画像提供:pressmaster / Adobe Stock (※)
オフィスの移転は、企業が成長している証のようなものであると言えます。
それは、古くなった身体を捨てて、さなぎから蝶に成長するかのように、より大きく、機能的な身体に生まれ変わるための一大イベントです。真新しいオフィスで心機一転! ワーカーとしても滅多に経験できない華やかで希望にあふれた瞬間ですよね。その瞬間に至るまでには、移転というプロジェクトを担当する人たちの長い時間と地味で煩雑な作業の積み重ねがあります。
一口に「オフィス移転」と言っても、そこには、計画立案、予算だて、施行、移転作業に至る工程とその度発生する意思決定、不動産やデザイン事務所、施工業者など広範囲にわたる外部企業との連携や品質管理業務などなど、たくさんの業務が発生します。
昨今は、これらに加えて、進展する「働き方改革」の観点から、ワークスタイル変革のミッションが上乗せされることも多いようです。現代の「オフィス移転」は単なる引っ越しでは済みません。
そんな中で、オフィス移転を任された担当者は、大事業を背負う誇りと喜びをかみしめるどころか、「さて、どこから手をつけらいいのか」と途方にくれてしまうこともあると思います。
本記事「「働き方改革」時代のオフィス移転入門」では、初めて、あるいは数十年ぶりにオフィス移転に挑む経営者や担当者の方々に、オフィス移転を取り巻く現在の環境や考え方のヒントから、プロジェクトを推進していくためのフローといった実用的な情報まで、幅広くお届けしていきたいと思います。
第1回は、これからのオフィス移転では無視できない、「ワークスタイル改革」への取り組み方をテーマに取り上げます。「オフィス移転」と「働き方改革」とが、どのように関わっていくべきかについて押さえていきましょう。
まずは「オフィス移転」の全体像と、その難しさについて整理しておくところから始めます。
移転に関わる作業は、企業の規模や業種、移転方針によって異なるところもありますが、全体的な基本プロセスは変わりません。
図1をご覧ください。これは、オフィス移転の全体像と目安となる日程をまとめたものです。
(株式会社フロンティアコンサルティング ホームページ「サービス:オフィス移転(事務所移転)」をもとに「みんなの仕事場」にて作成)(※)
この図では、移転というプロジェクト全体を、「探す」「作る」「移る」の3つのプロセスに分類しています。これによって、全体像を直感的にとらえることができます。
それぞれのプロセスに含まれる業務を大きく切り取ると下記のようになります。
探す | 物件調査・選定 |
---|---|
作る | オフィスデザイン・設計、内装工事、家具・什器、ICTネットワーク設備 |
移る | 移転通知 |
この一つ一つを見ると、各工程の目的は明確であり、初めてオフィス移転に取り組む人であっても、業務内容はなんとなく想像がつくだろうと思います。
ところが、オフィス移転作業はその想像を超えて、様々な難問があるのです。
移転作業の難易度が高いと言われるのはなぜでしょうか。
もちろん、企業の未来を担うという責任重大な事業だという側面もありますが、移転プロジェクトが持つ性質に原因があります。
その理由は大きく分ければ5つあります。
1つ目は、ノウハウが社内に蓄積されにくい業務であること。
一般的な企業にとって、オフィス移転というのはめったにない業務です。過去に経験があっても、当時の担当者がすでにいなかったり、当時のノウハウが保存されていなかったり、ということもよくあります。蓄積されていたとしても、規模や業務の拡大、法令の改正など、状況が変化していて、そのままでは応用できないということもあります。また、社内に不動産やデザイン・施行関連の知識を持つ社員がいる会社は、そんなに多くないでしょう。担当者が「どこから始めれば......?」と途方に暮れてしまうのも、無理のないことなのです。
2つ目は、前段から順々に進めていく1本道のプロジェクトであること。
例えば、物件が決まらなければ設計図は引けませんし、工事を先に進めておくこともできません。同時に、次のプロセスに進むと前のプロセスに戻ることが難しい側面も生じます。工事が進んでからの物件変更など、やってやれないことはありませんが、コスト的にも時間的にも、大きな損失を被ることになるでしょう。
3つ目は、多くの意思決定が必要な業務であること。
