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オフィスの「音」をデザインする ~ コクヨの「サウンドソリューション」に見る、音環境改善の最前線 ~働き方改革時代のオフィス移転[第6回]~

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■軽視されてきたオフィスの「音」問題


建物の防音性が高まり、コピーなどオフィス機器の動作音も小さくなってきた現在、オフィス最大の"騒音源"は、「人の声」です。


「ガラス張りの会議室から音が漏れる」「コラボレーションスペースの話し声が気になる」など、働き方改革によるオフィスデザインやワークスタイルの変化にともなって、オフィスにおける「人の声」=「音」の問題が、以前より際立つようになってきました。


従来なら、会議室には防音性の高い間仕切りを使おう、という局所的な対策で済んでいたものが、コミュニケーションを重視したオープンなフロアや仕事内容によってワークプレイスを選択するタイプのオフィスの増加によって、「音」のコントロールはオフィス全体の問題に広がってきました。


一方、日本には「オフィスはうるさいくらいの方がいい。活気のバロメーターだ」という感覚も根強く残っており、「音」対策はいまだに軽視されがちです。


しかし、本当に「人の声であふれるオフィス」は仕事に有益なのでしょうか。


人の聴覚には「カクテルパーティー効果」と呼ばれる特徴があります。


騒がしいパーティ会場でも自分の名前を呼ばれると聞きわけることができる、というもので、ふと聞こえてきた声が注意を引く内容だった場合、騒音の中でも、それが小さな声でも、判別することができるのです。


仕事中、近くの席での会話に気になる単語が出てきたとたん、思わず耳を傾けてしまい集中がそがれた、という経験はありませんか。一説には、いったん気がそれてしまうと、元の状態に戻すには20分以上かかる、といわれます。そこまで行かなくても、数分のロスは確実に生じてしまうのではないでしょうか。


そのため近年では、情報漏洩の問題と合わせて、ワーカーが集中できる快適なオフィス作りという側面からも「音」のコントロールが重要視されてきているのです。



■個々の「音」対策からトータルな「音環境」改善へ


オフィスにおける個々の「音」問題を、オフィス全体の「音環境」としてトータルに捉え、最新技術を活用して改善していこう、という考え方が注目を集めています。


この考え方の歴史は古く、アメリカでは1970年代に生まれオフィスへの導入が進んでいましたが、日本企業で注目されるようになってきたのは2000年代後半のことです。


そのきっかけは、2006年、それまで海外製しかなかったオフィスの「音環境」コントロールの中核をなす仕組み「サウンドマスキング」をコクヨ株式会社が日本で初めて商品化し、市場投入したことでした。


これ以降同社は「音環境」を改善する機材やサービスを継続的に投入し、総合的なサービス体系「サウンドソリューション」として提供しています。


今回は、日本で初めて商品化した「サウンドマスキング」の開発者の一人で、現在も「サウンドソリューション」事業全般に携わるコクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社の松崎伸樹氏(ソリューション統括部 サウンドソリューション部部長)に、オフィスの「音環境」を改善するための方法についてうかがいました。



■オフィスにおける「音」問題と対策


まず、オフィスにおける「音」問題と対策について整理しておきましょう。



音環境対策の3つの考え方「ABC対策」の概要(同社「サウンドソリューション」資料より事務局作成 ※)

(表1) 音環境対策の3つの考え方「ABC対策」の概要(同社「サウンドソリューション」資料より事務局作成 (※)



