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オフィスづくりのコツ

設置するオフィスが増加中「集中席」の押さえどころと42事例 ~これからのオフィスづくりのヒント(3a)~

画像: ふじよ / PIXTA(ピクスタ) (※)


「これからのオフィスづくりのヒント」シリーズ


大きく変わるオフィス コミュニケーションをマップで図解 ~これからのオフィスづくりのヒント(1)~」の続きです。



「みんなの仕事場」担当の阿曽です。2016年ごろから、あちこちのオフィスを取材して分かるオフィスづくりのトレンドを「これからのオフィスづくりのヒント」シリーズとしてお伝えしていきます。自分たちのオフィスをどうやって働きやすく変えていくかを考えている方、オフィスファシリティ担当の方に役立つことを目指しています。



図: 「みんなの仕事場」作成



前回は、新しいオフィス コミュニケーション マップの中から、「オープン会議スペース」を紹介しました。今回は導入が増えつつある「集中席」について取り上げてみたいと思います。



コミュニケーションを盛んにする話が続いていましたが、逆に、「1人になりたい」「誰にも邪魔されず仕事に集中させてくれ」と思うことがありますよね。実は集中席を設けることは新設されるオフィスのトレンドになりつつあります。そして、コミュケーション重視のオフィスづくりと集中席の導入は表裏の関係にあるのです。



■従来の執務席では集中に邪魔が入る

画像: xiangtao / PIXTA(ピクスタ) (※)


上の画像は、ストックフォトからですが、日本のオフィスの典型的な執務風景(再現)をピックアップしました。


部や課の組織単位で、島型にデスクをレイアウトし、固定の自席は書類やPCワークを行う場所でありつつ、同時に、近くにいる同僚と連携し、上司や先輩社員に報告・連絡・相談しながら仕事を進める場所、という国内の一般的なワークスタイルです。


業務とコミュニケーションを1か所で行えるということが、この島型レイアウトの大きなメリットなのです。他方、執務席がコミュニケーションの場になっているので、1人で集中したいと思っても、周りから話しかけられて集中が中断させられてしまうというのは皆さん経験済みかと思います。


このレイアウトは執務席のコミュニケーションを重視していますので、集中のため1人だけ離席していたり、1人だけパーティションで囲うということはあまり現実的ではありません。コミュニケーションの場でそれを阻害するのは、チームワークの和を乱すものとして許容されなかったのです。



■コミュニケーションする場所と1人仕事する場所が別々に必要


それが、コンピューターやインターネットで仕事環境が大きく変化して仕事の形そのものが変わってきました。課全体で連携しながら進めるより、1人仕事や課よりも少人数チームでの仕事が増えることで、1人で集中して業務出来る場所や、チームで打ち合わせしたり一緒に仕事をする場所が必要になってきたのです。また、高速回線と高性能なノートパソコンなど、リモートワークで仕事が十分に行える環境が整ってきたことも背景にあります。



図: 「みんなの仕事場」にて作成 イラスト画像: OstapenkoOlena / iStock (※)



本シリーズ最初の記事で触れたように、私たちの現在の仕事は、ますますコミュニケーションが必要になり、オフィス内にはコミュニケーションを促進する空間を必要としています。同時に、1人で邪魔されず仕事に集中できる空間(集中席)も求められているのです。新しくオフィスづくりをしてコミュニケーション用の空間を設ける企業が、同時に、集中用のスペースを用意しているのも多くの場合そのためなのです。


これからは、固定席制やフリーアドレス、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)などを問わず、コミュニケーションのための空間と、集中のための空間を行き来しながら仕事を進めていくことがこれからのワークスタイルになっていくのかもしれません。



■集中席がもたらすアウトプット


現代のオフィスワークでは、コミュニケーション空間だけでなく、1人で邪魔されず仕事に集中できる場所(1人仕事に専念できる場所)も同時に求められているということは、実感として感じてらっしゃる方が多いと思います。


「集中状態」に関してはさまざまな議論がありますが(※補足参照)、ここでは実利的に集中席を設けることで得られるアウトプットで考えていきたいと思います。というのも、取材でオフィスを拝見していくと、1人でする仕事が途中で邪魔されず集中してやり切れる環境が求められている空間と思われるからです。



≪集中席がもたらすアウトプット≫


企画案(書)/提案書/報告書/分析/調査/設計/プログラミング/デザイン など



こうした1人仕事のアウトプットが期待できるために、集中席を設けると言えるのです。



では、これらを前提に「集中席」の押さえるべきポイントを見て行きましょう。



≪補足≫「集中」の奥深さ


実は本記事では意図的に、「集中席」の「集中」という言葉について、深く触れないようにしてきました。あくまで、『1人で邪魔されず仕事に集中できる場所』『1人仕事に専念できる場所』としての空間の名前を「集中席」と本記事では述べるに留めています。「邪魔されない」「専念できる」を重視して、精神の集中状態に関してはあまり触れていません。