物件の決定や、デザイン設計、予算など経営層レベルの意思決定を要する部分はもちろんですが、それぞれのプロセスを進めるためには、大小問わず様々な意思決定を必要とします。担当者だけで決めることができればまだいいのですが、各部署の協力を得る必要がある場合なども多く、簡単にはいかないこともままあります。
4つ目は、移転に関わる専門企業が複数に渡るためコミュニケーションや品質管理などの業務負担が増加しがちであること。
図2は、先ほどの図1をもとに、それぞれのプロセスで関わる業種をまとめたものです。
株式会社フロンティアコンサルティング ホームページ「サービス:オフィス移転(事務所移転)」をもとに編集部作成 (※)
これらの企業をうまく連携させながら、滞りなくプロジェクトを進めていかなくてはなりません。
とくに意思決定する事項が多く、関わる企業が一気に増えるのが、「探す」から「作る」にかけてのフェーズです。そこでは、大きな予算が動くタイミングでもあることから、見積もりと工事の細目の評価など判断が難しい局面が多く発生します。
そして5つめは、オフィス移転の実施時期はあらかじめ決められており、遅れは許されないこと。
繁忙期を避けての移転時期という面もありますが、現物件との契約終了時期、新物件の賃料発生など、金銭的な問題もあり移転時期は厳守が基本です。
前段の停滞は後段に直結するという、後半にいくにしたがってしわよせを受けやすい構造になっているのです。
序盤で時間を使いすぎ、もう間に合わないとなって十分な業者選定や見積もりの検証を行わず発注してしまったり、施行段階で多数の作業員を投入せざるを得なくなるなど、遅れによるコスト増を招く事態もよく起こっているようです。
オフィス移転が、すべきことは明確であるにも関わらず、「滞りなく、スムーズに進めること」が難しいプロジェクトであるということが少し見えてきたのではないでしょうか。
さて、ただでさえたいへんな移転プロジェクトですが、そこに、「ワークスタイル変革」のことまで念頭に置かなければならないとしたら、どのように考えるべきなのでしょうか。
2018年5月に成立した「働き方改革」に盛り込まれた項目は、「長時間労働の改善」「労働時間設定の改善」「多様で柔軟な働き方の実現」など、多岐にわたりますが、全体としてのポイントは、「限られたリソースでいかに生産性を上げるか」ということにあると言っていいでしょう。
生産性を上げるオフィスの形態として、フリーアドレスやテレワーク、コラボレーションスペースなど、さまざまな手法を検討するケースが増えてきていますが、ソフト面だけでなく、ハード面も最適化しなければ、十分な成果は得られません。オフィス移転というタイミングは、ワークスタイル改革を実施するのに最適なタイミングであると言えます。
最も望ましいのは、「ワークスタイル改革」が、物件探しの前、つまりオフィス移転プロジェクトの先頭に来るような形です。なぜなら、目指すワークスタイルによって、物件の選択やデザインに大きく影響するからです。
昨今行われるオフィス移転では、ほとんどの企業が、多かれ少なかれ「ワークスタイル改革」についての検討を行うことになるでしょう。ほんの数年前にオフィス移転をした会社でも、当時はさほど重要視されていなかったため、どう取り組めばよいのかわからない、という状態のところは少なくないでしょう。
そこで、オフィス移転の全般のコンサルティング業務を行っており、ワークスタイルやワークスペースの改革に取り組んだ経験の豊富な2社にお話を伺いました。
「働き方改革」と「オフィス移転」にどう取り組むべきか、各社のお話のなかから探っていきましょう。
株式会社フロンティアコンサルティングは、2007年設立のオフィスコンサルティング会社。もともとは、デザイン設計や施工を中心に展開していましたが、ワークスタイルの多様化が進むなかで、オフィスが企業の経営課題の解決やブランディングに直結することを重視、オフィス移転の仲介から内装設計、工事、家具やインフラ整備までトータルにサポートするようになりました。「図1」として紹介した、オフィス全体を「探す」「作る」「移る」の3プロセスに整理した図も、同社の資料からお借りしています。
今回、答えてくれたのは、事業本部WPS東日本事業部 次長 橋本 淳さんと事業本部WPS東日本事業部東京ユニット営業第2チーム チーム長 新名 威晴さん。