表1は、主な「音」問題と、課題、対策を対応させたものです。


「音」問題は、大きく分けて、「騒音」「音漏れ」「反響」という3つからなります。


これらが絡み合って、うるさくて集中できない、テレビ会議の声が聞こえにくいなど、作業効率を落とす問題が生じます。


では、これらに対しどのように取り組めばよいのでしょう。


松崎氏によると、「音」問題対策は大きく分けて "Absorb"、"Block"、"Cover" の「ABC」があるそうです。




ABCは「音」の問題に対応する基本的な考え方です。"Absorb"は「吸音」。吸音材を使った壁材などを使って室内の音や反響を抑える方法です。"Block"は「遮音」。主に壁で音を遮る方法。間仕切りやパーティションが担う部分です。"Cover"は、音をマスキングする手法で、音を別の音で覆い隠す方法です。「サウンドマスキング」や「BGM」などが「C」にあたります。オフィスの「音」問題には、この「ABC」を適宜組み合わせて対応していくことになります。「B」にあたるパーティションについては、当社は従来から取り組んでいました。「A」と「C」を強化しオフィスの「音環境」に広く対応できるように整えたものが当社の提供する「サウンドソリューション」となります。


(コクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社 松崎 伸樹氏)




■音環境対策の中核技術「サウンドマスキング」とは?


オフィスの音漏れ、騒音を軽減する技術として、近年、導入が急速に進んでいる「サウンドマスキング」。


松崎氏に、その仕組みと利用シーン等についてうかがってみました。



コクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社 松崎伸樹氏(ソリューション統括部 サウンドソリューション部部長)。後ろの間仕切りは、壁の中に「サウンドマスキング」用のスピーカーを入れて音漏れを防ぐ「Gマスキング」が設置されている。

コクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社 松崎伸樹氏(ソリューション統括部 サウンドソリューション部部長)


後ろの間仕切りは、壁の中に「サウンドマスキング」用のスピーカーを入れて音漏れを防ぐ「Gマスキング」が設置されている。



――「サウンドマスキング」の機能とはどのようなものですか?




一言で表すと、周囲の音を聞こえにくくすることで、集中力を維持しやすい環境を構築したり、秘匿性の高い会話が漏れにくい環境を構築するための装置です。


人の聴覚には、近い周波数の音が複数同時に耳に届くと、その音が聞こえにくくなる、という性質があります。そこで、人の音声の成分を含む音をオフィスに流すことで、人の声を聞こえにくくしようというのが「サウンドマスキング」の基本的な考え方です。天井にスピーカーを埋め込んで音を流すという構造で、1970年頃にアメリカでニーズが高まり80年代から普及が始まりました。




――コクヨで開発を始めたきっかけは?




当社では、当時からオフィスの「音環境」改善に取り組んでおり、ソリューションの一つとして欧米の「サウンドマスキング」を評価したところ、想像以上に耳ざわりな音で、繊細な日本人にはむしろ集中阻害の原因になりそうでした。ラジオをチューニングするときのザーザーというノイズに近い音でした。応接室や会議室などにもおもてなしの感覚を忘れない日本では、とても受け入れられるものではありませんでした。そこで、日本のニーズに合った「サウンドマスキング」ができないかと考えて開発に着手しました。




――日本向け「サウンドマスキング」の特徴は?




それまでは、天井にスピーカーを配置し下に向かって音を流す「直接音方式」でしたが、当社は独自の「間接音方式」を採用しました。制御音を天井内で反射させることにより、音がマイルドになります。さらに、音が広範囲に届くので設置台数が少なくて済む、天井裏に設置するので天井に穴を開ける必要がないことなど、日本のオフィスに受け入れられやすいメリットを実現しました。制御音自体も、デジタル技術の進歩によりいろいろな音を作ることができるようになり、空調音に近い自然な音にできました。




サウンドマスキング 「間接音方式」と「直接音方式」の違い(同社「サウンドソリューション」資料より事務局作成 ※)

サウンドマスキング 「間接音方式」と「直接音方式」の違い(同社「サウンドソリューション」資料より事務局作成 (※)



――反応はどうでしたか?