というのも、「集中」は大変奥が深く、書店を見て回っても、集中力を高めるをテーマにした書籍が数多くあり、スポーツの試合での集中や、勉強への集中など、さまざまな状況の「集中」がいろいろな角度で数多く論じられています。脳波を計測して研究するケースもあり、心理学者のチクセントミハイの提唱する「フロー状態 (ゾーン)」などもその一つの形でしょう。


ここでは私たちのオフィスを働きやすく改善していくという観点から、そうした「集中」の議論に関して深入りせず、ずっと実利的に「集中席」から得られるアウトプットにフォーカスしています。




■集中席の押さえどころ


集中席」の押さえるべきポイントは、第一に「1人で邪魔されず仕事ができること」でしょう。そこから「集中席にいる人には話しかけない (電話の着信を受けなくても良い)」というルールが重要になります。メールやスマートフォンで、どこにいても連絡が取れる現代ですから、このルールは大切です。


また、自席からアクセスしやすく、いつでも使えることも望ましいでしょう。予約制の集中席では使用時間まで待ったり、執務席から遠くて移動時間がかかったりするのは、オフィスワークの生産性を上げていくという観点からは本末転倒です。もちろん、自席のほうが集中出来るのであれば自席でもよいし、仕事の内容によって、集中して働く場所を選んでよいわけです。ここでは、「選択できる」ということが重要です。


また、こうした集中席で仕事をするにあたり、リモートワークができる環境整備 (ノートパソコン、インターネット高速回線、クラウド上のデータ格納等)が前提となります。必要に応じて大型モニターなどの設備も机にあると良いでしょう。



以下に整理すると、このような感じです。



≪集中席の押さえるべきポイント≫

・1人で邪魔されず仕事ができること

・集中席にいる人には話しかけない社内ルール

・自席や集中席など働く場所を選択できること

・予約不要で必要なときに待たずに使える

・オフィス内のアクセスしやすい環境にある

・リモートワークができる環境整備(ノートパソコン、インターネット高速回線、クラウド上のデータ格納等)

・(必要に応じて)大型モニターなどの設備




では、そろそろ具体的に「集中席」について見て行きたいと思います。


その前に、一言で「集中席 (集中スペース)」といってもいくつかタイプがあるのです。



■「集中席」の4タイプ


「集中席」が良いと分かっても、個室であることや静かであることが必須であれば、設置費用もオフィス内の占有スペースも多く必要になりますから、多くの企業で導入に及び腰になってしまうでしょう。でも、実際に導入されている「集中席」はそうでもないのです。


取材から、集中席や集中スペースといった空間は、以下のおおよそ4タイプに分けられるのではないかと思っています。



≪「集中席」の4タイプ≫
・カフェタイプ (カウンター席含む)
・図書館タイプ
・個室タイプ (ファミレス席1人使用も含む)
・自席が集中席タイプ (開発・設計部門等)


(解説)


カフェタイプは、オープンな空間で、多少の声や音など、ある種雑然とした雰囲気があります。そこに、コーヒーなどの飲み物があったり、窓際のカウンター席で風景が見られたリ、椅子がスツールだったりなど、自席とは異なる非日常感、そこから来る高揚感がポイントです。ノマドワークなどで、カフェで仕事をするとはかどるというのがありますよね。このタイプのポイントは、窓際スペースの有効活用をしたり、社内カフェを兼用出来て、個室を作る必要がないというメリットがあり、もっとも多く見られます。



図書館タイプは、静かな中で同僚たちがそれぞれ1人仕事に集中している環境です。静かさと、周りで仕事をしている同僚の存在から緊張感があり、少し張り詰めた雰囲気で頑張るのが好きな人向きです。また、集中するのに静かでなければダメという人もこちらが良いでしょう。ちなみに、周りがあまり気にならないよう、一般的な図書館より部屋全体を少し暗めに、暖色系のスポットライトで落ち着いた雰囲気にしているケースも多いようです (ちなみに手元はデスクライト。PC作業が中心のため机全体を明るく照らす必要性が薄れてきています。)



個室タイプは、周りがパーティションで囲まれ、周囲の視線を感じることなくリラックスできる環境です。没頭して仕事をする人や、視線が気になると集中できない人に向いています。



自席が集中席タイプは、開発・設計部門など常に集中した仕事を求められるオフィスで、常に自席にて集中して作業できるようにしたものです。オフィスによって異なりますが、ある程度の高さのパーティションで囲んで半個室感を備え、広めのデスクなど、静かで、仕事を中断せず続けられるようレイアウトしているケースがあります。この場合、自席でのコミュニケーションが不足しがちになるため、近くにコミュニケーションのためのスペースを設けるなどの工夫がされていました。