まず、企業がこれからオフィス移転に着手しようというとき、担当者がまず心がけておかなくてはならないことは何かについてお話をうかがいました。
株式会社フロンティアコンサルティング 事業本部WPS東日本事業部 次長 橋本 淳氏
オフィス移転を計画する理由は、企業によって千差万別です。しかし、『オフィス移転で何を実現するのか』という原点を押さえることはどんな場合でも共通して最重要です。『人が増えたので広いところへ移ります』というような簡単な話ではなありません。むしろ、『経営課題の明確化』と言ったほうがいいでしょう。その課題が『チーム内のコミュニケーションの活性化』なのか、『採用のためのブランディング』なのか、といったことを定め、それを移転によってどう解決していくのかということを明確化して、経営者も含めて、プロジェクトにかかわるメンバー全員で共有することが重要です。
オフィス移転は、1年前後におよぶ長丁場になります。途中でブレなければいいのですが、実際には途中で方向の調整をしなければいけないこともあります。そこで大事なのは、原点に立ち返ることです。そうしないと、計画自体がどんどん違う方に向かっていきかねません。調整自体も原点が揺らいでいなければ、ロスの発生を抑えることができます
(同社 橋本 淳さん)
同社の強みは、オフィス移転の全プロセスのどこからでも、一部分だけでも対応できること。「働き方改革」への注目度の高まりにともなって、ワークスタイル改革も含めた相談を受けることが増えているようです。
オフィス移転にともなうワークスタイル改革となれば、移転作業開始前の方針固めが重要になるはず。そのへんについて質問してみました。
株式会社フロンティアコンサルティング 事業本部WPS東日本事業部東京ユニット営業第2チーム チーム長 威晴氏
そういったものも、橋本がお話しした『移転で達成する経営課題』に含まれます。『ワークスタイルをこう変える』ではなく、『ワークスタイルを変えることで、何を達成するのか』を明確にするということですね。洗い出しが明確であれば、蓄積したノウハウを生かして具体案を提案できます。
なかには、お話を伺う段階ですでに方針を決めておられるところもあって、『フリーアドレスでお願いします』とか『ファミレス席を置きたい』というような具体的な要請をいただくこともあります。その場合も移転の目的については再確認します。突き詰めていくと、それが本当に必要なのか、となったり、実は別の解決策があったという場合もありますので
(同社 新名 威晴さん)
「移転の目的の明確化」は、物件探しの段階でも重要です。従来の考え方は、何人従業員が増えるから○坪、会議室を増やしたいから○坪、合計○○坪の物件、という計算で物件を探していましたが、ワークスタイルの見直しを含める場合には、1人あたりの面積が減るために、じつはフロア面積はそんなに増やす必要がない、ということもよくあるとのこと。
不動産仲介業は、クライアントの希望に合わせた物件を見つけることが優先されるため、その後のデザインや運用にはあまり注意が払われない場合もあるとのこと。また、物件オーナーの意向や条例等による制限がある場合もあり、想定しているフロアレイアウトができない場合もあるようです。
ワークスタイルの改革を視野に入れるのであれば、物件探しも、それに基づいて行うことがベター。同社が不動産仲介を始めたのも、物件取得とその後のデザインや施工のミスマッチによるトラブルを減らし、全体の効率を上げるためとのこと。
たしかに、オフィス移転作業前に方針を決め込むことができれば、それが理想的なのは十分理解できます。しかし、前述したように、一般企業は、移転やワークスタイル改革に対する知識やノウハウに乏しい傾向があります。そういった場合には、どのように方針を固めるべきなのでしょうか。
お客様には、プロジェクトチームの設置をお勧めしています。もちろん当社もリサーチや潜在的ニーズを引き出すお手伝いをしますが、社外の人間が、その会社の真のニーズや課題などをつかむのは限界があります。経営者や管理職を集め、どのような空間を望んでいて、どう活用していくのかを検証し、共有する場所を設けていただく。どんなプランも、全社員賛成ということにはなりません。目的が明確で、それを達成するためのソリューションがこれだ、という肝心な部分を共有できていれば、そこに向けてプロジェクトを進めていくことができます。チームが機能しはじめるまでには苦労もあると思いますが、スムーズな進行の助けになることは多いと思います。また、チームの中で承認フローなどを作るなど、準備しておけば、結局担当者の負担を少なくする効果も期待できます
