪問(1)]」より
日中は打ち合わせや1人仕事、夜は社内バーやセミナー、パーティとしてマルチに使われている。
「人々の好奇心を掻き立てるコンテンツを生み出す!バーティカルメディアを運営する株式会社エスタイルのオフィス(東京 原宿)に行ってきました(オフィス訪問[1])」より
執務スペースに隣接するカフェスペース。こちらでリフレッシュや1人仕事、ミーティング、セミナーに使われる。
社内カフェやマグネットスペースを作ろうと考えてらっしゃる方は、イメージが湧いてきたのではないでしょうか。次回も、残るスペースをまた豊富な事例とともに掘り下げていきます。(阿曽) |
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
制作日:2019年 10月15日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
こちらからご確認ください。