大きな反響をいただきました。防音壁などを使わずに「音」を制御できることに驚かれたようです。展示会では長蛇の列ができました。当初は日本企業よりも、「サウンドマスキング」になじみのある外資系企業の導入が多かったのですが、評価が広まるに連れて幅広い業種から声がけいただくようになりました。特に近年は「働き方改革」の流れもあり、会議室や応接室に加えてオープンスペースやオフィス全体への導入が進んでいます。




「サウンドマスキング」が普及するにしたがい、様々な要望が寄せられたそうです。オフィスの形態や使い方は様々で、天井内にスピーカーを置く方式だけでは、対応できないシーンも数多く存在したのです。




最も多かったのは、天井が高くて効果が十分出ない、天井内にスピーカーが置けない、という声でした。「サウンドマスキング」は原理上、スピーカーを置く場所があればいいので、天井にこだわる必要はありません。そこで、OAフロアの床下スペースにスピーカーを設置する「サウンドマスキング フロアー」を開発しました。また、一定の箇所のマスキングを強化したい、という声に応えて、会議室用の間仕切りにスピーカーを入れてマスキング効果を持たせた「Gマスキング」、丈の低いパーティション用の「サウンドマスキング パーティション」など、ラインナップを拡充しました。




――天井から離れることで自由度が広がった、ということですね。




最新製品の「アタッチ サウンドマスキングスピーカー」では、さらに自由度を高めました。これはテーブルの天板の裏に、スピーカーを設置するものでデスクやテーブルのメーカー、種類を問いません。設置箇所の周囲360度に対してマスキング効果を施すことができます。ビルのエントランスなど吹き抜けでも利用でき、レイアウト変更にも対応が用意です。当社では「アタッチ サウンドマスキングスピーカー」を、天井、床に次ぐ、第3のスピーカーと位置づけて、より幅広いシーンでのご利用を想定しています。




「アタッチ サウンドマスキングスピーカー」(2019年2月発売予定)の利用イメージ(※)

「アタッチ サウンドマスキングスピーカー」(2019年2月発売予定)の利用イメージ(※)



あらゆる音環境に幅広く対応する「サウンドソリューション」


同社の「サウンドソリューション」は、「サウンドマスキング」を核として「音環境」を改善するための対策をパッケージ化したものです。



サウンドソリューションの概要(同社「サウンドソリューション」資料より事務局作成 ※)

サウンドソリューションの概要(同社「サウンドソリューション」資料より事務局作成 (※)



「サウンドマスキング」とは別個に独立して利用できるものもあり、オフィスにおける「音環境」対策の選択肢として参考になるのではないでしょうか。


まず、「A」対策の「サウンドアブソーション」、C対策の「BGM」、「クイックスピーカー」についてうかがってみましょう。




「サウンドアブソーション」は、抜群の吸音性能とデザイン性をもった吸音パネルです。音漏れ抑制とともに、テレビ会議でスムーズに会話ができるように音質改善にもつながります。既存のスチール壁にマグネットで設置できるタイプで、会議室やミーティングスペースの壁面に設置するだけで吸音効果が得られます。色やテクスチャーを工夫してインテリア的に使えるようになっており、抗菌や消臭の効果を備えています。


オフィスに流すBGMも「C」対策として有効な方法です。「サウンドマスキング」と併用することでより高い集中をサポートする「音環境」を作ることができます。オフィスの雰囲気を切り替える効果もあります。例えば、出勤時には静かめな音楽で小鳥の声を混ぜた音を流し、始業時間にテンポの速い曲にしてモードチェンジを促す、という使い方です。音楽配信事業を手がけるUSEN社から研究依頼をいただいたもので「オフィスBGM powered by KOKUYO」としてUSEN社から配信されています。


「クイックスピーカー」はテレビ会議用に開発された、テーブルに貼り付けてそこをスピーカーにできる振動型スピーカーです。聞き取りにくいからと音量を上げたり、先方に聞きとりやすいようにと大声で話したり、テレビ会議ではよくある風景ですが、これらの行為は結果的に「音環境」を悪化させてしまうのです。声や反響が大きくなれば音漏れもしやすくなります。「クイックスピーカー」は、机全体から音声が出るのでどの席でも音量レベルが一定になり声の遠近感が消えて自然な会話が可能になります。人の音声に特化して設計しているのでとてもクリアに聞こえますよ。