(同社 橋本 淳さん)
移転プロジェクトの責任を担うのは多くの企業では総務や人事部門ですが、スタートアップの場合は役員が自ら指揮をとることもあるようです。近い将来、移転する可能性がある企業の担当者が、今のうちに心がけておくべきことを伺ってみました。
もし、移転が近くありそうになったら、早めに情報収集を始めておくことをおすすめします。どのような物件があって、賃料の目安がどうかといった情報が蓄積されていれば、早く着手できます。ワークスタイル改革のモデルオフィスを見学しておくのもいいでしょう。当社のコーポレートサイトにもケーススタディを掲載していますので、よろしければ参考にしてください。日常業務のなかでちょっと負担にはなりますが、スムーズな立ち上げが可能になります。
現代のオフィス移転は、ワークスタイルの改善なども含めて、以前より考慮しなくてはならないことが昔にくらべてずっと増えています。次がいつになるかわからない移転のノウハウを社内に蓄積するより、当社のようなコンサルティング会社をうまく活用することもお勧めします。社内コストの削減とともに、品質の確保という面からもメリットが大きいと思います。
(同社 橋本 淳さん)
同社は、コンサルティング会社を利用するメリットして3点を上げています。
1つめは、コミュニケーションコストの削減。移転に関わる企業は広範囲に広がっており、窓口を一本化できること。
2つめは、全体コストを抑えられること。見積もりをとっても、それが適正であるかどうかを判断するノウハウを持っている企業に代わって管理することで、複数社に同内容の業務を依頼して、二重コストが発生する、ということもよくある話だそうです。
3つめは、納品物の品質チェックコストの低減。専門的な知識がなければ、十分な評価ができません。
ただ移転すればよいという時代から、公立とワークスタイルの変革というニーズが強まっている昨今、豊富な実施経験とノウハウを持つ企業とのコラボレーションするニーズはより高まっているようにも感じました。
次に、オフィスのハード・ソフトの両面からワークスタイルの変革を推進している、パーソルファシリティマネジメント株式会社の取り組みを紹介しましょう。「ワークスタイル改革」とはどのようなものか、イメージが明確になるのではないかと思います。
同社は、2017年に設立されたばかりのパーソルグループに属する、ファシリティマネジメント企業です。「ファシリティマネジメント(FM)」とは「オフィスに代表されるファシリティ(施設・設備)のハード面(投資)とソフト面(生産価値)の両軸を最適化し、企業の付加価値を最大化する戦略活動」を意味します。
日本企業では、設備管理や備品管理という業務がありますが、FMは、それにとどまらず、価値ある資産として管理運用していこうというポジティブな立場によるものです。外資系企業には専門部署があることが多いですが、日本ではまだ普及していません。近年は、民間より先に遊休不動産を多く抱える自治体で導入することころが増えているようです。
同社が実践しているのは、FMの技法に基づいて、発注元の企業と専門的サービスを提供する不動産会社、設計会社、施工会社等の間に立ち、プロジェクトを最適化させることです。
同社の強みとする業務について代表取締役社長の槌井紀之さんは、このように語ります。
パーソルファシリティマネジメント株式会社 代表取締役社長 槌井 紀之氏
当社は、"発注者のプロ"です。例えば、家を初めて建てるお父さんがいたとして、いきなりハウスメーカーと打ち合せしてもよくわからないし、見積もりが出てもそれが適正か判断できない。でも、もし義理のお父さんが大工さんだったらどうですか。『お義父さん、一緒に行って話を聞いてください』となりますよね。当社はそんな『義理のお父さん』なんです。決めるのはクライアント企業、実際に動くのは専門家。僕たちは発注のプロとして間に立って、プロジェクトを予算やスケジュールの面から最適化し、専門サービスの価値を最大限引き出しながら、企業にない発注者としての専門性を提供する、という考え方なんです
(パーソルファシリティマネジメント株式会社 代表取締役社長 エグゼクティブプロジェクトアドバイザー 槌井 紀之さん)
