プラスが手がけた株式会社セレブリックスのオフィス(※)
事務家具から文具、電子機器まで幅広いジャンルを扱う総合事務用品メーカー、プラス株式会社では、「オフィスに『引力』を。」というグランドコンセプトのもと、さまざまな企業のオフィスづくりに取り組んできました。ハイブリッドワークでの働き方が主流になりつつある今、オフィスづくりや働き方はどのように変わっていくのでしょうか。実際のオフィスづくり事例の紹介も交えながら、現場のデザイナー、ディレクター、マーケティング担当者の皆さんにお話を伺いました。
前編
・ハイブリッドワークに適したオフィスとは
・オフィスづくり事例① 株式会社セレブリックス
後編
・オフィスづくり事例➁ セイコーソリューションズ株式会社
・"正解"を見つけることもデザイナーの仕事
・アウトプットの質を高められる場所はどこか
■ハイブリッドワークに適したオフィスとは
― コロナ禍を経て、オフィスのリニューアルニーズはどう変わりましたか。
岡本裕介さん(マーケティング本部 マーケティング部 部長)
岡本 あえてオフィスを拡大したりグレードアップしたりする企業もありますが、全体的には縮小・移転する企業が増えている印象です。ただ、社会的な企業価値や貢献を世間や社員にアピールするための経営資源としてオフィスを捉える経営者も増えています。
感染拡大初期にはローパーテーションやテーブル上のパネルなどが伸び、その後はWeb会議のための音環境確保のニーズからソロワークブースの引き合いが増えました。
― ハイブリッドワークが主流になり、フリーアドレス導入を検討する企業が増えているそうですが。
岡本 出社率を50%などにして席数を削減し、什器を入れ換えて、集中環境や、チームで集まれるプロジェクトルームを導入するような転換が多いです。当社でもカフェスペースを集中ブースやワークスペースに用途転換したりしています。
― 会社に来る意義をコミュニケーションという位置づける企業が多いようですね。
岡本 はい、出社してチームのコミュニケーションを活性化したいというニーズは、ハイブリッドワーク下で強まっています。
2021年6月にハイブリッドワーカーを対象に当社が調査したところ、仲間意識や連帯感を感じられずに孤独を感じる傾向があることがわかりました。また、共同作業や打ち合わせなどの対面コミュニケーションだけでなく、隣のチームの仕事が垣間見えたりする"空気感""気配感"を感じたいというニーズも見えてきました。それが「オフィスに行く理由」を考える大きなヒントになるのではないかと考え、「ピアレンス」という考え方を提案しています。
― 行動経済学の「ピア効果」からの発想だそうですね。
岡本 はい。例えば水泳選手がライバルと泳ぐと良いタイムを出せたり、受験生が自習室で仲間と勉強するとモチベーションや生産性が上がったりするのがピア効果と言われます。それをオフィスづくりに落とし込んだものが「ピアレンス」で、ひとことで言うと「仲間と高め合えるオフィスづくり」です。
具体的には、自分と働き方のベクトルの合う人が周りに居合わせやすくするようなオフィスレイアウトを目指し、そのために大きく3つにゾーンを分けます。
1つはチームで過ごしたいワーカーのためのチームゾーン。
次に、電話や事務処理、打ち合わせなどアクティブに過ごしたいワーカーのためのアクティブゾーン。
そして静かに集中作業をしたいワーカーのためのカームゾーン。
この3つのゾーンでオフィスを交通整理することでシンプルなゾーン分けにより働く場所を選びやすく、同じ目的意識を持った仲間が居合わせやすくなり、ひいてはピア効果を高め合える、オフィス環境が実現できると考えています。
― 3つのゾーンは具体的にどう差別化するのですか。
岡本 そのゾーンを象徴するような家具を選んだり、設えを工夫したりします。また例えば「チームゾーンは複数名で利用する」「一人での使用はNG」といったルール運用も有効です。
コロナ前までは、フリーアドレスを導入しても結局固定席化してしまったり、ABWオフィスにしても、選べる場所の選択肢が多すぎてやはり固定席化してしまったりする状況が散見されました。
ピアレンスには「どんな仲間とどう過ごしたいか」というワーカーに寄り添った軸でゾーニングできる使いやすさがあり、さまざまな規模のオフィスにも反映しやすいというメリットがあります。
■オフィスづくり事例① 株式会社セレブリックス
筒井春香さん(クリエイティブ事業部デザイン部デザイナー)
筒井 株式会社セレブリックス様の事例を紹介します。同社は営業支援事業と人材支援事業を通してお客様の課題解決と収益力向上をサポートする企業です。
2020年初めに新宿エリアで分散しているオフィスをそれぞれ移転やリニューアルをしたいというご相談があり、当初は社員数分のデスクがぎっしり並んでいるレイアウトが想定されていました。
ところがコロナの感染状況が拡大したために一度白紙になり、その後、「コネクトワークスタイル」という新たな働き方が提示されました。どこでも、いつでも、誰とでも働けるというもので、在宅ワークも取り入れつつオフィスを集約してフリーアドレス化し、どこにいても自由に連絡が取り合えて働く場所を選べるというビジョンです。それを実現するためのオフィスという位置づけになり、400名ほどの社員数に対して、在宅ワークを前提に出社率を50%、200席を確保して、出社された方が自由に席を選べるようにしました。
フロア全体はL字型。折れ曲がる部分にシンボル的なカフェスペースを設けた(※)
カフェスペースを設けたいというご要望があり、オフィスのシンボルとしてどこの席からでも見える中央のL字部分に円形カフェスペースを提案しました。天井からプロジェクターが吊るされており、休憩や打ち合わせだけでなく、ちょっとした説明会など多目的に使えます。
エントランスには来客用パントリーも併設している(※)
エントランスはガラス張りにして、あえてオフィス内を見せる作りです。リクルート効果や、お客様へのアピール効果を狙っています。
フリーアドレスの執務スペース(※)
円形テーブルは固定席で、人数に合わせて大小をつけている(※)
ここはお客様がこだわられたポイントで、在宅ワークがメインになり、チームメンバーと直接対面する機会が減った為、互いにやっていることが見えないという問題に対して、デスクの半分をチームで囲える大型の円形テーブルとしました。「ピアレンス」とも関連しますが、円形にする事でお互いの顔や仕事の様子をすぐに感じ取れるので、チームの連携を発揮しやすいオフィスになりました。
社員の方の働き方としては、もともと外出が多かったのですが、コロナ禍のため直接訪問ができないことが増えたため、多くのTELブースを導入しました。当時はまだ独立型のブースの導入例が少なく、消防検査など苦労しましたが、人気のスペースとしてご活用頂いているようです。
窓際に打ち合わせスペースを散りばめ、ABW的な要素も取り入れている(※)
― 苦労をしたポイントはありますか?
筒井 レイアウト段階から週に1回定例会を開き、今までにないオフィスを作ろうということでいろいろなアイデアをお客様からも頂いたので、あまり悩むことはありませんでしたが、カフェスペースをはじめデスクもすべて造作になったため細かい納まりに苦労しました。
※
後編へつづく
取材協力
プラス株式会社[外部リンク]
株式会社セレブリックス[外部リンク]
セイコーソリューションズ株式会社[外部リンク]
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2022年5月26日