一方、「ABC」を支援する施策として位置づけられているのが「レベルメーター」と「音環境の見える化」です。


「レベルメーター」は、そもそもの騒音源である「音声」を制御しよういう目的で開発されたもの。




会議が盛り上がってくると声の音量は上がりがちですよね。いくら対策を施しても、大声を出されてしまえば効果は薄れてしまいます。「レベルメーター」は、声の音量が設定以上になると警告を出してくれます。抑制された話し方を指導することも重要な「音環境」対策です。また、音声レベルの記録機能を持っています。1ヶ月分記録できるので、会議室の利用状況を確認することもできます。2時間予約したのに1時間しか使っていないとか。稼働率を上げるための資料としてご利用いただいているようです。




以上のように、様々な選択肢が用意されている「サウンドソリューション」ですが、どれを使えば最善の効果が得られるかを判断しようとすると、難易度はなかなか高そうです。



そこで同社は、「音環境」を見える化できる調査・分析サービス「カラーサウンドモニター」や「残響音シミュレーション」を提供しています。




音漏れが激しいのでなんとかしたい、という相談をよく受けるのですが、オフィスごとに事情が違うために万能の解決策というものは存在しません。そこで、音環境や部屋の残響音を「見える化」していくことで問題を明確にしていきます。「防音機能の高い壁なのに音が漏れる」という事例では、ドアの下とドアノブから音が漏れていた、ということがわかりました。(下写真 参照)




「カラーサウンドモニター」測定結果イメージ。暖色の部分は音漏れを表す。(同社ニュースリリース「~音を色で見える化~ 音の可視化サービス『カラーサウンドモニター』を開始」より ※)

「カラーサウンドモニター」測定結果イメージ。暖色の部分は音漏れを表す。(同社ニュースリリース「~音を色で見える化~ 音の可視化サービス『カラーサウンドモニター』を開始」より (※)



■オフィス移転は、効果的な「音環境」対策を実施するチャンス


「サウンドソリューション」は、既存のオフィスにも導入できるものですが、やはり最も効果的なのはオフィス移転などのタイミングです。


「サウンドマスキング」の配置や、間仕切りの選び方など、効果的な「ABC」対策を行うことのできるためです。




新オフィスへの移転やレイアウト変更後に、こんなはずではなかった、と相談を受ける事例がたいへん多くなっています。デザイン重視の設計が「音環境」的には逆効果だったということはよくあります。例えば、最近増えているのがガラス張りの会議室の音漏れです。防音性があるとうたっていても、間仕切りに比べれば音が伝わりやすく反響が大きいことも多いのです。「サウンドマスキング」はスピーカーの「配置」が特に重要です。レイアウトの段階から「音環境」を意識することでその効果を高めることができます。




パーティションに青い「サウンドアブソーション」の吸音パネルが設置されている。

パーティションに青い「サウンドアブソーション」の吸音パネルが設置されている。




世界的に見れば、オフィスの「音環境」は以前から重要視されてきた課題です。オフィス環境の品質を客観的に評価する指標「WELL認証」でも、「サウンドマスキング」「遮音」「吸音性」などが評価項目として上げられています。


対応が遅れていた日本でも、「サウンドマスキング」を中心に導入が進み、快適で仕事の効率を上げる手段として「音環境」改善の有効性が認知されるようになっています。


これからのオフィス移転、レイアウト変更時には、オフィス全体の「音環境」の検討をチェックリストに追加してみてはいかがでしょうか。








取材協力

コクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社

サウンドマスキング」(コクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社のページ)









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
制作日:2018年1月8日




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