オフィス移転は、数年に一度あるかないかのノンコア業務。そのために人員を用意しておくのも、通常の業務を犠牲にさせるのもリソースの無駄使い。だから、専門家にアウトソースすべき――という考え方です。
同社は、年間200件以上、槌井さん本人が携わったものに限っても2,000件以上ものプロジェクトを手がけており、ベンチマークに基づいた見積もり評価や施工方法の検討ができることが強み。「泣き寝入りせざるを得ないことも多い、指定業者への発注でも、コストの適正化が可能」とのことです。
同社が、"プロの発注者"としての業務活動と同等かそれ以上の熱量で取り組んでいるのが、ワークスタイル改革です。
自社のオフィス全体を「ワークスタイルラボ」と名づけて、コラボレーションワークに軸をおいたワークスタイル改革の実験場として公開しています。日々の業務の中から出る問題、不満、解決のフローをノウハウとして蓄積し、単なるショーケースではなく実際に運用実績のあるハードとソフトを合わせたプランとして提示できるのが最大の特徴。「ワークスタイルラボ」には、オープン1年で、すでに110強の企業や自治体が見学に訪れたといいます。
パーソルファシリティマネジメント株式会社の「ワークスタイルラボ」
槌井さんが考えるこれからのオフィスとは、どのような姿なのでしょうか。
まず漠然と『ワークスタイル』を捉えるのではなく、『これからのオフィスとはどうあるべきか』という視点を持つことが大事です。10年前だったら、特にナレッジワーカーが仕事をする場所といえば、オフィスしか選択肢はありませんでした。この間、オフィスをとりまく環境は大きく様変わりして、コワーキングスペース、サテライトオフィス、リモートワーク、ノマドなどなど。オフィスのライバルが次々に現れたわけです。選択肢が増え、ネットワークなどの環境も整ってきたわけですから、それをよりよい形に組み替え『勝てるオフィス』を突き詰めていけばいいわけです
(槌井 紀之さん)
そこで同社では、仕事を「コラボレーションワーク」と「ソロワーク」に分けました。
「ソロワーク」とは、個人で黙々と集中して行う仕事のこと。例えば、書類作成、メール処理、テレアポといった作業です。
「コラボレーションワーク」とは、多様なアイディアによって価値が変化する仕事。ブレスト、レビュー、プレゼンテーションなど、オフィスで多様な知の交流が必要になる作業です。
ソロワークをする環境として、オフィスは最適でしょうか。その作業が、邪魔が入らず一人で集中したほうが捗る作業なら、自宅やサテライトオフィスやカフェを使ったほうがむしろ生産的に仕事が行えるのではないでしょうか。
つまり、オフィスの価値は、相対的に下がってきていると言えるのです。それなら、オフィスに残された価値とは何でしょうか。当社では、それを『コラボレーションワーク』だと考えています。
オフィスとは、メンバーの知識や経験など、多種多様な『知』を交わらせることで、最大の成果を上げられる場所であるべきです。僕はそれを『知の図書館』と呼んでいます」
(槌井 紀之さん)
図3は、同社が考えるオフィスでの仕事の従来、現場、将来を図解したものです。
図3 パーソルファシリティマネジメントが考えるオフィススペースの考え方(同社資料より)(※)
「オープンコラボワーク」は社外とのコラボレーション、「クローズドコラボワーク」は社内で行うコラボワーク。ソロワークはオフィス内で行う必要のある「オンサイト」とどこで行ってもよい「オフサイト」に分けられています。
すべての業務をオフィスで行っているStage1が従来の状態だとすると、Stage2では、ワーカーが働き方に応じてオフィスを選ぶ、という考え方から、社内で起こるオフィススペースで対応すべきなのは、「クローズドコラボワーク」と「オンサイトソロワーク」のみに絞られています。
今後あるべき形を示しているのがStage3。ここでは、AIやRPAなどツールの発達と運営の最適化によって、「オンサイトソロワーク」のウェイトが減って、オフィスは「クローズドコラボワーク」の場になっていくという考え方になっています。
同社は、このような考え方を元に、オフィスを様々なコラボレーションワークに最適化したオフィスとして設計し、実際に日々の業務を行っています。