このように見ると、最後の「自席が集中席タイプ」を除くと、集中席と言っても、個室であることや静かであることは必須要件ではないのです。


それぞれのタイプごとに、実際にどのような空間が作られているのか、過去の取材記事の中から実例をピックアップして見ていきます。




■過去の取材記事からピックアップ


「みんなの仕事場」の過去の取材記事から集中席に該当するエリアをピックアップしました。写真の下に解説をつけていますので、ご参考にしてください。




≪カフェタイプ集中席(カウンター席含む)≫
周囲 オープン

ノイズ(ガヤガヤ)

空間の雰囲気

開放感・非日常感

集中材料

コーヒーなどの飲み物、窓からの風景、椅子の違い、音楽、雰囲気、など自席とは異なる非日常感から来る高揚感と適度なリラックス。

メモ

・もっとも多く見られる。

・社内カフェと兼用しているケースが多い (ランチタイムは昼食に使われ、それ以外でも常にリフレッシュスペースとして使われる)

・カウンター席はオフィス内の窓際に設置されるケースが多い。 (空間有効活用の1つ。オフィスの窓際付近は、日差しや外気温の影響を受けやすく執務席には向かないが、集中スペースやミーティング、休憩など短時間利用用途であれば、景色の良さも相まって有効活用できる空間になる。また最近のビルは高遮熱断熱タイプのガラス採用で、窓際に空調設備がなくスッキリしていることも影響している。)





環境問題をITで支援!電子マニフェスト普及を後押しする株式会社イーリバースドットコム (オフィス訪問[1])」より

窓際に設けられたカウンター席で風景を時折楽しみながら仕事ができる。休憩などリフレッシュにも使われる。




シフトブレインに学ぶ こんなに使える!スタッフがにぎわうコミュニケーションスペース(社内カフェ)の作り方 (株式会社シフトブレイン訪問[2])」より

社内カフェで1人仕事利用。






≪図書館タイプ≫
周囲 オープン

静か

空間の雰囲気

周りも静かに1人仕事をしていて、少しの緊張感

集中材料

静かさ、周りも1人仕事をしている環境から来る少しの緊張感と刺激

メモ

---





即戦力採用のTV CMで有名なビズリーチのオフィスにおしゃれなカフェが出来たと聞いて訪問してきました (株式会社ビズリーチ オフィス訪問[1])」より

「クワイエットルーム」と名付けられた空間。執務エリア内にあり、こちらでは静かに仕事を進める。






≪個室タイプ≫(ファミレス席 1人使用も含む)
周囲 クローズド・セミクローズド

静か

空間の雰囲気

周りからの視線がなくリラックス

集中材料

静かさ。周りからの視線がないことによる気兼ねなく自室のようなリラックス

メモ

---





マッチ箱、ブレストBox、Pitch square?! ディップ株式会社 新オフィスの「日本一コミュニケーションが取りやすい」仕掛けとは(オフィス訪問[2])」より

窓際に設置された集中スペース「こもルーム」。入口は窓側から。使用中だとルーム上部の電球が点灯する仕掛け。吸音性あるファブリックを張ったパーティションに囲まれた特徴的なデザインは、空間デザインを手掛ける株式会社ドラフトによるもの。


裏側から撮影。個室ではないが個室感がある。






≪自席が集中席タイプ≫(開発・設計部門等)
周囲 セミクローズド

おおよそ静か

空間の雰囲気

周りも静かに1人仕事をしていて、少しの緊張感

集中材料

オフィスによって異なるが基本的には図書館タイプ。例えば、デスク上パーティション等である程度の半個室感を備えるなど。

メモ

・働く場所が選べるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の環境でも、クワイエットスペース以外で1人仕事に集中できる環境が用意されているケースを含む。





空間づくりのプロフェッショナル 株式会社丹青社の本社オフィス(品川駅徒歩10分)に行ってきました 【前編】(オフィス訪問[1])」より

設計を担当するデザイナー職の執務エリア。自席が、幅1,400mmの広いデスクに、ローパーティションで区切られ集中して作業ができる。こちらの近くにコミュニケーションを取るためのエリアが隣接。





■事例編へ


以上で各タイプの概要をお見せしましたが、まだまだあります! 次のページで過去の取材記事から総計42事例をご紹介しています。


[事例編] 設置するオフィスが増加中「集中席」の押さえどころと42事例 ~これからのオフィスづくりのヒント(3)~








以上、今回も盛り沢山でお届けしました。


集中席を作ろうと考えてらっしゃる方は、自社の集中席のイメージが湧いてきたのではないでしょうか。デザインや設計上の共通ポイントが存在しますよね。オフィス見学代わりに使えるのが「みんなの仕事場」なのです。


次回も、残るスペースをまた豊富な事例とともに掘り下げていきます。(阿曽)












編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
制作日:2019年 5月 9日

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