当社のオフィスの床面積は280坪で、160名が在籍しています。日本の平均的な1人あたりの坪数は3坪と言われていますが、それを大幅に下回っています。でも、全然混み合った感じはしないでしょう? むしろスペースには余裕が感じられるはずです。これは、コラボレーションを行うための機能にオフィスを絞っているからなんです。オフィスはここまで小さくできる。ファシリティマネジメント(FM)の考え方の基本は、投資が分母で生産価値が分子、という単純な数式です。オフィスが少なくて済めば、分母が小さくなり、コラボワークで生産性が上がれば分母が大きくなって、生み出される価値は上昇します。僕たちは、とにかくワークスタイルを改革しましょうというわけではなくて、より高い価値を生み出すワークスタイルとそれを加速させるワークプレイスを作っていきましょう、という考え方なんです
(槌井 紀之さん)
同社では、現在でも、自社オフィスをより効率的に運営するためのノウハウの見直しを不断に行っているそうです。在籍者が全員集まってワークスタイルの課題や修正点を討議する「ワークスタイルセッション」を四半期ごとに行ったり、「ワークスタイルグランドルール」を決めていく協議会や、マネージャークラスが協議する月1回の「マネージャーコミッティ」などによって、コラボレーションスペースを中心にした運営ソフトのアップデートが進められているとのこと。
また、従業員のワークスタイルをトラッキングして出す「コラボレーショワーク」の比率を出しているのもユニークです。
ハードの力はすごいんです。今のオフィスに移転する前は、ソロワークが半分以上でしたが、移転しただけで、コラボワークの比率が10%以上も上がりました。しかしハードの力だけでは限度があります。全社員で見直しながら、運用の仕方、ソフト面を整えることで、目標の75%が見えてきました。当社のノウハウは、まずハードの変革があって、それを活用するためのソフトを蓄積しているところです。『当社にはそんな改革は無理です』と言われることも多いのですが、まずはこのオフィスを見にきてほしいです。ここには、単なるショーケースではなく、ワークスタイルとワークプレイスの変革の証拠がありますから
(槌井 紀之さん)
では、ワークスタイルの変革とは何でしょう。
ワークスタイル改革というのは、企業から従業員に『こういうふうに働いてください』というメッセージを送ることです。当社に見学に来られた方が『ワークスタイルラボ』のワークスタイルと現場の違いとして実感するところも、そこですね。
僕が実現したいのは、ワークスタイル変革を通じて働く人一人一人がよりイキイキとやり甲斐を感じ、自己実現や成長実感を得ながら仕事する世の中なんです。仕事を通じて社会と繋がり、価値を提供するのってステキなことだから、それを『楽しむ』人がどんどん増えたらいいなって素直に思います
(槌井 紀之さん)
同社の「ワークスタイルラボ」は、同社のホームページから気軽に見学を申し込むことができます。
オフィス移転と同時にワークスタイル改革を行う企業にとって、パーソルファシリティマネジメントは、実際に業務に運用されているハードとソフトに触れることができる貴重な場と言えそうです。
オフィス移転が必ずしもワークスタイルの変革をともなう必要はありません。今、問題ないのだから、特に変える必要がない、変えるエネルギー分が無駄だという企業もあるかもしれません。
しかし、労働時間の短縮や多様なワークスタイル導入の波、人手不足など、ビジネスを取り巻く環境や、ネットワークの進展によって、ワークスタイルやオフィスには多くの選択肢が生まれて、すでに多くの実用例が登場しています。
オフィス移転を行うのであれば、それは、そうした多くの成果を取り込むことができる絶好のチャンスだと言えるでしょう。オフィス移転を計画しているなら、ぜひ検討してみる価値があると思います。
今のオフィスに何が足りないのか、社内をヒアリングして不満点を改善していくことも重要ですが、そればかりに固執すると、結局、今の現場の延長線以上にしかならないという可能性もあります。
あるべき姿を想定して、それを実現するためには何が必要か、という視点を検討することは、決して無駄にならないのではないでしょうか。
編集・文:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
制作日:2018年8月28日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
こちらからご確認ください。